執筆者
管理栄養士/分子栄養学カウンセラー
岡かな
大阪市立大学食品栄養科、大学院修士課程修了。医療機関に勤務し、糖尿病や高血圧など生活習慣病の栄養管理に取り組む。その後はヘルスケア事業に移り、年間500人以上のダイエットをサポートする。現在はダイエットサポートの他、特定保健指導や健康に関わる分野の執筆も行っている。誤った情報で10キロ以上リバウンドした自分自身の経験から、科学的根拠に基づく正しい情報の発信を心掛けている。
男性妊活と亜鉛の関係とは?
「妊活」と聞くと女性が頑張るイメージが強いかもしれませんが、子どもを授かるなら男性も妊活が大切。
というのも、不妊の原因が男性にある割合は約25~45%を占めると推定されているんです出典[1]。
そこで、まずは男性の妊活に重要な栄養素である亜鉛の効果について見ていきましょう。
亜鉛不足の解消でテストステロンを高める
自然妊娠のために重要なホルモンと言えば、テストステロンです。
テストステロンは男性ホルモンの代表格で、性欲や性機能を高めて自然妊娠に必要な性行為をスムーズにする役割があります。
実際にテストステロンと性欲の関係を調べた実験では、31人の男性に対して毎週200mgのテストステロン注射を8週間実施したところ、性的意識と興奮性のスコアの増加が確認されているんです出典[2]。
つまりテストステロン量が多いほど性欲も高まるわけですね。
それでは、テストステロンと亜鉛にどのような関係があるのでしょうか?
亜鉛にはテストステロンを分泌させるためのシグナルを支える役割があることが分かっているんです。
テストステロンの減少を感知すると、脳の視床下部から下垂体へ、下垂体から精巣へと、テストステロン分泌の指示が出されます。
このうち亜鉛の役割は、下垂体から精巣へ指示を出すはたらきがある「黄体形成ホルモン」の合成をサポートすること出典[3]。
実際に、亜鉛不足が見られる透析患者を対象に亜鉛補給を6週間続けたところ、血中亜鉛濃度の改善とともに、黄体形成ホルモンが約3.25倍、テストステロンが約1.89倍に増加したと報告されているんです出典[4]。
要するに、亜鉛を摂取すれば体内のテストステロン量が高まり、結果として自然妊娠に重要な男性の性欲や性機能も向上するでしょう。
亜鉛は精子形成をサポートする
さらに亜鉛は、精子の質にも影響を与えることが報告されています。
そのメカニズムのひとつとして、亜鉛摂取で増加するテストステロンが精子の形成にも関与しているということ。
テストステロンは、精子の運動性や正常な形態の維持など、精子の質において重要な役割を担っていると考えられています。
実際に、不妊症の男性37名を対象に亜鉛補給療法を行った研究においては、試験前の血清テストステロン値が低い(4.8ng/ml未満)グループにおいて、亜鉛の投与後に精子数や血清テストステロン値が増加したことがわかりました出典[5]。
つまり、テストステロン値が低い人が亜鉛を摂取することで、テストステロン値と精子の量を増加させることができると言えますね。
さらに、亜鉛単体でみても、亜鉛が精子の形成に関わることがわかっています。
亜鉛は、精子の細胞膜や核の安定化、生理機能に重要な役割を果たしています出典[3]。
よって亜鉛濃度が低下すると精液の質が低下し、受精の可能性も低下することが示されているんです出典[1]。
このように、牡蠣に豊富に含まれている亜鉛は精子の質や量に関与する栄養素と言えるでしょう。
抗酸化能力を高めて精巣を保護する
活性酸素が体に与える影響である「酸化ストレス」というワードを聞いたことがある人も多いでしょう。
精巣が酸化ストレスによるダメージを受けると、精巣の細胞であるライディッヒ細胞が傷つき、テストステロンの合成効率や性機能が落ちてしまいます。
亜鉛は抗酸化物質でもあるため、活性酸素を除去することで精巣を保護します。
そのため亜鉛が不足すると活性酸素を除去できず、テストステロンや精子の合成効率が低下する可能性があるんです。
実際に、ラットに亜鉛の濃度を変えた食事を与え精巣の酸化ストレスを観察した研究では、栄養不足と亜鉛欠乏の両方が起こると、精巣で酸化ストレス状態が発生することが明らかになりました出典[6]。
亜鉛の不足を解消できれば、酸化ストレスの発生を抑えやすくなるでしょう。
実際に人を対象とした研究でも、亜鉛補給により酸化ストレスや炎症性サイトカインが減少したことが示されています出典[7]。
亜鉛の摂取により酸化ストレスから精巣が保護されることで、妊活にプラスに働きそうですね。
亜鉛不足によりEDのリスクが高まる可能性も
亜鉛が不足すると勃起不全(ED)のリスクが高まる可能性もあります。
じつは、亜鉛の不足とEDには関連があることが示されているんです。
2001~2004年の国民健康栄養調査の結果をもとに3,745人のミネラル摂取とEDの有病率を調べた報告が、2022年にアメリカで発表されました。
その結果、40歳以上の男性において、ED患者はEDでない人よりも食事からの亜鉛摂取量が有意に低いことが示されたんです出典[8]。
亜鉛は抗酸化作用があるため、血中脂質のバランスを整え、アテローム性動脈硬化症や内皮損傷の予防に役立つ可能性が示唆されています。
血管の健康が保たれれば、血流が改善され勃起力向上にも繋がるでしょう。
実際にマウスを用いた実験では、亜鉛欠乏食でコレステロールや中性脂肪が増加しますが、亜鉛の補給により改善したことが明らかになりました出典[9]。
亜鉛の補給により血液がサラサラになり、結果的に勃起力向上に結びつきそうですね。
亜鉛の効果的な摂り方とは?
亜鉛は具体的にどんな食品に含まれ、どれくらいの量を摂取すれば良いのでしょうか?
ここからは妊活に効果的な亜鉛の摂取量や亜鉛が豊富な食品、サプリメント活用時の注意点などを解説していきます。
亜鉛が豊富な食品を活用
亜鉛が豊富な食材として”牡蠣”を知っている人も多いでしょう。
牡蠣(水煮)には100gあたり18mgの亜鉛が含まれます出典[10]。
ちなみに、男性18~74歳の亜鉛の推奨量は11mg出典[11]。
牡蠣大きめの1粒は約20gなので、3粒で1日の推奨量を摂ることができますよ。
そのほか、豚レバー生100gあたりには6.9mg、牛もも赤身肉100gには5.1mg、うなぎの蒲焼100gには2.7mgの亜鉛が含まれています出典[10]。
じつは亜鉛は、魚介類、肉類、種実類などに比較的多く含まれますが、野菜や果物にはあまり含まれません。
亜鉛は不足しやすい栄養素なので、亜鉛を豊富に含む食品を確認して意識的に取り入れましょう。
【亜鉛を豊富に含む食品とその含有量出典[10]】
食品 |
亜鉛含有量(mg/100g) | おおよそ1食あたりの摂取量 | |
単位(重量) | 亜鉛含有量(mg) | ||
牡蠣(水煮) | 18 | 大3粒(60g) | 10.8 |
豚レバー | 6.9 | 1食分(70g) | 4.8 |
牛もも赤身肉(生) | 5.1 | 1食分(70g) | 3.6 |
うなぎ(かば焼) | 2.7 | 1/2尾(80g) | 2.2 |
かたくちいわし 田作り | 7.9 | 5尾(10g) | 0.8 |
納豆(糸引き) | 1.9 | 1パック(40g) | 0.8 |
カシューナッツ(フライ) | 5.4 | 10粒(15g) | 0.8 |
アーモンド(いり) | 3.7 | 10粒(15g) | 0.6 |
卵(生) | 1.1 | 1個(50g) | 0.6 |
プロセスチーズ | 3.2 | 1切れ(20g) | 0.6 |
油揚げ | 2.5 | 1/3枚(20g) | 0.5 |
サプリメントは継続摂取が基本
食材から亜鉛を摂るのが難しいときはサプリメントもおすすめです。
サプリメントであれば、手軽に亜鉛を摂取することができますね。
ただし、亜鉛サプリメントを2~3日摂取しただけでは効果を得ることはできません。
テストステロンや精子数の改善効果は、数か月に及ぶ亜鉛の継続摂取が必要であるという結果が多数報告されているからです。
例えば、軽度の亜鉛欠乏症の高齢男性に亜鉛を補給したところ、血清テストステロンが約2倍に増加したと報告する研究があります出典[11]。
この研究では6ヶ月間、亜鉛が継続摂取されました出典[11]。
また、亜鉛制限により低下した精子数が亜鉛補給により正常に戻るまでに6~12か月かかるという報告もあります出典[12]。
このように、亜鉛摂取による効果は時間がかかるため、根気よく摂取を続ける必要があるんです。
サプリメントは手軽であることがメリットですが、手軽である故に忘れてしまう人も多いでしょう。
飲むタイミングを決めたりアラームをかけるなど、飲み忘れしない工夫をしてみてくださいね。
吸収率を左右する食品をチェック
私たちが摂取した亜鉛は小腸で吸収されますが、その吸収率は約30%といわれています出典[13]。
ただし、亜鉛の吸収率は一緒に摂取する栄養素によって左右されます。
亜鉛の吸収率を上げる栄養素は以下の通り。
<亜鉛の吸収を助ける成分出典[13]>
- 動物性たんぱく質
- クエン酸
クエン酸は、亜鉛をコーティングすることにより亜鉛の吸収率を上げるとされています。
また、クエン酸の働きをサポートするビタミンCも亜鉛の吸収を助けると言われることもありますが、正確なことはわかっていません。
亜鉛と共にビタミンCを投与しても亜鉛の吸収率が高まらなかったという研究結果出典[14]もあるため、一概にビタミンCで亜鉛の吸収率が高まるとは言えないでしょう。
続いて、亜鉛の吸収率を下げる成分はこちら。
<亜鉛の吸収を妨げる成分出典[13]>
- フィチン酸
- タンニン
- 多すぎる食物繊維
- 多すぎるカフェイン
フィチン酸は、玄米や小麦などの穀類、豆類などに多く含まれている抗酸化物質。
タンニンはポリフェノールの一種で、赤ワインや茶葉、コーヒーなどに含まれる渋み成分です。
フィチン酸もタンニンも、抗酸化作用があるため健康にプラスに働くことも多いですが、亜鉛の吸収を阻害してしまう成分でもあります。
また、食物繊維やカフェインについても、ダイエット効果など私たちにメリットをもたらしてくれますが、多すぎると亜鉛の吸収を阻害してしまうんです。
お茶やコーヒーで亜鉛サプリメントを飲まない、玄米や豆類を食べるときには亜鉛サプリメントの摂取タイミングをずらす、などが対策として役立つでしょう。
過剰摂取はNG
じつは、亜鉛の摂取量が多いほど男性機能向上や妊活の効果を得られるわけではないんです。
あくまで亜鉛は不足することが問題となる”必須栄養素”の一つ。
というのも、亜鉛の摂取によりテストステロンの向上が認められた試験では亜鉛が不足している人を対象にした物ばかりなんです。
例えば、不妊症の男性37人を対象に亜鉛補給療法を行った臨床試験では、亜鉛補給後の精子数やテストステロンの増加は、試験前の血清テストステロン値が低い人(4.8ng/ml未満)のみに見られ、テストステロン値が高い人には効果がなかったことがわかっています出典[15]。
このように、男性機能向上においては亜鉛の”不足”が問題であり、摂取量を増やすほど良いとは言えないんです。
亜鉛が十分に充足している人は、亜鉛以外の方法でテストステロンや精子を改善する必要があるでしょう。
亜鉛以外の栄養素が不足していないか、睡眠や運動、ストレスなどの生活習慣で改善できるところはないかを考えてみてくださいね。
効果的な亜鉛の摂取で妊活を効率的に
亜鉛は、テストステロンの合成を促すホルモンである黄体形成ホルモンの合成に必要不可欠な栄養素です。
亜鉛の摂取により、テストステロンの向上、精子形成のサポート、精巣の保護、EDリスクの低下など男性の妊活に効果を発揮するでしょう。
亜鉛は、牡蠣や豚レバー、牛もも肉、うなぎの蒲焼などに豊富に含まれています。
また、卵やチーズ、納豆、油揚げ、ナッツ類などを組み合わせて不足しがちな亜鉛を補給しましょう。
サプリメントで摂取する場合は、コーヒーや緑茶などカフェインやタンニンが入った飲み物で摂取しないように注意してくださいね。
出典
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