執筆者
薬剤師
田中 嘉尚
薬剤師免許を取得後、臨床治験モニター、医療ライター、病院薬剤師、保険薬局薬剤師を経験。現在病院薬剤師をしながら、フリーライターをしている。ITに興味があり、前職の病院で恩師との出会いにより「副作用発現リスク精査表」を開発し、特許を取得。現在も共同研究中。フリーライターになろうと思ったきかっけは、恩師が現役著者で論文や学会誌などの文書の書き方をご指導頂いたことが影響している。
ナイアシン(ビタミンB3)とは
ナイアシンは、水溶性ビタミンであるビタミンB群の一つで、ビタミンB3とも呼ばれ、「ニコチン酸(ナイアシン)」と「ニコチン酸アミノ(ナイアシンアミド)」の総称です。植物性食品ではニコチン酸、動物性食品ではニコチン酸アミドとしてナイアシンが存在しているため、人間の体内ではニコチン酸アミドの形で、肝臓に多く含まれます。
「ニコチン」と聞いて、タバコに含まれるニコチンを連想するかもしれませんが、ニコチン酸とニコチン酸アミドは全く別の物質です。また、必須アミノ酸であるトリプトファンから、体内でニコチン酸アミドが生成されます。その量はおよそ1/60であると言われています。
レバー、魚、肉などにナイアシンは多く含まれており、これらの食品にはタンパク質も豊富なため、トリプトファンも同時に摂取できます。食品として摂取されたナイアシンは主に小腸から吸収されます。
またナイアシンは、体内でニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)という物質に変わり、機能を発揮することが知られています。最も良く知られている生理作用は、糖質、脂質、タンパク質から、細胞でエネルギー源となる物質を作り出し、アルコール等を代謝するために働く酵素タンパク質の補助(補酵素)としての作用です。また、P450と呼ばれる一連の薬物代謝酵素はNADPを利用し、生命活動の維持だけでなく、薬の代謝においても重要な役割を示します。
ナイアシンが欠乏すると肌荒れ、落ち込み、うつ症状、頭痛、記憶力低下、食欲不振、疲労、下痢などを引き起こします。特にアルコール常用者に発症するケースがあり、極端な偏食によっても発症する危険性があることから、栄養バランスの整った食生活がその予防に重要です。
ナイアシンに確認されている6つの作用や効果
ここからはナイアシンに確認されている具体的な効果についてご紹介します。
1.体脂肪の状態改善
ナイアシンの摂取により、中性脂肪(トリグリセリド)やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減少させることが研究で報告されています。
この研究では、高脂血症患者や冠状動脈疾患患者を対象に、約2gのナイアシン(ニコチン酸)を摂取させたところ、トリグリセリドが20〜50%低下し、悪玉コレステロールが5〜25%%減少しました。
これらの結果から、ナイアシン(ニコチン酸)が脂質代謝改善効果・動脈硬化予防効果・高コレステロール血症予防効果などの働きを持つことを示唆しています出典[1]出典[2]。
また、これらの予防効果で血行促進、脂質代謝改善によりダイエット効果をもたらすと言われています。特に食べすぎていないのになかなかダイエットが成功しない方に効果的に働く可能性があります。是非試してみてはいかがでしょうか?
2.記憶力のサポート
ナイアシンが不足すると、日光に当たることによって、ペラグラを発症します。その症状は食欲がなくなり、消化不良、嘔吐、下痢、皮膚の発疹、認知症が起こります。症状が進行すると、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全(脳症)による錯乱、見当織の喪失、幻覚、健忘、記憶力の低下などが起こります出典[3]。
動物実験でナイアシン(ニコチン酸)を食事で摂取した時の、認知症を引き起こす病気であるアルツハイマー病の発症リスクについて調査したところ、発症リスクの低下が認められました出典[4]。
日本では60歳以上の高齢者のうち、認知症を発症している人は、推計15%。2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。そして、その数が2025年には730万人へ増加し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されます。よって認知症の発症を予防する為には、日頃から年齢を問わずナイアシンが不足しないようにサプリメントや食事からの摂取を心がけることが大事なことではないでしょうか?
3.高血圧の予防や改善
ナイアシンは、高血圧の原因である血管内壁に脂肪、たんぱく質由来の老廃物の沈着を代謝させて、血圧を下げると考えられます。
ナイアシン(ニコチン酸)の高血圧に対するリスクの関連性について、中国人対象に調査したところ、食事療法よるナイアシン(ニコチン酸)の摂取量が1日14.3〜16.7mgの間で、高血圧を発症するリスクが最小限であったことを示しました。この結果からナイアシン(ニコチン酸)の食事療法による摂取が高血圧の1次予防につながると考えられます出典[5]。
また、三尖弁閉鎖不全症(TR)を併発する肺高血圧患者に、ナイアシン(ニコチン酸)を100mg又は500mg摂取した調査によると、500mg摂取した患者に劇的ではないものの右心室収縮気圧(RVSP)の低下が認められ、肺高血圧の改善が認められました出典[6]。
高血圧は、さまざまな病気を引き起こしたり、悪化させる可能性があります。特に、動脈硬化を促進させ、脳卒中、心筋梗塞など、命にかかわる病気の発症に深く関係しています。健康診断で血圧が高く内科受診を進められているが、できれば薬は飲みたくないと考えている方にはそのまま放置せずに、まずは生活改善のためナイアシンを摂取してみてはいかがでしょうか?
4.肌のコンディションサポート
紫外線等によりお肌が刺激を受けると、メラノサイトが活性化し、シミの元が産生されます。 ナイアシン(ニコチン酸アミド)は、メラノサイトで生じるメラニンの過剰生成をブロックしながら紫外線をカットします。
また、メラノソームの表皮細胞への輸送を抑制するメカニズムで色素沈着を防ぎ、シミやそばかすも防いで透明感のある肌へ導きます出典[7]。さらに、紫外線のカットによりDNA修復を強化し、皮膚がんのリスクを低下すると言われています。386人の皮膚がん患者を対象に、ナイアシン(ニコチン酸アミド)500mgを1日2回摂取した調査では、12カ月間の摂取で新たな皮膚がんの発生率は23%と低い数値を示しました出典[8]。
ナイアシンは蓄積した紫外線ダメージを受けた肌に効果的であり、美白はもちろん、エイジングケアに欠かせない美容成分であります。また肌への刺激も最小限に抑えられているので、敏感肌の人を含むすべての肌タイプに適していると言えます。一度試してみる価値はありそうですね。
5.男性機能の改善
男性の勃起は陰茎への血液供給に依存しています。ナイアシンは血中脂質を正常化する働きがあることから、ナイアシンの長時間にわたる血行改善効果の一つとして勃起が促進される可能性があります。
中等度から重度の勃起不全(ED)と脂質異常症を併発する患者に、ナイアシン(ニコチン酸)摂取 による勃起機能の改善を調査したところ、有意な改善の可能性があるとの結論が報告されました出典[9]。ナイアシンはEDの治療薬に比べ、費用が3%未満とおすすめです。EDでお悩みの方には、ナイアシンからはじめてみるのも良いかと考えられます。
6.関節の可動力改善
関節の可動力に関係している疾患として、変形性関節症があります。変形性関節症は、関節の間にある軟骨が擦り減ったことで滑らかに動かなくなり、関節の骨などが摩擦を起こして炎症を起こし、水がたまったりする症状のことです。変形性関節症が特に起こりやすい場所は、背骨、股関節、膝の関節などです。年代では60歳以上が多く、男女比では女性のほうが多い傾向にあります。また、仕事やスポーツにも要因があり、重労働をしている人は関節が変形している可能性があります。
変形性関節症を患った72人の患者にナイアシン(ニコチン酸アミド)摂取を12週間実施した調査では、痛みのレベルは変化しませんでしたが、関節炎の改善が認められ、関節炎の治療薬を減らすことができたと報告されています出典[10]。
変形性関節症は女性に多いですが、重労働やスポーツでは男女問わず起こりうる疾患だと考えられます。変形性関節炎の予防にナイアシンをはじめてみてはいかがでしょうか?
ナイアシンの飲み方や注意点
ナイアシンはエネルギーの代謝に関与するため、推定平均必要量はエネルギー1,000kcalに対し4.8㎎として算出します。半数の人が必要を満たすと推定されるこの推定平均必要量に推奨量算定係数の1.2を掛けた値が、推奨量となり、日本人の約97.5%が必要量を満たすと考えられます。1日に必要なナイアシンの量(推奨量)は、18〜49歳男性では15㎎NE、50〜74歳男性では14㎎NE、75歳以上の男性では13㎎NEです。また18〜29歳女性で11㎎NE、30〜49歳女性で12㎎NE、50〜74歳女性で11㎎NE、75歳以上の女性で10㎎NEとなっています。
ナイアシンを過剰摂取した際に、副作用として、消化不良、重篤な下痢、便秘、肝機能低下、劇症肝炎など、消化器系や肝臓に障害が生じた例が報告されています。そのため、過剰摂取による健康障害をおこすことのない最大限の量は、18〜29歳男性では300㎎NE、30〜64歳男性では350㎎NE、65歳以上の男性で300㎎NEです。18歳以上の女性では、250㎎NEと設定されています。
ナイアシンは食事やサプリメントから摂取できます。サプリメントで摂取する場合は、マルチビタミンやミネラル、ビタミンCと一緒に摂取することをおすすめします。また尿酸値の高めの方は、ナイアシンを摂取すると尿酸値が上がり、痛風発作を起こすことがあります。そのため、クエン酸を一緒に摂取することをおすすめします。食事で摂取する場合は、18歳以上の男性ならブタレバー100gを使ったレバニラ炒めや、18歳以上の女性なら生の真さば100gを使ったさばの塩焼きなどを食べると、1日のナイアシン必要量を摂取することができます。 他にも緑黄色野菜や牛乳、紅茶やコーヒーにも含まれていますので、これらも上手く組み合わせながら、1日のナイアシン必要量を摂取していきましょう。
ナイアシンは水溶性ビタミンで、特にお湯に溶け出しやすい性質があります。調理の際は煮汁に7割程度のナイアシンが含まれていますから、煮汁も一緒に食べられるようなものにすると無駄なく摂取することができます。
まとめ
我々の体に必要不可欠なナイアシン。その特徴や効果、豊富に含む食品、それらを効率よく摂取できるポイントや効果を紹介しました。ナイアシンは普通の食生活で過不足なく摂れるビタミンです。しかし飲酒によって体内のナイアシンが失われてしまうため、お酒をよく飲む方は積極的に摂取するようにしましょう。ナイアシンと共にバランスの良い食事を意識して、心も体もヘルシーに過ごしていければなによりです。
出典
- 1.
McKenney J. New perspectives on the use of niacin in the treatment of lipid disorders. Arch Intern Med. 2004 Apr 12;164(7):697-705. doi: 10.1001/archinte.164.7.697.
- 2.
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- 3.
National Institutes of Health Niacin
https://ods.od.nih.gov/factsheets/Niacin-HealthProfessional/#h5
- 4.
Moutinho M, Puntambekar SS, Tsai AP, Coronel I, Lin PB, Casali BT, Martinez P, Oblak AL, Lasagna-Reeves CA, Lamb BT, Landreth GE. The niacin receptor HCAR2 modulates microglial response and limits disease progression in a mouse model of Alzheimer's disease. Sci Transl Med. 2022 Mar 23;14(637):eabl7634.
- 5.
Zhang Z, Liu M, Zhou C, He P, Zhang Y, Li H, Li Q, Liu C, Qin X. Evaluation of Dietary Niacin and New-Onset Hypertension Among Chinese Adults. JAMA Netw Open. 2021 Jan 4;4(1):e2031669.
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McNamara MJ, Sayanlar JJ, Dooley DJ, Srichai MB, Taylor AJ. A randomized pilot study on the effect of niacin on pulmonary arterial pressure. Trials. 2015 Nov 21;16:530.
- 7.
Snaidr VA, Damian DL, Halliday GM. Nicotinamide for photoprotection and skin cancer chemoprevention: A review of efficacy and safety. Exp Dermatol. 2019 Feb;28 Suppl 1:15-22.
- 8.
Chen AC, Martin AJ, Choy B, Fernández-Peñas P, Dalziell RA, McKenzie CA, Scolyer RA, Dhillon HM, Vardy JL, Kricker A, St George G, Chinniah N, Halliday GM, Damian DL. A Phase 3 Randomized Trial of Nicotinamide for Skin-Cancer Chemoprevention. N Engl J Med. 2015 Oct 22;373(17):1618-26.
- 9.
Ng CF, Lee CP, Ho AL, Lee VW. Effect of niacin on erectile function in men suffering erectile dysfunction and dyslipidemia. J Sex Med. 2011 Oct;8(10):2883-93.
- 10.
Jonas WB, Rapoza CP, Blair WF. The effect of niacinamide on osteoarthritis: a pilot study. Inflamm Res. 1996 Jul;45(7):330-4.
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