執筆者
管理栄養士/分子栄養学カウンセラー
岡かな
大阪市立大学食品栄養科、大学院修士課程修了。医療機関に勤務し、糖尿病や高血圧など生活習慣病の栄養管理に取り組む。その後はヘルスケア事業に移り、年間500人以上のダイエットをサポートする。現在はダイエットサポートの他、特定保健指導や健康に関わる分野の執筆も行っている。誤った情報で10キロ以上リバウンドした自分自身の経験から、科学的根拠に基づく正しい情報の発信を心掛けている。
ただの伝統?本当に牡蠣には精力効果があるのか?
「海のミルク」とも呼ばれ、昔から滋養強壮に優れた食品として愛されてきた”牡蠣”。
牡蠣には精力効果があると聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
例えば、牡蠣が男性のベッドパフォーマンスを高めるとして注目されていたり、牡蠣を摂取することで疲労回復に繋がるという噂もあります。
このような牡蠣にまつわる精力効果は本当なのでしょうか?
はたまた、ただの伝承なのでしょうか?
牡蠣の栄養素に期待できる5つの精力効果
牡蠣の栄養素に期待できる5つの精力効果
本当に牡蠣には精力効果があるのかどうか、牡蠣に含まれている栄養素に焦点を当てて、徹底的に解説していきましょう。
精力効果1.性欲の最適化
まずはじめに、性欲を高める効果について。
じつは、牡蠣に性欲向上効果が期待できるのは事実なんです。
牡蠣と言えば「亜鉛」が多いことで有名であることは、ご存知の人も多いでしょう。
そして、亜鉛にはテストステロンを最適化させる効果が示されているんです。
そもそもテストステロンとは、性欲の強さなど男性の生殖能力に大きく関わるホルモンの一種。
亜鉛はテストステロンの生成に欠かせない栄養素であるため、亜鉛を必要量摂取することで性欲も最適化されるというわけです。
実際に、亜鉛不足の男性に250mg/日の亜鉛を6週間、摂取してもらった結果、テストステロン値の増加が確認されているんです出典[1]。
要するに亜鉛を摂取すれば、体内のテストステロン量が高まり、結果として性欲も向上するわけですね。
精力効果2.勃起力を改善する
続いて、勃起力の改善効果についてはどうでしょうか?
性欲の最適化と同様、牡蠣には勃起力を改善する力も期待できます。
なぜなら、テストステロンはドーパミンの分泌を高めることで性欲と勃起にも大きく関わっているから。
そもそも勃起は「ドーパミンの分泌による性的興奮」と「NO(一酸化窒素)産生による血管拡張」が起こることで開始されます出典[2]。
このうち、テストステロンはドーパミン分泌を高めることで興奮を引き起こし、性欲向上と勃起力に繋がるという仕組みなんです。
実際に、2007年にイギリスで行われた研究では、国際勃起機能指数(IIEF)スコアによって評価される勃起不全の重症度は、テストステロンの量と相関していることが報告されています出典[3]。
つまり、テストステロン量が低い人は勃起力が弱いと言えますね。
性欲と勃起力の最適化にテストステロンが欠かせず、テストステロンの生成には亜鉛が欠かせません。
よって、亜鉛を豊富に含んでいる牡蠣は、男性のベッドパフォーマンスを高める食品であると言って過言ではないでしょう。
精力効果3.精子の質を向上させる
牡蠣に豊富に含まれている亜鉛の摂取により、性欲及び勃起力の最適化に繋がることを解説しました。
さらに亜鉛は、精子の質に関与することも報告されているんです。
そのメカニズムのひとつとして、亜鉛摂取で増加するテストステロンが、精子の形成にも関与しているということ。
テストステロンは、精子の運動性や正常な形態の維持など、精子の質において重要な役割を担っていると考えられています。
実際に、不妊症の男性37名を対象に亜鉛補給療法を行った研究においては、試験前の血清テストステロン値が低い(4.8ng/ml未満)グループにおいて、亜鉛の投与後に精子数や血清テストステロン値が増加したことがわかりました出典[4]。
つまり、テストステロン値が低い人が亜鉛を摂取することで、テストステロン値と精子の量を増加させることができると言えますね。
さらに、亜鉛単体でみても、亜鉛が精子の量や質に関わることがわかっています出典[5]。
詳細なメカニズムは不明ですが、研究でも亜鉛欠乏により精子の減少や男性不妊に繋がるなどの関連が示されているんです。
このように、牡蠣に豊富に含まれている亜鉛は精子の質や量に関与する栄養素と言えるでしょう。
精力効果4.スタミナを高める
では、牡蠣がスタミナを高めるという噂についてはどうでしょうか?
牡蠣を食べることでスタミナも上がるのでしょうか?
…はい。牡蠣に豊富に含まれているビタミンB12は、体内のエネルギー代謝に関わる栄養素であるため、牡蠣の摂取は体力向上に寄与する可能性があります。
具体的には、ビタミンB12は体内で起こる化学反応を引き起こす触媒となる酵素をサポートする成分(補酵素)として、アミノ酸代謝、核酸代謝、葉酸の代謝に関わっているんです出典[6]。
また、ビタミンB12はクエン酸回路の中間体であるスクシニルCoAの合成に必須の役割を担っていることも、ビタミンB12がスタミナを高める理由のひとつ出典[6]。
クエン回路とは、私たちが活動するエネルギー源であるATP(アデノシン3リン酸)を作り出す代謝回路です。
つまり、クエン酸回路がきちんと機能することで、エネルギーが産生され、いわゆるスタミナがつくと言うことですね。
実際に、ビタミンB12が不足すると疲労感や息切れが起きることも知られています出典[6]。
このように、ビタミンB12はエネルギー代謝に関わることで、スタミナを高めることに貢献しているんですね。
精力効果5.疲労を軽減する
最後は、疲労軽減効果について。
確かに、牡蠣の摂取が疲労軽減に一役買ってくれる可能性があることは事実なんです。
肝になるのは、牡蠣に豊富に含まれている「タウリン」。
貝類や軟体動物に豊富に含まれているタウリンは、コレステロールの減少や心臓の機能向上、視力の回復、インスリン分泌促進、高血圧の予防など、さまざまな効果があると言われています出典[7]。
タウリンが豊富な栄養ドリンクもよく見かけますよね。
そして、メカニズムは明らかになっていないものの、タウリンには筋肉の疲労を軽減する効果があることもわかっているんです。
実際に、タウリンの摂取と有酸素運動後の疲労について調べた研究では、タウリンの摂取によって、筋肉の損傷や炎症の指標となるIL-6やTNF-αといった因子の発現量が運動中や運動後でも上昇しなくなることが明らかになりました出典[8]。
また、筋力トレーニングにおいても、タウリンを摂取すると運動による酸化ストレスが軽減されることが分かっています出典[8]。
まだまだ研究が必要な分野ではありますが、タウリンの摂取によって疲労が緩和し、精力の向上が期待できそうですね。
知らないと危険!牡蠣にまつわる3つの注意点
ここからは、牡蠣を摂取する際の注意点を3つ解説していきましょう。
1.たくさん食べても意味はない
「牡蠣は、亜鉛が豊富で精力アップにうってつけ!」と言えそうですが、じつは牡蠣をたくさん食べれば食べるほど良いというわけではありません。
ならなら、性欲や勃起力、精子の質に関与するテストステロンは、亜鉛の摂取量が多いほど増加するわけではないからです。
実際に、亜鉛の摂取によりテストステロンの向上が認められた試験では、もとから亜鉛が不足している人を対象にした研究ばかり。
例えば、60〜70代の高齢男性に6か月の間、亜鉛を摂取してもらう実験では、血清テストステロン値が有意に増加したことが確認されていますが、対象の男性は亜鉛不足の状態でした出典[9]。
また、亜鉛摂取量が11.9〜23.2mg/日である男性14名に亜鉛サプリメントを補給したところ、血清テストステロン値に変化がみられなかった出典[10]という研究にもある通り、すでに亜鉛が十分に足りている人や、テストステロン量が正常値の人が亜鉛を摂取しても、何も変化しないことが明らかになっています。
精力アップにおいては亜鉛の”不足”が問題であり、摂取量を増やすほど良いとは言えないことを覚えておきましょう。
2.むしろ食べ過ぎは逆効果
必要量を超えた摂取は、意味がないどころか健康に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
亜鉛の過剰摂取によって、吐き気や下痢、頭痛、めまい、免疫の低下などの副作用が生じる可能性があります出典[11]。
実際の研究では、50mg以上の亜鉛をサプリメントで数週間にわたり摂取すると、銅と鉄の吸収が妨げられ、免疫機能が低下し、善玉コレステロール値が低下することが判明しました出典[12]。
通常の食事から摂取する分には50mg/日に達することはほとんどありませんが、亜鉛を含むサプリメント等の過剰摂取には注意が必要ですね。
さらに、亜鉛と精子の質についての研究によると、ヒトの精液中の亜鉛濃度が高すぎると精子の運動性が低下し、亜鉛を除去するとその運動性が向上することも示されているんです出典[13]。
過度な亜鉛の摂取は逆効果となる可能性もあるため、適量を知り、バランスよく栄養素を摂取しましょう。
3.一日4~11個の範囲が目安
では、牡蠣の適量はどれくらいなのでしょうか?
結論、一日あたり4~11個までの範囲が目安です。
厚生労働省の発表している「日本人の食事摂取基準2020」では、亜鉛の推奨量(18~74歳)は、男性で11mg/日となっています出典[14]。
牡蠣大きめの1粒(20g)に含まれている亜鉛量は、2.8mg出典[15]。
よって、推奨量の11mgに相当する牡蠣の量は4粒(亜鉛含有量11.2mg)になるんです。
また、亜鉛の耐容上限量(健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限)は、18~29歳の男性で40mg/日、30~64歳の男性で45mg/日とされています出典[14]。
牡蠣以外の食事から平均8mg/日の亜鉛が摂取されている出典[16]とすると、牡蠣から摂取する量は1日11個(亜鉛含有量30.8mg)までに制限する必要があるでしょう。
毎日摂取するならサプリメントが最適
亜鉛やタウリンが豊富な牡蠣は、精力向上効果が期待できることを解説しました。
ただし、一度その栄養素を摂取するだけではなく、毎日の継続的な摂取が重要であることはご存知のとおりでしょう。
とは言え、毎日牡蠣を食べるのは現実的ではないですよね。
そこでおすすめなのは、栄養素を効率的に摂取できるサプリメント。
サプリメントであれば、食品だけでは不足してしまう量をしっかり補うことができます。
サプリメントに記載の含有量を確認した上で、適切な量を摂取しましょう。
出典
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