執筆者
管理栄養士
鈴木 亜子
大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。
スレオニンとは
たんぱく質を構成する成分「アミノ酸」のうち、体内でつくることのできないものが「必須アミノ酸」。この必須アミノ酸に該当するのがスレオニンです。
ここでは、スレオニンの働きや不足した場合のリスク、含まれる食べ物などをご紹介します。
1.どんな栄養素?
スレオニンはたんぱく質を構成している「必須アミノ酸」の一つです。必須アミノ酸は9種類出典[1]あり、体内で合成できないため食品から摂取しなければいけません。
つまり、スレオニンは食事が十分摂れていなければ補給が難しい成分であるといえるでしょう。
スレオニンはたんぱく質を構成する他、細胞の成長にも不可欠な成分です。また血液中の中性脂肪やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値を改善したり、腸の健康を保つことで免疫機能を正常化したりするなどさまざまな効果が期待されています。
さらにコラーゲンを構成するほか、睡眠への良い影響が期待されるなどしているアミノ酸「グリシン」を合成する働きも知られています。
スレオニンに期待される効果については、のちほど詳しく解説しますね。
2.不足するとどんなリスクがある?
必須アミノ酸のスレオニンが不足すると、たんぱく質が合成されなくなります。たんぱく質を構成するアミノ酸は20種類出典[1]あり、どれか一つでも欠けると合成ができません。
たんぱく質は私たちのエネルギー源となったり筋肉や皮膚、毛髪の他、ホルモンや酵素などの材料となったりする重要な成分です。そのため、スレオニンが不足したんぱく質が合成できなくなると、筋肉量の低下や体の不調が現れる可能性があります。
そうはいっても普通に食事を摂り、一般的な生活を送っている分にはスレオニンをはじめ特定のアミノ酸だけが不足するということはまずないでしょう。しかし、偏った食生活や極端な食事制限をしている場合には不足する可能性も考えられるため注意が必要です。
3.どんな食材に含まれている?
スレオニンは、主に肉類や魚介類、豆類などに含まれています出典[2]。
【スレオニンを多く含む食品(可食部100g当たり)】
- ゼラチン……2,000mg
- かずのこ(生)……1,900mg
- めばちまぐろ(赤身/生)……1,300mg
- かつお(春獲り/生)……1,200mg
- 豚ロース(赤身/生)……1,200mg
- 豚ヒレ(赤身/生)……1,100mg
- ラムロース(生)……1,100mg
- 鶏むね肉(生/皮なし)……1,100mg
- 油揚げ……1,100mg
- 鶏卵(全卵/生)……640mg
- 納豆……670mg
- 枝豆(冷凍)……510mg
スレオニンに確認されている作用や効果
それではスレオニンに期待できる主な効果を見ていきましょう。
1.脂質代謝のサポート
スレオニンは、マウスによる実験結果において脂質代謝を正常化する効果が明らかにされています。
高脂肪食を15週間与えたマウスにスレオニンを慢性的に補給したところ、スレオニンを与えなかったマウスと比較して、体重や精巣上体の脂肪組織の重量に加え、血液中のLDLコレステロールおよび総コレステロールが減少しました出典[3]。
また8週間かけて肥満の状態にしたマウスに高脂肪食とリジン、スレオニン、メチオニンのいずれかのアミノ酸を飲料水に加え投与し、さらに10週間高脂肪食を続けるという研究が行われました。その結果、スレオニンを投与したマウスはどのアミノ酸も投与しなかった群と比較して体重、精巣上体および腎臓周囲の脂肪量、血糖値、血液中の中性脂肪、総コレステロール値およびLDLコレステロールの値が大幅に低下しました。またリジンやメチオニンの補給は、マウスの体重や血中脂質および脂質代謝などにほとんど影響を与えませんでした出典[4]。
マウスでの実験結果ではありますが、スレオニンを補給することで体脂肪の減少および血液中の中性脂肪やLDLコレステロールの正常化につながる可能性があります。
健診で「メタボ(メタボリックシンドローム)」の判定が下されてしまった方などは、意識してみると良さそうですね。
2.腸の健康の維持
消化管、特に腸の粘膜を正常に保ち、有害物質や細菌が体内に入らないように防御する「バリア機能」に重要な役割を果たしているのがスレオニンです。
スレオニンは、腸(消化管)粘膜から分泌されてバリア機能などに関与している「ムチン」というたんぱく質の合成に利用される他、腸管内に多く存在する免疫細胞に影響を与えています。
そのためスレオニンが不足すると、腸内のバリア機能が失われる可能性があると考えられています。また回腸炎や敗血症などの病気を発症すると、腸の形態や機能を維持するためにスレオニンの必要量が高まることがあるといわれています。
マウスを使った研究では、大腸炎を発症すると体内のスレオニンレベルが通常よりも2倍減少していることが観察されています出典[5]。
スレオニンは腸の健康に大きく関わっているため、腸内環境を良好に保つ「腸活」を意識している方は十分補給しておきたい成分であるといえるでしょう。
3.身体の組織の材料となる
スレオニンは、皮膚や軟骨の成分であるコラーゲンの生成に関与するアミノ酸「グリシン」の材料となる成分です。人間を含めた哺乳類や鳥類、魚類はスレオニンなどからグリシンを合成できます。
人体のたんぱく質の多くがコラーゲンです。コラーゲンは皮膚や軟骨の他、血管や骨など多くの組織に存在し、強度を保つのに役立っています。
弾力のある肌を保ちたい方はもちろん、骨や関節を正常に保ちたいという方にもおすすめの成分であるといえますね。
4.免疫機能の維持
スレオニンは、腸のバリア機能に関するムチンの合成に利用される以外にも、複雑な経路を介して「腸管免疫」に影響を与えていると考えられています。
腸内には非常に多くの免疫細胞が存在していることや、有害な細菌には免疫力を活性化させる一方で、腸内細菌には免疫を制御するよう働くことなどから腸管免疫が注目されるようになりました。
スレオニンの腸管免疫に関する研究は、以下のようなものがあります。
生後1日目の雄のブロイラーのヒナに、体重1kg当たり1gおよび3gのスレオニンを添加した飼料を21日間与えたところ、腸の絨毛(じゅうもう)の発達、空腸の免疫グロブリンGの増加がみられました。与えた重量別の効果を見てみると、1g投与群では免疫に関与する働きをする脾臓の重量が増加し、空腸の免疫グロブリンMおよび免疫グロブリンAが増加しました。
一方、3g投与群は免疫細胞がつくられている「胸腺」の重量、回腸の免疫グロブリンAが増加しました。さらにスレオニンの投与は、細胞の酸化につながる物質「マロンジアルデヒド」の空腸での蓄積を減少させ、スレオニン補給量が多いほど血清中のマロンジアルデヒドの値も減少させました出典[6]。
さまざまな感染症に立ち向かう上では、免疫機能の維持が欠かせません。スレオニンは、さまざまな経路によって免疫機能を正常に保つ効果が期待できる可能性がありそうですね。
スレオニンの摂取目安量や注意点
アミノ酸の一つであるスレオニンは、安全に摂取するための目安量や副作用の危険性などはあるのでしょうか。
ここでは、スレオニンの摂取目安量などについて解説します。
1.どのくらい摂取すればいい?
2007年の国際機関(WHO/FAO/UNU)からの報告によると、18歳以上のスレオニン必要量は1日体重1kg当たり15mgとされています出典[7]。
この数値をもとに算出した体重60kgの方のスレオニン必要量は1日当たり900mgです。
これは100g当たり1,100mgのスレオニンを含有する鶏むね肉出典[2]を80g程度食べることで摂取できる量です。同じくスレオニン1,200mgを含有するまぐろの赤身(めばちまぐろ)出典[2]では、70g程度食べることで摂取できます。
つまり、通常の料理で提供される一人前ほどの肉や魚を摂取すれば、スレオニンの1日当たりの必要量は満たされるということになりますね。
2.摂取上限量や副作用はある?
スレオニンには摂取量の上限は特に設けられていません。摂取することで胃の不調や頭痛、皮膚の発疹などの軽い副作用が生じることもあるようですが、基本的に経口摂取する分に関しては安全性の高い成分であるとされています。
まとめ
スレオニンは必須アミノ酸の一つです。たんぱく質の合成に不可欠な成分である他、脂質代謝を改善したり腸の健康に寄与し免疫機能を維持したりといった効果が期待されています。基本的には通常の食事で不足することはなく、多めに摂取した場合の重大なリスクも報告されていません。栄養バランスの良い食事を心掛けることで、スレオニンを適切に摂取できるでしょう。
出典
- 1.
アミノ酸 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-001.html - 2.
日本食品標準成分表2020年版(八訂)|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html - 3.
Jiayi Chen,Dali Qian,Zhishen Wang,Yutong Sun,Bo Sun,Xinbo Zhou,Linlin Hu,Anshan Shana.Qingquan Ma.Threonine supplementation prevents the development of fat deposition in mice fed a high-fat diet.Food Funct., 2022,13, 7772-7780
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2022/fo/d2fo01201d - 4.
Qingquan Ma,Xinbo Zhou,Yuchen Sun,Linlin Hu,Jialiang Zhu,Changxuan Shao,Qingwei Meng,Anshan Shan.Threonine, but Not Lysine and Methionine, Reduces Fat Accumulation by Regulating Lipid Metabolism in Obese Mice.J Agric Food Chem. 2020 Apr 29;68(17):4876-4883.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32293174/ - 5.
Joana Gaifem,Luís G. Gonçalves,Ricardo J.Dinis-Oliveira,Cristina Cunha,Agostinho Carvalho,Egídio Torrado,Fernando Rodrigues,Margarida Saraiva,António G.Castr,Ricardo Silvestre.L-Threonine Supplementation During Colitis Onset Delays Disease Recovery.Front. Physiol., 05 September 2018Sec. Integrative Physiology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.01247/full - 6.
Y P Chen,Y F Cheng,X H Li,W L Yang,C Wen,S Zhuang,Y M Zhou.Effects of threonine supplementation on the growth performance, immunity, oxidative status, intestinal integrity, and barrier function of broilers at the early age.Poult Sci. 2017 Feb 1;96(2):405-413.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27418662/ - 7.
日本人の食事摂取基準(2020年版)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586557.pdf
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