日本人の食生活においては、カルシウムやマグネシウムの不足が目立ち、亜鉛の重要性や不足のリスクは見落とされがち。しかし不規則な食事で亜鉛が不足すると、さまざまな不調を招く可能性がある点に注意しなければいけません。

亜鉛はカルシウムやマグネシウムと同じく、食事からの摂取が欠かせない必須ミネラルです。主に細胞の代謝に関係しており、免疫や創傷治癒、酵素の活性などをサポートしています。

亜鉛不足によるトラブルで有名なものに味覚障害がありますが、これは亜鉛不足により味覚の需要器官である味細胞の生成サイクルが滞ってしまうため。ほかにも免疫細胞の製造能力が落ちることで、風邪を引きやすくなるトラブルも考えられるでしょう。

また、亜鉛は男性ホルモンのテストステロンにも関係する栄養素。テストステロンの分泌を指示するホルモンを合成するためには亜鉛のサポートが必要なため、亜鉛が不足した状態ではテストステロンを十分に分泌できなくなるのです^出典[1]。

テストステロンは性欲や勃起力、精子の製造能力のほか、筋肥大の効率化ややる気の向上など、肉体面や精神面にも作用する非常に重要なホルモン。亜鉛を不足なく摂取してテストステロンの量を増やせれば、男性のコンディションをより高く維持できるでしょう。

ほかにも、亜鉛には筋合成や、運動後の筋修復に関与している可能性があることや^出典[2]、抗酸化力により酸化ストレスを減らし、心筋梗塞のような冠動脈疾患を予防するようにも働く可能性などが指摘されています^出典[3]。

亜鉛不足の解消は、運動や性機能面においてより高いパフォーマンスを発揮するために重要と言えそうですね。

男性機能のなかでも、とくに悩みが多いものとして勃起力があります。亜鉛不足の解消により勃起力が高まるのではと考え、亜鉛が多い食品を食べたり、亜鉛サプリを飲んだりすることを考える方もいるでしょう。

しかし亜鉛を摂れば必ずしも勃起力が改善できるわけではない点に注意が必要です。

確かに亜鉛の補給により体内の亜鉛不足を解消できれば、男性ホルモンのテストステロンは増加します。たとえば亜鉛不足の高齢男性に6か月間の亜鉛補給をおこなったケースでは、テストステロンが培近くまで増加していました^出典[4]。

テストステロンが増えることは勃起にもよい影響を及ぼすでしょう。しかし勃起力にはもうひとつ、血流という重要な要素があります。

興奮時に陰茎の血管が拡張し、そこへ大量の血液が一気に陰茎へと流れ込むことで、陰茎は大きく硬くなります。血管がしなやかに拡張でき、かつ血液がサラサラで流れやすい状態であれば、血流は良好に保たれ、よりスムーズに勃起できるようになるのです。

勃起力を高めるためには、テストステロンと血流の2点が重要。テストステロンは亜鉛不足の解消により回復できますが、血流は亜鉛補給のみでは不十分である場合もあるでしょう。

実際に、体内の亜鉛量が増えるほどテストステロンも増えるという相関関係がある一方で、勃起機能との相関が確認できなかったケースも存在します^出典[5]。亜鉛補給によるテストステロンの増加は、勃起の悩みを必ず解決する万能の方法ではなく、アプローチのひとつであることを覚えておきましょう。

ここでは、勃起力を高める目的で亜鉛サプリを摂ろうとしている方に向けた、3つの注意点をまとめています。

亜鉛サプリの摂り方によっては十分な効果を得られなくなる可能性があることを踏まえ、適切な方法で亜鉛サプリを効果的に活用しましょう。

効果の実感までには数か月単位での期間が必要

亜鉛サプリは、たとえば性行為の数時間前に飲むことで一気に勃起力を高められるというような、即効性のあるものではない点に注意が必要です。

そもそも、テストステロンを高めるとされるサプリメントは、テストステロンの分泌能力を高めてテストステロンを増やしやすくするように働きかけるもの。いずれも急激にテストステロンを増やせるものではありません。

医療としてのテストステロン補充療法ではテストステロンが急激に増えますが、代わりに前立腺疾患や多血症などの副作用のリスクが生じます^出典[6]。安全なサプリメントは、その分作用も緩やかであり、すぐに効果を得られるものではないことを覚えておきましょう。

たとえば亜鉛不足が見られた高齢者への亜鉛補給では、6か月後にテストステロンが増加していました^出典[4]。不妊症の糖尿病の男性への亜鉛補給では、64日後に精子の形態異常やDNA異常が軽減され、運動性にも改善が見られています^出典[7]。

また、テストステロンの減少を病態とする男性の性腺機能低下症において、治療として亜鉛を投与する場合、1～4か月の摂取が一般的とされています^出典[8]。

亜鉛によりテストステロンを増やして勃起力にアプローチするためには、数か月単位での継続摂取が必要と考えておきましょう。

すでに亜鉛が足りている方では効果を実感できない可能性も

実は亜鉛は、摂れば摂るほどにテストステロンを増やせるミネラルではありません。亜鉛補給によりテストステロンが増えるのは、亜鉛不足が続き、元あるはずのテストステロンの分泌能力が落ちているから。

100あった分泌能力が60に落ちている状態から、亜鉛補給により再び100に戻せるというだけで、元の分泌能力を超えるポテンシャルを発揮できるわけではない点に注意しましょう。

日本人の食事摂取基準（2025年版）では、亜鉛の推奨量が、20～29歳や65歳以上の男性で1日あたり9.0mg、30～64歳の男性で9.5mgと設定されています^出典[9]。

一方で、令和5年度の国民健康・栄養調査における亜鉛の平均摂取量は、20～69歳で9.1～9.4mgと、推奨量をおおむね満たしており^出典[10]、一般的な食事においては、亜鉛の深刻な不足は起こらないと考えられます。この場合、亜鉛を補給してもテストステロンを増やす効果は期待できないでしょう。

実際、1日あたり11.9～23.2mgの亜鉛を摂取できている20代の男性に亜鉛サプリを補給したケースでは、テストステロンの増大効果は確認できていませんでした^出典[11]。

しかし朝食を抜いたり、ジャンクフードばかり食べていたりと、偏った食生活を続けている場合には亜鉛の不足が起こりやすいため、油断は禁物。また、発汗でも亜鉛は失われるため、運動量の多い方や外での作業が多い方も亜鉛不足になりやすいと言えるでしょう。

一度自身の暮らしを見直して、亜鉛補給が本当に必要か考えてみましょう。

亜鉛の吸収率を下げる食べ合わせに注意

亜鉛サプリで亜鉛を摂る際には、食事や飲み物に含まれる栄養素の影響を考慮するとよいでしょう。亜鉛の吸収を妨げるような成分がいくつか明らかになっているため、飲み合わせを避けることで、より効率よく亜鉛を体内に取り込めます。

亜鉛の吸収率を下げる栄養素としてとくに注意したいのが、フィチン酸とタンニンです。

まずフィチン酸は、玄米やオートミールのような未精製の全粒穀物のほか、大豆のような豆類にも豊富に含まれる栄養素。亜鉛のような金属イオンの吸収を阻害する成分として知られています。

ナッツ類や豆類、野菜類、フルーツ、シリアルなど、さまざまな植物性食品における亜鉛とフィチン酸の量、および亜鉛の吸収量を調べた論文では、亜鉛とフィチン酸の比率が増えるほど、亜鉛の吸収率が低下したことが確認できています^出典[12]。

ダイエットや健康維持のために、玄米やオートミール、豆類などをよく食べる方も多いかもしれません。しかし亜鉛サプリを飲む際には、これらの食品を摂る時間帯を避けた方がよいかもしれません。

次にタンニンは、コーヒーや緑茶などに含まれる苦み成分。亜鉛の吸収率に影響を及ぼすとされているため^出典[13]、亜鉛のサプリメントは水で飲むことをおすすめします。

また、亜鉛の排出量を増やすものにアルコールがあります^出典[14]。お酒自体がテストステロンや勃起力には悪影響でもあるため^出典[15]、勃起力を高めたい場合には飲酒の量や頻度を減らすに越したことはないでしょう。

亜鉛は男性機能に深い関係のあるテストステロンの分泌をサポートするホルモンですが、亜鉛補給により必ず勃起力を高められるわけではありません。勃起力を高めるためには、テストステロンを増やすとともに、血流を改善してスムーズに勃起できるよう、血液や血管の状態を整える必要があるでしょう。

勃起力をはじめとする男性機能は、テストステロンの減少とともに落ちていくもの。テストステロン自体が加齢とともに減少するホルモンのため、放っておくと勃起力もますます落ちてしまうでしょう。

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