執筆者
薬剤師
小椋香奈
薬剤師免許を取得後、内科・整形外科・皮フ科・泌尿器科を有する医療機関の門前薬局に勤務。局内で使用する患者向け指導せんの作成に関わるなど、調剤だけでなく幅広く薬剤師業務をこなす。現在は勤務の傍らでライターとしても活動中。
アグマチンとは
アグマチンは筋肥大に効果があることがと言われています。その他のどのような効果や影響があるのでしょうか?
1.スーパーアルギニンとも呼ばれるアグマチンとは?
アグマチンはアミノ酸であるアルギニンの代謝物質であり、アルギニンが脱炭酸されることでアグマチンと呼ばれる物質になります。ではなぜスーパーアルギニンと呼ばれるのでしょうか?それは、アルギニンの摂取によって起こる筋肥大は代謝物のアグマチンによるものだと言われているからです出典[1]。
筋肉トレをしていたり競技者であれば、パンプアップする成分があると知ると、とても魅力的に聞こえるのではないかと思います。しかし、特にスポーツ選手は筋肥大に効果があると言われる成分を摂取することで、ドーピング違反になるのではないかと心配になるのではないでしょうか。全世界・全スポーツで共通の2023年世界アンチドーピング規定によると、機構指定の禁止物質にアグマチンは含まれていませんでした出典[2]。
動物実験では、ホルモンの増加やストレスの軽減、インスリンの調節作用などが報告されていますが、実際に人を対象とした臨床試験は行われていません。そのため、アグマチンが人に対しても身体パフォーマンスを向上させるのかにおいては不透明な部分もあります出典[3]。
2.一酸化窒素(NO)の合成を促す
アグマチンの特徴的な働きは一酸化炭素(NO)の合成を促すこと。NOとは血管内の筋肉を柔らかくし、血流を上昇させる化合物です。
このNOはアグマチンと一酸化窒素合成酵素から合成されるため、アグマチンは血流を向上させる効果が期待されています。また、アグマチンは血液脳関門という脳への有害物質を阻害する関門を通過できるため、脳の巡りも向上させると考えられます。
ちなみに、この経路ではNOを合成する過程でシトルリンも生成されますが、生成されたシトルリンの一部は再びアルギニンからアグマチンとなり、一酸化窒素合成酵素によるNO合成に用いられます。そのためアグマチンを摂取することで、この経路の回転率を上げてNO合成量を増加することができます出典[4]出典[5]。
3.どんな食材に含まれている?
いざアグマチンを摂取しようと思った時、サプリメント以外にどんな食品に含まれているのでしょうか。食品の成分を調べたデータではワイン、ビール、日本酒などのアルコール飲料に多くのアグマチンが含まれていることが分かっています。このことから、アグマチンの生成には酵母菌が深く関わっているのではないかと言われています。しかし、発酵ノンアルコール飲料にはアグマチンがあまり含まれていない結果が出ており、全ての発酵食品に多く含まれるとは言えないようです出典[6]。
アグマチンの効果効能について
ここでは実験や研究で実際に確認されている、アグマチンの効果についてお話していきます。
1.血流の向上
アグマチンの効果でまず魅力的に感じるのは血管の拡張作用ではないでしょうか。実際に体内でどのような動きをして血管を広げ、血流を良くするのか説明していきます。
アグマチンは血管を柔らかくする一酸化窒素(NO)の産生を促す酵素である内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)を増加させる効果があることが分かっています。
アグマチン 100 mg/kg が腹腔内投与されたラットを用いた実験では、プラセボと比較して6時間後の脳のeNOS量を1.33倍に上昇させ、24時間後では1.44倍になることが報告されてされています出典[7]。
以上のことからアグマチンは間接的に血管を広げるNOを増やすことで血流の向上に貢献します。
アグマチンの摂取で体内の血流が良くなり、エネルギーが体全体に効率よく運ばれるため、代謝が上がり冷え改善にも効果があります。運動や筋トレの為だけでなく、普段座りっぱなしになりがちなデスクワークの方にも効果を発揮します。
2.うつ症状を改善する可能性
アグマチンにはストレスホルモンを抑制することで、抗うつ効果があると言われています。
人はストレスを受けると、脳から血中にストレスホルモンが放出されます。正常であれば、一定時間が経過すると次第にブレーキがかかり、ストレスホルモンが減少していきます。
しかし、過剰にストレスがかかってしまうと、このブレーキが破綻し、うつや不眠などの精神症状があらわれることがあります。近年、アグマチンは抗ストレス成分として体内に放出され、アドレナリン放出に作用することが分かってきました出典[8]。このアドレナリンの放出により神経が活性化し、気持ちが楽になったりします。
このことから、ストレスを感じやすい環境で生活していたり、気持ちが沈みやすい方がアグマチンを摂取をすると、症状が改善する可能性があります。
3.血糖値を調節
食生活の乱れにより、糖尿病を発症する人は増加傾向にあります。その中でもインスリン抵抗性の糖尿病を発症すると、一般的なインスリン治療では効果が得られずなかなか思うように治療が進まないことがあります。
アグマチンはそんなインスリン抵抗性の動物の血糖値を下げ、インスリンの放出を増やすというデータがあります。
実験では、高カロリーの餌を12週間食べたインスリン抵抗性のラットの一部に9〜12週目にアグマチンを摂取させた時の比較をしています。アグマチンを摂取したラットでは1.3倍血糖値を上昇させる物質を肝臓に蓄えることで、インスリン抵抗性が改善されました出典[9]。
インスリン抵抗性になりやすい原因は内臓脂肪が多いことです。それを改善するために効果的だと言われているのは有酸素運動や筋肉を鍛えることだと言われますが、それ以外のアプローチとしてアグマチンの摂取は有用だと言えます。
日頃のトレーニングに追加でアグマチンを摂取することで、より内臓脂肪の減少効果が高まると考えられます。
4.認知機能の改善
ラットを用いた実験では認知機能を改善させたという論文が発表されています。
高齢ラットの認知機能低下、eNOS(窒素合成に関与する酵素)とBDNF(脳に必要なタンパク質)の発現低下が発見されており、この変化は血管性認知症によるものである可能性が言われています。
アグマチン40mgを1日2回8週間経口摂取させたラットとそうでないラットで比較した際に、アグマチン摂取2日目以降から長期記憶を評価する実験で大幅な改善が見られています。また、eNOSとBDNFもアグマチンを摂取したラットで増加しました。出典[10]
また、さらにアグマチンは血液脳関門と呼ばれる脳の関所を通過し効果を発揮します。この血液脳関門に作用し保護することで脳出血や脳梗塞を起きにくくし、結果的に血管性認知症も抑制できる可能性があります出典[11]。
次に高齢のラットにアグマチン (40 mg/kg) を腹腔内投与した実験では、高齢ラットの空間作業記憶と物体認識記憶が大幅に改善されたことが分かっています出典[12]。
アグマチンは老化による認知機能改善が期待されており、治療への可能性を秘めていると考えられます。このことからアグマチンを継続的に摂取すると、認知機能の低下改善や遅延に貢献する可能性がありそうです。
5.痛みの緩和
アグマチンの効果の一部に神経を保護する作用が知られています。この神経保護作用が、神経の圧迫などによる腰痛に効果があるというのです。
イスラエルで実施された実験で、18〜75歳までの椎間板の痛みがある男女で、アグマチン摂取後の痛みの変化を評価したものがあります。
プラセボに48人、硫酸アグマチン2.670g/日に51人ランダムで割り当て、14日間続けて摂取したところ、プラセボでは26.7%、硫酸アグマチンでは70.8%で痛みが改善したという結果が分かりました出典[13]。
また、ニュージャージー州での実験では52~81歳の神経痛がある男女11人がアグマチンを2.67g/日摂取し疼痛アンケートを実施したところ、4~6週間で一定の効果が出始め、2ヶ月経過すると疼痛アンケートによる痛みは平均で46.4%減少しました。特にしびれや疼き、熱感が顕著に減少しています出典[14]。
これにより、アグマチンには椎間板ヘルニアなど神経痛の改善に一定の効果があると言えます。痛みの改善により、生活の質を向上させる要因にもなり、30〜50代の働いている世代や、トレーニングで身体に負荷がかかりやすい人、既に腰痛で悩んでいる人には非常に適した成分と言えるでしょう。
アグマチンに副作用はある?
サプリメントとして一般的に販売されているので、食品の規格基準に合格しており比較的安全です。
しかし、過剰に摂取したり、普段服用している薬との飲み合わせに問題があったり、サプリメントに含まれる添加物にアレルギーを持っている可能性もあるので完全に副作用はないと言えません。その為、少しでも違和感を感じたり、不調があればすぐに摂取をやめて様子を見ましょう。
人を用いた実験では高用量である硫酸アグマチン3.560 g/日を最長21日間服用した場合、安全性に問題ないことが判明しています出典[15]。
しかし、人によっては軽度から中程度の下痢と軽度の吐き気を訴える場合がありましたが、摂取を中止すると症状は1~2日で改善されています出典[16]。
軽微ではありますが、副作用が確認されている成分であることを踏まえ摂取しましょう。
まとめ:副作用のリスクを踏まえ筋トレのサポートに!!
アグマチンの効果について説明してきました。筋トレをしている健康な方から腰痛や物忘れに悩む高齢の方まで幅広い世代に摂取がおすすめできる成分だと言えます。
出典
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