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株式会社アルファメイル
NP+編集部
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BCAAとは
人体や動物のたんぱく質を構成する有機化合物であるアミノ酸のうち、ロイシン、バリン、イソロイシンはBCAA(分枝鎖アミノ酸)とも呼ばれています。
まずは、BCAAを始めとするアミノ酸について詳しく解説していきます。
1.どんな栄養素?
アミノ酸は、たんぱく質を構成する有機化合物であり、全部で20種類存在します。これら20種類のうち、人や動物が体内で合成できない9種類は必須アミノ酸、体内で糖質や脂質から合成できる11種類は非必須アミノ酸と呼ばれています出典[1]。
必須アミノ酸に当てはまる物質として、次の9種類が挙げられます出典[1]。
- ロイシン
- バリン
- イソロイシン
- リジン
- メチオニン
- フェニルアラニン
- トレオニン(スレオニン)
- トリプトファン
- ヒスチジン
また、非必須アミノ酸としては次の11種類が挙げられます出典[1]。
- チロシン
- システイン
- アスパラギン酸
- アスパラギン
- セリン
- グルタミン酸
- グルタミン
- プロリン
- グリシン
- アラニン
- アルギニン
なお、アミノ酸20種類のうちひとつでも欠けると、たんぱく質を合成することができません出典[1]。
こうした必須アミノ酸のうちの3つであるロイシン、バリン、イソロイシンはBCAA(分枝鎖アミノ酸)とも呼ばれています。
ロイシン、イソロイシン、バリンは側鎖に分岐構造があり、いわゆる分岐鎖アミノ酸(BCAA)は哺乳類にとって必須アミノ酸です出典[4]。
2.体の中でどんな働きをする?
BCAA は、筋肉を構成する必須アミノ酸の35%を占めています。また、人体や動物のたんぱく質合成にも重要な役割を担っています出典[3]。
特にロイシンは筋肉タンパク質合成の前駆体であり、タンパク質の合成に関わる細胞内シグナル伝達経路の調節因子としての働きを担っています出典[2]。
バリンは、筋肉を強化して体内の成長を促す物質です。また、血液中の窒素のバランスをコントロールする役割もあります。
イソロイシンは、腸や筋肉のグルコース輸送体の働きをサポートすることにより、グルコースの消費と利用を促進させる働きがあります出典[3]。
BCAAは肝臓で直接分解することはできないため、他の組織でα-ケト酸に変換されてから酸化されています。BCAAのほとんどは、骨格筋などの組織で代謝に利用されています出典[3]。
また、BCAAはタンパク質代謝だけでなく、エネルギー代謝の調節にも重要な役割を果たすことが最近の研究でも示されています出典[4]。
3.不足するとどんなリスクがある?
必須アミノ酸の中でも筋肉の合成に深く関わっているBCAAは、摂取量が不足すると体内のたんぱく質合成や代謝の調節に悪影響を及ぼします。
特にロイシンは、筋肉を構成する筋原線維たんぱく質を維持するために重要な役割があるため出典[4]、摂取不足には十分注意しましょう。
マウスの筋肉内のBCAA濃度を意図的に低下させ、通常の食事と低たんぱく質食を与えた後の影響を調査した研究によると、通常のタンパク質食を与えられたマウスは大きな欠陥がなく健康であったのに対し、低タンパク質食を与えられたマウスは、骨格筋の筋原線維の濃度が大幅に減少したことが分かりました。この結果から、BCAAの補給は、マウスの筋原線維タンパク質を維持するために不可欠であることが示唆されています出典[4]。
通常の食生活ではBCAAが不足することはほとんどないとされていますが、極端な食事制限など食事量が大幅に足りていない状態はBCAA不足にも繋がります。筋肉量を維持するためにも、バランスの良い食事を心がけましょう。
4.どんな食材に含まれている?
BCAA(ロイシン、バリン、イソロイシン)は肉類や乳製品(牛乳、チーズ)に多く含まれています出典[5]。
【ロイシンを豊富に含む食品とその含有量(100gあたり)出典[5]】
食品名 | 状態など | 含有量 |
パルメザンチーズ | - | 4300㎎ |
ビーフジャーキー | 乾 | 4400㎎ |
豚ヒレ肉 | 焼き | 3200㎎ |
するめ | 乾 | 3100㎎ |
【バリンを豊富に含む食品とその含有量(100gあたり)出典[5]】
食品名 | 状態など | 含有量 |
プロセスチーズ | - | 1600㎎ |
子牛肉 | 生 | 1200㎎ |
マグロ | 生 | 1200㎎ |
牛レバー、豚レバー | 生 | 1200㎎ |
豆腐 | 木綿、生 | 360㎎ |
【イソロイシンを豊富に含む食品とその含有量(100gあたり)出典[5]】
食品名 | 状態など | 含有量 |
かつお | 生 | 1900㎎ |
鶏むね肉 | 生 | 1200㎎ |
牛肉サーロイン | 生 | 610㎎ |
牛乳 | 生 | 170㎎ |
必須アミノ酸はBCAA以外でもバランスよく摂取することが求められているため、たんぱく質が豊富に含まれる食材を最低1品は取り入れることが大切です。
BCAAに確認されている作用や効果
BCAAは、体内のたんぱく質合成・維持だけでなく、様々な症状を緩和させる働きが確認されています。
ここからは、BCAAによって期待される効果についてご紹介します。
1.筋肉肥大の効果
運動による筋肉の損傷(運動誘発性筋損傷)は、筋機能の低下や筋肉痛を引き起こします。しかし、BCAAの補給はたんぱく質の合成をサポートし、筋肉の回復を促進させることが示されているのです。
12名の男性を2グループに分け、連続100回のドロップジャンプを実施してもらい、片方のグループには運動した後にBCAAを補給させて筋肉の損傷との関係について調査しました。その結果、運動後にBCAAを補給したグループでは筋肉の損傷と筋肉痛が有意に軽減されていることが分かりました出典[6]。
また、長期間にわたってBCAAを補給すると、サルコペニア(加齢とともに筋肉が衰える症状)の改善が期待されています。
肝硬変が原因のサルコペニア患者106名を対象とした研究によると、6ヶ月間BCAAを補給したグループにおいて筋肉量・筋力・筋機能が改善したことが判明しました出典[7]。
筋肉量は、加齢によって徐々に低下していくものです。年齢の若いうちからBCAAを習慣的に補給しておきましょう。
2.有酸素運動の能力向上
BCAAの補給は、有酸素運動の能力を向上させる効果があることが分かっています。
エネルギーの産生には、グルコースを代謝する方法と脂質を代謝する方法の2種類が存在します。有酸素運動を行うと、まず、筋肉に蓄えられたエネルギー源であるグリコーゲンが分解されます。
しかし、BCAAは、体内の脂質酸化を促進し、グルコース筋肉のグリコーゲンが少なくなった状態でもエネルギー代謝を活性化させる働きを持っています。そのため、グルコースが不足した状態でもエネルギーが産み出され、有酸素運動の能力が向上すると考えられているのです出典[8]。
被験者7名をBCAA (1日に体重あたり300mg)を補給するグループとプラセボのグループに3日間割り当て、運動後の疲労に対する抵抗力を測定しました。その結果、BCAAを補給したグループはプラセボと比べて運動後の疲労に対する抵抗力が17.2%高く、運動能力が向上していることが示されました出典[8]。
したがって、BCAAはジョギングやマラソンなどの有酸素運動を習慣にしている方にとっても欠かせない栄養素といえるのです。
3.筋肉疲労の緩和
BCAAは、運動で与えられる筋肉のダメージによって生じる筋肉疲労や筋肉痛を緩和させる作用があります。
運動によって、筋力の減少、筋内のたんぱく質が血液中に流出するといった現象が発生します。このため、筋肉疲労や筋肉痛は、激しい運動を頻繁に行う人であればあるほど時間とともに悪化し、慢性的に持続する可能性があるのです出典[9]出典[10]。
BCAAを補給すると、たんぱく質の分解を抑えて筋肉の合成を促進し、運動による筋肉の損傷を抑えると考えられています。
100回のドロップジャンプを実施した男性に10gのBCAAまたはプラセボの1日2回の投与を12日間行った研究によると、BCAAを補給したグループは筋肉が代謝されたことを示す酵素である血漿クレアチンキナーゼ濃度や筋肉痛、筋力について24時間後には有意に改善されていることが分かりました出典[9]。
BCAAの補給は運動習慣のある方やアスリートの間でよく行われており、スポーツ栄養学の分野でも大きな関心を集めています。これから運動を始めたいと考えている方も、BCAAの多い食材や関連するサプリメントの補給を検討してみましょう。
4.精神的疲労の緩和
BCAAの摂取によって、精神的な疲労感が緩和されるといわれています。
精神的疲労は、トリプトファンを原料とするホルモンであるセロトニンが減少することで発生します。BCAAには、トリプトファンの代謝をサポートする作用があり、セロトニンの分泌を高めることに繋がります。これによって、精神的な疲労感の減少に繋がるのです出典[11]。
30kmのクロスカントリー競技者を対象とした研究によると、BCAAをレース中に補給した場合、レース後の認知テストでのパフォーマンスが改善されることが分かりました出典[11]。
ただし、運動中にBCAAと炭水化物を摂取した場合は、脳のトリプトファンの代謝が減少してしまい、精神的疲労への効果が半減するため注意が必要です。
5.肥満の予防
BCAAには、インスリンの分泌を節約し、肥満を予防する作用があると考えられています。
膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンは、糖の代謝を調節し、血糖値を一定に保つ働きがあります。肥満の予防には食後の急激な血糖値の上昇を抑制し、インスリンの分泌をなるべく節約することが重要なポイントです出典[12]。
BCAAとインスリンの関連を調査するため、ラットに高脂肪食のエサ、BCAAを補充したエサ、標準的なエサのいずれかを与えた後のインスリン分泌量について分析しました。この研究によると、BCAAを補充したラットについて、エサの摂取量が減少し、インスリン分泌量が節約されていたため、体重増加率が低いことが判明しました出典[13]。
肥満や糖尿病の予防には、食事のバランスを整えることがとても大切です。BCAAを食生活に取り入れ、太りにくく痩せやすい身体を目指しましょう。
6.短期記憶の低下を抑制
BCAAには、運動後の疲労による短期記憶の低下を抑える可能性が示唆されています。
BCAAを補給した後にセーリングレースを実施した被験者に対して、精神的・身体的パフォーマンスに及ぼす影響についての研究が行われました。
船員12名を2つのグループに分け、一方には1日あたり50% のバリン、35% のロイシン、および 15%のイソロイシンを含む高たんぱく質サプリメントを補給してもらい、もう一歩には標準的な食事のみ摂取してもらいました。その結果、高たんぱく質サプリメントを摂取したグループは、レース後の短期記憶の低下や疲労感が軽減されていることが分かりました出典[14]。
運動した後は、疲労感や身体的ストレスによって短期記憶の低下が引き起こされます。短期記憶の低下を予防するためにも、運動する前にはBCAAが豊富な食事やサプリメントを取り入れておきましょう。
BCAAの摂取方法や注意点
BCAAは私たちの身近にある様々な食材に含まれているため、普段の食事をしっかり摂っていれば不足することはほとんどないと考えられています。
ここからは、BCAAの適切な摂取量や効果的な摂取方法についてご紹介します。
1.どのくらい摂取すればいい?
必須アミノ酸はたんぱく質として食事から摂らなければなりませんが、通常の食事をしていれば不足することはありません出典[1]。
成人の場合、1日あたりのBCAAは体重あたり約68〜144mgと推定されています (ロイシン 34 mg/kg、イソロイシン15 mg/kg、バリン19 mg/kg)出典[15]。
ただし、BCAAのサプリメント摂取は血糖値に大きな影響を与える可能性があるため、注意が必要です。糖尿病のある方でBCAAサプリメントの使用を検討している場合は、事前にかかりつけ医や糖尿病専門の医療機関に相談することが重要です出典[15]。
2.効果的なタイミングとは?
では、BCAAをいつ頃摂取するとより良い効果が得られるのでしょうか。
実はアミノ酸代謝は1日の時間帯によって、つまり朝食か夕食かに応じて筋肉機能への影響が変化することが報告されているのです。
ヒトの骨格筋指数や握力などの筋肉機能とBCAA摂取の関係を調べた研究によると、夕食よりも朝食にBCAA摂取した被験者において、より高い筋肉機能が観察されました。つまり、BCAAは夕食時よりも朝食時に摂取した方が筋肉の肥大を活性化させると考えられます出典[16]。
また、運動の前にBCAAを摂取すると、運動後数日間発生する筋肉痛や筋肉疲労が軽減するとされています出典[17]出典[18]。
若い男性15名に対して、運動の前後 (および運動日の前後 3 日間) に BCAAまたはプラセボのいずれかを摂取してもらい、非利き腕で偏心運動を30回繰り返した後の筋肉痛や筋肉疲労、関連する酵素の分泌量について調査を行いました。その結果、運動前にBCAAを補給した被験者の方が、運動後にBCAAを補給した被験者に比べて筋肉痛や筋肉疲労が軽減していたことが分かりました出典[18]。
これらの理由から、BCAAは朝食時や運動する前に補給することがおすすめです。
まとめ
たんぱく質を構成する有機化合物であるアミノ酸は20種類あり、そのうちロイシン、バリン、イソロイシンはBCAA(分枝鎖アミノ酸)と呼ばれています。
BCAAは肉や乳製品、大豆製品に豊富に含まれています。また、BCAAが強化された栄養補助食品やスポーツをする人向けのサプリメントも広まっているため、比較的簡単に必要量を摂取することが可能です。
健康を維持するためには、筋肉量を維持することはとても大切です。BCAAを習慣的に摂取し、年齢に伴う筋肉量の減少を予防していきいきとした毎日に繋げましょう。
出典
- 1.
- 2.
- 3.
- 4.
Takuya Ishikawa, Yasuyuki Kitaura, Yoshihiro Kadota, Yukako Morishita, Miki Ota, Fumiya Yamanaka, Minjun Xu, Masahito Ikawa, Naokazu Inoue, Fuminori Kawano, Naoya Nakai, Taro Murakami, Shinji Miura, Yukino Hatazawa, Yasutomi Kamei & Yoshiharu Shimomura
Muscle-specific deletion of BDK amplifies loss of myofibrillar protein during protein undernutrition - 5.
- 6.
- 7.
Arun Singh Tejavath, Amit Mathur, Deepak Nathiya, Pratima Singh, Preeti Raj, Supriya Suman, Payal Ramakant Mundada, Sheikh Atif, Ramesh Roop Rai and Balvir Singh Tomar Impact of Branched Chain Amino Acid on Muscle Mass, Muscle Strength, Physical Performance, Combined Survival, and Maintenance of Liver Function Changes in Laboratory and Prognostic Markers on Sarcopenic Patients With Liver Cirrhosis (BCAAS Study): A Randomized Clinical Trial
- 8.
- 9.
Trisha A. VanDusseldorp, Kurt A. Escobar,Kelly E. Johnson, Matthew T. Stratton, Terence Moriarty,Nathan Cole, James J. McCormick, Chad M. Kerksick,Roger A. Vaughan,Karol Dokladny,Len Kravitz, Christine M. Mermier Effect of Branched-Chain Amino Acid Supplementation on Recovery Following Acute Eccentric Exercise
- 10.
- 11.
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