執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
精力増強に役立つタコの成分
精力とは、疲れを取ったりエネルギッシュになったりといった、元気がみなぎる力のこと。精力を増やしたいと考える方は多いのではないでしょうか。
とくに男性の性機能や性欲の向上を期待する場合、男性ホルモンのテストステロンに特化した効果の高いものがよく注目されています。テストステロンの低下を防いだりブーストしたりする作用が得られれば、性機能や性欲の向上にもつながりそうですね。
ただ残念ながら、タコと性欲や性機能との関係を示した学術的論文はほぼ存在していません。そのため本記事ではタコに豊富な成分に注目し、精力増強との関係について解説します。
タウリン:疲労回復や血流改善に役立つ
タコに含まれるアミノ酸の一種、タウリンに期待できるのは疲労や血流に関する効果です。疲労の軽減や回復は活力の増大につながるほか、血流の改善は勃起力を高めるために役立つでしょう。
疲労軽減効果はマウスやヒトを対象とした研究において確認されています。
たとえばマウスがタウリンを摂取すると、より長い時間のランニングが可能になることが確認されています出典[1]。またヒトの肝硬変の筋肉痛によるけいれんが、4週間にわたる3gのタウリン投与により、70%の患者で改善されたことも報告されているのです出典[2]。
血流改善においては、タウリンの血管を保護する力に注目すべきでしょう。タウリンは抗酸化物質として機能する一面があり、血管内皮細胞の酸化ストレスや細胞死を防ぐように働きます出典[3]。
さらに血管を拡張させるように働く物質「一酸化窒素(NO)」の生成を増やす効果も確認されています出典[4]。タウリンの血管機能を維持する力はかなり高いと言えそうですね。
実際にヒトを対象とした研究では、血管機能の低下が見られる若いⅠ型糖尿病患者へのタウリン補給により、動脈硬化度、および血管拡張機能を測定するFMD検査の値が正常レベルまで回復したと報告されています出典[5]。
タウリンを豊富に含む食品は、血管障害を含むさまざまな疾患を予防してアンチエイジング効果を発揮するとの報告もあります出典[6]。若々しい活力と性機能を維持するため、タウリンが豊富なタコが役立つかもしれません。
亜鉛やセレン:テストステロンの合成を促す
タコからは亜鉛やセレンといったミネラルも摂取できます。これらのミネラルは男性ホルモンのテストステロンを増やす働きに欠かせないもの。タコの摂取で不足を補えば、テストステロンによる性欲や性機能の向上効果をより感じられるかもしれません。
テストステロンは脳の視床下部や下垂体から分泌されるさまざまなホルモンにより、分泌量がコントロールされています。テストステロンが減少すると、脳の視床下部から下垂体へ、そして下垂体から精巣へと指示が出され、テストステロンを増やすように働きかけるのです。
このうち亜鉛やセレンには下垂体から分泌される「黄体形成ホルモン(LH)」の合成をサポートする作用があります出典[7]。
たとえば12人の不妊男性が1日50μgのセレンを3か月間摂取すると、卵胞刺激ホルモン(FHS)が33%、LHが32.9%、テストステロンが23.5%増加したとの結果が得られました出典[8]。
また亜鉛不足の透析患者に亜鉛補給を6週間続けたところ、血中亜鉛濃度の改善とともに、LHが約3.25倍、テストステロンが約1.89倍に増加したとも報告されています出典[9]。
さらにタウリンにも、脳下垂体に直接作用してLHの分泌を調節する作用が確認されています出典[10]。テストステロンを増やす指示を出しやすくするため、タコはうってつけの食べ物と言えそうですね。
マグネシウム:テストステロンの活性を維持する
タコのような海産物からはマグネシウムの摂取も可能です。マグネシウムには、亜鉛やセレン、タウリンとはまた別のメカニズムで、性欲や性機能を高める効果が期待できるのです。
マグネシウムの効果はズバリ「遊離テストステロン」の割合を増やすこと。体内のテストステロンの98~99%は、ほかのたんぱく質と結合した「結合テストステロン」の形で存在しており、遊離テストステロンの割合は僅か1~2%しかありません。
しかしこの遊離テストステロンこそが、やる気や活力、性欲や性機能を高めるために機能する重要物質。精力増強をねらうには、遊離テストステロンの割合をなるべく多くする必要があるのです。
マグネシウムは結合テストステロンのうち、性ホルモン結合ブロブリン(SHBG)との結びつきをブロックするように働きます出典[7]。結合テストステロンが減ると相対的に遊離テストステロンの割合が増えるため、テストステロンによる恩恵をより受けやすくなりそうですね。
実際に2011年にトルコのセルチュク大学から発表された論文では、若い男性が持久力トレーニングとマグネシウム補給を4週間続けたところ、総テストステロンの12%増加に加え、遊離テストステロンも13%増加したと報告されています出典[11]。
加齢にともないSHBGは増加するため遊離テストステロンの割合は下がり、テストステロンの活性も低下しがちです出典[12]。マグネシウムを摂れるタコのような食品で、性欲や性機能の低下を防ぎましょう。
ビタミンE:高い抗酸化能力で精巣や血管を保護
タコからはビタミンEのような抗酸化能力の高い物質を摂取できます。これまで紹介してきたタウリンやセレン、マグネシウムも抗酸化物質として機能するため、タコによる抗酸化効果はかなりのものと言えそうですね。
抗酸化物質は、テストステロンの合成場所である精巣や、勃起力の維持に重要な血管を保護するように働きます。
とくに精巣は細胞分裂速度や酸素の消費速度が非常に速いため、活性酸素を発生しやすい性質があります。さらに精巣では酸化されやすい不飽和脂肪酸の割合がほかの組織よりも多いため、酸化ストレスの影響を受けやすいと言えるでしょう出典[13]。
抗酸化物質による酸化や炎症を抑える効果が確認できる論文には次のようなものがあります。
成分 | 効果 |
ビタミンE | LDLコレステロールの酸化を防ぐ出典[14] |
タウリン | 細胞内の抗酸化活性を高めることで活性酸素の生成を抑制出典[3] |
マグネシウム | 摂取量の増加により炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)が減少出典[15] |
セレン | 米由来のセレンたんぱく質によりマウスの抗酸化能力が向上出典[16] |
タコから摂取できる栄養素には、このように多様な抗酸化作用が確認されています。精巣や血管を若々しく保つため、タコ由来の抗酸化物質が役立つかもしれません。
鉄:貧血予防で体の怠さを解消
筋力が落ちてきた気がする、最近とくに疲れやすい、といった悩みを抱えていませんか?
倦怠感や疲労感の原因はさまざまですが、そのひとつとして貧血が考えられます。筋肉の低下や疲労を感じやすい貧血を抱えた状態では、精力増強も困難になるでしょう。
貧血は加齢や糖尿病、脂質異常症とともに、勃起不全(ED)との関連が認められており、テストステロンの減少にも関係していると言われています出典[17]。
たとえば貧血のひとつである鎌状赤血球症の男性では、貧血症状のない男性と比べてEDの割合が2倍以上に及ぶとの報告もあります出典[18]。
慢性的な貧血は筋力の低下や疲労感にもつながるため、性交渉時の体力を維持しづらくなるほか、スムーズに勃起できなくなる可能性も。
タコのような動物性食品の鉄分は「ヘム鉄」と呼ばれ、植物性食品由来の「非ヘム鉄」よりも吸収率が高いことで知られています。良質な鉄分の補給手段としてもタコは活躍できそうですね。
タコの効果的な食べ方とは?
このように、タコには精力増強に役立つさまざまな成分が含まれています。活力を高めたい方、性欲や性機能を向上させたりしたい方には、タコの摂取が役立つかもしれません。
ここからは精力を高める目的でタコを食べる際のポイントについて解説します。
生タコの刺身で効率よくタウリン補給
タウリンは水溶性であるため、茹で調理で溶け出る可能性があります。しかしスーパーで売られているタコや、一般的な寿司で食べるタコは茹で調理されたもの。もちろんタウリンのすべてが失われるわけではありませんが、成分の流出がある点は覚えておきたいですね。
タウリンを効率よく食べる方法として「生タコ」がおすすめです。ぬめり取りや皮取りの手間がかかりますが、茹でたタコとは異なる食感を楽しめるでしょう。
新鮮な海鮮を扱う店では生タコの刺身が取り扱われている場合もあります。外食先で見かけたら積極的に注文してみましょう。
ただしタコは茹で調理により味が濃縮して旨みが増す側面があるため、生タコの刺身はやや淡泊な味わいとなり、物足りなさを感じる場合があるかもしれません。だし醤油や刺身のつまなどを活用して風味を強化すると楽しみやすくなるでしょう。
唐揚げや天ぷらの食べ過ぎに注意
回転寿司のチェーン店や居酒屋では、タコの唐揚げや天ぷらが売られている場合もあります。揚げ調理されたタコはジューシーでおいしいものですが、精力増強を目的とする場合には避けるべきでしょう。
タコは低脂質低カロリーな食品であり、太るリスクが少ない点においても優秀な食品。しかし揚げ調理では脂質量が増加するため、タコのメリットが損なわれてしまいます。
肥満はテストステロンを低下させる危険因子。増えすぎた脂肪組織が炎症を起こすと、テストステロンをエストロゲンに変換する酵素「アロマターゼ」や、細胞にダメージを与える「炎症性サイトカイン」が増えてしまうのです出典[19]。
またテストステロンの低下自体が肥満のリスクにもなるため、体重増加とテストステロンの減少で悪循環に陥ることも。
精力を高めるためには、適切な体重を維持することも重要。優秀な食品であるタコを低カロリーで食べるためにも、刺身やしゃぶしゃぶ、酢の物などで楽しむようにしましょう。
ほかの魚介類とあわせた摂取もおすすめ
タコからは精力に役立つさまざまな成分を摂取できますが、ほかの魚介類との組み合わせでより高い効果が期待できる可能性があります。
たとえば亜鉛を効率よく摂りたい場合には牡蠣がおすすめ。牡蠣の亜鉛含有量はすべての食品の中でもダントツであり、大粒の牡蠣3~4粒で1日の摂取推奨量を満たせてしまうほど。
また牡蠣はタウリンの摂取源としても効率的です。タコの遊離アミノ酸中のタウリン割合は約39.84%ですが出典[20]、牡蠣のアミノ酸のタウリン割合は約80%におよぶとの報告もあります出典[21]。
魚類ではサーモンがおすすめです。サーモンからは抗酸化物質として機能するω‐3系脂肪酸やアスタキサンチンのほか、ビタミンDを効率よく摂取できます。
ビタミンDはテストステロンの増加と密接に関係する栄養素。
性腺機能低下症が見られる高齢男性114名へのビタミンD補給により、総テストステロンが約15%、遊離テストステロンが約19%増加したほか、国際勃起機能指数(IIEF)における勃起機能にも改善が見られたとのデータも存在します出典[22]。
タコに偏りすぎず、これらの魚介類を摂る機会も積極的に設けるとよいでしょう。さまざまな魚介類を食べられる海鮮丼や刺身の盛り合わせなどがとくにおすすめです。
合わせて読みたい:ムラムラ大爆発!男性の性欲を高める方法15選
まとめ
タコからはタウリンや亜鉛、マグネシウムなど、精力増強に役立つ成分を複数摂取できます。疲労の軽減や回復により疲れがちな体を元気にする効果のほか、テストステロンの減少を防いで性欲や性機能を高める効果も期待できます。加齢による活力や性欲、性機能の低下に悩んでいる方は、ぜひ日頃の食卓にタコを取り入れてみましょう。
タコを食べる際には食べ方にも注意が必要です。高カロリーな天ぷらや唐揚げの食べすぎは肥満のリスクを高め、テストステロンの落ち込みを招くことも。低脂質かつ低カロリーのタコは刺身やしゃぶしゃぶなど、ノンオイルで食べられる料理がおすすめです。
牡蠣やサーモンのようなほかの魚介類も適宜取り入れ、エネルギッシュな体づくりに役立てましょう。
出典
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