メチオニンとは?6つの機能と適切な摂取方法
2022年9月1日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

メチオニンとは

まずはメチオニンの基本情報についてご紹介します。

1.どんな栄養素?

メチオニンはたんぱく質を構成するアミノ酸の中でも、体内での合成が不可能であり食事から必ず摂取しなければならない「必須アミノ酸」のうちの一つです。

中でもメチオニンは、体におけるたんぱく質生成の起点である「開始アミノ酸」としての役割を持つため、特に重要であるとされています。しかしその一方で、日本人の穀類を中心とした食事にはメチオニンの不足が起こりやすいため、意識して摂取する必要がある栄養素であるとも言えます。

 

2.身体の中でどんなはたらきをする?

メチオニンは9種類ある必須アミノ酸の一つとして、体たんぱくの合成に使われます。その他、メチオニンはシステインを初めとする様々な化合物の材料として使われ、生成された化合物は各臓器において代謝や酸化ストレス低減などの役割を持ちます。

メチオニンは体内でシステインに変化し、その後グルタチオンという化合物の材料として使われます。グルタチオンは強い抗酸化作用を持つため、血管や体組織にダメージを与える活性酸素を無害化し、酸化ストレスの低減に役立ちます。また、グルタチオンは肝臓でも消費され、解毒のサポートを行います。

脂質代謝に重要な化合物であるカルニチンの合成には、メチオニンとリジンが必要です。またビタミンB6やビタミンC、ナイアシンといったビタミン類、およびミネラルの鉄も合成に使われます。生成されたカルニチンは脂肪酸からエネルギーを得るための「β酸化」という変化を起こすために使われ、エネルギー生成の助けとなったり、脂肪燃焼を促進したりします。

また、メチオニンはタウリンの合成にも使用されます。グルタチオンと同様に、肝臓において解毒作用の助けとなったり、更に胆汁酸の分泌を促して脂溶性ビタミンの吸収を促進したりします。また胆汁酸にはコレステロールも使われるため、体内のコレステロール総量を調節する役目も担っています。

 

3.どんな食材に含まれている?

メチオニンはアミノ酸であるため、主な摂取源は動物性たんぱく質ですが、大豆製品やナッツ類からも摂取できます。

メチオニンを含む食品のうち、より含有量が高く、かつ日常的な摂取が容易なものをまとめると以下のようになります。不足が気になる場合には、メチオニンを含めた必須アミノ酸全体の含有バランスがよく、体たんぱく合成をより効率的に行える動物性食品を意識して食べるようにするとよいでしょう。ただし動物性食品を中心とした食事では脂質の過剰摂取が起こりがちになります。メチオニンを目的として動物性食品を食べる場合には、低脂質高たんぱくな鶏ささみ肉や牛もも肉などを選んでみましょう。


【メチオニン含む食品(動物性食品)とその含有量(100gあたり)】出典[9]

食品名成分表(mg/100g)
鶏肉(ささみ)690
鶏肉(若どり・むね)630
豚肉(ロース・皮下脂肪なし)600
牛肉(もも・赤肉)580
かずのこ760
びんなが750
きばだまぐろ720
プロセスチーズ590
鶏卵(全卵)410

 

【メチオニン含む食品(植物性食品)とその含有量(100gあたり)】出典[9]

食品名成分表(mg/100g)
大豆(黄大豆・乾)520
焼き豆腐120
木綿豆腐98
らっかせい(小粒種・煎り)300
くるみ(煎り)260
アーモンド(煎り・無塩)190

 

 

メチオニンに確認されている作用や効果

メチオニンの役割においては、体たんぱく合成の起点になる必須アミノ酸としての役割、様々な物質の材料になる前駆体としての役割、の二つが重要となります。以下ではこれら二つの役割が体にもたらす効果について詳しく説明します。

1.たんぱく質の材料となる

メチオニンを含む必須アミノ酸はたんぱく質の合成には欠かせません。メチオニンはその中でも、たんぱく質の合成における「開始アミノ酸」としての役割を持っています。

たんぱく質が合成される際に必要となるのが、アミノ酸に関する種類や配列や立体構造といった遺伝子情報を保存するDNAと、その情報を処理してたんぱく質合成の場へ伝えるmRNAです。メチオニンはこのmRNAにおいて「たんぱく質翻訳を開始するサイン」となる開始コドンの役割を持ちます。そのためメチオニンを欠いてしまうと合成が始まらず、体たんぱく質のバランスに支障をきたすおそれがあると考えられているのです。

またメチオニンは、たんぱく質を安定化させる役割を持つとも考えられています。メチオニンに含まれる疎水性の部分は抗酸化物質として働く性質を持っている可能性があります。たんぱく質にこの抗酸化物質が働きかけることにより、たんぱく質を保護する役割を果たしているのではという仮説が、細胞単位の実験により立てられています出典[1]

十分にたんぱく質合成を行うには9種類の必須アミノ酸を全て不足なく摂取する必要がありますが、メチオニンはこれらの特別な性質を持つことから、特に重要なアミノ酸であると言えるでしょう。

 

2.免疫能力の維持

メチオニンを材料として作られる化合物の一つにグルタチオンがあります。グルタチオンは細胞レベルでの代謝調節に関わるほか、優秀な抗酸化物質として体内の酸化ストレスを低減させ、細胞を保護する働きがあることが判明しています。

このグルタチオンの抗酸化作用は消化管において特に重要です。食事由来の毒素や酸化を起こしやすい成分に消化管上皮の細胞は晒されやすく、また代謝の回転率も高いためエネルギー消費が盛んであるため多くの酸化ストレスを受けるためであると考えられています。

消化管、特に腸は体全体の免疫状態を左右する重要な器官であるため、グルタチオンの不足により腸管上皮の細胞がダメージを受けると腸管免疫が低下してしまいます。これにより、癌をはじめとしたあらゆる疾病のリスクが上がることが判明しています出典[2]

また、メチオニン自体にも免疫能力を高める作用がある可能性があり、豚や鶏など動物での研究が進められています。ブロイラーを使用した研究では、メチオニンの投与により抗体の総量、特にIgGが大きく増加したことが明らかになりました。同試験においてメチオニンの充足が免疫に関わるT細胞の働きを強化する可能性があるとも考察されており出典[3]、メチオニンを不足なく摂取することで免疫の助けとなることが期待できるでしょう。

 

3.肝機能の保護

メチオニンとシステインから合成されるタウリンは、肝臓において胆汁酸の分泌を促します。胆汁酸には脂質の吸収を助ける酵素が含まれているため、脂溶性ビタミンの吸収率を高めることができます。

またタウリンにはグルタチオンと同様に、アルコールやアンモニアなどを無毒化する解毒の作用があります。肝臓が持つ解毒の機能をサポートするため、肝臓への負担が軽くなり保護に役立つとされています。

慢性肝疾患においてはこれらタウリンやグルタチオンが不足をきたし、状態を悪化させている場合があります。グルタチオン合成に必要となる化合物、S-アデノシルメチオニン(SAMe)の合成が慢性肝疾患においては低下するためであると考えられています。

SAMeはメチオニンが、体内で生成されるエネルギー物質であるATPと反応することによって生成された「活性メチオニン」であり、このSAMeの投与で肝機能疾患が改善する可能性があるとの仮説のもと、幾つかの研究が進められています。既にウイルス性肝炎においては、SAMeの投与によりウイルス除去率と抗ウイルス効果が増加したという結果が臨床研究において得られており出典[4]、メチオニンおよびその化合物が肝臓においてあらゆる機能の保護に役立つことが期待できるでしょう。

 

4.細胞の保護

グルタチオンの持つ抗酸化作用は、細胞内に発生した活性酸素を無害化することで酸化ストレスを低減する役割を持ちます。この働きは腸管を保護して免疫能力を高めるだけでなく、様々な器官において保護作用を発揮します。

実験研究と臨床研究の両方において、体内のメチオニンとその化合物が減少した際の変化が調べられており、グルタチオンの生成不足により酸化ストレスが細胞に蓄積されることで、様々な臓器の機能が低下する可能性があると指摘されています出典[5]

血管においては血管内皮が傷付き動脈硬化のリスクが向上したり、脳においては認知症のリスクの向上や集中力の低下を引き起こしたりします。これら機能障害の防止のため、グルタチオンの合成不足が起こらないよう注意すべきでしょう。

また、過剰な血中のコレステロールは酸化ストレスの引き金となるため、コレステロール量を調節するタウリンも血管の保護には重要です。メチオニンから生成されるタウリンは胆汁酸の材料となりますが、この胆汁酸の生成にはコレステロールも使われます。そのため胆汁酸の生成が十分に行われる環境を作ることでコレステロールが消費され、血中のコレステロールが低下するのです。

酸化ストレスを低減させて細胞を保護するためにも、グルタチオンやタウリンの材料となるメチオニンの不足には一層注意する必要があるでしょう。

 

5.うつ病の軽減

肝機能の保護においても重要となった、S-アデノシルメチオニン(SAMe)ですが、これが気分の落ち込みを改善する可能性があるとして注目されています。

18~80歳のうつ病患者を対象にしたランダム化臨床試験においては、SAMeをサプリメントの形で摂取した群はプラセボ群と比較して、うつ症状の改善率や寛解率が上昇しており、摂食不足による体重減少が少なかったことが明らかになっています出典[6]

SAMeが脳に及ぼす効果として、セロトニンの循環を増加させてドーパミンを活性化させている可能性があり、これが集中力や意欲の向上に繋がっているのではと指摘されています。また、SAMeから合成されるグルタチオンの抗酸化作用により脳の酸化ストレスが低減されることも、気分の落ち込みやうつ症状の軽減に役立っていると考えられます。

 

6.DNAの合成

たんぱく質合成の場において「開始アミノ酸」としての役割も持つメチオニンは、DNAの合成においても重要な役目を担っています。

DNAからRNAの遺伝子転写においては「メチル化」という、遺伝子にメチル基が結合する反応が重要となり、メチル化を受けた遺伝子は転写がより活性化することが分かっています。メチオニンの化合物であるSAMeは生体内においてメチル基の供給源としても活躍しているため、SAMeが豊富にある状態ではDNAのメチル化が起こりやすく、遺伝子転写が活性化され、たんぱく質合成が促進される可能性があります。

また、DNAにおけるメチル化不足は染色体を不安定にし、様々ながんの発症率を上昇させることが分かっており出典[7]、メチオニンの十分な摂取により発がんリスクを低減できる可能性があります。
 

メチオニンの摂取方法や注意点

この章ではメチオニンの摂取について、1日の目安量や過剰・不足を起こしやすい食習慣、過剰摂取による健康への影響などについて説明します。

1.どのくらい摂取すればいい?

必須アミノ酸は「たんぱく質必要量に対する不可欠アミノ酸の必要量」として、厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準」に記載されています。メチオニンは一部が体内でシステインに変換されますが、そのシステインとメチオニンを合算した「含硫アミノ酸」での数値が定められています。

生後まもない乳児はシステインを合成する能力がないため、含硫アミノ酸の要求量が多く、成長するに従って減少します。生後半年までの乳児では体重1kgあたり31mgが1日に必要とされますが、成人における1日の必要量は体重1kgあたり15mgとおよそ半量にまで減少しています。体重60kgの成人の場合、メチオニンとシステインの合計量が900mgに達していれば必要量を満たしているということになります。

動物性食品を制限するベジタリアン食やヴィーガン食を続けている場合、メチオニンは不足傾向にあるかもしれません。また飲酒量が多い場合にはメチオニンの消費量が増大するため、体内で不足を起こす可能性があり、注意が必要です。

 

2.過剰摂取による副作用は?

メチオニンはあらゆる動物性食品に含まれる栄養素であるため、食事から摂取する分には害を及ぼすことはないとされています。たんぱく質の大量摂取によりメチオニンの過剰摂取を起こした場合でも、メチオニンは尿中に排泄されるため、食事由来のメチオニンは必要以上に体内へ留まることはないと考えられています出典[8]

しかしメチオニンを含有したサプリメントの過剰摂取による健康被害は少なからず報告されており、嘔吐など消化器系の異常やめまいなど中枢神経系の異常などが起こるおそれがあります。

飲酒時にはアルコール分解のため、メチオニンは肝臓で大量に消費されてしまいます。そのため大量飲酒の頻度が高い方であれば、肝機能の保護効果を期待してサプリメントの利用を考える場合もあるかもしれません。しかし必要以上の摂取によって、酔いが早く醒めたり肝臓が丈夫になったり効果が出ることはありません。サプリメントは1日の摂取量を守って飲むようにしましょう。

 

3.メチオニンは制限した方が有益?

メチオニンの不足はDNAのメチル化不足をもたらし、DNAを不安定な状態にするため、発がんのリスクを上げる可能性があることが分かっています。その一方で、メチオニンを十分に摂取することが悪影響を及ぼす場合があるとの仮説もあり、幾つかの研究が進められています。

DNAの合成に関わるメチオニンは、がんや腫瘍の発生・進行にも大きな影響を及ぼすことが分かっています。細胞実験においては、メチオニンを制限した培地ではがん細胞が生存できず、細胞増殖が起こらなくなりアポトーシスを起こしたことが確認されました。動物実験においてもメチオニンを制限したマウスでは腫瘍の拡大が抑えられ、化学療法により強い効果を示しています出典[7]

これは活性メチオニンであるSAMeがメチル化を行い細胞を安定化させる働きがあることに加え、メチオニンがポリアミンという細胞分裂や腫瘍形成に関わる化合物の合成に使われることに由来すると考えられています。メチオニンの制限により細胞内でのポリアミン産生量が減少し、その結果、がんや腫瘍の増殖が抑えられるのではないかと期待されています。

細胞の増殖には欠かせないメチオニンですが、がん細胞など異常な細胞の増殖を抑えたい場合には、メチオニンの制限が有効に働く場合もあると考えられるのです。
 

まとめ

 発がん時など、特殊な状況下においては制限することも有益であると考えられているメチオニンですが、普段の生活においてはたんぱく質合成や肝機能保護などに欠かせない重要な栄養素であり、不足するとあらゆる不調をきたします。日々の食事に低脂質高たんぱくな食品を積極的に取り入れ、メチオニンを十分に摂取し体調管理の助けとしてみましょう。
 

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