フルオキシメステロンとは?臨床試験と7つの副作用
2024年6月20日更新

執筆者

薬剤師

塩見 友香

大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。

:はじめに

フルオキシメステロンは、アナボリックステロイドの一つです。

アナボリックステロイドはたんぱく質同化ホルモン剤を指し、筋肉増強効果や脂肪燃焼効果があることで知られています。

筋力トレーニングにフルオキシメステロンといったアナボリックステロイドを追加することで容易に筋肉が大きくできると考えていませんか。

アナボリックステロイドは効果だけでなく副作用もあるため、理想的な体に近づくどころか、逆に体をボロボロにしてしまう可能性もあるのです。

本記事では、アナボリックステロイドであるフルオキシメステロンの効果や副作用などの基本的な知識について、科学的データをもとに解説します。

パフォーマンス向上目的でフルオキシメステロンの使用を考えている方は、ぜひ最後まで読んで、本当に使うべきかよく考えてみましょう。

フルオキシメステロンとは?

フルオキシメステロンとは、たんぱく質同化ホルモン剤(アナボリックステロイド)と呼ばれる薬の1つです。

「ハロフルオックス」や「ハロテスチン」といった商品名で販売されています。

たんぱく質同化ホルモン剤は、男性ホルモンであるテストステロンをもとに人工的につくられた化学物質で、筋肉を増やしたり、血球を増やしたりとさまざまな作用があります。

ただし、テストステロンと類似した構造をもつためホルモンバランスなどに影響を与え、性機能低下やニキビ、脱毛などの副作用を起こすことがあります。

フルオキシメステロンはアナボリック/アンドロゲン比が2.7との報告があり、他のアナボリックステロイドと比較して、アナボリック作用をほとんど持たないことが特徴です出典[1]出典[2]

フルオキシメステロンの歴史

フルオキシメステロンの開発経緯や現在の動向について解説します。

 

1.昔は国内でも医薬品として使われていた

フルオキシメステロンは、1950年代に発明されたアナボリックステロイドです。

国内でも以前は医薬品として普及しており、男子性腺機能不全、月経困難症、機能性子宮出血、乳汁分泌過多、更年期障害に使われていました出典[3]現在は医薬品としての認可がなくなり、正規のルートでは入手できません。

現在は海外での使用に留まりますが、先天性または後天性の性腺機能低下症のアンドロゲン補充療法や乳がんの治療などの治療に使われています出典[4]

 

2.ドーピング規制されている

フルオキシメステロンは、世界ドーピング規制(WADA)対象薬剤のひとつです出典[5]

公式試合でフルオキシメステロンの使用が発覚した場合には失格処分となるため注意しましょう。実際にフルオキシメステロンの使用により、多くの選手がドーピング違反となっています。

近年、フルオキシメステロンを含むアナボリックステロイドは、筋肉増強剤としてサプリメント感覚で使われており、国内外問わずスポーツ業界で問題視されています。

フルオキシメステロンの臨床試験と効果

フルオキシメステロンの効果やメリットについて、科学的なデータをもとに紹介します。

 

1.加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)の改善

フルオキシメステロンは加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)の治療に使われています出典[6]

LOH症候群とは、加齢による男性ホルモンの低下で引き起こされる機能障害を指し、一般的に男性更年期障害と呼ばれている疾患です。男性ホルモンが低下すると、性機能低下だけでなく不眠や抑うつなどの症状、骨粗しょう症のリスク増加が起こることもあり、そういった症状の改善目的でフルオキシメステロンを含むたんぱく質同化ホルモン剤が使われます。

ただし、前述したとおりフルオキシメステロンは国内では認可がないため実際に治療で使われることは少ないでしょう。

 

2.低身長症の改善

フルオキシメステロンは小児における低身長の改善に役立ちます。

その機序はいまだ明らかになっていない部分もありますが、成長板と呼ばれる軟骨部分にたんぱく質同化ホルモン剤が働き、骨を伸ばすと言われています。また体内の成長因子IGF-1の量を増加させる効果もあるためです。

1993年アメリカの文献では、低身長の男児に対するフルオキシメステロンの効果が検証されています出典[7]

1973年から1984年にかけて、82人の低身長の男児(そのうち71人は先天性発育遅延、11人は遺伝的低身長)を対象に生後6〜60ヵ月まで毎日フルオキシメステロン2.5mgを経口投与しました。

その結果、未治療群34人と比較して成長速度が1.7〜2.5倍増加。最終身長は治療前の予測を6.1±3.5cm上回りました。

ただし、フルオキシメステロンの身長に対する効果は小児限定のものです。成人の場合には身長を伸ばす効果はないため使用しないでください。

 

3.乳がんの治療

フルオキシメステロンは、乳がんにも効果を発揮します。

前述の通り、海外ではフルオキシメステロンは乳がんの適応があり、抗がん剤としての役割もあるのです。

乳がん治療の効果について、1988年アメリカの文献を紹介します出典[8]

転移性乳がんの閉経後女性236人を対象にタモキシフェン単剤群とタモキシフェン+フルオキシメステロン治療群に分けてその効果を検証しました。

その結果、タモキシフェン+フルオキシメステロン治療群はタモキシフェン単剤群と比較して病気の進行を遅らせました。

現在は、乳がんに対するより効果の高い薬が発明されており使われていないのが実情です。

 

4.貧血の改善

フルオキシメステロンなどのアナボリックステロイドは貧血改善に昔使われていました

先ほど説明したとおり、フルオキシメステロンは男性ホルモンのテストステロンと類似した構造や作用をもちます。

昔からテストステロンは、造血細胞に直接働きかけたり、造血ホルモンであるエリスロポエチンの作用を強めたりすることで赤血球を増やすと報告されています。そのため、フルオキシメステロンも赤血球を増加させることが明らかとなっているのです。

1978年の国内の研究では、72人の腎性貧血に対してフルオキシメステロンを1日10~15mgを8か月投与したところ、67%にヘマトクリット値の改善がみられました出典[9]

ただし他のアナボリックステロイドと同様に貧血への効果は有効率が低いことがわかり、現在は使われなくなりました。

フルオキシメステロンの重篤な副作用とリスク

フルオキシメステロンの副作用やデメリットについて、科学的なデータをもとに紹介します。

フルオキシメステロンを含むアナボリックステロイドには、肝障害や男性機能低下、脱毛、ニキビなどさまざまな副作用が報告されています。そのなかには深刻な副作用も含まれているのです。

元々フルオキシメステロンは医薬品であり、サプリメント感覚で使うのは大変危険だと認識しましょう。

 

1.肝毒性

フルオキシメステロンは、他のアナボリックステロイドと同様に肝障害の危険性があります。

スタノゾロールの化学構造はオキシメトロンやオキサンドロロンと同じく、C17-α位にアルキル基をもつため、肝障害が起きやすいとされています。

1978年国内の文献では、フルオキシメステロンを再生不良性貧血60人に投与したところ、35.5%に肝障害が認められました出典[10]

アナボリックステロイドによる肝障害は服用を止めれば改善することが多いとされていますが、なかには肝がんの報告もあるため注意が必要です。

 

2.男性不妊

フルオキシメステロンをはじめとするアナボリックステロイドは、男性ホルモンの分泌を低下させ、精巣機能の低下を引き起こしてしまいます。

具体的には、精巣萎縮や乏精子症、インポテンツ、慢性持続勃起症、精液量の減少、性欲低下など数多くの症状がわかっています。

1977年シカゴ大学は、フルオキシメステロンを高用量で投与した際の性機能に与える影響を報告しています出典[11]

9人の男性ボランティアに対して、フルオキシメステロンを1日10〜30mgを12週間投与したところ、血液中のテストステロン濃度が低下しました。

したがってフルオキシメステロンの使用は妊活している男性には大きな影響を与えるでしょう。

 

3.うつ病

フルオキシメステロンをはじめとするアナボリックステロイドの影響は身体だけでなく、精神や心もむしばむ可能性があります。

マサチューセッツ州のマクリーン病院が、アナボリックステロイドと精神疾患の関連性を1994年に観察研究で示しています出典[12]

アナボリックステロイドを使用しているアスリート88名のうち、23%が重大な気分症候群(躁状態、軽躁状態、または大うつ病)と診断されていました。

またアナボリックステロイド使用中は、使用していない場合よりも気分障害を引き起こしやすいこと。気分障害の頻度は使用者の方が多いこともあわせて報告されています。

不眠や認知症といった精神的な影響もアナボリックステロイドが原因となる可能性も示唆されており、フルオキシメステロンの副作用は日常生活にも悪影響を及ぼすのです。

 

4.電解質異常

フルオキシメステロンの使用は、体内の電解質異常が起こる可能性があるため注意が必要です。

電解質とは、ナトリウムやカリウム、リン、マグネシウムなどの成分を指します。電解質は体内の細胞に一定数含まれており、筋肉や神経が正常に働くためには不可欠なものです。フルオキシメステロンをはじめとするアナボリックステロイドは体内のナトリウムやカリウム、リン、カルシウムの濃度を過剰に上昇させてしまう恐れがあります。

体内のナトリウムが上昇すると浮腫が起こりやすくなり、高血圧や心臓に病気をもつ方は病状を悪化させる可能性があるため大変危険だと考えられます出典[13]

 

5.運動失調

フルオキシメステロンのまれな副作用として、運動失調の報告があります出典[14]

1981年アメリカの報告によると、乳がん術後3年後に骨転移が発覚した68歳の閉経女性に対して、フルオキシメステロン10mgを1日2回投与したところ、歩行困難がみられました。その3か月後には重度の下肢運動失調により入院となっています。

他のアナボリックステロイドには報告されていない非常に特殊な副作用ではありますが、注意が必要でしょう。

 

6.ニキビ

フルオキシメステロンを含むアナボリックステロイドの副作用の中で、ニキビは頻度が高いことで有名です。

アナボリックステロイドは男性ホルモンに類似した構造をもつため、体内のホルモンバランスを崩してしまいます。そのため、肌のコンディションに影響を与えるのです。

2000年におこなわれたシドニーセントジョージ病院医学部のアンケート調査によると、アナボリックステロイド使用者58名のうち43%は、ニキビができると回答しています出典[15]

フルオキシメステロンも同様に男性ホルモンに類似した構造をもつため、理論上はニキビも起こりやすいといえるでしょう。

 

7.脱毛

結論からいうと、フルオキシメステロンと抜け毛の関係は不明です。

筆者が独自に文献を調査したところ、フルオキシメステロンと抜け毛について直接の関連性を示した症例や文献はありませんでした。

ただし、フルオキシメステロンのもつアンドロゲン作用は、頭髪の脱毛を引き起こすことがわかっています。AGA(男性型脱毛)は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロンが毛髪を作る細胞に作用することで起こります出典[16]

アナボリックステロイドであるフルオキシメステロンは、理論上抜け毛のリスクとなるのではと考えられています。

 

フルオキシメステロンはアナボリック作用を持たない(まとめ)

フルオキシメステロンは、男性ホルモンと類似した化学構造をもつたんぱく質同化ホルモン剤のひとつ。たんぱく質同化ホルモン剤は、アナボリックステロイドとも呼ばれています。

アナボリックステロイドは、筋肉増強作用・脂肪減少作用をもつことから、ボディービルダーやアスリートなどが乱用し規制されている一面もあります。

フルオキシメステロンの副作用はさまざまで、身体の重要な臓器である脳や心臓、肝臓にもダメージを与えることがわかっています。

フルオキシメステロンをサプリメント感覚で使用するのは危険だといえるでしょう。

近年では「テストステロンブースター」とよばれる安全性が高く、筋力増強効果が見込めるサプリメントが開発されています。

筋肉を増強したい方、スポーツパフォーマンスを向上したい方は、アナボリックステロイドを安易に使用するのではなく、安全性の高い方法を模索してみてはいかがでしょうか。

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