セリンとは?6つの効果と適切な摂取方法
2022年11月7日更新

執筆者

管理栄養士

鈴木 亜子

大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。

セリンとは

アミノ酸の一種であるセリンはたんぱく質の構成成分となりますが、その他に人体にとってどのような作用を持つ成分なのでしょうか。

ここではセリンの体内での働きや、含まれる食品などについて見ていきます。

1.どんな栄養素?

セリンはたんぱく質を構成する12種類の「非必須アミノ酸」の一つです出典[1]

セリンには「L-セリン」と「D-セリン」があります。この2つはほとんど同じ性質を持つものの、光に対する性質が異なる「異性体」です。

このうち、たんぱく質を構成したり食品添加物や医薬品として利用されたりしているのがL-セリン。アミノ酸の大半がL体であるとされています。

一方、D-セリンは人間など哺乳類の脳内に多く存在していると考えられています。

 

2.体の中でどんな働きをする?

セリンは、糖質からエネルギーをつくり出す過程で生成される物質から合成されるほか、セリン代謝酵素によってアミノ酸の「グリシン」から変換される物質です。

そして皮膚の紫外線防御機能に関わるアミノ酸の一種「システイン」や、肌のバリア機能に欠かせない「セラミド」のもととなる「スフィンゴシン」核酸(DNA・RNA)の合成に関与しています。

また脳内の神経伝達に寄与し、記憶や学習など脳の機能維持に関わるという重要な働きも明らかになっています。

 

3.不足するとどんなリスクがある?

 

通常の食生活を送る健康な方では、特定のアミノ酸、つまりセリンだけが不足することはまずありません。しかし、何らかの理由で不足した場合には、体内でのたんぱく質の再合成に支障を来たす可能性があるでしょう。

たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されています出典[1]。しかしこの20種類のうち、たった一つのアミノ酸が欠けただけでもたんぱく質は合成できません。たんぱく質は私たちが活動するためのエネルギー源となるほか、筋肉や皮膚の材料となったりホルモンや酵素の成分となったりしています。

そのため、たんぱく質が合成されなければ筋肉量の低下や体調不良などを招く恐れもあります。

なお、代謝異常により体内でのセリンの合成が不十分となり欠乏した場合は、新生児および小児では小頭症や発作、精神遅滞、成人では進行性多発性神経障害を引き起こすことが知られています。

 

4.どんな食材に含まれている?

セリンは体内でも合成可能な非必須アミノ酸です。しかし、私たちの健康にとって重要な働きを担うため、十分摂取するには食品からも取り入れる必要があるでしょう。

セリンは、主に魚介類や豆類、乳製品などに含まれています出典[2]

【セリンを多く含む食品(可食部100g当たり)】

  • かずのこ(生)……1,600mg
  • たらこ(生)……1,500mg
  • 油揚げ……1,500mg
  • プロセスチーズ……1,300mg
  • カマンベールチーズ……1,200mg
  • ほっけ(開き干し/生)……1,100mg
  • めばちまぐろ(赤身/生)……1,100mg
  • 豚ロース(赤身/生)……1,100mg
  • かつお(春獲り/生)……1,000mg
  • 鮭(しろさけ/生)……1,000mg
  • 鯖(ごまさば/生)……1,000mg
  • 納豆……800mg
     

セリンに確認されている作用や効果

それでは、セリンに期待できる主な効果を見ていきましょう。

1.ストレス緩和の可能性

セリンの継続的な摂取により、慢性的なストレスに対する症状が軽減できる可能性が、動物実験によって報告されています。

4週間孤立した環境下で飼育することにより、慢性的なストレスを与えたラットの行動に対するセリンの影響を調査しました。隔離飼育によりラットの脳内のセリンとその代謝物量は減少していましたが、飲料水によりセリンを補給すると、脳の一部の領域でセリンが増加していることが分かりました。セリンを与えたラットの行動は、与えなかったラットと比較して、元のケージ内での運動量および新しい環境での探索行動が減少しました

もともとセリンには急性的なストレスにさらされた場合の鎮静・催眠効果を誘発することが分かっていましたが、この研究により慢性的なストレスに対しても効果が期待できることが示唆されています。

この効果は、セリンによって抗酸化物質「グルタチオン」の産生が促進されたためであると予想されました。実際にグルタチオンの定量は行われていませんが、ラットの脳の大脳皮質においてグルタチオンの構成成分であるL-システインの増加がみられたためです。

社会的隔離ストレスは、脳の酸化ストレスを増大させ障害を引き起こすことが報告されています。セリンの投与によって強い抗酸化作用を持つグルタチオンの合成が促進し、脳の酸化ストレスを抑制したと考えられます出典[3]

動物は新しい環境にさらされると、偵察するように周囲を嗅ぎまわったり歩き回ったり、後ろ脚で立ち上がって見まわしたりといった「探索行動」を示します。人間でいうと、ソワソワと落ち着かない状況と表現できるかもしれませんね。この研究では、セリンを投与することによってこの行動が減少したと報告されています。

日常的に何らかのストレスを抱え、落ち着かない気持ちに悩まされているという方は、セリンを摂取することによって症状の緩和が期待できるかもしれません。今後の研究に期待しましょう。

 

2.糖尿病の予防効果の可能性

L-セリンは血糖値を一定に保つ機能および細胞の「ミトコンドリア」の機能を改善することで、高血糖による神経細胞のダメージを減少させる可能性があると報告されています。

ミトコンドリアは細胞内に存在する「細胞小器官」です。主に生命活動の源、つまりエネルギー源となる「ATP(アデノシン三リン酸)」の産生に関わる重要な働きを担っていますが、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌および効きやすさにも影響を与えているといわれています。

またセリンを補給することで、NODマウス(ヒトの1型糖尿病の症状に類似したモデル)の糖尿病発症を低下させるという報告もあります。

セリンと糖尿病に関しては、以下のような報告があります出典[4]

  • フィンランドのクオピオに住む45歳から73歳の非糖尿病男性5,181人のアミノ酸濃度と2型糖尿病の発症との関連を調べたところ、L-セリン濃度が高いほどインスリンの分泌および効きやすさが改善することが明らかになりました。また、L-セリンはブドウ糖負荷試験による糖処理能力の改善にも関連していますが、2型糖尿病の発症との関連は認められませんでした。
  • 1型糖尿病の小児と非糖尿病者の血中L-セリン濃度を比較したところ、1型糖尿病の小児で42%減少していることが分かりました。また、2型糖尿病患者でも同様に、血中L-セリン濃度が低下していました。
  • 食後の血中L-セリン濃度に関する調査では2型糖尿病患者では低下し、非糖尿病群では増加していることが分かりました。
  • 妊娠糖尿病患者では、血液中のL-セリン濃度が減少するという結果と増加するという結果が報告されています。

セリンが糖尿病の予防や治療のために活用される日が来るかもしれませんね。

 

3.肌への有効性

セリンには、肌に良い影響を与える効果も期待されています。

肌の水分量をキープし弾力を保持する「ヒアルロン酸」がつくられているのは皮膚の線維芽細胞です。線維芽細胞はセリン(N-メチル-L-セリン)に刺激されることで、ヒアルロン酸へのグルコサミンの取り込みを1.5倍促進するという報告があります出典[5]

グルコサミンがないとヒアルロン酸はつくられません。セリンには美肌に関わる成分を効果的につくり出す作用が期待できるため、みずみずしい肌を保ちたいという方にはおすすめの成分であるといえますね。

 

4.認知機能の低下を抑制

セリンには認知機能を改善する効果が期待されています。特に脳に多く存在しているとされるD-セリンを補給することで、高齢者の認知機能に良い影響をもたらすとされています。

50名の健康な高齢者にD-セリンを投与し、認知機能に関するテストおよび気分の変化に及ぼす影響のほか、血液中のD-セリン、L-セリン、グルタミン酸、グルタミンレベルを測定しました。その結果、D-セリンを投与することで空間記憶や学習に関するテストの成績が向上しました。また、投与後に血液中のD-セリンレベルがより高い増加を示した被験者は、試験成績がより向上しています。なおD-セリンの投与は、他の認知機能テストや高齢者の気分の変化においては有意な関連は見られませんでした出典[6]

最近では統合失調症やアルツハイマー病との関連も研究されています。加齢による認知機能の衰えが気になるという方にとっては、セリンが役に立つかもしれません。

 

5.入眠と中途覚醒を改善

セリンを摂取することで睡眠の質が改善する可能性が、2つの研究によって報告されています。

主に睡眠潜時と夜間覚醒などの睡眠に不満を持っている被験者53名を対象に寝る 30 分前に L-セリンを投与し翌朝の起床後、OSA睡眠調査票を用いて主観的な睡眠の質を評価しました(試験1)。またセントマリー病院睡眠質問票を使用した主観的な睡眠の質の評価および睡眠開始時間、夜間の覚醒回数、睡眠時間などの客観的情報を専用の機器で評価しました(試験2)。

試験1ではL-セリンを摂取によって「入眠」「睡眠維持」に関する因子が、試験2においては「昨夜はよく眠れましたか」「昨夜の睡眠にどの程度満足していますか」のスコアがL-セリン摂取によって有意に改善するなど、起床時の睡眠の質に関する主観的評価が改善されました。また、測定機器による客観的評価では、「夜間覚醒回数」が減少する傾向がみられています出典[7]

寝付きが悪い、朝すっきり起きられないなど睡眠に関する問題を抱えている方には、セリンが役立つ可能性があります。

 

6.体内時計の乱れを改善

セリンには体内時計をリセットする作用があるという報告があります。体内時計とは、人間の持つサーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれる約24時間の周期で体内環境を変化させる機能を指す言葉です。

体内時計は1日の周期である24時間と若干の「ずれ」があります。そのため、一度リセットしないと体内時計が乱れ、睡眠に影響を与えたり昼夜逆転の原因になったりしてしまうのです。

オスのマウスに 20 種類の L-アミノ酸のうち 1 種類を経口投与し、サーカディアンリズムの周期調節について分析した結果、L-セリンの投与によってマウスの光による体内時計の周期調節が促進されました。また昼夜のリズムを6時間ずらし、時差ぼけの状態をつくり出した上で、L-セリンを決まった時間に投与したところ、体内時計の進みを促し新しいリズムに同調しました。

さらに健康な男子学生 ( 22.2歳 ± 1.8 歳)に、就寝前にL-セリンを摂取させ朝に明るい光を浴びさせたところ、体内時計に関与するメラトニンの分泌開始時刻の進みが有意に大きくなりました出典[8]

「メラトニン」は体内時計に働きかけるホルモンです。「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンは夜間に分泌が高まり、眠気を感じさせ眠りにいざないます。そして起床時に日光を浴びることで分泌がストップし、ここで体内時計がリセットされるのです。

セリンを十分摂取するとメラトニンの分泌時刻の調整、つまり体内時計を正常にリセットできるというわけですね。

シフト勤務の方や、休日は寝坊したり夜更かししたりして生活リズムが乱れがちという方は、セリンを意識的に摂取して、体内時計のリセットに役立てるのもよいかもしれませんね。

 

セリンの摂取方法や安全性

セリンは食品からたんぱく質として摂取するほか、食品添加物としても摂取しています。医薬品としても利用されていますが、これまで安全性に関する問題などは報告されていません。過剰摂取しても体内で正常に代謝されれば蓄積されることはないため、副作用の心配もないと考えられています。

より積極的にセリンを取り入れたいという方は、サプリメントからの摂取も効果的です。ただし、サプリメントを利用する場合は1日当たりの摂取目安を守って摂取しましょう。安全な成分とはいえ、想定以上の過剰摂取があった場合は副作用の可能性も否定できません。

また、セリンは内服薬の成分との相互作用も報告されていませんが、内服中の方のサプリメント利用に当たっては、念のため主治医に確認するようにしてください。

まとめ

セリンは非必須アミノ酸の一つです。体内でも合成され、皮膚の健康に関わるシステインやセラミドのもととなる物質やDNA・RNAなどの核酸合成に関与しています。また、睡眠の質を改善したり加齢による認知機能の低下を抑制したりする作用が期待される他、ストレスの緩和や糖尿病予防などの可能性を秘めた成分です。

セリンは食事から十分に摂取できるため、まずはバランスのよい食事を心がけることで不足なく摂取できます。より十分に取り入れたいという方はサプリメントからも摂取可能ですが、利用する際は1日当たりの摂取目安量を守って健康の維持・増進に役立ててくださいね。

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