執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
アラニンとは
アラニンはアミノ酸の一種です。体内で合成される「非必須アミノ酸」に分類されますが、食事からも摂取することでその健康効果を受けることができます。この記事ではアラニンの性質や体内における働き、摂取上の注意点などについて解説します。
1.どんな栄養素?
アラニンは体内で生成できるアミノ酸であり、グルコースを生成したり消費したりする流れである「グルコース・アラニン回路」にて生成と消費を繰り返しています。
アラニンはその働きの多様性が故に、体のほとんどの細胞内に存在しています。血液中の遊離アミノ酸(他のものと結合せずそのままの状態であるアミノ酸)としても多量に存在しており、栄養素や物質の輸送媒体としても活躍しています。
アラニンには鏡像異性体と呼ばれる2つの形があり、互いに左右対称の構造をしているそれらを「αアラニン」「βアラニン」と呼び分けることがあります。
αアラニンは全身の細胞に見られ、筋肉や内臓の材料として機能します。βアラニンは筋肉に多く見られるアミノ酸であり、筋肉中に多く存在するカルノシンの材料となるなど、筋肉のパフォーマンスと深い関係を持ちます。
2.体の中でどんな働きをする?
アラニンの最も重要な役割は、体内において「グルコース・アラニン回路」を支える重要なアミノ酸として機能することです。
グルコース・アラニン回路とは、グルコースとアラニンが血液を介して肝臓や筋肉を循環する代謝経路を指します。その流れは「解糖系」と「糖新生」に分けられます。
- 解糖系
食事から摂取したグルコースは、血液を介して筋肉に運ばれます。筋肉はこのグルコースを体内でエネルギーに変えるため、ピルビン酸の形に変えてから、クエン酸回路というエネルギーを生み出す流れへと入ります。このピルビン酸が酵素の影響を受け、アミノ基というパーツが付く(アミノ基転移反応)ことでアラニンが生成されます。 - 糖新生
グルコースを分解してエネルギーに変える解糖系とは逆に、体からグルコースを作り出す代謝反応のことを糖新生と呼びます。空腹時には筋肉たんぱく質が分解されてアラニンを始めとするアミノ酸を生じます。アラニンはそのまま肝臓へ輸送され、酵素の影響を受けてアミノ基を失う(アミノ基転移反応)ことでピルビン酸へと戻り、グルコースを作る材料となります。
グルコースが解糖系によってピルビン酸を経てアラニンを生じ、アラニンが糖新生においてピルビン酸を経てグルコースを合成しています。このように、アラニンは体内の血糖コントロールやエネルギー補給において欠かせない働きを担っているのです。
また、アラニンは筋肉においてカルノシンを合成するための材料となり、乳酸や水素イオンの蓄積による疲労を軽減したり、活性酸素を無害化する「抗酸化物質」として機能したりします。更に肝臓においてもアルコール処理のサポートなど、肝機能の保護に役立つ作用を複数持つことが分かっています。
このように、アラニンは代謝のみならず、筋肉や肝臓の保護にも関わっています。
3.不足するとどんなリスクがある?
アラニンは主に筋肉や肝臓に存在するアミノ酸です。そのため筋肉量が相対的に少ない小児においては、絶食中に糖新生をうまく行えず血糖値が上がらない「ケトン性低血糖症」と呼ばれる状態になるおそれがあることが分かっています。
大人においてはアラニンの蓄積が少ない場合、運動時に強く疲労を感じる、血糖コントロール不良の状態に陥る、などの問題が考えられます。しかし極端な欠食や偏食を起こさない限り、通常の食生活においてアラニンが不足することはないとされています。
アラニンの生成元となるピルビン酸は、摂取した食事中に含まれるグルコースが、エネルギーであるATPに変わる際の反応過程で生じるものです。そのため、体内でエネルギーを作れる程度の食事ができていれば、おのずからアラニンも生成されるため、極端に不足を起こすことは考えにくいと言えるでしょう。
ただし、激しいスポーツをする人においては乳酸などによる疲労蓄積を防ぐため、筋肉内でアラニンが大量に消費される場合があります。そのためアスリートのようなアラニンの大量消費が起こりやすい生活をしている場合には、普段から多めにアラニンを摂取しておく必要があるでしょう。
4.どんな食材に含まれている?
アラニンはアミノ酸であるため、主に動物性食品に多く含まれます。イクラやかずのこなど、魚類の卵に豊富に含まれているほか、肉類や貝類からも効率よく摂取できることが分かります。
【アラニンを豊富に含む動物性食品とその含有量(100gあたり)】出典[1]
食品名 | 100gあたりの成分量(mg) |
かつお節 | 4400 |
ビーフジャーキー | 3400 |
しろさけ(イクラ) | 2600 |
鶏むね肉(皮なし・焼き) | 2300 |
はまぐり(つくだ煮) | 2100 |
にしん(かずのこ) | 2100 |
牛もも肉(焼き) | 1800 |
豚もも肉(焼き) | 1800 |
牛ヒレ肉(焼き) | 1700 |
鶏卵(全卵・生) | 720 |
プロセスチーズ | 680 |
しじみ(生) | 480 |
植物性食品においては、海藻類や大豆製品に豊富に含まれています。アーモンドなどのナッツ類も効率の良い摂取源であると言えるでしょう。
【アラニンを豊富に含む植物性食品とその含有量(100gあたり)】出典[1]
食品名 | 100gあたりの成分量(mg) |
味付けのり | 3900 |
いり大豆(黄大豆) | 1800 |
アーモンド(いり・無塩) | 940 |
挽きわり納豆 | 710 |
えだまめ(茹で) | 520 |
アラニンに確認されている作用や効果
体内の代謝に大きく関わるアラニンですが、体にどのような良い効果をもたらすのかについては、役割が複雑であるため分かりにくい部分があるかもしれません。以下ではアラニンに認められている効果について、関わりのある代謝経路の解説とともに紹介します。
1.血糖の調整
血糖を調節する仕組みとして、膵臓から分泌されるグルカゴンとインスリンというホルモンは非常に重要です。アラニンはこの2つのホルモンの分泌に関連があることが分かっています。
グルカゴンは血糖値を上昇させるホルモンであり、絶食状態など、体が強い空腹時、すなわちエネルギー不足状態にあるときに膵臓から分泌されます。グルカゴンの分泌を受け、骨格筋にある筋肉グリコーゲンが分解され、グルコースが生じて血糖値が上昇します。このグルコースがエネルギーに変わる際、生成されるピルビン酸のアミノ基転移反応によりアラニンが生成されます。また空腹時には筋たんぱく質の分解が起こり、これによってもアラニンは血中に放出されます。
これら、筋肉グリコーゲンとたんぱく質の分解によって生じたアラニンは、更にグルカゴンの分泌を促進し、低下した血糖を速やかに補充するように働きかけることが分かっています。
インスリンとアラニンの関係については細胞実験での研究が進められています。βクローン細胞株を用いた実験においては、グルコースとアラニンの存在下においてインスリンの分泌が増加したことが確認され出典[2]、グルコースが多量にある状況下において、アラニンがインスリン分泌を促進させる可能性が指摘されました。
このように、アラニンは血糖値が低い時にも高い時にも、それらを調節するホルモンの分泌を増やすように働きかける性質を持つため、血糖コントロールを良好にする効果が期待できます。
2.運動パフォーマンスの向上
筋肉に存在するアラニンの一部は、カルノシンという物質を作るための材料として使われます。カルノシンはアラニンと、必須アミノ酸であるペプチドであるヒスチジンからなるジペプチドです。活性酸素を無害化する「抗酸化物質」としても機能し、筋肉へのダメージを防ぐように働くほか、強い「緩衝作用」を持つことでも知られています。
運動を行った際には、エネルギー補給の手段として筋肉グリコーゲンが分解されます。このグリコーゲン分解とともに生成されるのが乳酸です。乳酸自身が酸性であることに加え、乳酸が生成される過程で生じる水素イオンが酸化を促進するため、筋肉のpHが下がり、これにより筋肉の疲労が生じて運動のパフォーマンスが低下することが分かっています。
カルノシンの持つ「緩衝作用」とは、この乳酸や水素イオンにより低下したpHを中和することであり、これにより筋肉の疲労が抑制される効果が期待できるのです。
国際スポーツ栄養学会 (ISSN) からのレビューによると、4~6g/日のβアラニン補給を4週間続けた場合、筋肉のカルノシン濃度が大幅に増加し、筋細胞内で緩衝作用を発揮することが分かっています出典[3]。運動のパフォーマンス向上、特に持久力の向上のため、激しいトレーニングを頻繁にする機会がある場合には十分に摂取するとよいでしょう。
3.肝機能のサポート
アラニンは肝臓に複数の有益な効果をもたらしていることが明らかになっています。
- アセトアルデヒドの分解を早める
飲酒量が過剰になるとアルコールが代謝しきれず、アセトアルデヒドとして体内に残ることによって倦怠感や頭痛など、二日酔いの原因となります。アラニンの摂取によりアセトアルデヒドの分解が促進されるため、二日酔いの症状の軽減や、肝機能の保護に役立ちます。 - アンモニアの輸送に関わる
各組織において生じたアンモニアは、その窒素部分がアラニンやグルタミンの構成成分となり、血液を介して肝臓に運ばれ尿素回路に入り、処理されます。尿素回路をスムーズに働かせるために、アラニンによるアンモニアの処理は重要な役割を持っているのです。 - 肝臓の再生を促進する
アルコール投与後に肝臓の一部を切除したラットにおいては、アルコールの影響により肝臓の再生が阻害されてしまいます。しかしアラニンとグルタミンという2種のアミノ酸の投与により、肝臓の再生が促進されることが分かっています出典[4]。
肝臓は元々高い再生能力を持つ組織ですが、アルコールによりDNA合成が抑制された状態や、肝障害を発症した場合においても、その再生能力がアラニンによって強化され、肝臓の回復に役立つとされています。
アラニンの摂取方法や注意点
アラニンは非必須アミノ酸であるため、「日本人の食事摂取基準」などで摂取量の目安は公表されていません。また研究などにより推奨されている摂取量も、2~13g程度と幅があります。そのためアラニンについては、運動量や飲酒量など生活状況を踏まえて目安摂取量に変動があると考えた方がよさそうです。
- 運動のパフォーマンス向上を目的とする場合
4~6g/日のアラニンを摂取することで筋疲労の低減に役立つことが分かっています。摂取してすぐに効果が出るものではないため、アラニン摂取の恩恵を得るためには、4週間を目安に摂取を継続し、筋肉にカルニチンを十分に蓄積しておく必要があるでしょう。
また、カルノシンはアラニンと、必須アミノ酸であるペプチドであるヒスチジンからなるジペプチドであるため、ヒスチジンの不足もないように注意しましょう。動物性たんぱく質からの摂取であれば必須アミノ酸のバランスも整っているため、アラニンとヒスチジンを同時に効率よく摂取できます。 - 肝機能のサポートを期待する場合
飲み過ぎによる二日酔いの症状や肝臓への負担を軽減したい場合には、お酒を飲むタイミングで摂取するとよいでしょう。サプリメントなど栄養補助食品の中には、素早く吸収されることを謳ったものもあるため、飲み過ぎた後の摂取ではこうしたものを選ぶことをオススメします。
食品を通じて摂取する場合にはアラニンが過剰に蓄積し、害をもたらすようなことは起こらないとされています。ただし、たんぱく質やアミノ酸の過剰摂取自体が肝臓や腎臓に負荷をかけるため、サプリメントの過剰服薬や肉類の食べ過ぎなどには注意する必要があるでしょう。
まとめ
アラニンは食事やサプリメントから安全に摂取できるサプリメントであり、運動のパフォーマンス向上や肝機能の保護など様々な作用をもたらします。アラニンに期待する効果によって摂取量やタイミングを使い分け、健康的な体づくりに役立てましょう。
出典
- 1.
文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
- 2.
Lorraine Brennan , Aine Shine, Chandralal Hewage, J Paul G Malthouse, Kevin M Brindle, Neville McClenaghan, Peter R Flatt, Philip Newsholme. A nuclear magnetic resonance-based demonstration of substantial oxidative L-alanine metabolism and L-alanine-enhanced glucose metabolism in a clonal pancreatic beta-cell line: metabolism of L-alanine is important to the regulation of insulin secretion. Diabetes. 2002 Jun;51(6):1714-21.
- 3.
Eric T Trexler, Abbie E Smith-Ryan, Jeffrey R Stout , Jay R Hoffman, Colin D Wilborn, Craig Sale, Richard B Kreider, Ralf Jäger, Conrad P Earnest, Laurent Bannock, Bill Campbell, Douglas Kalman, Tim N Ziegenfuss, Jose Antonio. International society of sports nutrition position stand: Beta-Alanine. J Int Soc Sports Nutr. 2015 Jul 15;12:30/
- 4.
T Tanaka, M Imano, T Yamashita, T Monna, S Nishiguchi, T Kuroki, S Otani, K Maezono, K Mawatari. Effect of combined alanine and glutamine administration on the inhibition of liver regeneration caused by long-term administration of alcohol. Alcohol Alcohol Suppl. 1994;29(1):125-32.
参考文献
- 上代淑人, 清水孝雄 | イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 | 丸善出版 | 2011
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