執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
オルニチンとは
オルニチンという栄養素は、シジミに豊富に含まれていることで注目を集めています。肝臓の働きをサポートすることで知られていますが、オルニチンは体内でどのように機能しているのでしょうか。この記事ではそうしたオルニチンの性質や体内での働きについて解説するとともに、食品やサプリメントから摂取する上での注意点などについて紹介します。
1.どんな栄養素?
オルニチンはアミノ酸の一種であり、体内で合成が可能な「非必須アミノ酸」に分類されます。
オルニチンという成分が注目されるようになったのは現代からのことですが、古来よりオルニチンを多く含むシジミは、健康食品として長く親しまれてきました。シジミにはオルニチンの他にもタウリンやアラニンなど、肝臓の保護に役立つ成分が複数含まれていますが、特にオルニチンの含有量が群を抜いて高いことが判明し、注目を集めることとなりました。
オルニチンは様々な食品に含まれていますが、シジミなど特定の食材を除き、その含有量は僅かであるため、サプリメントなど栄養機能食品から摂取する方が効率的であるとされています。
2.体の中でどんな働きをする?
オルニチンは尿素回路という、肝臓で行われる「アンモニアの窒素部分を引き取り尿素へ変換する」反応において重要な役割を持っています。
- 非必須アミノ酸であるオルニチンは、非必須アミノ酸であるアルギニンと水との反応により、尿素とともに生成されます。尿素はそのまま体外へ排出されます。
- 生成されたオルニチンはカルバモイルリン酸という物質との反応で、非必須アミノ酸であるシトルリンを生成します。
- シトルリンから幾つかの反応を経て、非必須アミノ酸であるアルギニンが生成されます。
- 1に戻り、再び尿素とオルニチンが生成されます。
この循環反応を滞りなく行うことで、アンモニアの処理能力を維持することができます。オルニチンは尿素回路を回すことにおいて欠かせないアミノ酸であり、肝臓の保護においても重要な役割を担っていると言えるでしょう。
また、オルニチンには成長ホルモンの分泌を促進させることが明らかになっています。成長ホルモンは小児において正常な発育のために重要であるほか、大人の体においても体たんぱく質の合成、体組織(骨、筋肉、肌など)の修復や再生、脂肪燃焼や疲労回復など、様々な効果を発揮しています。成長ホルモンは加齢とともに分泌が減少していくホルモンでもあるため、摂取することで体力の向上や、様々な体機能の維持が期待できます。
更にオルニチンは体内において、以下のような物質の合成材料としても機能しています。
- シトルリン
肝臓での尿素回路に使われるほか、一酸化窒素(NO)を産生し、血管の柔軟性を保つ効果を発揮します。 - ポリアミン
細胞分裂における遺伝子翻訳などをサポートする役割を持ち、細胞の入れ替わりを促進し、新陳代謝を高める効果があります。 - プロリン
コラーゲン合成を促進する効果や、脂質の消化酵素であるリパーゼを活性化して脂肪のエネルギー消費を促進する効果が期待されています。
3.不足するとどんなリスクがある?
オルニチンは様々な食品に含まれていますが、その含有量はごく僅かです。そのため通常の食生活において、私達はオルニチンをほとんど摂取していないと言えるでしょう。
しかしオルニチンは非必須アミノ酸であるため、体内で他のアミノ酸との反応などにより必要量が生成されています。そのため、通常の食生活をしている人において、オルニチンの摂取不足により重篤な健康障害を起こすことはないとされています。
4.どんな食材に含まれている?
オルニチンは文部科学省による定量の対象とはなっておらず、「食品成分表」にも成分データが収載されていません。しかし企業ベースの研究などにより、シジミに特に豊富に含まれていることが分かっています。その他、ヒラメやマグロなどの魚類、チーズやえのきなどにも比較的多く含まれています。
しかしこれらの含有量はごく僅かであり、健康効果を期待できるほどの量のオルニチンを食事のみから摂取するのは困難です。オルニチンの効能を目的とする場合には、サプリメントなどを活用する方が効率的であると言えるでしょう。
オルニチンに確認されている作用や効果
尿素サイクルを活性化したり、様々な成分の材料として機能したりと、体内で複数の働きを有するオルニチンですが、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。以下ではオルニチンを意識して摂取することにより得られるであろうメリットについて解説します
1.ストレスを緩和し睡眠の質を向上
オルニチンには睡眠に対して以下の効果を発揮することが分かっています。
- 成長ホルモンの分泌を促進し、睡眠中の疲労回復効果を向上させます。
成長ホルモンは、疲労回復や体たんぱく質の合成などのサポートのために重要です。オルニチンによって分泌量が向上することで、疲労が回復しやすくなるなど、睡眠の質を上げる効果が期待できます。 - ストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌を抑制し、入眠をサポートします。
オルニチンとコルチゾールの関係については、健康な成人を対象としたランダム化比較試験において研究されています。400mg/日のオルニチンを経口摂取した群において、血中コルチゾール濃度が有意に減少していたこと、また摂取群においては気分と睡眠の質が向上したという結果が出ました出典[1]。コルチゾールの分泌が過剰であると、入眠が難しくなる、眠りが浅くなるなど、睡眠のトラブルを生じやすくなります。オルニチンの摂取によりコルチゾールを減らすことで、自然な入眠をサポートする効果が期待できるでしょう。
2.無酸素運動のパフォーマンスを向上
オルニチンが運動にもたらす効果としては以下の2点が考えられます。
- 尿素回路を潤滑に機能させることにより、アンモニア代謝を促進させる
運動時には筋肉が多量のエネルギーを消費することによりアンモニアが生じます。このアンモニアは筋肉における疲労物質のひとつと考えられているため、尿素回路においてアンモニアを尿素へと変えることで、アンモニアの蓄積を防ぎ疲労を軽減できると考えられています。 - シトルリンの材料として機能し、筋肉への栄養と酸素の供給を促進させる
オルニチンは尿素回路において、シトルリンの材料としても機能しています。シトルリンが体内で産生するNOは血管の拡張作用に効果的な物質です。血流を改善させることで、運動時に筋肉へ栄養素や酸素を効率的に供給できるようにする効果が期待できます出典[2]。また体内で発生したアンモニアの処理には、アンモニアを血液を介して肝臓へと運ぶ必要があるため、この血管拡張作用は解毒作用の向上にも役立つと考えられるでしょう。
10人の健康な成人がオルニチンを経口摂取した際の運動パフォーマンスを調査した研究において、オルニチンの摂取群はプラセボ摂取群と比較して、無酸素運動の能力が向上していたことが確認されています出典[3]。筋肉をより効率的に鍛えたい場合には、無酸素運動と併せてオルニチンを摂取するとパフォーマンスの向上効果が期待できるでしょう。
3.疲労の緩和
オルニチンの疲労軽減効果は、無酸素運動のパフォーマンス向上の作用と同様に、尿素回路を活性化させることによるものであると考えられています。
オルニチンと疲労との関係を調べた研究において、オルニチンを「L-オルニチン塩酸塩」の形で2000mg/日の摂取を7日間続けた群は、プラセボ摂取群と比較して主観的な疲労感が大幅に軽減していたことが分かりました。また血液検査においては血中アンモニア濃度などの減少が確認されており、尿素回路が活性化し、アンモニアの処理が促進されていることが明らかになりました出典[4]。
この結果によって示されたオルニチンの抗疲労効果を同じように得るためには、2000mg/日のオルニチン摂取が必要であるということになりますが、通常の食事からこれだけのオルニチンを摂取することは非常に困難で、現実的ではありません。そのため疲労の軽減を目的とする場合には、サプリメントの利用を視野に入れるとよいでしょう。
4.肝機能の保護
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の患者を対象とした臨床試験において、経口で「L-オルニチン L-アスパラギン酸 (LOLA) 」を6~9g/日、12週間にわたり摂取した群では、以下の効果が確認されました出典[5]。
- 血中アンモニア濃度の低下
オルニチンは尿素回路を活性化させてアンモニアの処理速度を維持する効果を持ちます。アンモニアの蓄積を防止することができ、肝機能の保護にも役立ちます。 - 血中脂質の改善
オルニチンによって分泌が促進された成長ホルモンの作用、およびオルニチンを材料として合成されるプロリンの作用であると考えられています。成長ホルモンやプロリンは脂質代謝を促進する作用があるため、中性脂肪やコレステロール値の適正化に繋がり、脂肪肝の予防にも役立つとされています。 - 「肝微小循環」の改善
肝微小循環においては、幹細胞と微小血管との間で栄養素や老廃物の交換が行われています。この微小血管の血流改善に、オルニチンを材料として合成されるシトルリンが作用していると考えられています。シトルリンが産生するNOが血管拡張作用を持つため、細胞との栄養素や老廃物のやり取りが潤滑になり、結果として肝機能が改善する効果が期待できます。
このように、継続的な摂取により尿素回路の活性化、血中脂質や肝微小循環の改善などの効果をもたらすことから、オルニチンやその合成物が肝臓にもたらす恩恵は大きいと言えるでしょう。
5.筋肉量の増加をサポート
オルニチンの摂取による筋肉量の増加は、成長ホルモンの分泌が促進されることを理由としていると考えられます。成長ホルモンには骨や筋肉の形成を促進する作用があるため、筋肉を鍛えたい場合にはサプリメントでの摂取が効果的に働く場合があります。
筋力トレーニングプログラムに酸化した成人男性を対象とした二重盲検比較試験においては、アルギニンとオルニチンのサプリメントを摂取した群において、総筋力と徐脂肪体重の有意な増加が確認されています出典[6]。また動物実験においては、カゼインにオルニチンを加えて摂取したラットの方が、カゼインのみのラットよりもタンパク質合成量が有意に増加していたという結果も得られています出典[7]。
このように、オルニチンの摂取と運動とを組み合わせることで、体たんぱく質、特に筋肉量が増加する効果が期待できます。
成長ホルモンは加齢と共に減少する性質があるため、加齢に伴い筋肉は落ちやすくなります。高齢者における筋萎縮を伴うサルコペニアやフレイルティの問題は深刻であり、オルニチンの摂取により筋肉量の維持・増強が促進されれば、こうした疾病の解決の糸口となるのではないかとも考えられています。
オルニチンの摂取方法や注意点
オルニチンの摂取により様々な効果を得ることができますが、研究で示された効果を得るためには相当な量のオルニチンを摂取する必要があります。通常の食事でこの量を摂取するのは困難であるため、サプリメントを効果的に使う必要があるでしょう。以下ではそうしたオルニチンの摂取方法について、注意事項と共に説明します。
1.健康上限摂取量は?
健康効果をもたらすオルニチンの量は、様々な研究結果を踏まえるとおよそ400mg以上が適正であり、大抵の場合、適正量は400〜1,000mg程度に設定されています。これはオルニチンを豊富に含むシジミにおいても、4kg近く摂取しなければ達成できない量であるため、通常の食事においてこの適正量を超えて摂取することはまずありません。
オルニチンの過剰症に相当するケースとして、尿素回路に関わる酵素の欠損により、オルニチンからシトルリンへの変換ができず、オルニチンやアンモニアの過剰な蓄積が発生する「高オルニチン血症」という疾患があります。この状態において、オルニチン濃度が600μmol/Lを超えるような状態が数年にわたり続いた場合、網膜色素上皮細胞にダメージを与え、網膜変性を引き起こす可能性があることが分かっています出典[8]。
しかし同研究において、一時的なオルニチンの過剰摂取においてはこのような毒性を示さないことも結論付けられており、サプリメントの摂りすぎにより網膜変性を起こすことはないと考えられています。目安量を超えた過剰な摂取を続けた場合には、アミノ酸を過剰摂取した場合と胃痛や下痢などの症状が現れる場合があります。しかしこれらはオルニチンに特有のものではなく、その他様々なアミノ酸を過剰摂取することによって起こる一般的な消化器症状です。
オルニチンに限ったことではありませんが、サプリメントは過剰に摂取することでより多くの健康効果を得られるというものではありません。他のサプリメントと同様に、目安量として示されている量以上を摂取することのないよう気を付けるべきでしょう。
2.理想の摂取方法やタイミングはある?
オルニチンの摂取は、基本的には期待する効果を得たいタイミングで行うと効果的です。
ただし、アミノ酸のサプリメント全般に共通した注意事項として、摂取は飲食の前、空腹時に行う方がよいとされています。食事時や食後に摂取すると、体は食事に含まれるたんぱく質の消化や吸収の処理に追われるため、サプリメントとして摂取したアミノ酸の吸収率・利用率が下がってしまいます。
アルコールによる肝臓への負荷を軽減したい場合には、飲食を開始する前に摂取するとよいでしょう。運動のパフォーマンスを向上させたい場合には運動前に、睡眠の質を向上させたい場合には就寝前の摂取が効果的です。
まとめ
尿素回路の活性化や成長ホルモンの分泌促進など、オルニチンは様々な健康効果をもたらします。食事からの摂取は困難であるため、期待する効果に応じたタイミングで適量のサプリメント摂取を継続することで、オルニチンの恩恵を受けることができるでしょう。
出典
- 1.
Mika Miyake,corresponding author Takayoshi Kirisako, Takeshi Kokubo, Yutaka Miura, Koji Morishita, Hisayoshi Okamura, and Akira Tsuda. Randomised controlled trial of the effects of L-ornithine on stress markers and sleep quality in healthy workers. Nutr J. 2014; 13: 53. Published online 2014 Jun 3.
- 2.
Shinichi Demura, Koji Morishita, Takayoshi Yamada, Shunsuke Yamaji, Miho Komatsu. Effect of L-ornithine hydrochloride ingestion on intermittent maximal anaerobic cycle ergometer performance and fatigue recovery after exercise. Eur J Appl Physiol. 2011 Nov;111(11):2837-43.
- 3.
Kohei Takeda, TohruTakemasa. Chapter 53 - An Overview of Ornithine, Arginine, and Citrulline in Exercise and Sports Nutrition. Nutrition and Enhanced Sports Performance (Second Edition) Muscle Building, Endurance, and Strength 2019, Pages 627-636
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780128139226000539
- 4.
Tomohiro Sugino, Tomoko Shirai, Yoshitaka Kajimoto, Osami Kajimoto. L-ornithine supplementation attenuates physical fatigue in healthy volunteers by modulating lipid and amino acid metabolism. Nutr Res. 2008 Nov;28(11):738-43.
- 5.
Roger F Butterworth, Ali Canbay. Hepatoprotection by L-Ornithine L-Aspartate in Non-Alcoholic Fatty Liver Disease. Dig Dis. 2019;37(1):63-68.
- 6.
R P Elam, D H Hardin, R A Sutton, L Hagen. Effects of arginine and ornithine on strength, lean body mass and urinary hydroxyproline in adult males. Med Phys Fitness. 1989 Mar;29(1):52-6.
- 7.
Kazuyo Tujioka, Takashi Yamada, Mami Aoki, Koji Morishita, Kazutoshi Hayase, Hidehiko Yokogoshi. Dietary ornithine affects the tissue protein synthesis rate in young rats. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2012;58(4):297-302.
- 8.
Seiji Hayasaka, Tatsuo Kodama, Akihiro Ohira. Retinal risks of high-dose ornithine supplements: a review. Br J Nutr. 2011 Sep;106(6):801-11.
参考文献
- 上代淑人, 清水孝雄 | イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 | 丸善出版 | 2011
LINEで専門家に無料相談
365日専門家が男性の気になる疑問解決します