【アスリートも摂取!?】硝酸塩とは?4つの効果と適切な摂取方法
2023年7月28日更新

執筆者

薬剤師 / 公認スポーツファーマシスト / 研修認定薬剤師 / 健康サポート薬剤師 / アロマテラピー検定1級

大西 剛気

薬剤師免許を取得後、メディカルモール併設の調剤薬局で勤務。複数の店舗で1日400枚越えの処方せんに対応しながら様々な診療科を学ぶ。その後、全国展開の大手調剤薬局にて4店舗の管理薬剤師 、2地区のエリアマネージャーを歴任。新店舗開発にも携わる 。現在は 、新しく調剤事業を立ち上げた企業に仲間入りし 『医療と福祉の融合 』『新時代の薬局 』を目指し日々奮闘中。趣味はキャンプ、サウナ、食べ歩き。2児のパパでもある。

硝酸塩(NO3)とは

そもそも、硝酸塩とはどんなものなのでしょうか。また、体の中での働きやどんな食品に含まれているのでしょうか。硝酸塩の気になる実態について紹介します。

1.どんな栄養素?

硝酸塩(NO3)は主に緑黄色野菜に多く含まれている成分であり、摂取することで血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)を生成する作用があります

血管が拡張することで栄養の運搬が効率化され、筋力や有酸素運動などのパフォーマンスの向上が期待できます。

それでは次にどのようにして硝酸塩が体に作用するのかを確認していきましょう。
 

2.体の中でどんな働きをする?

硝酸塩を摂取すると、口腔や消化器内の細菌によって硝酸塩が一酸化窒素という物質に変わり、筋肉により多くの酸素を供給することでパフォーマンス向上に役立つことがわかっています。

一酸化窒素はミトコンドリアATPの使用量を減らし、筋肉の働きを効率化し、血流を増加させるなどの効果があります。ただし、硝酸塩の効果は運動の強度や摂取量によって異なることが報告されており、より多くの研究が必要です。

アスリートにおいては、310-560mgの硝酸塩の摂取が短期的なパフォーマンス向上に関連していることが報告されています出典[1]。しかし、効果は個人やトレーニング状態によって異なるため、こちらも詳細な研究が必要です。

では、この硝酸塩は不足すると体にどんな影響があるのでしょうか。

 

3.不足するとどんなリスクがある?

ヒトにおいてはどんなリスクがあるかはまだ明らかにされていませんが、マウスを用いた実験では、低硝酸塩食という特別な食事を通常の食事よりも長くマウスに与えると、血中の硝酸塩レベルが通常の食事の30%以下まで大幅に低下することが報告されています%%%出典2%%

さらに、低硝酸塩食を3か月間与えると、内臓脂肪の蓄積や高脂血症、耐糖能異常などの代謝異常が引き起こされ、18か月間の摂取では体重増加や高血圧、インスリン抵抗性、内皮機能不全が起こり、22か月間の摂取では急性心筋梗塞死を含む心血管の重大な問題が起こることが報告されています出典[2]

この研究から、食事に含まれる硝酸塩が不足すると、マウスでは代謝異常や血管の問題、突然の心臓の死が引き起こされることがわかりました。

最初に説明した通り、ヒトではまだこれらの現象は明らかにされていませんが、硝酸塩はしっかりと摂る必要があると言えます。

不足しないようにするには、どういった食品に多く含まれているかを知る必要がありますね。次に、硝酸塩が多い食品についてご紹介します。

 

4.どんな食材に含まれている?

硝酸塩は青菜類や根菜類に多く含まれており、ビートルート、レタス、キャベツ、ほうれん草(特に赤軸ほうれん草)、カブ、ダイコン、セロリなどが食事から摂れる硝酸塩の主要な供給源になります。

ヒトにおいて食事から摂取される硝酸塩の60~80%は野菜に由来していると言われています。食生活に気を付けていけば十分ということですね。

野菜に多い硝酸塩ですが、摂りすぎると体に影響があるのか気になる方もいるかと思います。続いて、現在判明している事実についてお伝えします。

 

5.硝酸塩(NO3)は危険!?

硝酸塩は人体に悪影響はないと考えられています。

しかし、体内で亜硝酸塩に変わると、メトヘモグロビン血症や発がん性物質であるニトロソ化合物の生成に関わる可能性が指摘されています。

ただし、硝酸塩から亜硝酸塩への変換のメカニズムは複雑であり、食物中の硝酸塩だけでなく、体内の他の窒素を含む物質からも硝酸や亜硝酸塩が生成されるため、具体的な変換量は明確ではありません。

硝酸塩の摂取と発がんの関係についても、さまざまな国で研究が行われています。

しかし、国際的な食品添加物の専門家会議であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会合(JECFA)は、硝酸塩の摂取と発がんリスクの関連性については明確な証拠がないと述べています出典[3]

つまり、硝酸塩の摂取が直接的に発がんのリスクと結び付いているとは言えないとされています。このことから硝酸塩は人体に害はないと考えられるでしょう。

これまで硝酸塩の概要や働き、含まれる食べ物などを解説してきましたが、次は硝酸塩の効果について確認していきたいと思います。硝酸塩はアスリートも摂取することで知られていますが、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか?臨床試験を基に解説していきます。

 

硝酸塩(NO3)に確認されている作用や効果

硝酸塩は食事から自然に摂取できる成分ですが、意識して十分に摂取することで様々な効果を見込めます。以下では硝酸塩に確認されている体への作用について紹介します。

1.血流の向上

硝酸塩が多く含まれた食事を積極的に摂ることにより、血圧の低下をもたらし、血管の機能が改善する可能性があります。

メカニズムとしては、食事により無機硝酸塩を摂取して血漿中の亜硝酸濃度を上昇させると、体の中で一酸化窒素に変換され、血管拡張と著しい血圧低下をもたらします。

実際の臨床試験では、1日1回の硝酸塩の食事介入(ビートルートジュース250ml)を4週間続けると、高血圧患者において持続的な血圧低下が得られることが示されました。これは、食事性硝酸塩が高血圧治療に有益な効果をもたらす可能性を示しています。

また、この食事介入は、血管の機能改善ももたらしました。つまり、硝酸塩の摂取によって血管が拡張することで血流が向上し血圧の低下に寄与すると考えられます出典[4]

このように、硝酸塩の血流向上効果は研究でも確認されているため、健康で血圧が気になる方はもちろん、高血圧の治療をしている方のサポートにも非常に適している成分です。

 

2.筋力の向上

食事に含まれる硝酸塩は、ベンチプレストレーニングのパフォーマンスを向上させる可能性があります。具体的には、硝酸塩を摂取することで筋力や動作速度が向上し、繰り返しの回数も増えることがわかりました。

メカニズムとしては、硝酸塩が筋肉の収縮やエネルギーの代謝、血流の改善などに関連している可能性があります。

実際の臨床研究では、普段から筋トレをしている男性を対象に、70%1RMのフリーウェイトのベンチプレスの2時間前に硝酸塩を含む70mlのビートルートジュースを摂取した結果、平均筋力19.5%向上、平均速度6.5%向上、限界までの回数が平均10.7%も向上しました出典[5]

この結果から、硝酸塩の摂取がベンチプレストレーニング中の筋力生産、収縮速度、失敗までの反復回数を改善する可能性があるため、効率的に筋トレを行いたい方におすすめの成分です。


3.無酸素運動の向上

実際の臨床研究では、硝酸塩の摂取が無酸素運動能力を向上させる可能性があることを示唆しています。

36人の男性スプリント選手を対象に、5日間、硝酸塩を豊富に含むビートジュースを1日70 mL摂取させた結果、ビートジュースを摂取しなかった時と比べて
20m走で1.2%、10m走で1.6%、および5m走で2.3%のスプリント時間を短縮しました出典[6]

また、別の研究で自転車競技選手のパフォーマンスとの影響を調査した結果、自転車のパフォーマンスが平均2.7%、最大5%も向上しました出典[7]

短距離走や自転車競技などの陸上競技をする方のパフォーマンス向上に有効な成分だと言えそうです。

 

4.有酸素運動の向上

硝酸塩の摂取は有酸素運動のパフォーマンスを向上させることも判明しています。

食事性硝酸塩の補給が自転車タイムトライアルのパフォーマンスに及ぼす影響を調査した結果では、4kmのタイムトライアルでのパフォーマンスは2.8%、16.1kmタイムトライアルでのパフォーマンスは2.7%向上しました出典[7]

硝酸塩を多く含むビートルートジュースの摂取によって、同じ酸素摂取量に対してより高いパワーが生成され、サイクリングの効率が良くなることが示されています。

さらに、食事性硝酸塩の補給は高強度の運動中の疲労回復時間を延長する効果も報告されています。

まとめると、硝酸塩の摂取はサイクリングやマラソンなどの有酸素運動のパフォーマンス向上に役立つ可能性があり、エルゴジェニックエイド(アスリートのパフォーマンス向上が期待できるサプリメントのこと)として期待できる成分です。

 

1.どのくらい摂取すればいい?

硝酸塩は食事から摂取される硝酸塩の60~80%は野菜に由来していると言われているので、毎日摂取するには野菜からの摂取量を意識すると良いでしょう。

男女の大規模コホート研究では、硝酸塩摂取量が約90mg/日で手の握力が4%強くなり、8フィートTUG(立ち上がり-歩行-座るの動作のテスト)が4%速くなることが観察されました。

この研究から、無理なく通常の食事から摂取できる量として65mg/日が推奨されています。この推奨量は、例えば、生のほうれん草(約81mg)、ルッコラ(約196mg)、レタス(約85mg)などを毎日1カップ程度摂取するだけで十分に満たすことができます出典[8]

この推奨量を意識して野菜から摂取すれば、硝酸塩のさまざまな作用が享受できるようになるでしょう。


また硝酸塩の摂取にはしっかりと許容量が定められています。

WHOが定める1日の許容摂取量(ADI)は、体重1kgに対して3.7mgです。例えば、60kgの成人の場合は3.7mg×60kg=222mgとなります出典[9]
この量は、無理なく通常の食事から摂取できる量である65mg/日の3倍以上を毎日摂取することになるので、よほどのことが無い限り超えることは無いでしょう。

硝酸塩に限らず、このような成分を有効活用するためには個々の健康状態や摂取量の適切な管理が大切になってきます。医師や栄養士との相談を通じて、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。

 

まとめ

硝酸塩は青菜類や根菜類などの野菜から多くを摂取できる成分です。

そして、意識して摂取することで血圧低下作用や筋力の向上など、様々な効果が期待でき、アスリートがパフォーマンスの向上を目的に利用している成分でもあります。

重要な成分ですが、推奨される摂取量や上限量を守ることでより効率的に体内に取り入れ、硝酸塩の恩恵を十分に受けられるようにしましょう。

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