執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
男性の性欲はテストステロンがカギ
性欲の落ち込みや、勃起力の低下に悩まされていませんか?
とくに年齢を重ねた男性では性欲が低下しやすいとよく言われています。では加齢により私たちの体はどう変化しているのでしょう。
男性の性欲を左右するのは、男性ホルモンのテストステロン。やる気や活力の増加、筋肉の合成効率アップに加え、性欲や性機能を高める効果を発揮します。
テストステロンの分泌量は20歳ごろがピークであり、40歳を過ぎると急激に減少を始めるため、加齢にともない性欲も低下しやすくなるのです。
テストステロンの急激な減少によるさまざまな症状は、男性の更年期障害として治療の対象になることも。しかしテストステロン補充療法には副作用を伴うケースも多く、治療に踏み切れない場合もあるでしょう。
そこで、生活習慣の改善によりテストステロンの減少を防ぐ方法が注目されています。食習慣をはじめ、飲酒、運動、睡眠、ストレス管理などに気を付けることで、性欲の減退を防ぎやすくなるでしょう。
なるべく避けたい!性欲低下につながる食べ物
食生活においては、暴飲暴食を避けることに加え、食品選びも重要です。テストステロンを減らすリスクの高い食品を避けることで、性欲減退リスクを下げやすくなるでしょう。
ここからは、性欲維持のために注意したい食べ物や飲み物について解説します。
菓子パンやスナック菓子
小腹が空いたときの間食や朝食代わりとして、メロンパンやチョコクロワッサンのような甘い菓子パンを食べていませんか? あるいはポテトチップスのようなスナック菓子を、間食やお酒のつまみにしている方もいるかもしれませんね。
これらの菓子パンやスナック菓子には多量の糖質とトランス脂肪酸が含まれています。高糖質食品による血糖値スパイク、およびトランス脂肪酸の摂取は、酸化ストレスを生じて、テストステロンの合成場所である精巣に大きなダメージを与えてしまうのです。
私たちの体にある組織のなかでも、精巣は酸素の消費速度が速く、また不飽和脂肪酸の濃度が高いため酸化されやすい性質があります出典[1]。
精巣のデリケートな性質を踏まえ、血糖値スパイクとトランス脂肪酸のリスクについて論文のデータをもとに確認しましょう。
まず19~74歳の男性74名による75g経口ブドウ糖負荷試験においては、血糖値の急上昇にともない平均テストステロン値が25%低下したと報告されています出典[2]。
また、スペインの健康な男性209名を対象とした調査では、1日の摂取カロリーのうち1.03%以上をトランス脂肪酸から摂る人は、0.37%以下に抑えている人よりも総テストステロンが約15%低いことが示されています出典[3]。
酸化ストレスを増やしやすい、菓子パンやスナック菓子は控えるようにしましょう。
洋菓子
ケーキやシュークリーム、チョコレートなどの洋菓子も、糖類やトランス脂肪酸の摂取源となるため注意が必要です。
生乳由来の生クリームには飽和脂肪酸が非常に多く、摂りすぎによりテストステロンを下げるリスクが高まります。また安価な植物性油脂から作られた生クリームからは、トランス脂肪酸を摂りすぎる可能性もあるでしょう。
飽和脂肪酸とトランス脂肪酸はともに体重増加のリスクが高く、肥満を招きやすい脂質出典[4]。肥満にともない増えすぎた脂肪組織が炎症を起こすと、炎症性サイトカインやアロマターゼなど、テストステロンを減らすように働く物質が活性化されてしまいます出典[5]。
肥満のリスクが高い点でも、洋菓子の摂取はなるべく避けるべきでしょう。
なお、チョコレートのカカオポリフェノールの摂取は、活性の高い遊離型のテストステロンや、テストステロンの分泌を促す黄体形成ホルモンの合成を促すように働く性質があります出典[6]。
しかしチョコレートもまた高脂質かつ高カロリーであるため、食べ過ぎは禁物。テストステロンを増やすために取り入れたい場合には、カカオ70%以上のものを1日30gまでに抑えましょう。
高糖質食品の単品摂取
おにぎりや餅、うどんに食パンなどを食べる際にも注意すべき点があります。それは単品での摂取を避けること。これらの食品は菓子パンや洋菓子のように甘くはないものの、糖質の含有量が非常に高く、血糖値を急激に上げる性質があるのです。
お米や麺類、パンのような穀類を食べる際には、おにぎりやうどん単品で食べるのではなく、野菜や魚など、ほかの食品とともに食べることを心掛けましょう。
また、食べ方を意識するとさらに血糖値の急上昇を抑えやすくなります。
2023年に京都女子大学から発表された論文では、同じメニューでも野菜、魚料理、白米の順に食べた方が、白米、魚料理、野菜の順に食べた場合よりも、血糖値の上昇幅を抑えやすいと報告されています。さらに食事のペースを落として時間をかけて食べると、血糖値の上昇幅がさらに抑えられました出典[7]。
たとえばおにぎり3つで600kcalを摂取するよりも、根菜の味噌汁と納豆、おにぎり2つで600kcalを摂る方が血糖値の急上昇を抑えられます。うどんを注文する場合には大盛ではなく、並盛に温泉卵や大根おろし、ワカメなどを加える食べ方がおすすめです。
野菜料理や主菜を組み合わせつつ、ゆっくり食べることで血糖値スパイクを防ぎましょう。
チーズ
チーズは牛乳やヨーグルトよりも高脂質であるため、食べ過ぎにより自然と飽和脂肪酸やカロリーの摂取量が増えてしまいます。肥満のリスクを下げるためにも、量を控えるべきでしょう。
2013年にハーバード公衆衛生大学から発表された論文では、全脂肪乳製品を高頻度で摂取する男性は、低頻度で摂取する男性よりも正常精子形態の割合が3.2%低く、精子濃度や運動精子の割合、テストステロンも低下する傾向があると述べられています出典[8]。脂質の多いチーズの食べ過ぎは、精巣全般に影響をもたらすと考えられそうですね。
さらにチーズにはもうひとつ、注意したい成分があります。それは生乳由来のエストロゲン。乳製品からエストロゲンの摂取量が増えると、テストステロンの働きを抑えるように機能する可能性が指摘されているのです。
実際に20~35歳の男性11名が牛乳1Lを飲んだところ、エストステロンやエストラジオールといった女性ホルモンの増加が確認されました。また5.14ng/mlあったテストステロン値は30分後に3.46ng/mlまで、1時間後には3.25ng/mlまで減少したとの結果も得られています出典[9]。
一方で、牛乳に含まれるエストロゲンの量では、男性のテストステロンに影響を及ぼすほどではないとする意見もあります出典[10]。牛乳を含めた乳製品全般を絶つような極端な制限をする必要はありませんが、チーズのような高脂質かつ高カロリーなものについては、やはり量を控えめにした方がよさそうですね。
ファーストフードやインスタント食品
ハンバーガーやフライドポテト、冷凍ピザのようなファーストフードや、カップ麺のようなインスタント食品を好んで食べる方は要注意。これらは言わずと知れた高カロリー食品のため、摂取が習慣化すれば肥満や糖尿病など、テストステロンを減らしやすい疾病のリスクを高めてしまうでしょう。
安価なファーストフードやインスタント食品にはトランス脂肪酸も使用されている可能性が高く、ますますテストステロンを減らしやすくなるでしょう。
加えてファーストフードやインスタント食品からは、ビタミンやミネラルをほとんど摂取できません。テストステロンの合成は抗酸化ビタミンやビタミンD、亜鉛にマグネシウムにセレンなど、さまざまな微量栄養素の働きにより支えられているため、不足により性欲が落ちる可能性も。
実際にラットを用いた動物実験では、高頻度のファーストフード摂取で抗酸化ビタミンや亜鉛の不足が起こり、テストステロンが減少したと報告されています出典[11]。
ファーストフードやインスタント食品を中心とした食生活は、肥満、糖尿病、微量栄養素の不足など、テストステロンを減らす原因を作りやすくするようですね。
なお、これらの食品は濃い味付けにより「もっと食べたい」という気持ちを起こしやすいため、量の調整も難しいものです。性欲減退を防ぎたい場合、思い切ってファーストフード絶ちに挑戦してもよいかもしれません。
加工肉
加工肉は肉特有の臭みがなく、簡単に調理しておいしく食べられるため、自炊を苦手とする男性が活用しがちです。また外食で食事を済ませる方も、ハンバーガーやホットドッグのようなファーストフードから加工肉を摂取する機会が増えやすいでしょう。
ただしベーコンやソーセージは脂質の占める割合が高い食品。とくに飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂りすぎにつながるため、性欲減退を気にする方は避けるべきでしょう。
2014年にハーバード公衆衛生大学から発表された論文では、18~22歳の若い男性189名を対象に調査がおこなわれました。
その結果、ベーコンやソーセージのような加工赤身肉の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループよりも、精子濃度が約17%、射精量が約28%、総テストステロンが約10%、遊離テストステロンが約4%減少しており、加工肉の摂取と精巣の機能には強い逆相関があったと述べられています出典[12]。
加工肉の摂りすぎが問題となる一方で、肉の摂取は性欲減退を防ぐために重要です。たんぱく質の極端な不足はテストステロンの減少につながるため出典[13]、高たんぱく低脂質な鶏むね肉や豚ヒレ肉、牛かた肉などを積極的に取り入れるとよいでしょう。
大豆製品の摂りすぎ
大豆製品は良質なたんぱく質や不飽和脂肪酸が豊富であり、サポニンやイソフラボンの抗酸化作用が酸化ストレスを減らすように働くなど、性欲減退に有用な面も複数あります。
しかし男性の場合には食べ過ぎに注意が必要。大豆イソフラボンの摂取量が増えると、テストステロンが減少する可能性が指摘されているのです。
テストステロンとイソフラボンの関係について調査した論文について確認しましょう。イソフラボンを1日100mg以上摂取した研究は8件あり、テストステロンの減少が見られたのは次の2件です出典[14]。
【イソフラボンの摂取によりテストステロンの減少が見られたケース】
2003年、イギリスの論文出典[15] | 2008年、アメリカの論文出典[16] | |
対象者 | 男性20名 | 男性20名 |
イソフラボンの摂取状況 | 120mg/日、6週間 | 141mg/日、12か月間 |
テストステロンの減少量 | 約5.7% (総テストステロン) | 約5.8% (遊離テストステロン) |
イソフラボンの摂取によりテストステロンの減少が起こらないケースの方が統計上は多いものの、減少の可能性がある点を踏まえ、摂りすぎには注意した方がよさそうですね。
目安量ですが、大豆製品の摂取を習慣とするアジア人において、1日75mgまでの摂取であれば問題がないと考えられています出典[14]。
日本の食品安全委員会においても同様の70~75mgが1日の摂取目安量の上限値として示されているため出典[17]、性欲減退のリスクを避けるためにはこの量を下回るよう調整するとよいでしょう。
大豆製品のイソフラボン含有量は厚生労働省より次のように示されています。
【食品中100gあたりのイソフラボン含有量(厚生科学研究(生活安全総合研究事業)食品中の植物エストロゲンに関する調査研究(1998)より出典[17]】
食品 | 平均含有量(mg/100g) |
きな粉 | 266.2 |
大豆 | 140.4 |
納豆 | 73.5 |
煮大豆 | 72.1 |
味噌 | 49.7 |
油揚げ | 39.2 |
豆乳 | 24.8 |
豆腐 | 20.3 |
おから | 10.5 |
しょうゆ | 0.9 |
このデータを参考に、1日あたりの大豆製品の取り方の例をいくつか紹介します。
- きなこ10g(約26.6mg)+大豆の煮物50g(約36.1mg)=約62.7mg
- 豆乳200ml(約49.6mg)+冷奴75g(約15.2mg)=約64.8mg
- 納豆2パック80g(約58.8mg)+根菜と油揚げの味噌汁(味噌7gと油揚げ20g:約7.4mg)=約66.2mg
1日の摂取目安量を超えない範囲で、適度に大豆製品を取り入れましょう。
プロテインの摂りすぎ
ダイエットや体を引き締めることを目的に、プロテインを飲んでいる方もいるでしょう。しかしプロテインの摂りすぎも、たんぱく質の過剰によりテストステロンを減らすおそれがある点に注意すべきです。
たんぱく質の摂取量とテストステロンの関係を調べた論文では、1日に3.4g/kgより多い摂取を続けた3件の研究で、テストステロンの減少が確認されています出典[18]。
たんぱく質の摂りすぎにより、テストステロンの合成を抑えるホルモン「コルチゾール」が増えることが原因と考えられているようです。また、たんぱく質の代謝物「アンモニア」の増加も、酸化ストレスを増やすためテストステロンを減らすように働くでしょう。
同論文においては、テストステロンの減少リスクを抑えるためのたんぱく質として、1.25~2.5g/kgの範囲が適切と述べられています出典[18]。
体重65kgの男性の場合、1日あたりのたんぱく質量の目安は約81~163g。一般的なプロテイン1杯で約15~20gのたんぱく質を摂取できるため、食事からもたんぱく質を取ることを想定し、1日の摂取量は多くても2~3杯までに留めておくとよいでしょう。
なお、国立健康・栄養研究所情報センターによる調査では、市販の大豆プロテイン1食分(20g)には23~44mgのイソフラボンが含まれているようです出典[19]。イソフラボンの摂取量を1日75mg以下に抑えるため、ソイプロテインの摂取は1日1杯までにしておいた方がよさそうですね。
コーヒーの飲み過ぎ
眠気覚ましや集中力アップの手段として飲まれることの多いコーヒー。コーヒー由来のポリフェノールは抗酸化物質として機能するため、精巣を保護する効果も期待できます。
ただしコーヒーに豊富なカフェインの摂りすぎには要注意。摂取直後にはテストステロンを高める効果が確認されているものの、長期かつ大量の摂取はテストステロンに悪影響であることがわかっています。
カフェインとテストステロンの関係については、ラットやヒトを対象とした調査がいくつかおこなわれています。たとえば思春期前後のオスのラットに4週間カフェインを与えたところ、血清テストステロンが約4~5割、精巣重量が約2割、それぞれ減少していました出典[20]。
さらにアメリカの男性372名を対象とした摂取状況の調査では、カフェインの摂取量が増えるほど、血清テストステロンが減少するという逆相関の関係が明らかになったのです出典[21]。
また、カフェインによる不眠もテストステロンを大きく減らします。健康な若い男性が1日5時間の短時間睡眠を1週間続けたところ、日中の血清テストステロン値が約10~15%減少したとのデータも存在します出典[22]。
1日のコーヒーはマグカップ2~3杯までにするとともに、夕方以降の摂取を避けて睡眠の質を落とさない工夫が必要ですね。
アルコール飲料の飲み過ぎ
お酒はストレス解消に役立つため、テストステロンの減少を防ぐ効果が期待できるかもしれません。しかし飲みすぎによるデメリットが非常に大きいため、飲酒は慎重におこなうべきでしょう。
過剰なアルコール摂取による影響として、次のようなものが考えられます。
【飲酒がテストステロンに与える影響】
影響 | 詳細 |
酸化ストレスの増大 | アルコール代謝が活性酸素の生成を促す出典[23] |
アロマターゼ活性の増大 | テストステロンからエストロゲンへの変換を促す出典[24] |
テストステロン分泌シグナルの阻害 | テストステロン分泌に関わる複数のホルモンの産生をアルコールが阻害する出典[23]出典[25] |
コルチゾールの上昇 | 大量飲酒で増えるコルチゾールがテストステロンを減らす出典[26] |
糖質による高血糖 | ビールや日本酒などの醸造酒は血糖値を上げやすい |
【主なアルコール飲料の1日あたりの摂取量目安】
酒類 | アルコール度数 | 20gの目安量 |
ビール | 5% | 500ml(ロング缶1本) |
ワイン | 13% | 200ml(グラス1杯と少々) |
日本酒 | 15% | 170ml(1合弱) |
焼酎 | 25% | 100ml |
ウイスキー | 40% | 60ml |
適量の飲酒で、テストステロンの減少を防ぎましょう。
まとめ
毎日の食事への意識は、性欲減退を防ぐために非常に重要。テストステロンを減らしやすい食品を避けることで、加齢にともなう性欲の落ち込みを改善しやすくなるでしょう。
ファーストフードやインスタント食品、菓子パンやスナック菓子などの摂取が習慣化している人はとくに注意が必要。精巣にダメージを与える活性酸素の発生を起こしやすい食品を避けて、テストステロンの合成能力を保ちましょう。
大豆製品やプロテイン、コーヒーについては、テストステロンの維持によい側面があるものの、摂りすぎにはやはり注意すべきです。それぞれの目安量を参考に、普段の食生活で摂りすぎていないか一度チェックしてみましょう。
もちろん、性欲減退の防止には食生活に加え、運動や睡眠、ストレス管理なども重要。生活習慣全体を見直して、テストステロンを減らさない体づくりに努めましょう。
出典
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