執筆者
NSCA-CPT/調理師
舟橋位於
東京大学理学部卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。大学入学後に筋肉に興味を持ち、自分の体で学んだ理論を体現してきた。日本の筋肉研究で有名な石井直方教授のもとで学び、ティーチングアシスタントとして、学生へのトレーニング指導を行った経験も。自分が学んだ知識を伝えることで、一人でも多くの方の健康をサポートしたいと考えている。
筋トレにおけるセット数とは?なぜ重要なのか?
トレーニングのボリュームを決定する要素としては、重量、セット数、セットごとの回数(レップ数)、インターバルなどがあります。今回の記事では、このうちのセット数に対する考え方を解説します。
トレーニング量と筋肥大の関係
初心者が犯しがちな誤りとして、トレーニングのボリュームを無闇に増やしすぎることが挙げられます。トレーニング量が少なすぎると、筋肥大や筋力アップのための刺激が不足することは事実です。一方で、多すぎるトレーニングは、筋トレの効果を減らしてしまうストレスホルモンの分泌を促すことが分かっています。このことより、トレーニング量には、ある程度の適切な度合いがあることが想像できると思います。
スペインの研究者は、ボリュームを大中小の3段階に分けたトレーニングを被験者に実施させ、それぞれの筋力の増加率を比較しました。その結果、中程度のボリュームでトレーニングを行ったグループでは、それ以外のグループと比べて、高い筋力の上昇が見られました出典[1]。
トレーニング量と筋肉量増加の関係について調べた研究もあります。複数の研究結果をまとめて再評価したところ、週あたりのセット数が増えるにつれて、筋肥大の傾向も強くなることが分かりました。またこの研究では、効率の良い筋肥大には最低でも10セットのトレーニングが必要であることも明らかとなりました出典[2]。
ここまでの内容をまとめると、筋力アップと筋肥大のどちらを目指す場合でも、自分の実施しているトレーニングのセット数を正しく理解することが必要だと言えます。セット数が少なすぎると十分な効果が得られませんが、多く実施した分だけ効果が上がるという訳でもありません。適切なトレーニングボリュームを把握するためにも、毎回のトレーニングのセット数を記録して分析する習慣をつけられると良いですね。
トレーニング量を計算する方法
自分に適切なトレーニングのボリュームを考えるためには、現在のトレーニング量を正しく知る必要があります。トレーニング量を定量化する方法を3種類紹介しますので、ぜひ、自分のトレーニングを見直す材料にしてみてください。
- セット数の合計に着目する
セット数の合計を計算することで、トレーニングのボリュームを把握することができます。1日に4種目のトレーニングをそれぞれ3セットずつ行ったのであれば、その日の合計セット数は12セットになります。体が良い方向に変化したり、トレーニングの質が向上したりしているのであれば、現在のセット数は自分に合っていると考えられます。逆に、思うような成果が出ない場合は、セット数の過不足を検討すると良いでしょう。 - レップ数の合計に着目する
セット数よりもさらに細かくトレーニングの量を知りたいと考えるならば、レップ数を計算する方法も考えられます。レップ数のカウントは、全体のトレーニング量をより正確に知ることにつながりますが、日によって回数に差が出やすいという欠点もあります。正しいトレーニングができて筋力が伸びれば、当然、前回のトレーニングよりもレップ数は増えるはずです。一方で、筋力は伸びていても、疲れていたり気分が乗らなかったりという理由でレップ数が減ってしまうこともあります。自分の中で目標のレップ数を決めて、最低でもそれをクリアするようにメニューを組むという使い方は有効でしょう。 - 挙上重量の合計に着目する
その日のトレーニングで扱った重量の合計値を元にトレーニング量を計算することもできます。例えば、100kgのベンチプレスを10回3セット行った場合は、重量の合計値は3000kgとなります。部位によって目標重量は変わりますが、自分の中で重量の合計値を決めておくことで、トレーニングの量を確保することができる可能性があります。ただし、何がなんでも重量目標をクリアするまでトレーニングを終えないという考え方は危険です。その時の体調を考えて、無理のないスケジュールを柔軟に組むことも大切です。
セット数はトレーニング量を測るのに優れている
トレーニングのボリュームを計算する方法を3種類紹介しましたが、今回は、その中でも特にセット数を数える手法が有力であることを解説します。
レップ数や挙上重量を基準にメニューを構成すると、場合によっては、負荷が足りないままトレーニングを終えることになる可能性があります。実際は12回挙上できるにも関わらず10回で区切ってしまったり、余力があるにも関わらず、目標の重量合計値に達したところでトレーニングを終えてしまったりということが考えられます。一方で、毎回のセットで限界まで追い込む前提でセット数を決定した場合は、負荷が不足することを防ぐことができるでしょう。また、自分が何回ウエイトを挙上できるか分からない場合でも、全力を3セット行うと決めてトレーニングすれば目標が明確になります。
実際に、複数の実験結果をまとめて検証した論文では、限界近くまで追い込むように条件を揃えた場合は、トレーニング頻度や反復回数のような他の要素よりも、セット数が筋肥大に強く関わることが発表されています出典[3]。この論文では、限界まで追い込むという条件を満たしていれば、6レップで3セット行う場合と20レップで3セット行う場合の間には、筋肥大効果にあまり差がないとされています。
その日の調子で1セットあたりの挙上回数が変わってしまうことはありますが、合計のセット数は一定に保つことができます。セット数に着目することで、筋肥大に効果的なトレーニングボリュームを逃さないことにつながると言えるでしょう。
筋肉の成長に必要なセット数とは?文献を基に最適な回数を解説
トレーニング量を把握するには、セット数をカウントする方法が適していることを解説しました。ここからは、セット数の設定方法について、より実践的な内容に触れながら掘り下げます。トレーニングメニューの構築に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
1週間に最低10セットは必要
まずは、1週間に行うセット数の下限についてです。トレーニングのやりすぎは逆効果になることはすでに解説しましたが、刺激が不足する場合にもトレーニングの効果を得にくくなります。
アメリカの研究者が、これまでに行われた複数のトレーニングに関する研究結果を分析したところ、1週間のセット数が10セットを超える場合に筋肥大が起こることが分かりました出典[2]。ここで言うセット数とは、1部位あたりのセット数を指します。すなわち、胸のトレーニングを週に2回行うのであれば、それぞれのトレーニングで5セットを目標に実行することが必要ということです。各部位を週に1回トレーニングする分割を組んでいる場合は、1日で10セットのトレーニングを行うことを1つの指標にすると良いでしょう。
30セット以上は逆効果?
一部の例外はありますが、一般的には、トレーニング量が多過ぎると望ましいトレーニング効果が得られなくなります。特に、トレーニングに慣れていない初心者が無闇にセット数を増やすことは避けるべきでしょう。
オーストラリアの研究者は、セット数とトレーニング効果の関係を調べるために、以下の2つのグループを設定して実験を行いました。
- 1セット10レップのトレーニング10セットを週3回(30セット/週)
- 1セット5レップのトレーニング5セットを週3回(15セット/週)
それぞれの被験者は上記の設定のもとで、6週間トレーニングを継続しました。筋肥大や筋力増加の割合を分析したところ、10セットのグループよりも、5セットのグループの方が高い効果が得られたことが分かりました出典[4]。
この研究で採用されたGVTというトレーニング法はあまり一般的ではないものですが、トレーニングをやり過ぎても効果が比例して上がるわけではないことを示す1つの例にはなるでしょう。研究結果を参照すると、週あたりのセット数は15セットを基準に考え、自身の体調やトレーニング歴を加味しながら増減させるのが良い考え方だと言えます。
部位によっても最適なセット数は異なる
筋肉は全身に存在し、それぞれが大きさや性質、機能などさまざまな異なる特徴を持ちます。そのため、全ての部位のセット数を同じにしてしまうのは、やや強引な考え方だと言えます。ここからは、部位ごとのセット数の決め方の参考となるいくつかのアイデアを紹介します。
- 発達の程度を参照する
自身の体の中で特に発達が遅れている部位がある場合は、その部位のトレーニング量が適切でない可能性があります。ボリュームが足りていないこともあれば、逆に弱点部位だという理由でトレーニングをやり過ぎている場合もあるでしょう。現在の状況をよく把握して、セット数に変化をつけてみると良いでしょう。 - 複数の筋肉が存在する部位はセット数を多めにする
背中や脚は、複数の筋肉が集まることで構成されています。メニューを工夫することで、狙った筋肉への刺激の割合を増やすことはできますが、それでも完全に刺激を分割することはできません。そのため、複数の筋肉が存在する部位のトレーニングでは、全ての筋肉に刺激を与えるために、セット数を多くすることが重要な場合があります。 - 筋肉の回復の速さを考える
筋肉の中には、持久的な活動が得意な筋肉と、瞬間的な活動が得意な筋肉があります。日常的によく使う部分である腕やふくらはぎの筋肉は、比較的持久力の高い筋肉になります。このような筋肉は、疲労からの回復も早いとされているため、週あたりのトレーニング量を増やしてもそれに比例して効果を得られることがあります。逆に、大胸筋や太ももの筋肉などの、大きくて強い力発揮を得意とする筋肉は、回復に時間がかかるため、トレーニングのやりすぎには注意した方が良いでしょう。
1種目あたりのセット数は5セット程度に留める
先ほど紹介したGVTは、1種目で多くのセットを行う特殊なトレーニング形式でしたが、一般的には、1種目だけをやりこむよりも、複数の種目を組み合わせてメニューを構成することが推奨されます。胸のトレーニングであれば、ベンチプレスだけで10セット行うのではなく、ベンチプレス5セットとダンベルフライ5セットにしたり、ベンチプレス3セットとディップス3セット、ダンベルフライ3セットにしたりという感じです。
複数の種目を組み合わせることの有用性を示した研究は実際に存在します。ある研究では、トレーニングの強度や種目を一定にしたグループと、さまざまに変更したグループの間で、筋肥大効果の違いが調べられました。種目を一定にしたグループはスクワットのみを行なったのに対し、複数の種目を行うグループでは、スクワットに加え、レッグプレス、デッドリフト、ランジが実施されました。その結果、トレーニング全体のボリュームは同じであったにも関わらず、複数の種目を実施したグループの方が有意に脚の筋肉量が増加することが分かりました出典[5]。
パワーリフティングのための練習で特定の種目をやり込みたい場合は別ですが、筋肉を大きくすることを考えてトレーニングをするのであれば、複数の種目を組み合わせて実施すると、より高い効果が得られるでしょう。
1日あたりのセット数は10セットに留める
トレーニングのやり過ぎを防止するために、1日あたりのセット数を10セットまでに留める考え方もあります。組もうとしているメニューで、1日あたりのセット数が10セットを超えてしまう場合は、2日に分けて実施するのも1つの手です。
16セットのトレーニングを、1週間のうちに1回で行うグループと2回で行うグループを対象に、筋肥大と使用重量の変化を調べる実験が行われました。8週間のトレーニングを終えた後、2つのグループの間に筋肥大の差は見られませんでした。しかしながら、2日に分けてトレーニングを行ったグループでは、1日で行うグループよりも扱う重量が伸びたことが分かりました出典[6]。
8週間の介入では筋肥大に差は見られませんでしたが、筋力の変化には違いがあったことを考えると、長期的に見れば、2回に分けてトレーニングしたグループは、より高い筋肥大効果を得られる可能性があります。また、パワー系競技の補強でトレーニングを行っている場合は、今回紹介した論文の結果をそのまま活用できるでしょう。
まとめ
今回は、トレーニングのボリュームを決定するためのセット数という考え方を紹介しました。
個人差はありますが、基本的にはトレーニングのやり過ぎは筋肥大や筋力強化の面でマイナスに働きます。1週間あたりのセット数が、1部位あたり10セットから30セットの間に収まるようにメニューを組み、体の状態を見ながら調整すると良いでしょう。
また、1回のトレーニングでたくさんのセット数をこなすよりは、2回に分割してトレーニングした方が効果が上がるという論文も紹介しました。トレーニングの頻度を増やすことが筋肉の発達には重要という意見はたくさんありますので、ぜひご自身のトレーニングを見直してみてください。
出典
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