執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
男性の更年期はテストステロンの低下が原因
更年期におけるホルモンバランスの乱れは、女性のみならず男性にも生じるものです。この不調は「更年期障害」と呼ばれ、男性ではとくに40歳以降にリスクが高まるとされています。
男性の更年期障害で減少するホルモンは、男性ホルモンのテストステロン。やる気や活力を高めたり、筋肉の合成効率を高めたり、性機能や性欲を維持したりといった、男性のたくましさや精力に関わるホルモンです。
テストステロンの急激な減少は、次のような不調の原因となる場合があります出典[1]。
身体の変化 | 筋肉量と筋力の低下、体脂肪の増加、骨量の減少 |
精神状態の変 | 落ち込み、不安感、怒り、神経過敏、抑うつ状態 |
性機能の変化 | 性欲の低下、勃起能力の低下 |
更年期障害の予防や改善のためには、テストステロンの低下を防ぐことが重要。臨床現場では「テストステロン補充療法」での治療がおこなわれることが多いようです。
しかしテストステロン補充療法には、肝機能障害や前立腺疾患、多血症などの副作用も確認されているため出典[2]、治療に踏み切れない方も少なくありません。
そこで注目されているのが、生活習慣の改善により、テストステロンの低下を防ぐ方法です。暴飲暴食を控えたり、適度な運動をしたり、十分な睡眠を取ったりといった生活習慣の改善により、更年期の辛い症状を軽減する効果が期待できるでしょう。
男性更年期の改善に役立つ飲み物6選
更年期障害を改善するための生活習慣のなかでも、食生活の改善はテストステロンの減少を食い止めるためにとくに重要です。
食事からの改善をはかることも重要ですが、飲み物を活用するとより手軽に更年期障害の改善効果が期待できるでしょう。
ここからは男性更年期の改善に役立つ飲み物として、テストステロンの減少を防ぐように働くものや、研究によりテストステロンの増大が確認されているものを紹介します。
緑茶
更年期の改善には、手に入りやすく飲みやすい緑茶がおすすめ。緑茶から摂取できるエピカテキンやエピガロカテキンガレートなどのカテキン類には、テストステロンの減少を防ぐさまざまな効果が期待できるのです。
緑茶のテストステロンに関係する効果は、ヒトや動物を対象とした実験において複数確認されています。
【緑茶に確認できたテストステロンへの効果】
成分 | 効果 |
エピガロカテキンガレート | ・糖類を分解する酵素「α-グルコシダーゼ」の働きを抑えて血糖値の上昇を緩やかにする出典[3] ・酸化LDLによる血管内皮へのダメージを減らす出典[4] |
エピガロカテキン | テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換に必要となる酵素「5α-リダクターゼ」を阻害する出典[5] |
エピカテキン | ステロイドホルモンの合成に関わる酵素の活性を高め、テストステロン合成を高める出典[6] |
茶カテキン全般 | エネルギー消費を増やす |
カフェイン | 茶カテキンとの同時摂取により代謝をより高める出典[7] |
エピガロカテキンガレートには主に酸化ストレスを軽減する効果が確認されています。血糖値の急上昇や酸化LDLの発生を抑えることで、酸化ストレスに弱い精巣を保護し、テストステロンの合成能力を保つ効果が期待できるでしょう。
DHTへの変換を抑えるエピガロカテキンの効果は、テストステロンの量を維持することに加え、DHTの過剰生成によるニキビや脱毛を防ぐためにも重要です。
また茶カテキン全般とカフェインの相乗効果でエネルギー消費が増えれば、肥満の改善効果も期待できます。肥満はテストステロンを下げる危険因子であるため、緑茶により減量効率が上がれば更年期症状も効率よく軽減できそうですね。
紅茶
緑茶の渋みが苦手な方には、紅茶の活用もおすすめです。紅茶に含まれているのはカテキンではなく、カテキンが発酵したテアフラビンやテアルビジン。これらは強力な抗酸化物質として機能し、酸化ストレスによる体へのダメージを軽減するように働きます。
とくにテストステロンの合成場所である精巣は、細胞分裂や酸素消費のペースが非常に早く、活性酸素が発生しやすい組織です。さらに酸化されやすい不飽和脂肪酸の濃度がほかの組織より高いため、酸化ストレスの影響を受けやすい場所であるとも言えるでしょう出典[8]。
紅茶由来の成分による精巣への保護効果は、複数の動物実験にて確認されています。
たとえばラットの紅茶摂取では、52日間の継続で精子の生命力が44%~49%、精子の運動性が10%~12%、先体反応が2%~9%高まり、精子の質が全体的に向上したとの結果が得られました出典[9]。
またカドミウム毒性により生じたラットの精巣損傷が、5週間にわたるテアフラビンの投与で軽減され、血清テストステロン濃度の上昇、精子の質やDNA損傷の改善、酸化ストレスのマーカーであるマロンジアルデヒド(MDA)の生成抑制などが見られたとのデータも存在します出典[10]。
さらにマウスの紅茶摂取では、高脂肪食によるテストステロンの減少や、体内の抗酸化物質の減少、MDAの増加などを抑えるように働きました。さらに体重増加を抑える働きは緑茶よりも紅茶の摂取で高く見られています出典[11]。
酸化ストレスや肥満によるテストステロンの減少を防ぐため、紅茶の摂取が役立つかもしれません。
トマトジュース
トマトジュースはトマト由来のリコピンとβカロテンを効率よく摂取できるドリンクです。いずれも強力な抗酸化物質として機能するため、精巣を保護してテストステロン合成能力を保つ効果が期待できるでしょう。
リコピンには食欲を抑制し、かつ血糖値の上昇を防ぐように働くホルモン「レプチン」の分泌を増やす効果も確認されています出典[12]。
血糖値の急上昇を防ぐことはテストステロンにおいて非常に重要。男性が75g経口ブドウ糖負荷試験を受けたところ、血糖値の急上昇にともないテストステロンの濃度が平均で25%低下したとのデータもあるほどです出典[13]。
食前にトマトジュースを取り入れることで、食後高血糖によるテストステロンの低下を防ぎやすくなるでしょう。
性機能への影響については、リコピンの摂取量と勃起力との関係が調査されています。3265名の米国男性を対照とした調査により、リコピン摂取量が少ないほど、勃起不全(ED)のリスクが高まることが明らかになりました出典[14]。
リコピンやβカロテンは加熱により吸収率が高まる成分です。生の摂取よりも、加熱したトマトジュースの方が抗酸化物質の摂取には効率的。砂糖や食塩で味を整えたものは避け、無添加のものを食前に取り入れてテストステロンや性機能の維持に役立てましょう。
ジンジャーティー
ジンジャーティーは紅茶にショウガのすりおろしを加えることで簡単に作成できます。紅茶とショウガのダブル効果を得られるため、男性更年期の症状改善にはとくにおすすめです。
ショウガには食後高血糖や肥満を改善する効果や、体内の抗酸化酵素の活性を高める効果が確認されています。
たとえば糖尿病モデルマウスにショウガ抽出物を19日間与えた実験では、グルコース摂取後60分後の血糖値が約30%低下していました出典[15]。
ヒトを対照とした実験26件の分析では、ショウガの摂取によりBMIが平均0.49、中性脂肪が12.54mg/dL、LDLコレステロールが5.14mg/dL減少し、1日1.5g以上かつ8週間以上の継続摂取でより高い効果が見られたと報告されています出典[16]。
テストステロンの増加も臨床試験にて確認されています。不妊の問題がある男性がショウガを3か月摂取することで、血中のテストステロン濃度が最大で17.7%、精子数が16.2%、精子運動率が47.3%、射精量が36.1%増加したとの結果が得られました出典[17]
テストステロンを落とさない体づくりのサポートに加え、性機能の向上効果を強く期待できそうですね。
ザクロジュース
ザクロジュースも男性更年期の改善にはおすすめ。ザクロからは抗酸化ビタミンであるビタミンCに加え、強力な抗酸化物質として知られる「プニカラギン」も摂取できます。精巣への酸化ストレスを抑えて、テストステロンの合成能力を保護する効果が期待できるでしょう。
ザクロジュースとテストステロンの関係については、2012年にイギリスのクイーン・マーガレット大学から発表された論文にて示されています。
60名の男女が14日間ザクロジュースを摂取したところ、唾液中のテストステロンが平均して約24%増加しました。さらに気分の改善や不安の軽減などの効果も確認できたことから、更年期症状のひとつである精神面への影響を和らげる効果も期待できる可能性がありますね出典[18]。
ただ残念ながら、ザクロはイランやトルコのような中近東で栽培が盛んな果物であり、国産のザクロは非常に希少です。継続して飲むことを考える場合、ザクロそのものではなくザクロジュースの活用をおすすめします。
ただし砂糖が添加されているものは血糖値の急上昇を招きやすく、血糖値スパイクにより酸化ストレスを生じやすい点に注意が必要です。酸化ストレスを守るためのジュースで酸化ストレスを生んでしまっては本末転倒。ザクロジュースは砂糖の添加されていないストレートのものを選びましょう。
赤ワイン
赤ワインも同じく、ポリフェノールによる抗酸化作用が期待できる飲み物です。酸化ストレスから精巣を保護する効果が期待できることに加え、赤ワイン由来のポリフェノールにはもう一つ、テストステロンに嬉しい効果があります。
赤ワイン由来の「レズベラトロール」には、なんとテストステロンからエストロゲンへの変換を防ぐ効果が確認されています。テストステロンからエストロゲンへの変換を促す酵素「アロマターゼ」の働きを抑えるように作用するため、テストステロンの減少をより防ぎやすくなるのです。
レズベラトロールの活性の強さは細胞実験において確認されています。2007年にポルトガルのコインブラ大学から発表された論文では、レズベラトロールを含むいくつかの天然ポリフェノール類が、抗アロマターゼ薬であるアミノグルテチミドと同程度の活性を持つことが確認されています出典[19]。
抗アロマターゼ薬は男性の更年期障害においても処方される場合があるため、テストステロンの減少を食い止める効果も確かなものと言えるでしょう。
ただしお酒の飲み過ぎはテストステロンを減少させる危険因子。赤ワインならどれだけ飲んでもよいとの考えではなく、お酒を飲みたいときのビールや日本酒からの置き換えとして、少量を楽しむよう心掛けたいものですね。
男性更年期の管理のため避けたい飲み物4選
男性更年期の改善においては、テストステロンの減少を食い止めるための飲み物を活用するとともに、テストステロンを減らしやすい飲み物を避けることも重要です。
ここからは男性更年期の管理のため、避けたい飲み物や量を調整したい飲み物について解説します。
清涼飲料水(砂糖入り飲料)
炭酸ジュースのような砂糖入り飲料全般は、テストステロンを下げるリスクが高いため控えることをおすすめします。
砂糖入り飲料は血糖値を急激に上げやすく、酸化ストレスを生じやすい点に注意が必要です。また血糖値の急上昇により分泌量が増えるホルモン「インスリン」は、血糖値を下げるために、血中の余分な糖を脂肪として体に蓄えるように働きかけます。
繰り返される血糖値スパイクは精巣にダメージを与えることに加え、肥満のリスクを高めることにもつながります。
増えた脂肪組織が炎症を起こすと、アロマターゼや炎症性サイトカインの分泌量が増加し、テストステロンを減らすように働くこともわかっています出典[20]。
また、アメリカの20~39歳の男性を対象とした調査では、砂糖入り飲料の摂取量が増えるほど、テストステロンの減少リスクが高まったとの報告も出典[21]。
砂糖以外の栄養素がほとんど含まれていない清涼飲料水は、更年期障害において悪影響でしかありません。テストステロンの減少に悩む方は、できる限り避けた方がよいでしょう。
アルコール飲料の飲み過ぎ
お酒はストレス解消に役立つ面があるものの、更年期障害の管理においてはデメリットの方が大きいため、摂取を控えるべきでしょう。
飲酒により想定される主な影響を確認してみましょう。
- 酸化ストレスの増大
エタノール代謝は活性酸素の生成を促します。またアルコール誘発性の酸化ストレスは体内の抗酸化活性を落とすため、精巣がダメージを受けやすくなるでしょう出典[22]。 - アロマターゼ活性の増大
アルコール性肝疾患の男性では、血中のエストロゲンレベルが高い場合があります。アルコールの大量摂取によりアロマターゼの活性が高まり、テストステロンからエストロゲンへの変換が促されるのです出典[23]。 - テストステロンの分泌シグナルを阻害する
テストステロンを分泌する指示を出す複数のホルモンの産生をアルコールが阻害する可能性が、複数の論文にて示されています出典[22]出典[24]。 - コルチゾールの上昇
大量飲酒はコルチゾールの分泌量を増やし、テストステロンの減少や筋肉の分解を招く可能性があります出典[25]。 - 糖質による高血糖
ビールや日本酒などの醸造酒には糖質が含まれるため血糖値を上げやすい性質があります。体脂肪合成を促すインスリンの分泌量が増えやすいため、肥満のリスクを高める点に注意が必要です。
これらの悪影響を防ぐため、飲酒量や頻度を抑える必要があるでしょう。
目安として、1週間あたり7単位(純アルコール換算で140g)未満の飲酒量であれば、性ホルモンや性機能への影響が生じにくいことがわかっています出典[24]。
【主なアルコール飲料の1日あたりの摂取量目安】
酒類 | アルコール度数 | 20gの目安量 |
ビール | 5% | 500ml(ロング缶1本) |
ワイン | 13% | 200ml(グラス1杯と少々) |
日本酒 | 15% | 170ml(1合弱) |
焼酎 | 25% | 100ml |
ウイスキー | 40% | 60ml |
適量の摂取で更年期障害への悪影響を防ぎましょう。
牛乳の飲み過ぎ
カルシウムや良質なたんぱく質の摂取源として優秀な牛乳ですが、2つの点で飲み過ぎには注意すべきです。
まず牛乳には飽和脂肪酸由来の脂質が多めに含まれており、コップ1杯(200mL)あたり約126kcalと決して低カロリーではありません。1日にコップ3杯も4杯も飲んでいると、カロリーや脂質の摂りすぎから肥満のリスクを高め、テストステロンを減らす可能性がある点に注意が必要です。
加えて牛乳にはエストロゲンが含まれており、テストステロンの働きを抑えるように機能する可能性が指摘されています。
実際に、男性7名、女性5名、児童6名が牛乳600mLを飲んだところ、血清中のテストステロンをはじめ、テストステロンの分泌に関わる黄体形成ホルモンや、精子の形成に関わる卵胞刺激ホルモンが有意に減少したとの結果が得られました出典[26]。
また、20~35歳の男性11名が牛乳1Lを飲んだところ、女性ホルモンの増加とともに、30分後に血中テストステロン値が5.14ng/mlから3.46ng/mlへ、さらに1時間後には3.25ng/mlへ減少したとも報告されています出典[27]。
牛乳に含まれるエストロゲンはごく少量で、テストステロンに影響を及ぼさないとする意見もあり出典[28]、牛乳が必ずしも悪いとは言い切れません。とはいえテストステロンが減少したケースが確認されている以上、飲み過ぎを避け、1日コップ1杯程度にしておいた方がよさそうですね。
豆乳の飲み過ぎ
牛乳に加え、豆乳の飲み過ぎにも注意が必要です。豆乳をはじめ、大豆製品に豊富なイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンに似た構造を持ち、女性ホルモンの機能をサポートするように働きます。
エストロゲンを増やす効果はないとされていますが、男性の大量摂取によりテストステロンに影響を生じる場合があるようです。
テストステロンとイソフラボンの関係について調査した論文では、イソフラボンを1日100mg以上摂取した8件の研究のうち、次の2件にテストステロンの減少が見られました出典[29]。
【大豆イソフラボンの摂取によりテストステロンの減少が見られたケース】
2003年、イギリス出典[30] | 2008年、アメリカ出典[31] | |
対象者 | 男性20名 | 男性20名 |
摂取量 | 1日120mg(スコーン) | 1日141mg(豆乳3杯) |
摂取期間 | 6週間 | 12か月 |
減少量 | 約5.7%(総テストステロン) | 約5.8%(遊離テストステロン) |
テストステロンに悪影響を及ぼさない研究の方が多いものの、減少例もあるため摂りすぎには注意した方がよいとも考えられるでしょう。
論文では、テストステロンへの影響リスクが少ないと判断できる摂取量として、1日に75mgまでとの数値が示されています出典[29]。
豆乳コップ1杯に含まれる大豆イソフラボンは約50mg出典[32]。摂りすぎを防ぐため、1日1杯までに留めておいた方がよいでしょう。
まとめ
男性の更年期障害においては、テストステロンの減少を防ぐことが重要。食生活の改善においては、精巣を保護する効果や、肥満を改善する効果の高いものを選ぶとよいでしょう。
緑茶や紅茶、トマトジュースにジンジャーティーからは、酸化ストレスから精巣を守る効果と肥満を改善する効果の両方を得られます。またザクロジュースや赤ワインから摂取できるポリフェノールにも、テストステロンの減少を抑える効果が期待できそうですね。
テストステロンを減らしやすい飲み物を避けたり、量を控えたりすることも重要です。清涼飲料水の摂取を避け、アルコールや牛乳、豆乳については量を増やしすぎないよう注意しましょう。
もちろん、更年期障害の管理には運動や睡眠、ストレス管理などさまざまな生活習慣の改善も必要です。飲み物選びは手軽にできる更年期障害対策として取り入れ、ほかの取り組みについても無理のない範囲で実施してみましょう。
出典
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