スタノゾロールとは?臨床試験と7つの副作用
2024年5月29日更新

執筆者

薬剤師

塩見 友香

大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。

スタノゾロールとは?

スタノゾロールとは、たんぱく質同化ホルモン剤(アナボリックステロイド)と呼ばれる薬の1つです。
「メナボル」や「ウィンストロール」といった商品名で販売されています。

たんぱく質同化ホルモン剤は、男性ホルモンであるテストステロンをもとに人工的につくられた化学物質で、筋肉を増やしたり、血球を増やしたりといったさまざまな作用があります。

ただし、テストステロンと類似した構造をもつためホルモンバランスなどに影響を与え、後述する副作用が起きることがあります。

そのなかでも、スタノゾロールは、アナボリック/アンドロゲン比が30:1〜100:1と、比較的副作用が少ない薬です出典[1]

スタノゾロールの歴史

スタノゾロールの開発経緯や現在の動向について解説します。

 

1.昔は国内でも医薬品として使われていた

スタノゾロールは、1959 年に発明されたアナボリックステロイドです出典[1]

国内でも以前は医薬品として普及しており、高脂血症や骨粗しょう症、下垂体性小人症に使われていました出典[2]。現在は医薬品としての認可がなくなり、正規のルートでは入手できません

現在は海外での使用に留まりますが、低身長症や難治性の蕁麻疹(じんましん)、再生不良性貧血、遺伝性血管浮腫、HIV消耗性疾患などの治療に使われています。

 

2.ドーピング規制されている

スタノゾロールは、世界ドーピング規制(WADA)対象薬剤のひとつです出典[3]

公式試合でスタノゾロールの使用が発覚した場合には失格処分となるため注意しましょう。

実際にスタノゾロールの使用により、多くの選手がドーピング違反となっています。1980年代に陸上のベン・ジョンソン選手が違反となったのがもっとも有名です。最近では、野球のジョーイ・メネセス選手がスタノゾロールを使用していたことでニュースになっています。

近年、スタノゾロールを含むアナボリックステロイドは、筋肉増強剤としてサプリメント感覚で使われており、国内外問わずスポーツ業界で問題視されています。

 

スタノゾロールの臨床試験と効果

スタノゾロールの効果やメリットについて、科学的なデータをもとに紹介します。

 

術後の筋力維持

スタノゾロールの筋力増強効果は、手術後の筋力低下を防ぐのに役に立つかもしれません。

1988年リーズ大学の文献によると、腹部手術前の患者16人にスタノゾロールを1日10mg、14〜21日間投与しました。

手術後の筋力を調べた結果、筋肉の中でも持久力にかかわる遅筋(ちきん)が増大していたことが明らかになりました。ただし他の筋肉に変化はありませんでした出典[4]

スタノゾロールは、限定的ではありますが筋力維持効果が認められています。

 

低身長症の改善

スタノゾロールは、ターナー症候群などの遺伝病による低身長症の改善に役立ちます。

ターナー症候群とは女性のみに起こる遺伝性の病気です。

性別を決定する遺伝子であるX染色体が、生まれつき一部または全部を欠損していることにより起こります。

適切な治療をしないと大人になっても身長が伸びないことや二次性徴が現れないことが大きな問題です出典[5]

2015年中国の文献では、ターナー症候群の子どもを対象にスタノゾロールの身長改善効果について報告されています。

ターナー症候群の女児44人(平均年齢12歳)を未治療群と治療群に分け、治療群は低用量スタノゾロールを1日体重あたり20~35μgと、遺伝子組み換え成長ホルモンを1日体重あたり47.6~52.4μgを投与しました。

スタノゾロールと成長ホルモンで治療した群は、未治療群と比較して、最終成人身長が9%高い結果になりました出典[6]

遺伝的に身長が低い方において、スタノゾロールは成長ホルモンと組み合わせて使用することで、成長を促進する可能性があるのです。

 

蕁麻疹の改善

スタノゾロールは、慢性かつ難治性の蕁麻疹(じんましん)の治療において有効です。

2001年インドの文献では、1つのグループ26人にスタノゾロール2mgを1日2回と抗アレルギー薬を毎日投与。もう一方のグループ24人は、抗アレルギー薬のみ投与して治療効果を比較しました

12週間後の治療効果は以下の通りです出典[7]

  • スタノゾロールを投与したグループは、17人が蕁麻疹を完治(抗アレルギー薬のみのグループは7人)
  • スタノゾロールを投与したグループは、重症度が有意に減少

国内では使用できませんが、治りづらい蕁麻疹の治療の選択肢として、スタノゾロールが検討されています。

 

難病の症状改善

スタノゾロールは、ファンコニー貧血やリベド血管症など難病に使われることがあります。

ファンコニー貧血とは、遺伝性の病気の一つで、染色体が壊れやすいという特徴があります。そのため、貧血やさまざまながんになりやすくなる難病です。

スタノゾロールは、ファンコニー貧血が引き起こす再生不良性貧血の約50%に効果があります出典[8]

リベド血管症とは、血行障害により赤色や紫色の網状に皮膚が変色する病気です。主にひざ下に発症し、潰瘍をともなうため痛みもあります。

スタノゾロールは、リベド血管症の血行障害改善に有効との報告があります出典[9]

現在国内では医薬品としての認可はありませんが、ファンコニー貧血やリベド血管症など難病で治療が難しい場合にのみ使われています。

スタノゾロールの重篤な副作用とリスク

スタノゾロールの副作用やデメリットについて、科学的なデータをもとに紹介します。

スタノゾロールを含むアナボリックステロイドには、肝障害や男性機能低下、脱毛、ニキビなどさまざまな副作用が報告されています。そのなかには深刻な副作用も含まれているのです。

元々スタノゾロールは医薬品であり、サプリメント感覚で使うのは大変危険だと認識しましょう

1.肝毒性

スタノゾロールは、ほかのアナボリックステロイドと同様に肝障害の危険性があります。

スタノゾロールの化学構造はオキシメトロンやオキサンドロロンと同じく、C17-α位にアルキル基をもつため、肝障害が起きやすいとされています。

2015年ポーランドから、スタノゾロールの肝障害の報告があります。

19 歳の男性がパフォーマンス向上目的で、スタノゾロールを1日50mg(1日おき)に2か月間筋肉注射していたところ、肝障害で入院しました。

高ビリルビン血症と、肝機能の数値にわずかな上昇が認められました出典[10]

今回の症例では比較的軽症でしたが、スタノゾロールが重度の肝障害を引き起こす可能性は否定できないのです。

 

2.脱毛

結論からいうと、スタノゾロールと抜け毛の関係は不明です。

筆者が独自に文献を調査したところ、スタノゾロールと抜け毛について直接の関連性を示した症例や文献はありませんでした。

ただし、スタノゾロールのもつアンドロゲン作用は、頭髪の脱毛を引き起こすことがわかっています。AGA(男性型脱毛)は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロンが毛髪を作る細胞に作用することで起こります出典[11]

スタノゾロールは、ジヒドロテストステロン由来のアナボリックステロイドのため、理論上抜け毛のリスクとなるのではと考えられています。

 

3.男性不妊

スタノゾロールを含むアナボリックステロイドは、男性ホルモンの分泌を低下させ、精巣機能の低下を引き起こすことが明らかとなっています。

2015年にイランでおこなわれた動物実験を紹介します。

オスのマウスに対して、スタノゾロールを1日体重あたり4.6 mg投与し、35日後に精巣内の精子の状態と体外受精能を評価しました。

その結果、スタノゾロールが投与されていたマウスの精子は、投与していないマウスのものと比較して、数や運動性、受精率が大幅に減少しました。

さらには、異常な精子の発生率も上がってしまったのです出典[12]

スタノゾロールを使用することで精子の質が下がることが示唆され、妊娠率が低下する可能性があります。

妊活中の男性にスタノゾロールはおすすめできないでしょう。

 

4.突然死

スタノゾロールを含むアナボリックステロイドは、心臓に影響を及ぼし、不整脈や突然死のリスクが上がることがわかっています。

アナボリックステロイドを継続して使用することで、自律神経のバランスが崩れ、心臓の交感神経が活発になります。その影響で突然死や不整脈が多くなるのです。

2024年トルコの文献によると、平均年齢29.7±8.14歳の男性ボディビルダー44人(アナボリックステロイド使用者21人と未使用者23人)の心電図を測定し比較しました。

アナボリックステロイド使用者は、運動後の心拍数の回復が遅れたり、心電図の異常が出たり、不整脈が起きやすい状態であることが明らかとなったのです出典[13]

スタノゾロールもほかのアナボリックステロイドと同様に、突然死や不整脈のリスクがあると考えられます。すでにアナボリックステロイドを使用している方で動悸がある場合にはすぐに使用を中止して医療機関を受診しましょう。

 

5.認知症

スタノゾロールの使用は、脳の細胞にも悪影響が起こります。

2019年イランの動物実験では、16 匹のオスのラットをスタノゾロール投与群と無投与群に分けて脳の細胞の状態を比較しました。なお、スタノゾロール投与群は、1日体重あたり5mgを28 日間皮下注射しています。

その結果、スタノゾロール投与群で記憶にかかわる海馬のアポトーシス(細胞死)が増加していることがわかりました出典[14]

海馬のアポトーシス(細胞死)はうつ病や認知症に関連するとの報告があり、実際にアナボリックステロイド使用者は認知症のリスクが高いと言われています。

この実験の結果から、スタノゾロールもほかのアナボリックステロイドと同様に認知症のリスクを上げる可能性があります。

 

6.ニキビ

スタノゾロールを含むアナボリックステロイドの副作用の中で、ニキビは頻度が高いことで有名です。

アナボリックステロイドは男性ホルモンに類似した構造をもつため、体内のホルモンバランスを崩してしまいます。そのため、肌のコンディションに影響を与えるのです。

2000年におこなわれたシドニーセントジョージ病院医学部のアンケート調査によると、アナボリックステロイド使用者58名のうち43%は、ニキビができると回答しています出典[15]

スタノゾロールも同様に男性ホルモンに類似した構造をもつため、理論上はニキビも起こりやすいといえるでしょう。

 

7.新型コロナウイルス感染への影響

スタノゾロールを含むアナボリックステロイドの使用は、新型コロナウイルスの感染に影響があるかもしれません。

アナボリックステロイドの副作用は、免疫系にまで及ぶのです。

実際に、2022年サウジアラビアのターイフ大学の研究によると、アナボリックステロイド使用者は、新型コロナウイルス感染症に感染するリスクが約5倍高いと報告しています。

また、アナボリックステロイド使用者は中等度から重度の新型コロナウイルス感染症のリスクが未使用者と比較して高いことも明らかにしています出典[16]

まだ研究は続いていますが、新型コロナウイルス感染や重症化リスクに影響を及ぼす可能性が危惧されています。

 

スタノゾロールの使用はあらゆるリスクがともなう

スタノゾロールは、男性ホルモンと類似した化学構造をもつたんぱく質同化ホルモン剤のひとつ。たんぱく質同化ホルモン剤は、アナボリックステロイドとも呼ばれています。

アナボリックステロイドは、筋肉増強作用・脂肪減少作用をもつことから、ボディービルダーやアスリートなどが乱用し規制されている一面もあります。

スタノゾロールの副作用はさまざまで、身体の重要な臓器である脳や心臓、肝臓にもダメージを与えることがわかっています。

スタノゾロールをサプリメント感覚で使用するのは危険だといえるでしょう。

近年では「テストステロンブースター」とよばれる安全性が高く、筋力増強効果が見込めるサプリメントが開発されています。

筋肉を増強したい方、スポーツパフォーマンスを向上したい方は、アナボリックステロイドを安易に使用するのではなく、安全性の高い方法を模索してみてはいかがでしょうか。

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