執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
どうしてお酒を飲むと立たなくなるの?
飲酒により勃起に支障が出たという経験をされた方は多いでしょう。高容量のアルコールでは陰茎の勃起能力が弱まることは、実際の飲酒による調査でも明らかになっています出典[1]。しかしなぜお酒で勃起力が低下するのかについて、詳しく把握している方は少ないかもしれませんね。
まずは飲酒により増加する立たない悩み、その原因について解説します。
中枢神経が鈍り刺激を感じ取る力が弱るから
.jpg_703aecb1.jpg)
まず注意したいのが、アルコールの摂取により、性的刺激を認識しづらくなる可能性がある点です。
アルコールを摂ると、興奮に関わる神経の伝達能力が低下し、反対に抑制に関わる神経の伝達能力が高まります。感覚処理を担う中枢神経系の働きが抑制されやすくなり、酩酊反応として視覚や聴覚、痛覚などのさまざまな感覚が低下することがわかっているのです出典[2]。
お酒を飲むことにより不快な感覚を得づらくなり、ふわふわとした心地のよい気持ちになることがあります。しかし同時に、性的興奮のような必要な刺激もカットされやすくなっているのです。
視覚、聴覚、味覚、痛覚など、刺激に関連する感覚は、アルコールの血中濃度が増すほどに鈍ることが分かっています出典[2]。
実際に、酩酊状態の男性としらふの男性を比較した実験では、陰茎への刺激で反応するまでの時間と最大陰茎周囲径に差がありました。酩酊状態では陰茎の反応に長時間かかり、陰茎も十分に大きくできなかったのです出典[1]
お酒を飲んだあとの性行為で十分に興奮できず、しらふでは問題なく勃起できる場合には、飲酒による中枢神経への作用が原因であると考えられるでしょう。飲む量やタイミングの調整で、中枢神経への影響を減らす必要がありそうですね。
テストステロンが減り勃起の指令が出づらくなるから
.jpg_b0ffb4db.jpg)
テストステロンの減少が、立たない原因になっている可能性もあります。
テストステロンとは男性ホルモンの一種であり、勃起をはじめ、性欲や精子の製造能力など、男性の性機能全般を支える役目を担っています。勃起においてはテストステロンが増えることで、脳からの勃起の指令が増強されていると考えられているのです。
テストステロンは加齢により体内量が減ることで知られていますが、生活習慣の乱れによる減少も無視できません。アルコールの摂りすぎでも体内のテストステロン量は大きく減少します。アルコールの摂りすぎでは、次のような影響が見られるようです。
- 酸化ストレスによりテストステロンの分泌場所である精巣がダメージを受ける出典[3]
- テストステロンを減らす酵素の発生量が増える出典[4]
- テストステロンを分泌する指示を出すホルモンの合成が阻害される出典[5]
飲酒量がとくに多いアルコール依存症の男性は、健康な男性よりもテストステロンが少なかったというデータや、健康な男性も過剰なアルコール摂取を30日続けることでテストステロンがアルコール依存症の男性と同レベルにまで下がったとの調査結果も存在しています出典[6]。アルコールとテストステロンの相性は非常に悪いことが読み取れますね。
テストステロンの不足と勃起不全の関連を調べた論文では、テストステロンが減るほど勃起不全の重症度も上がりやすくなる、とも述べられています出典[6]。
立たない悩みを解決するためには、飲酒習慣のケアでテストステロンを維持する必要があるでしょう。
飲みすぎにより血管がダメージを受けるから
.jpg_adf38e21.jpg)
飲みすぎによる血行不良が、より勃起力を低下させている可能性もあります。
お酒は血流を改善させる飲み物なのでは、と考えている方もいるかもしれません。確かにアルコールには血管を弛緩させて血圧の上昇を抑える効果があります。一方で大量のアルコール摂取が習慣化していると血管の収縮作用が強まり、高血圧をはじめ、さまざまな疾患のリスクが高まることがわかっているのです出典[7]。
そもそも勃起は性的な興奮による脳からの指令により陰茎の血管が拡張し、そこへ大量の血液が流入し満たされることで、陰茎が大きく硬くなる現象を指します。つまり血管や血液の状態が悪ければ、十分に勃起できず、立たない悩みも起こりやすくなるということ。
血流の維持には、拡張しやすいやわらかな血管と、粘性の低いサラサラの血液を維持することが重要です。陰茎の血管である海綿体動脈は直径1~2mmと細く血液が通りにくいため出典[8]。血流の悪化の影響をとくに受けやすいことも覚えておきましょう。
血流阻害の原因と考えられるものとして、アルコールの代謝により、体内の抗酸化酵素であるグルタチオンが大量に消費されることが挙げられます出典[9]。
抗酸化酵素が減ることで活性酸素と戦う抗酸化力が落ち、酸化ストレスが増加。血管自体にダメージを与えたり、血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の利用効率を落としたりして、血管の柔軟性を失わせてしまうのです。
また、おつまみの食べすぎや、ビールおよび日本酒のような糖質を含むお酒の摂りすぎによる、血液のドロドロ化も血行不良の原因として見逃せません。勃起不全は、血液をドロドロにする糖尿病や脂質異常症と深い関係があるとされているため出典[10]、おつまみやお酒の選び方にも気を付けた方がよさそうですね。
勃起力を維持しつつお酒を楽しむためのコツ
お酒の飲み過ぎで立たない悩みが起こることを踏まえると、お酒を断てば勃起力も回復できると考えられます。しかしお酒を好む方や人付き合いのために飲酒の席に出る必要がある方においては、断酒はかなり難しいものです。
そこでここからは、勃起力に影響が出ない範囲でお酒を楽しむための、量やタイミング、飲み方などのコツを解説します。お酒と勃起力を両立させたい方は、ぜひ参考にしてください。
休肝日を設けつつ、1日純アルコール換算で20g未満に

アルコールの摂取頻度と摂取量が多いほど、勃起不全(ED)のリスクは高まります出典[11]。そのためテストステロンの減少や血流の悪化といった、勃起に関わる問題を防ぎたい場合には、1日の飲酒量を抑えることが重要です。
一方で、飲酒量とEDのリスクにはJ字型の関係があるとも言われており出典[11]出典[12]、少量であればお酒による血行促進効果により、EDのリスクを減らすように働くとの考えもあります。
ではお酒による血行促進効果の恩恵を受けつつ、勃起への悪影響を防げるラインはどこにあるのでしょう。勃起のための「適量」については、アルコールとテストステロンの関係を調べた論文における「1日純アルコール換算で20gまで」が参考になるでしょう。
この論文では、週あたり7単位(純アルコール換算で140g)まで、すなわち1日あたり純アルコール換算で20gまでの飲酒であれば、性ホルモンへの影響が出にくいと述べられています出典[6]。
純アルコール量は、お酒の量とアルコール度数、さらにアルコールの比重「0.8」を掛け合わせて算出できます。次の表に、一般的なお酒の度数と適量をまとめました。
【一般的な酒類のアルコール度数と適正量の目安】
アルコール度数 | 純アルコール20g相当量 | |
|---|---|---|
ビール | 約5% | 500mL(中瓶1本) |
日本酒 | 約15% | 約165mL(1合弱) |
ワイン | 約12% | 約208mL(グラス1杯半) |
ウイスキー | 約40% | 約63mL |
焼酎20度 | 20% | 125mL |
焼酎25度 | 25% | 100mL |
自身の飲酒量と表を比較し、飲みすぎている場合には量を調整するところから始めましょう。EDのリスクを減らすため、毎日の飲酒を避けて休肝日を挟むことも重要ですね。
性行為2時間前の飲酒を避ける

お酒の量を減らしても、中枢神経への影響は完全にはなくなりません。そのため性行為のタイミングで立たなくなるリスクをなるべく減らしたい場合には、性行為前の飲酒は避けるべきでしょう。
性別や体重などにより個人差はありますが、一般に10gのアルコールが身体から排出されるまでには約2.5時間かかるとされています出典[13]。
性ホルモンへの影響を抑えられると考えられている20gのアルコールでも、排出には5時間かかるようです。適量の飲酒による中枢神経への影響を完全になくしたい場合には、5時間前から飲酒を避けるべき、と言えそうですね。
しかし夕方あまりにも早い時間帯に飲酒を済ませるのは現実的ではありません。そのため性行為のある日にはお酒を飲まないのがベストですが、どうしてもお酒を飲みたい方のため、もう少しアルコールの代謝について考えてみましょう。
ウォッカやビール、ワインなど複数のお酒の吸収や代謝の過程を調べた論文では、いずれのお酒でもアルコールは空腹時に急速に吸収され、1時間以内に血中アルコール濃度がピークに達することが示されています出典[14]。アルコールの影響が最も強く出るのが1時間以内と考えられそうです。
さらにアルコール血中濃度は、2時間後にはピーク時の半分に、3時間後には3分の1に、4時間後には4分の1以下に減っていました出典[14]。時間を空けるほどアルコールの影響は減らせますが、現実的な範囲として、最低2時間は空けることを目安にするとよいかもしれませんね。
おつまみの種類や量にも注意

お酒を飲んだときのアルコール血中濃度を上げすぎないよう、悪酔い防止のために必要なのがおつまみ。しかしおつまみ自体による悪影響が生じないよう、種類や量には注意が必要です。
たとえばスナック菓子には糖質や脂質が多く、総じて高カロリーであり、食べ過ぎにより肥満のリスクが高まります。EDに悩まされる男性の約79%が、BMI25kg/m²以上の肥満体型であるとのデータも存在するため出典[15]、勃起力の維持を意識したい場合には、スナック菓子のような糖質や脂質の多いおつまみは避けるべきですね。
糖や脂質の摂りすぎには、血液がドロドロになるリスクもあります。さらに塩辛い味付けでは塩分も摂りすぎてしまうため、血圧が上がり、血流が阻害される可能性も。糖や脂質、塩分の摂りすぎによる、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの疾病と、EDとの関係については次のようなことが分かっています。
- 糖尿病男性のEDの有病率は、糖尿病でない男性の約3.5倍出典[16]
- 総コレステロールが240mg/dL以上の男性のEDリスクは、180mg/dL未満の男性の1.83倍出典[17]
- 高血圧の男性グループではEDの有病率61.79%に対し、正常血圧の男性グループでは20.28%出典[18]
おつまみでのカロリー、糖、脂質、および塩分の摂りすぎを避けることは、立たない悩みの解決に非常に重要と言えそうです。キムチや枝豆のような野菜類、刺身や焼き鳥のような比較的脂質の少ない食品などを取り入れて悪酔いを防ぎましょう。
寝酒は厳禁
.jpg_38efe9c2.jpg)
スムーズに眠るため、寝る前の飲酒「寝酒」を繰り返している方は要注意。確かにアルコールは眠気を生じるため、入眠はスムーズになるのですが、その後は睡眠の質を低下させる方向へ作用が切り替わってしまうのです出典[19]。
理由は、アルコールの代謝物にあります。アルコールが代謝されるとアセトアルデヒドと呼ばれる物質が生成されます。アセトアルデヒドは交感神経を刺激するため、夜中に目が覚めてしまい、再度眠りにつきにくくなるのです。
睡眠中はテストステロンの分泌量が最も増える時間帯出典[20]。そのため睡眠不足ではテストステロンを十分に増やせません。
また睡眠中には酸化ストレスの原因になる活性酸素の除去もおこなわれるため出典[21]、睡眠不足では酸化ストレスが増えて血管の拡張能力が弱まり、血流が低下する可能性も。
また、寝酒としてお酒を飲んでいると眠気を引き起こす効果が弱まるため、眠るために飲酒量が増えてしまいやすく出典[2]、大量飲酒を引き起こすリスクも高まるでしょう。
テストステロンや血流を良好に保てる体質づくりのため、また飲酒量を増やしすぎないためにも、寝酒をやめて、入眠をスムーズにできるほかの方法を探すべきです。温かいお風呂に入る、夕方以降のカフェイン摂取を控える、などの取り組みが役立つ可能性があるため、ぜひ試してみましょう。
量とタイミングを守った飲酒で勃起力を維持しよう
お酒を飲むと立たない悩みが起こりやすくなるのは、アルコールによる体へのさまざまな影響が関係しています。
とくに大量飲酒の習慣化では、テストステロンの減少と血流の低下という、勃起における二大要素のどちらにも悪影響が生じます。また飲酒により中枢神経が鈍り、性的刺激に対する反応が悪くなる点にも注意が必要ですね。
勃起をはじめとする性機能とお酒を両立させるコツをもう一度確認しましょう。
- 量:1日純アルコール換算で20g未満
- タイミング:寝る前と、性行為1~2時間前は避ける
- 飲み方:糖質や脂質の少ない低カロリーなおつまみとともに
量を守った飲酒では睡眠の質も改善しやすくなるため、体調の回復によりさらに勃起力が向上する、よい相乗効果も期待できるでしょう。
勃起力のため、お酒を一滴たりとも飲んではいけないというわけではありません。量、タイミング、飲み方を工夫して、おいしくお酒を楽しみながら勃起力を維持しましょう。
出典
LINEで専門家に無料相談
365日専門家が男性の気になる疑問解決します