執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
マグネシウムが勃起をサポートする理由
勃起力を高めるためには、生活習慣のケアに加え、ミネラルの充足も必要です。今回注目するのはマグネシウム。マグネシウムの充足により勃起力が高まる可能性がある理由について、テストステロンと血流の2つのポイントから解説します。
マグネシウムの充足でテストステロンが増えるから
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マグネシウムの体内量は、男性ホルモンのテストステロンの体内量と相関することが分かっています出典[1]。テストステロンは勃起をはじめとする男性機能全般を支える重要なホルモン。テストステロンの分泌能力を維持するためには、マグネシウムをはじめとした複数のミネラルの充足が重要です。
マグネシウムの補給を継続することで、テストステロンが増加したケースも確認されています。若い男性が持久力トレーニングとマグネシウム補給の組み合わせを4週間継続すると、総テストステロンが12%、活性の高い遊離テストステロンにおいては13%も増えたとのデータも出典[2]。
マグネシウムが不足するとテストステロンが減るため、勃起にも支障が出る可能性があるでしょう。不足を防ぐためにマグネシウムが豊富な食品やサプリメントを取り入れることには意義がありそうですね。
またマグネシウムは、テストステロンのうち、活性の高い遊離テストステロンの割合を増やすように作用する可能性も指摘されています。
体内のテストステロンの一部は性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と結合しています。マグネシウムにもSHBGと結合する力があるため、テストステロンとSHBGの結合が邪魔され出典[3]、結果として結合していない遊離型のテストステロンが増えやすくなると考えられているのです。
マグネシウムの充足により遊離テストステロンの割合を増やすことができれば、勃起力にもよい影響がありそうですね。
抗酸化能力を高めて血流を改善するから
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マグネシウムは体内において、エネルギーの生産、細胞の成長、筋肉の機能など、さまざまな役割が確認されているミネラルですが、勃起においては、抗酸化作用や抗炎症作用を持つミネラルである点に注目すべきでしょう出典[4]出典[5]。
私たちは呼吸や代謝のような生命活動により、体内で活性酸素を発生させています。加齢や不規則な生活習慣により活性酸素が増えすぎると、酸化ストレスとして体にダメージを与えることも。
酸化ストレスにより血液がドロドロになったり血管が硬くなったりすると、血流が阻害されスムーズに勃起できなくなる可能性もあるでしょう。
そもそも勃起とは性的興奮により陰茎の血管が拡張し、そこへ大量の血液が流れ込むことにより硬くなる現象です。血管と血液の状態を良好に保ち、血流をよくすることは、勃起のコンディションを高めるためにはとくに重要なのです。
血管や血液の状態が悪くなる心血管疾患では、勃起不全(ED)のリスクも高まります。マグネシウムの摂取により抗酸化能力を維持できれば、心血管疾患のリスク、ひいてはEDのリスクも抑えやすくなるでしょう。
血中マグネシウム濃度の低い方ほどEDの有病率が高いという調査結果や出典[6]、血中のマグネシウム濃度が高いほど心血管疾患のリスクが低下したとのデータも存在します出典[7]。マグネシウムの充足が、血流の改善および勃起力の維持に重要であることが読み取れますね。
マグネシウムの摂り方のコツ
マグネシウムは、テストステロンの体内量を保つため、また酸化ストレスを減らして血流を良好に保つために役立つ可能性があることが分かりました。男性機能を良好に保ちたいと考える場合、マグネシウムを積極的に摂ることが役に立つかもしれません。
ここからはマグネシウムを意識的に摂りたい方向けに、マグネシウムの目安量や摂り方などについての情報をまとめました。マグネシウムの効率的な摂り方や、サプリメントを活用したい場合の注意点について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
1日の摂取量

マグネシウムは人体に欠かせない必須ミネラル。そのため厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2025版)」において、摂取量の目安が示されています。
さて、実はマグネシウムは日本人の食生活において、とくに不足が見られやすいミネラルです。私たちが摂るべきマグネシウムの量と、実際に摂れている量とを比べてみましょう。
まず「日本人の食事摂取基準(2025版)」において、マグネシウムの推奨量(ほとんどの人口が必要量を満たせる量)は18~29歳の男性で340mg、30~64歳の男性で380mgと設定されています出典[8]。
一方で、令和5年度の国民健康・栄養調査における、マグネシウム摂取状況は次のようになっています。
【年齢別のマグネシウム摂取状況(令和5年度 国民健康・栄養調査より)出典[9]】
年齢(男性) | 平均摂取量 | 推奨量との比較 |
18~29歳 | 229mg | ー111mg |
30~39歳 | 241mg | ー139mg |
40~49歳 | 238mg | ー142mg |
50~59歳 | 256mg | ー124mg |
いずれの世代でもマグネシウムは十分に摂取できておらず、不足しやすいことが分かりますね。
マグネシウム不足の解消には、日本人の一般的な食事に加え、意識的にマグネシウムの多い食品を取り入れる必要がありそうです。食事での摂取が難しいと感じた場合には、サプリメントも活用できるでしょう。
魚介類を積極的に取り入れよう

マグネシウムは海藻類や魚介類、豆類に加え、穀類や野菜類からも摂取できます。勃起をはじめとする性機能を高めたい場合には、魚介類からの摂取がおすすめです。
マグネシウムの含有量が多い魚介類のうち、一般的な食事に比較的取り入れやすいものをまとめました。
【各食品におけるマグネシウム含有量(日本標準食品成分表(八訂)増補2023年より)出典[10]】
食品 | マグネシウム量(mg/100g) |
カットわかめ(乾燥) | 460 |
あまのり(焼きのり) | 300 |
しらす(半乾燥品) | 130 |
あさり | 92 |
つぶ貝 | 92 |
きんめだい | 73 |
しらす(生) | 67 |
かき(生) | 63 |
めかぶ | 61 |
かき(フライ) | 53 |
カットわかめや焼きのりは乾燥品のため、1食分の重量がごく僅か。これらの海藻類だけで1日の推奨量を満たすことは難しいですが、毎日味噌汁やおにぎりの海苔などで少量ずつ取り入れることで、不足を防ぎやすくなるでしょう。
魚介類、とくに貝類からは、テストステロンの分泌に関わるミネラル、亜鉛を効率よく摂取できます出典[3]。とくに牡蠣には亜鉛が豊富に含まれているため、マグネシウムと同時に亜鉛の不足も気になる方は、ぜひ牡蠣を取り入れてみましょう。
また、きんめだいのような魚類からはビタミンDも効率よく摂取できます。ビタミンDの体内量もテストステロンとの相関が見られ、不足によりEDのリスクが高まるとの指摘も出典[11]。
大豆製品から摂る場合はイソフラボンに注意
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マグネシウムは大豆製品からも効率よく摂取できます。
【各食品におけるマグネシウム含有量(日本標準食品成分表(八訂)増補2023年より)出典[10]】
食品 | マグネシウム量(mg) |
きな粉(黄大豆) | 260 |
ひきわり納豆 | 88 |
木綿豆腐 | 57 |
豆乳(無調整) | 25 |
とくに納豆や豆乳は調理不要ですぐ摂れるため、マグネシウムの補給源として使いやすいと考える方もいるでしょう。しかしこれら大豆製品の摂りすぎで、テストステロンが減る可能性がある点には注意しておかなければいけません。
大豆製品には、女性ホルモンのエストロゲンに似た構造を持つポリフェノール、イソフラボンが含まれています。女性ホルモンの機能をサポートするように働くことで知られていますね。エストロゲン自体を増やす効果はないとされていますが、男性の大量摂取によりテストステロンに影響を生じる場合があるとの報告があるのです。
テストステロンとイソフラボンの関係について調査した論文では、イソフラボンを1日100mg以上摂取した8件の研究のうち、2件でテストステロンの減少が確認できています出典[12]出典[13]出典[14]。
論文では大豆製品によるテストステロンの減少リスクを抑えられる量として、1日に75mgまでとの数値が示されています出典[15]。食品中の植物エストロゲンに関する調査研究による、食品100gあたりのイソフラボン含有量を参考に、1食分あたりの量を計算すると次の表のようになります出典[16]。
【主な大豆製品とイソフラボンの含有量(概算)】
食品 | イソフラボン含有量の目安 |
豆乳(200ml) | 50mg |
豆腐半丁(175g) | 35mg |
煮大豆(50g) | 35mg |
納豆1パック(40g) | 30mg |
きな粉(10g) | 25mg |
味噌(20g) | 10mg |
大豆製品を摂る場合には、イソフラボンの摂取量が75mgを超えないよう、大豆製品の量や品数を調整する必要がありそうですね。
加工食品中心の生活や大量飲酒に注意

マグネシウムは一般的な日本人の生活においても不足しやすいミネラルですが、とくに不足が懸念される方の特徴として「加工食品中心の食事」と「大量飲酒」があり、注意が必要です。
インスタント食品やジャンクフード、缶詰や調理済みの菓子パンなどはマグネシウムをほとんど含んでいません。そのため加工食品の摂取量が増えるほど、マグネシウムの摂取量は減る傾向にあります出典[17]。加工食品の消費が増えているアメリカでは、マグネシウムの摂取量が長年減り続けているのだとか出典[18]。
食事からのマグネシウムの摂取量を減らしたくない場合には、加工食品の利用をなるべく減らす工夫が必要です。
自炊ができる場合には野菜や魚、肉類、卵などの生鮮食品を多めに取り入れた食事を用意する習慣を付けてみましょう。外食をする場合にはファーストフード店の利用を避け、さまざまな料理を少量ずつ食べられる和食の定食料理を注文する方法がおすすめです。
次に大量飲酒についてですが、マグネシウムは飲酒により尿中への排泄量が増えてしまうことが分かっています出典[19]。マグネシウムの体内量が減りすぎないようにするため、休肝日の設定や飲酒量の調節をおこなうことも大事ですね。
サプリメント活用時の注意点

日本人の食生活ではマグネシウムが推奨量を満たしにくいため、魚介類や海藻類、大豆製品などを摂れない場合には、サプリメントの活用も選択肢に入るでしょう。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」においては、健康を害さないレベルで摂取できる量の上限として、耐用上限量が設定されている場合があります。しかしマグネシウムにおいては、通常の食事からマグネシウムを摂りすぎたことによる健康被害の報告が見当たらないとして、耐用上限量を設定していません出典[8]。
一方で、サプリメントのような通常の食事以外からの摂取では、1日350mgを耐用上限量としています。マグネシウムの摂りすぎにより下痢を生じることもあるため、サプリメントの1日の摂取目安量を上回る形で摂りすぎることのないよう、注意が必要ですね。
マグネシウムに限ったことではありませんが、サプリメントは必要以上の摂取でより高い健康効果を発揮するものではありません。サプリメントの過剰な利用には意味がないことも覚えておきましょう。
不足しがちなマグネシウムを上手に摂って男性機能を底上げしよう
必須ミネラルのひとつであるマグネシウム。不足を防ぐことでテストステロンの体内量を維持したり、抗酸化作用により血流を良好に維持できたりといった効果が期待できます。
テストステロンも血流も、勃起において重要な要素。勃起力に不安を覚えている方は、マグネシウムを意識して摂ることで男性機能の向上効果が期待できるかもしれませんね。
マグネシウムは海藻類、魚介類、大豆製品、全粒穀物、野菜などから摂取できます。テストステロンの分泌に関わる栄養素でもある亜鉛やビタミンDを効率よく摂れる点で、魚介類の活用がとくにおすすめですね。
サプリメントの活用ももちろん有用ですが、商品に記載された1日の摂取量目安は守りましょう。サプリメントは多めに摂ることでより高い効果を得られるものではありません。あくまで不足を補うサポートアイテムとして用いる意識が重要ですね。
出典
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