監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
亜鉛とむらむらしやすい体との関係3つ
性行為や勃起をスムーズにおこなうため、むらむらしやすい体になりたいと考える方もいるのではないでしょうか。
性的興奮において重要なのが、男性ホルモンのテストステロン。やる気や活力、性欲、性機能などを高めるホルモンであり、むらむらしやすい若さみなぎる体はテストステロンなくしては成り立ちません。
そこで活躍する栄養素が亜鉛。亜鉛はテストステロンに大きく関わるため、むらむらしやすい体づくりをサポートする効果が期待できるでしょう。
まずは亜鉛とテストステロンの関係について解説します。
亜鉛の体内量とテストステロン濃度には相関がある
亜鉛とテストステロンの密接な関係は、体内量の相関で確認できます。体内の亜鉛量が増えればテストステロンも増え、亜鉛が減るとテストステロンも減る、といった関係が複数の論文で認められているのです。
例として、1996年にアメリカのウェイン州立大学から発表された論文の、亜鉛制限と亜鉛補給の結果を表にまとめました。
【亜鉛摂取量の介入における血清テストステロンの変化出典[1]】
介入前 | 介入後 | |
20代男性への亜鉛制限 (20週間) | 39.9±7.1nmol/L | 10.6±3.6nmol/L |
亜鉛不足の高齢男性への亜鉛補給 (6か月) | 8.3±6.3nmol/L | 16.0±4.4nmol/L |
テストステロンの体内量は20歳をピークに減少し、40歳から減少量はさらに顕著になるとされています。
しかし若者でも長期にわたり亜鉛を制限すればテストステロンが大きく減少することや、高齢男性でも亜鉛不足を解消すればテストステロンが増加することが読み取れるでしょう。
十分な亜鉛の補給で体内の亜鉛量を増やせば、テストステロンも同様に増えやすくなる可能性がありそうですね。
亜鉛はテストステロンの分泌を促す
では、なぜこのような亜鉛とテストステロンの相関が生まれるのでしょう。それは、亜鉛がテストステロンの分泌を間接的にサポートするためと考えられています。
体内でテストステロンが減少すると、脳の視床下部から下垂体へ、下垂体から精巣へと、それぞれテストステロン分泌を指示するようなホルモンが出されます。
このうち亜鉛が関わるのは、下垂体から精巣へ指示を出す黄体形成ホルモンの分泌出典[2]。
ACEは下垂体での黄体形成ホルモンの産生を増やすように働く酵素としてアンジオテンシン変換酵素(ACE)があり、亜鉛にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)の正常な機能を保つ効果が確認されているのです。
亜鉛がACEをサポートし、ACEが黄体形成ホルモンを増やし、黄体形成ホルモンがテストステロンを増やす、といった流れがあることがわかるでしょう。
実際に、亜鉛および性ホルモンの血清濃度が低くなりやすい血液透析患者へ、硫酸亜鉛の形での亜鉛補給を1日250mg、6週間続けたところ、亜鉛濃度に加え、テストステロンや黄体形成ホルモンの量も改善したという結果が得られています出典[3]。
テストステロンの減少を食い止める手段のひとつとして、亜鉛補給が役立つかもしれません。
亜鉛量が十分な場合にはテストステロンは増えない
亜鉛補給によるテストステロンの改善は複数の論文で確認できますが、一方で過度な期待には注意が必要。
すでに十分量の亜鉛が体内にある場合、もしくはテストステロン量がすでに正常範囲である場合には、さらなる亜鉛補給によるテストステロンのブースト効果は期待できない可能性が高いのです。
たとえば1日あたり11.9mg~23.2mgの亜鉛を摂る男性14名が亜鉛の栄養補助食品の摂取を続けた研究では、体内のテストステロンの量や代謝によい変化が見られなかったと報告されています出典[4]。
また、不妊症の男性37名を対象に亜鉛補給療法を行った臨床試験においては、試験前の血清テストステロン値により、亜鉛の投与の効果に差が見られました。血清テストステロン値が4.8ng/ml未満の場合には精子数や血清テストステロン値の増加が見られたものの、テストステロン値が4.8ng/ml以上の場合には、血清テストステロン値をはじめ、性機能へのよい影響が確認できなかったのです出典[5]。
この結果を踏まえて、日本人男性の亜鉛の摂取状況を確認しましょう。令和元年度の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の男性における亜鉛摂取量の平均値は9.1~9.8mg/日です出典[6]。
2020年度版の「日本人の食事摂取基準」において、18~74歳の男性における亜鉛の推奨量(ほとんどの人が必要量を満たす量)は11mg/日と示されているため出典[7]、現代の男性は亜鉛がやや不足気味であることが読み取れるでしょう。
ある程度の男性に亜鉛補給は効果的と言えそうですが、食習慣やテストステロンの体内量により、むらむらしやすい体を作る効果が十分に得られない可能性があることを覚えておくべきでしょう。
むらむらしやすい体を作るための亜鉛の摂り方
亜鉛不足の解消によりテストステロンが高まり、むらむらしやすい体を作りやすくなる可能性があることがわかりました。
ここからは亜鉛不足の解消のため、どのように亜鉛を摂ればよいかを解説します。
亜鉛が豊富な食品を取り入れる
最も自然な方法はやはり食品からの摂取です。亜鉛は肉類や貝類、卵などの動物性食品に含有量が多いため、積極的に取り入れるとよいでしょう。
【亜鉛を豊富に含む動物性食品とその含有量(100gあたり)】出典[8]
食品名 | 成分量(mg/100g) |
かき(養殖・生) | 14.0 |
かたくちいわし(田作り) | 7.9 |
豚レバー | 6.9 |
牛肩ロース | 6.4 |
豚肩ロース | 3.8 |
牛レバー | 3.8 |
豚ヒレ(焼き) | 3.6 |
プロセスチーズ | 3.2 |
鶏卵(全卵・生) | 1.1 |
植物性食品では大豆製品やナッツからの摂取が効率的です。
【亜鉛を豊富に含む植物性食品とその含有量(100gあたり)】出典[8]
食品名 | 成分量(mg/100g) |
カシューナッツ(フライ・味付け) | 5.4 |
いり大豆(黄大豆) | 4.2 |
きな粉(黄大豆・全粒大豆) | 4.1 |
アーモンド(いり・無塩) | 3.7 |
らっかせい(いり) | 3.0 |
くるみ(いり) | 2.6 |
亜鉛の摂取効率を求める場合には牡蠣やレバーが、手軽に摂取できる食品としてはカシューナッツやアーモンドのようなナッツが活躍するでしょう。
なお、亜鉛は大量摂取すると吸収率が大きく下がる栄養素です。たとえば6人の若い男性による亜鉛の代謝研究では、亜鉛摂取量が5.5 mg/日の場合の吸収率が53%、16.5 mg/日の場合は25%と、大きな差があることがわかります出典[9]。
このように、必要以上の亜鉛は十分に吸収されず多くが排出されてしまうため、まとめての摂取、たとえば一度に牡蠣を10粒も食べるようなやり方にはあまり意味がないことも覚えておきましょう。
その点、卵やナッツ、きな粉などは毎日食べ続けやすいため、むらむらしやすい体づくりのためのちょい足し食品としておすすめです。
食べ合わせの工夫で亜鉛の吸収率UP
亜鉛の吸収率は、ともに摂取した栄養素の影響を受ける場合があります。亜鉛の吸収率を高める成分と、吸収率を抑える成分として、次のようなものが判明しています。
【亜鉛の吸収率を変動させる可能性のある栄養素出典[10]】
成分 | 主な食品 | |
吸収率UP | 動物性たんぱく質 | 肉、魚、貝類 |
クエン酸 | 柑橘類、梅干し、お酢 | |
吸収率DOWN | タンニン | コーヒー、緑茶 |
フィチン酸 | 玄米、豆類、ナッツ | |
多すぎるカルシウム | 乳製品 | |
多すぎる食物繊維 | オートミール、アーモンド、ゴボウ |
亜鉛の吸収率を高める組み合わせとして、牡蠣のような動物性食品に、クエン酸が豊富なレモン果汁をかけて食べる方法がおすすめです。亜鉛を効率よく取り込むための手段として、ぜひ活用しましょう。
一方、亜鉛の吸収率を抑える成分にタンニンやフィチン酸などがあり、とくにフィチン酸の亜鉛への影響は大きいことで知られています。亜鉛が豊富な食品を摂る際には、これらの食品や飲料を摂るタイミングをズラすよう心掛けましょう。
たとえば白米や白い小麦粉のような精製された穀物中心の食事での亜鉛の利用効率は26~34%と推定されていますが、未精製の穀物中心の食事では18~26%まで低下するとのデータが存在します出典[11]。
玄米やオートミールのような全粒穀物は健康的なイメージがありますが、亜鉛とは相性がよくないため注意が必要です。
サプリメントの活用もおすすめ
亜鉛が豊富な食品を取り入れたり、ほかの食事や飲料との食べ合わせを考えたりすることが難しい方には、サプリメントの活用もおすすめです。
サプリメントであればほかの食事との食べ合わせを考える必要がなく、食事の時間帯からズラして飲めば亜鉛の吸収率が下がる心配もないため、非常にお手軽です。
また、テストステロンの増大をサポートする微量栄養素は、亜鉛のほかにも複数あります。むらむらしやすい体づくりのため、ビタミンDやマグネシウム、セレンなどの成分をまとめて摂取できる、マルチビタミンミネラルのサプリメントも役立つでしょう。
なお「日本人の食事摂取基準」において、亜鉛の耐容上限量は1日あたり40mgと示されています出典[7]。必要以上の量では亜鉛の吸収率も低下し効果が薄まるほか、過剰摂取で健康への悪影響が生じる可能性もあるため危険です。
目安量を守り、摂取を継続することでむらむらしやすい体づくりに役立てましょう。
まとめ
むらむらしやすい体づくりのためには、若々しい活力と性欲を維持するホルモン、テストステロンを増やす必要があります。
亜鉛はテストステロンの合成をサポートするように働く栄養素。亜鉛不足の解消によりテストステロンを増やし、やる気や活力、生殖機能を高めることでむらむらしやすい体に近付ける可能性がありそうですね。
亜鉛は、牡蠣やレバー、ナッツなどから効率よく摂取できるほか、サプリメントの活用も効果的です。ビタミンD、マグネシウム、セレンなど、テストステロンに関わるほかの栄養素もまとめて摂取できる、マルチビタミンミネラルのサプリメントを試してみましょう。
食品やサプリメントからの摂りすぎに注意しつつ、摂取を継続してむらむらしやすい体づくりに役立てましょう。
出典
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