ヒスチジンとは?5つの効果と適切な摂取方法
2022年9月20日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

ヒスチジンとは

ヒスチジンという栄養素はあまり聞き馴染みがない方も多いのではないでしょうか。タウリンやアントシアニンのような話題性のある「目立つ」成分ではありませんが、ヒスチジンは必須アミノ酸として、ヒトの体内において重要な役割を果たしています。この記事ではヒスチジンが体に果たす役割や不足のリスク、普段の食生活においてどのように摂取すればよいのか、などについて解説します。

1.どんな栄養素?

ヒスチジンは「必須アミノ酸」のひとつに分類されています。大人の体ではある程度の量を合成することが可能であるため、かつては非必須アミノ酸とされていました。しかし子供には合成能力がないこと、また大人も食品からの摂取が不足すると欠乏症をきたすことが判明したため、1985年に必須アミノ酸へ分類された、という経緯があります。

 

2.体の中でどんな働きをする?

ヒスチジンというアミノ酸は、それ自体が体内で抗酸化物質、抗炎症物質として機能することが分かっています。また窒素出納という、体内における窒素のバランスを整える役目も持っています。必須アミノ酸であるため、体たんぱくの合成にも欠かせません。

ヒスチジンは体内の成長をサポートする役割を担っています。また赤血球の形成に関わるアミノ酸でもあり、貧血の治療に有効であることが分かっています。

また、ヒスチジンは体内で以下の化合物を生成し、体の中で様々な作用をもたらします。

  • ヒスタミン:ヒスチジンからヒスチジンデカルボキシラーゼという酵素の作用を受けて合成され、主に神経伝達物質として機能します。炎症反応や胃酸分泌の調節を行うほか、ストレスや不安を低減させたり、エネルギー代謝を促進したりします。
  • ウロカニン酸:ヒスチジンが代謝される過程で生成される物質です。皮膚表面に多く存在しており、皮膚の表皮バリア形成に関わります。紫外線から皮膚を保護したり、免疫を調節したりする役割があります。
  • カルノシンやアンセリン:イミタゾールペプチドとも呼ばれ、抗酸化作用や緩衝作用を持ちます。筋肉の疲労を軽減するほか、組織を保護する調節因子としての役割を持っており、記憶力など脳機能にも関わりがあるとされています。

 

3.不足するとどんなリスクがある?

元来、ヒスチジンの不足は乳幼児などの子供に確認されていました。体たんぱくの合成に必要なヒスチジンを欠くことで、ヒスチジンの合成能力を持たない子供で発育阻害を生じることが問題視されていたのです。

大人においてもヒスチジンが不足すると体内の窒素のバランスが乱れ、皮膚や神経系を中心に異常が現れます。特に関節リウマチや潰瘍性大腸炎など、炎症に関わる疾患のリスクがヒスチジン不足により上昇することが分かっています。

また、ヒスチジンは赤血球の材料としても使われるため、ヒスチジンの不足と貧血症状との間には関係があると言われています。腎不全により造血能力や赤血球の寿命が低下する「腎性貧血」では特に血中ヒスチジン濃度が低下していることが分かっています。

また腎不全による透析患者にヒスチジン投与を行ったところ、腎性貧血の症状が改善したという結果も得られており、ヒスチジンの不足により貧血リスクが上昇すると言うことができそうです出典[1]

 

4.どんな食材に含まれている?

ヒスチジンは、魚類や肉類、卵類など、たんぱく質が豊富な食品を中心に多く含まれる傾向にあります。これら動物性食品は必須アミノ酸の配合バランスを示すアミノ酸スコアがいずれも100であるため、ヒスチジンのみならず、その他必須アミノ酸を補給する手段としても適しています。

大豆もまた、植物性食品でありながらアミノ酸スコアがほぼ100の食品です。ヒスチジンをはじめ、必須アミノ酸の供給源として優れているため、日々の食事に大豆製品を取り入れることをオススメします。

【ヒスチジンを豊富に含む食品(調味料)とその含有量(100gあたり)】出典[2]

食品名100gあたりの成分量(mg)
かつお節5700
かたくちいわし(煮干し)3300
かつお(春獲り・生)2500
ビーフジャーキー2200
鶏むね肉(皮なし・焼き)1900
ぶり(成魚・生)1700
豚ヒレ肉(赤肉・焼き)1600
いり大豆(黄大豆)1200
プロセスチーズ720
鶏卵(全卵・生)340

 

ヒスチジンに確認されている作用や効果

必須アミノ酸としての必要性もさることながら、ヒスチジンのみが持つ特別な効果も幾つか判明しています。この章ではヒスチジンが体にもたらす作用について紹介します。

1.ダイエットのサポート

摂取したヒスチジンの一部が脳でヒスタミンに合成されますが、このヒスタミンにはダイエットをサポートするような以下の作用があることが判明しています。

  • 脳の視床下部において満腹中枢を刺激し、食欲を抑制する
  • 褐色脂肪細胞を活性化させて脂肪を燃焼しやすくする

動物実験においても、ヒスチジンを多く含む食事の摂取によりラットの食事摂取量が減少したという結果が出ています。またラットにおいて、褐色脂肪組織における「脂肪を燃やす遺伝子」である脱共役タンパク質1(UCP1)のmRNAが、食事中のヒスチジンの増加とともに増加したこともまた明らかになっています出典[3]

ヒスタミンは脳に至る血管の途中にある「血液脳関門」を通過できないため、ヒスタミンによる食欲抑制効果を得るには、食事から摂取したヒスチジンを脳へと送り込んでヒスタミンを合成する必要があります。ヒスチジンを日々の食事から十分に摂取することで、食事量の管理や体重減少がしやすくなるでしょう。

 

2.精神的パフォーマンスの改善

脳で合成されるヒスタミンは、神経伝達物質としても機能します。ヒスタミン系の神経伝達は、覚醒のコントロール、摂食の抑制、認知機能など、多くの脳機能に関与していることが分かっています出典[4]

ヒスチジンの摂取と精神状態との関連を示す研究が既にいくつか行われています。疲労と睡眠障害のある参加者にヒスチジンを補充したランダム化比較試験においては、ヒスチジンをかつおだしの形で摂取した摂取群において、疲労感と気分の改善、作業記憶能率と思考力と注意力の向上が確認されました。更にヒスチジンを豊富に含むかつおだしの摂取により、末梢血流も増加していました出典[5]。このように、ヒスタミンには神経伝達物質として精神の安定や脳機能をサポートする効果があると考えられています。

また、ヒスチジンを材料とする化合物であるカルノシンやアンセリンが優れた抗酸化作用を持つことも、精神状態の改善や血流増加に役立っていると考えられます。血管や脳における酸化ストレスが低減されることで、気分の落ち込みや抑うつ状態が改善されるほか、血管の保護による血流改善効果も期待できます。

これら優秀な神経伝達物質や抗酸化物質を体内で合成するためにも、ヒスチジンの補給は重要であると言えるでしょう。

 

3.脳の健康維持

脳でのヒスタミンは気分の改善だけではなく、思考力や注意力など様々な脳機能と関連しています。食事からヒスチジンを補給することで気分の改善だけでなく、作業記憶能率も上昇したというランダム化比較試験においても、その効果は裏付けされています。

また、ヒスタミンには神経損傷を回復させる働きを持つ可能性があるとされています。愛媛大学にて行われた動物実験において、脳梗塞の急性期の治療としてヒスチジンを点滴投与することで、脳組織の萎縮が抑制されたという結果が得られています出典[6]

このようにヒスタミンは神経伝達物質としてだけでなく、生理活性物質としても脳であらゆる機能を支え、保護するように機能しています。脳にヒスタミンを供給する手段であるヒスチジンを十分に摂取することで、脳の健康をサポートする効果が期待できるでしょう。

 

4.激しい運動時の疲労防止

ヒスチジンから成るカルノシンやアンセリンは、骨格筋や脳に多く含まれるジペプチドです。これらは「イミタゾールペプチド」と総称され、筋肉の疲労を軽減する効果や、組織を保護する効果を発揮することが分かっています。

激しい運動により筋肉が疲労する際には、エネルギーの代謝産物である乳酸が発生します。大量に乳酸が産生すると体内のpHが酸性に傾き、代謝性アシドーシスの原因になったり、運動のパフォーマンスを下げたりしてしまいます。

この体内におけるアシドーシスを中和することを「緩衝」と呼び、体内の緩衝作用によって筋肉の疲労や体のダメージが軽減されています。イミタゾールペプチドにはこの緩衝作用があるため、疲労軽減に役立つとされているのです。

また、カルノシンとアンセリンは強い抗酸化作用を持つため、激しい運動によって生じる活性酸素の無害化にも役立ちます。マウスを用いた動物研究においては、カルノシンとアンセリンが増加したマウスにおいて、筋肉疲労の軽減や疲労回復力の向上が確認されています出典[7]。ヒスチジンの供給によりこれらカルノシンなどの合成を増加させることで、疲労の軽減や回復力の向上に役立つ可能性があります。

 

5.アトピー性皮膚炎の症状の軽減

アトピー性皮膚炎の原因のひとつに、皮膚のバリアとして機能するたんぱく質であるフィラグリンの欠乏があります。フィラグリンはヒスチジンを豊富に含むたんぱく質であるため、ヒスチジンを不足なく摂取することで皮膚のバリア機能が回復し、アトピー性皮膚炎の症状が軽減される可能性があるとして注目されています。

またヒスチジンが代謝される過程で生成されるウロカニン酸にも皮膚のバリア機能があり、紫外線による皮膚への刺激を軽減させる効果があると言われています。

ヒスチジンの補充とアトピー性皮膚炎との関係を調べた細胞実験においては、ヒスチジンの補充により皮膚バリアたんぱく質であるフィラグリンの形成が促進されることが判明しています。また臨床研究においても、ヒスチジンの補充によりアトピー性皮膚炎の重症度が低下したことが示されました出典[8]

また、メタボリックシンドロームの女性を対象とした介入研究によると、ヒスチジンの補充によってインターロイキンやTNF-αなどの炎症性サイトカインが減少することが分かっています出典[9]。ヒスチジンとその合成物であるカルノシンは、抗酸化物質として活性酸素を除去する性質を持つため、酸化ストレスを低減し症状の緩和に繋がっているのではないかと推測されています。

 

ヒスチジンの摂取方法や注意点

必須アミノ酸であり体内で様々な働きを持つヒスチジンですが、特定の食品やサプリメントから意識して摂取する必要はあるのでしょうか。この章ではヒスチジンの摂取量の目安や食事の注意点について説明します。

1.どのくらい摂取すればいい?

厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」にヒスチジンの必要量が記載されています。ヒスチジンの必要量は乳児期に多く、成長するに従って減少しています。

【ヒスチジンの必要量(「日本人の食事摂取基準】2020年度版のデータより引用】出典[10]

年齢0.51~23~1415~1718~
必要量
(mg/kg/day)
2215121110

成人の場合、体重1kgあたり10mgのヒスチジンが必要です。体重65㎏の成人男性の場合、ヒスチジンの必要量は650mgとなります。

私達がこの必要量を日々の食事で満たせているのかの確認として、厚生労働省が集計している「国民健康・栄養調査」のデータを引用してみましょう。

日本人の1日におけるたんぱく質摂取量の平均は71.4g、うち動物性たんぱく質は40.1gとされています出典[11]。朝食に卵、昼食に鶏むね肉、夕食にサケを動物性たんぱく質として摂取した場合の、たんぱく質量およびヒスチジンの合計は以下のようになります。

【各動物性食品におけるたんぱく質およびヒスチジン含有量】出典[2]

 1食分(g)たんぱく質(g)ヒスチジン(mg)
卵(全卵)607.3200
普通牛乳2007.6190
鶏むね肉(皮なし)8018.6960
サケ(しろさけ)8017.8800
合計50.42200

大豆製品からも良質なたんぱく質は摂取できるため、1日の摂取量は更に増えると予想されます。このように、普通の食事でヒスチジンは十分に摂取できるため、日常生活においては栄養補助食品でヒスチジンを補う必要はないと考えてよいでしょう。

 

2.健康上限摂取量は?

ヒスチジン自体を食事から摂取することによる目立った副作用は特に判明していません。ヒスチジンの減量効果を調査する際の臨床研究においても、1日4500mgまでの量を30日間継続して摂取しても、目立った副作用はなく安全であることが確認されています出典[12]

ヒスチジンを食事から摂取する際の注意点として、ヒスチジンから合成されるヒスタミンの過剰摂取は避けるべきです。ヒスタミンを大量に含む食品を食べることで「ヒスタミン食中毒」と呼ばれる、顔面紅潮や頭痛、じんましん、発熱などの症状が引き起こされるためです。

しかしこの「ヒスタミン食中毒」は、通常のたんぱく質食品の摂取では起こりません。高温下など、不適切に管理されたサバやブリなどの魚に含まれるヒスチジンが、ヒスタミン産生菌によってヒスタミンを大量生産することで起こるものです。

魚の中でヒスタミンを大量生産させないようにするためには、生の魚の冷蔵・冷凍保存を徹底し、鮮度の高いうちに食べることが重要です。ヒスタミンは加熱調理では分解されないため、魚の温度管理には注意して、ヒスチジンの状態で摂取できるようにしましょう。

 

3.理想の摂取方法やタイミングはある?

ヒスチジンは通常の食事から必要量を摂取できるため、特にタイミングや摂取方法を意識する必要はないでしょう。体たんぱく質の合成にはヒスチジンだけでなく他の必須アミノ酸も必要ですが、動物性たんぱく質や大豆製品であればアミノ酸スコアが100であるため、他のアミノ酸との摂取バランスに殊更気を配らずとも、理想的な形での摂取が可能です。

動物性たんぱく質を摂取する機会が極端に少ない場合には、ヒスチジンを多く含むかつお節などを料理に取り入れるようにするとよいでしょう。

ダイエット効果を期待してヒスチジンを多く含む動物性食品を摂取する場合には、食事の際に「よく噛んで食べる」ことを意識しましょう。噛むことで脳内でのヒスタミン分泌が活性化され、満腹中枢が刺激されやすくなると言われています。

ただし動物性食品にはヒスチジンだけでなく、動物性脂肪なども含まれています。脂身の多い肉や、ベーコンやハンバーグなどの加工肉の摂取が習慣化すると、エネルギー摂取が過剰になりダイエットの妨げにもなりかねません。魚や鶏肉、卵などを選ぶようにするなど、食べ方を工夫することでよりよいダイエット効果が期待できるでしょう。
 

まとめ

ヒスチジンは、通常の食生活の中では不足しにくいアミノ酸ですが、動物性食品などから積極的に摂取することで、減量のサポートや炎症反応の抑制など、様々な効果が得られます。食事全体のバランスを崩さないよう意識しつつ、ヒスチジンの力を効果的に借りて、健康管理に役立ててみてください。

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