執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
アルコールで筋トレ効率が3割減!筋肉とお酒の関係5つアルコールで筋トレ効率が3割減!筋肉とお酒の関係5つ
実はアルコールは、筋力トレーニングと相性の悪い飲み物であることが分かっています。体を鍛えたり引き締めたりしたい人にとっては、特に注意すべき飲料ですね。では、実際にアルコールはどのようにして筋力トレーニングの効率を落としているのでしょう。以下ではそのメカニズムについて解説します。
筋トレ後に酒を飲むと筋肉の合成率が3割減!
激しい運動を行った後には、筋原線維たんぱく質の合成速度が高まります。これにより筋肉が太く鍛えられ、筋力トレーニングの効果として現れるということですね。アルコールの摂取は、この筋原線維たんぱく質の合成速度に影響を与えることが分かっているのです。
レジスタンストレーニング後に、炭水化物やたんぱく質と一緒にアルコールを摂取することによる、筋原線維たんぱく質の合成速度の変化を調べるランダム化比較試験が行われました。これによると、たんぱく質のみを摂取した場合と比較して、アルコールを同時に摂取した場合の方が、筋原線維たんぱく質の合成速度が減少したことが分かっています。減少の割合は、たんぱく質とアルコールの摂取において24%減、炭水化物とアルコールの摂取では37%減となっていました出典[1]。
炭水化物とアルコールの組み合わせはもちろんのこと、筋肉の合成効率を高めるはずのたんぱく質の摂取においても、アルコールが入ることで合成効率が落ちてしまうことが分かりますね。
筋原線維たんぱく質の合成速度が落ちることにより、筋力トレーニングの効率が落ちるばかりではなく、その後の運動パフォーマンスを損なう可能性があると同試験では結論付けられています。運動後のアルコール摂取は避けるべきでしょう。
テストステロンが減りコルチゾールが増える
お酒を飲むことで、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの分泌量が増加します。抗炎症作用などの効果を持ち、生体に欠かせないコルチゾールですが、増えすぎると筋肉のたんぱく質分解を促進し、筋肉量が増えにくくなります。筋肉を鍛える目的での筋力トレーニングにおいては、過剰なコルチゾールが効率を落とすことが分かっているのです出典[2]。
また、男性ホルモンであるテストステロンは、筋肉の合成効率を高めるにおいて重要な働きを担っています。アルコールの摂取によりテストステロン量が低下する可能性があり、これによっても筋力トレーニングの効率が下がることが分かっています。
レジスタンストレーニング後の筋肉の回復における、アルコールの影響を調べたシステマティックレビューおよびメタ分析が行われました。これによると、多くのランダム化比較試験において、アルコールを摂取した場合もそうでない場合も、運動12時間後のコルチゾール濃度はほぼ同じように上がり、テストステロン濃度もほぼ同じように下がっていました。
しかし24時間後においては、アルコールを摂取した場合のみ、コルチゾール濃度が高く保たれたままになっており、テストステロン濃度も低い状態が続いていました。さらにコルチゾール濃度は36時間後に再び上昇したことも確認されています出典[3]。
このように、運動後のアルコールは血中のコルチゾール濃度を下げにくくすると同時に、テストステロン濃度を長時間下げたままにすることが分かっています。筋肉の合成効率を上げるためにも、運動後の飲酒は特に控えるべきでしょう。
女性よりも男性の方がお酒の悪影響を受けやすい
アルコールと運動の相性がよくないことは、これまでの説明でもお分かりいただけたかと思います。さらにアルコールの影響については、女性よりも男性の方がより強く現れることも分かっています。筋力トレーニングをしている男性は特に注意する必要がありますね。
男性と女性で差が生じたアルコールの影響は、「mTOR」という酵素に及んでいます。mTORは細胞増殖を制御する因子として機能しています。
細胞の生合成を促進する多様な因子は、リン酸化されることで活性化します。mTORはこれらの因子をリン酸化する役割を担っており、これにより細胞の合成を促進したり、オートファジーという細胞分解を抑制したりすることが分かっています。筋肉でもmTORは合成を促進するように働くため、筋力トレーニング後においてもmTORによるリン酸化は特に重要です。
しかしアルコールの摂取はこのmTORによるリン酸化を抑制してしまうため、筋肉において細胞の合成や成長が十分に行われず、筋肉の合成効率が下がる要因になると考えられているのです。
レジスタンストレーニング後にアルコールを摂取することによる、mTORC1シグナル伝達経路への影響を調べたランダム化比較試験が行われました。これによると、mTORという酵素のリン酸化は、アルコールを摂取したグループにおいて、男性のみ抑制されたことが確認されています。しかし女性においては有意な抑制を確認できなかったことから、男性の方がアルコールによる筋力トレーニングの効率低下を受けやすいことが分かります出典[4]。
もちろん、アルコールの筋肉への影響はこのmTORC1シグナル伝達経路だけに及ぶものではないため、女性に及ぶ影響も無視できるものではありません。しかし男性においては特に注意すべきであると言えるでしょう。
睡眠の質が低下する
睡眠不足が続いたり、眠りが浅かったりして睡眠の質が低下すると、筋力が低下してしまいます。またアルコールの摂取により睡眠の質が下がることも分かっているため出典[5]、筋力トレーニングの効率低下にも繋がると考えられますね。
入眠をスムーズにするために「寝酒」を飲む方もいらっしゃるかもしれません。しかしアルコールの摂取により、体内での代謝の過程で発生するアセトアルデヒドは、交感神経を活発にするため、中途覚醒や早朝覚醒を起こしやすくなります。
寝入りはスムーズにできたとしても、その眠りが浅いものになり、睡眠の質の低下に繋がってしまうのです。
睡眠の質と筋力との関係を調べた試験によると、睡眠時間が6時間未満の男性は、7時間以上の睡眠時間を確保できている男性と比較して、筋力が低いという測定結果が得られています。女性においては睡眠時間と筋力との間にこのような関係が見られなかったことから、mTORのリン酸化の抑制と同様に、アルコールによる睡眠の質の低下も男性においてよく見られることが分かっています出典[6]。
夜間の多量飲酒を避けるとともに、眠る前の「寝酒」としてお酒を飲む習慣を作らないようにすることが重要ですね。
アルコール以外の成分が筋トレの効率を下げる
お酒に含まれる成分はアルコールだけではありません。ビールや日本酒を飲む際には、その糖質量にも注意する必要があります。
運動直後の糖質補給は、筋肉の回復やグリコーゲンの再貯蔵において重要ですが、夜間にアルコールから大量に糖質を摂取することはオススメできません。夜間や寝る前などに摂取した糖質はエネルギーとして使われる機会がないため、中性脂肪として体に蓄えられやすくなるのです。
お酒と一緒に食べるおつまみにも、糖質や脂質が多めに含まれる傾向にあります。これらから摂取するエネルギーの多さも、中性脂肪の蓄積を促進してしまいます。
体を引き締めるためやダイエットのために筋力トレーニングをしていても、夜間にビールや日本酒のような糖質の多いお酒を飲み、おつまみを食べる生活を続けていると、引き締め効果や減量効果が薄れてしまいます。筋力トレーニング中には、これらのお酒には格別の注意が必要ですね。
タイミングや適量は?筋トレをする人のためのお酒の飲み方5選
筋力トレーニングと飲酒の相性は決して良いとは言えません。しかし、嗜好品であり社会交流の潤滑剤としても機能する機会の多いお酒を、完全に断つのは難しいものですよね。
では、どのような飲み方で、どのようなお酒を選べば体への影響を少なくできるのでしょうか。
筋トレしてから48時間は空けて飲む
お酒を飲むタイミングとして、運動後の筋肉の合成を邪魔しない時間帯を選ぶことが重要です。筋肉の合成が起きている間の飲酒を控えることで、アルコールが筋肉へ与える影響を最小限に留めることができますね。
骨格筋のたんぱく質合成の増加は、トレーニングが終わってから24~48時間ほどまで続くことが分かっています出典[7]。そのため、筋力トレーニングから2日経過するまではお酒を控えておくとよいでしょう。
飲むなら蒸留酒を
お酒に含まれる糖質は、中性脂肪の合成を高めてしまうため、なるべく糖質の少ないお酒を選ぶことを心掛けましょう。
「蒸留酒」と呼ばれるお酒には糖質がほとんど含まれていません。ウイスキーや焼酎、ジン、ウォッカ、テキーラなどを選び、水割りやオンザロックなど、糖質を含む飲料で割らない形で適量を楽しむようにすると良いでしょう。
特に焼酎は糖質ゼロのお酒であるため、筋力トレーニングやダイエットと相性が良く、オススメです。
一方、「醸造酒」と呼ばれるお酒である、ビールや日本酒、ワインなどには糖質が含まれているため、夜間に摂取すると余分なエネルギーが発生し、中性脂肪として体に蓄えられやすくなります。そのため醸造酒の摂取は控えるようにした方が良さそうですね。
赤ワインも抗酸化作用を持つためオススメ
ワインは醸造酒のため糖質を含んでいますが、ワインからは他に、ブドウ由来のポリフェノールを摂取することができます。このポリフェノールは抗酸化物質として機能し、筋力トレーニングによって増加した活性酸素を無害化するように働くことが分かっています。
多量の活性酸素は筋肉の回復を妨げるだけでなく、血管や血液、脳など、体のあらゆる場所に「酸化ストレス」としてダメージを与えるため、できるだけ増やしたままにはしておきたくないものです。赤ワインの摂取により活性酸素の量を減らす効果が期待できるため、筋力トレーニング中に飲むお酒としては適していると言えるでしょう。
さらに赤ワインに含まれるポリフェノールには、アロマターゼ阻害活性を持つ「レスベラトロール」が含まれることが分かっています出典[8]。
アロマターゼという酵素は、体内で男性ホルモンのアンドロゲンを、女性ホルモンのエストロゲンへ変換させる働きを持っています。男性ホルモンの減少を招く酵素であるため、男性にとってはあまり好ましくない酵素であると考えられています。
赤ワインの持つアロマターゼ阻害活性により、男性ホルモンの減少を防ぐ効果が得られる可能性もあります。筋力の合成効率を落とさずに済むというメリットも期待できるため、筋力トレーニング中にもオススメできるお酒と言えますね。
飲んでも1,2杯に抑える
どのようなお酒であっても、タイミングが適切であったとしても、適量を超えて飲みすぎてはいけません。筋力トレーニングの効率低下だけでなく、様々な健康上の害をもたらすためです。健康でエネルギッシュな体作りのためにも、それぞれのお酒の「適量」を知っておくことは重要です。
厚生労働省では「節度ある適正な飲酒量」を、1日平均、純アルコール換算で約20gと設定しています出典[9]。
たとえばアルコール濃度20%の焼酎であれば100mlでちょうど20g、25%の焼酎であれば80mlほどが1日の適量、ということになります。一般的な赤ワインであれば240mlほど、ワイングラスに軽く2杯程度が適量です出典[10]。
厳密に飲む量を毎回測定する必要はありませんが、目安として「焼酎はグラスに軽く1杯まで、赤ワインは2杯まで」のように、簡単な形で記憶しておくとよいでしょう。飲み会の席などではつい飲みすぎてしまうため、「今日の飲酒はこれだけに留めておく」と、あらかじめ周囲の方に宣言しておくようにすると良いかもしれませんね。
おつまみは低脂質高たんぱくの食材を
お酒と一緒にどうしても口にしてしまうのが、おつまみです。お酒単体で飲むと、アルコールの体への吸収速度が早くなり、肝臓などに負担がかかるため、適量のおつまみを取り入れることは効果的です。しかし筋力トレーニングの効率や健康を考える場合には、その内容にも注意する必要がありますね。
スナック菓子やパスタなどをおつまみとして選ぶと、糖質を余分に摂取することになってしまいます。蒸留酒を意識して選んで糖質カットをしても、おつまみで多量の糖質を摂ってしまっては本末転倒です。また、揚げ物も脂質が多いため、中性脂肪を合成しやすく、できれば避けたいところです。
筋力トレーニング中のおつまみは「低糖質かつ低脂質なもの」を選ぶようにしましょう。さらに筋肉の合成効率を高めるため、たんぱく質が豊富なものを取り入れるのも効果的です。
刺身はまさに低糖質・低脂質かつ高たんぱくな食材であり、調理を一切することなく摂取でき、飲み会の席でも食べやすいため、オススメです。焼き鳥も脂身の少ない部位を選ぶことで、糖質が少なめのおつまみとして美味しく食べられますね。
水をたくさん摂ること
アルコールの「適量」は、私たちが思っているよりも少ないものです。グラス1~2杯の量では足りない、と感じてしまうかもしれませんね。
物足りなさからの飲みすぎを防ぐため、お酒を飲む際には同時に水をたくさん摂るようにしましょう。水によりお腹を物理的に満たして満腹感を得ることで、お酒の物足りなさを緩和する効果が期待できます。
また、お酒を分解した際に生じるアセトアルデヒドは、汗として体外に出ていきます。さらにアルコールを飲むことで「抗利尿ホルモン」が減少し、尿量が増加するため、飲んだ水分以上の量が尿として失われてしまいます出典[11]。お酒を飲むことによる脱水を防ぐためにも、飲酒時に水をしっかり摂っておくことは重要ですね。
まとめ
アルコールと筋力トレーニングとの相性は基本的に良くないものです。筋肉の合成効率を落としてしまうため、運動後には飲まないようにしましょう。
量、種類、タイミング、おつまみを工夫することで、筋力トレーニング中でもお酒を楽しむことができます。適量を飲んでお酒のある生活を楽しみ、スッキリとした気持ちで筋力トレーニングを続けられるようにしましょう。
出典
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