執筆者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識できるよう日々邁進中。
そもそも免疫とは
コロナウイルスのパンデミックにより人間に本来備わっている免疫機能の重要性が再確認されています。未知のウイルスが発生した場合、即座にワクチンや特効薬は開発されないため、病気にかかりにくい身体を作っておくことが大切です。
ではそもそも免疫とは何なのでしょうか。免疫は「粘膜免疫」と「全身免疫」の2つに大きく分けられます出典[1]。
「粘膜免疫」とは、目や鼻、腸などの表面の粘膜によってウイルスの侵入を防ぐ仕組み。粘膜に存在する抗体がウイルスを無害化します。
一方「全身免疫」は「粘膜免疫」をすり抜けて、身体に侵入した異物を排除する仕組み。体内の免疫細胞がウイルスを攻撃し、無害化します。
つまり「粘膜免疫」は予防的な役割を果たし、「全身免疫」は対症療法的な役割を果たしているといえるでしょう。
感染症の95%は粘膜表面で始まる
人間は「粘膜免疫」と「全身免疫」の2つの仕組みによって、ウイルスから身体を守っています。しかし体調を悪化させないためには「粘膜免疫」の強化が重要です。
「全身免疫」は身体に侵入したウイルスを免疫細胞が攻撃し、無害化する仕組み。免疫細胞が体内で活発に動くため、熱が生じます。またウイルスを体外に排出するために下痢になることもあります。風邪の時の発熱や腹痛は「全身免疫」がしっかりと働いている証拠なんです。
ただ、熱や腹痛があれば仕事や遊びに向かうことができません。そのため、そもそも身体にウイルスを侵入させない「粘膜免疫」を強化することが大切です。感染症の95%は粘膜表面で始まることからもその重要性が伺えるでしょう出典[2]。
特にストレスや疲労が溜まっている時は粘膜表面の抗体の濃度が低下します。疲労を感じている時はしっかりと身体を休めて「粘膜免疫」を回復させることが大切です。
運動は粘膜免疫を強化する
風邪による発熱症状を防ぐ上で重要な「粘膜免疫」。実は運動によって強化できることがわかっています。
運動は身体にストレスを与え、適切な回復期間をとることで、筋肉や血管などの身体を強化する行為です。そして「粘膜免疫」も同様に強化されます。
2002年にカナダのブロック大学で行われた研究では体をあまり動かさないグループに比べて、12週間にわたって週3回の有酸素運動を続けたグループの人たちは唾液中の抗体の濃度が50%も高くなり、呼吸器感染症の発症も著しく減っていることがわかりました出典[3]。
風邪にかかりやすい人は運動習慣をつけることから始めるとよいでしょう。
免疫を高める運動方法
ではどのような運動が「粘膜免疫」を高めるのでしょうか?この章では免疫向上のために運動で気を付けるべきことについてご説明します。
強度はどのくらい?
免疫力向上に有益な運動。しかしやり過ぎると逆に免疫が低下してしまいます。
高強度の運動は身体にかかるストレスがその分大きく、一時的に免疫機能も大きく低下します。免疫機能が回復・強化される前にウイルスが身体内に侵入してしまいます。一方で軽度すぎる運動は身体にかかるストレスが小さく、大きな免疫向上効果が期待できません出典[4]。
そのため中強度の運動を行うのがおすすめです。中強度の運動はぎりぎり話せるけど、歌えないくらいのペースです。
軽すぎず、きつすぎない強度で実施していくとよいでしょう。
運動時間は?
1回の運動時間に関しても楽すぎず、きつすぎずがおすすめです。短すぎても免疫は強化されませんし、長すぎると免疫が低下します。
これまで運動による免疫へのポジティブな効果を確認した研究では1回20~30分で行っているものが多いです出典[4]。
また、国際運動免疫学会によると、中強度から高強度の身体活動を90分行った後に免疫低下が生じます出典[5]。
短くて20分、長くても90分までで行うとよいでしょう。
運動の頻度は?
では頻度はどの程度行うのがよいのでしょうか?
1002人の男女を対象に運動頻度と免疫の関係を調べた研究では、12週間における上気道感染症の発症日数は、有酸素運動を5日/週以上行っている人では、ほとんど座っている(1日/週以下)人と比較して43%低下していました出典[6]。
また12週間にわたって週3回の有酸素運動を続けた研究でも呼吸器感染症の発症も著しく減っていることが報告されています出典[3]。
もちろんそれぞれのライフスタイルに合わせて疲労感が溜まりすぎない程度の頻度で行うのが一番です。その上で、どのくらい行えばいいか分からない方は週3~5回を目安に行うとよいでしょう。
運動の種類は?
一口に運動と言っても多種多様なエクササイズがあります。どんな運動が免疫を高める上で有効なのでしょうか。
運動と免疫向上の関係を調べた研究ではランニングやウォーキングなどの有酸素運動を用いたものが多いです出典[4]。ウォーキングは怪我のリスクも小さく、始めやすい運動です。運動習慣のない人は歩く事から始め、徐々に強度を上げていくとよいでしょう。
もちろん身体を動かし、適度なストレスを与えることはどんな活動でも免疫向上に有益です。スポーツでも筋トレでも自分に合った運動を適度に行うとよいでしょう。
まとめ
本記事では免疫力を高める上で運動で気を付けるべきことについてご紹介しました。きつすぎず軽すぎない、適度な運動を継続的に行うことが大切です。ストレスになり過ぎず、楽しめるレベルで身体を動かしましょう。
出典
- 1.
Cologne, Germany: Institute for Quality and Efficiency in Health Care (IQWiG); 2006-. The innate and adaptive immune systems. [Updated 2020 Jul 30].
- 2.
Neville V, Gleeson M, Folland JP. Salivary IgA as a risk factor for upper respiratory infections in elite professional athletes. Med Sci Sports Exerc. 2008 Jul;40(7):1228-36.
- 3.
Klentrou P, Cieslak T, MacNeil M, Vintinner A, Plyley M. Effect of moderate exercise on salivary immunoglobulin A and infection risk in humans. Eur J Appl Physiol. 2002 Jun;87(2):153-8.
- 4.
Nieman DC, Wentz LM. The compelling link between physical activity and the body's defense system. J Sport Health Sci. 2019 May;8(3):201-217.
- 5.
da Silveira MP, da Silva Fagundes KK, Bizuti MR, Starck É, Rossi RC, de Resende E Silva DT. Physical exercise as a tool to help the immune system against COVID-19: an integrative review of the current literature. Clin Exp Med. 2021 Feb;21(1):15-28.
- 6.
Nieman DC, Henson DA, Austin MD, Sha W. Upper respiratory tract infection is reduced in physically fit and active adults. Br J Sports Med. 2011 Sep;45(12):987-92.
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