執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
チョコレートってどんな食べもの?
チョコレートはカカオ豆を原料としており、主に以下の工程で作られています。
まず、カカオ豆をローストしてすり潰し、ペースト状のカカオマスにします。このカカオマスにココアバターや砂糖、ミルクなどを加えて味を整えます。これを型に流し込んで固めることで、普段私たちが見るチョコレートの形になるのです。
同じくカカオ豆を原料とするものにココアがありますが、ココアはカカオマスの状態から油脂分を取り除いて作られています。取り除いた油分は「ココアバター」と呼ばれ、チョコレートを作る際、カカオマスに加えられることになります。
ハイカカオチョコレートが人気を集めている秘密は、このカカオ豆に含まれるカカオポリフェノールの健康効果にあります。カカオポリフェノールは強力な抗酸化物質として機能することで知られており、体内で発生した活性酸素を除去するように働きます出典[1]。活性酸素は過剰に蓄積すると「酸化ストレス」として、老化や病気の原因となってしまいます。
そのため、カカオポリフェノールを豊富に含むチョコレートを摂取することで、がんや心血管疾患のリスクを下げたり、肌荒れを改善したりする効果が期待できます。
成分から見るチョコレートの筋トレ効果5つ
手軽に持ち歩けるチョコレートは、筋力トレーニングの前後にもすぐ食べられる、とても便利な食品です。では、そんなチョコレートのどのような成分が筋力トレーニングに良い効果をもたらしているのでしょうか。
運動前後の糖質補給に最適
運動前にはエネルギー補給として、糖質を含む食品を食べることが重要です。糖質が不足した状態で運動を行うと、筋肉合成に使われるはずのたんぱく質が、運動のためのエネルギーとして利用されてしまいます。摂取したたんぱく質を筋肉の合成へと使えるようにするため、運動前には十分なエネルギー補給が欠かせません。
また運動後にも糖質の補給は重要です。消耗した筋肉のグリコーゲンを再補充することで、次の運動に備えることができます。疲労により傷付いた筋肉の回復を促して筋肉の合成効率を上げるためにも、糖質は不足なく摂取したいところですね。
糖質を含むチョコレートは、運動前後の糖質補給として利用できます。チョコレートに含まれる砂糖は分子の小さな糖質であり、分子の大きなデンプンと比べて速やかに吸収されるという性質を持っています。そのため速やかにエネルギー補給を行いたいときには、チョコレートを利用するとよいでしょう。
ただしチョコレートには脂質も豊富に含まれています。チョコレートのみで運動前後に必要となる糖質を全て補おうとすると、脂質の摂りすぎにより消化器への負担が増すほか、カロリーオーバーを引き起こしやすくなります。バナナやおにぎりなど、消化の良い糖質食品と組み合わせて食べることで、摂取カロリーを調節しましょう。
また、チョコレートにはたんぱく質も含まれています。たんぱく質と糖質を同時に摂取することで、インスリンの分泌が促進されます。これにより、筋肉へのグリコーゲン蓄積効率が高まるだけでなく、筋肉たんぱく質の合成促進効果や分解抑制効果が得られることが分かっています出典[2]。このことからも、チョコレートは筋肉の合成効率を上げるための食品として適していると言えそうですね。
カフェインとテオブロミンのW集中素材でパフォーマンスUP
コーヒーから豊富に摂取できるカフェインですが、チョコレートやココアからも摂取できます。
カフェインはアルカロイドの一種であり、様々な健康効果を持つことで知られています。筋力トレーニングにおいては、カフェインの集中力を高める効果や疲労を軽減する効果が、運動のパフォーマンスを向上させる可能性があるとして、期待が寄せられています。
カフェインは摂取後30~120分程度で血中に取り込まれ、新陳代謝を高めたり、運動のパフォーマンスを向上させたりする効果が数時間持続することが分かっています出典[3]。
メタ分析により、カフェインを摂取することによる運動時の筋力の変化を調べたところ、筋力と瞬間的なパワーをそれぞれ増加させる効果が確認されました出典[4]。カフェインの集中力を高める効果は、実際の運動パフォーマンスにも影響を与えていることが分かりますね。
また、カカオに含まれるもう一つのアルカロイドとして、テオブロミンの効果も注目されています。チョコレートの苦み成分であるテオブロミンは、抗酸化物質として機能するだけでなく、血管拡張作用により血行を促進したり、覚醒作用により集中力を高めたりすることが分かっています出典[5]。
カフェインとテオブロミンは、共に体を興奮状態にして集中力を高める効果を持ちます。運動前にチョコレートを食べることで、トレーニングのパフォーマンスを高め、筋肉をより効率よく合成できるようになるでしょう。
カカオポリフェノールによる抗酸化&血流UP
チョコレートを食べることで得られる健康効果として、最も有名なものがこのカカオポリフェノールによる抗酸化作用でしょう。
激しい運動や長時間に及ぶトレーニングにおいては、大量の活性酸素が発生します。これにより筋細胞がダメージを受け、酸化ストレスの蓄積や筋肉の炎症を引き起こしてしまいます。抗酸化物質であるカカオポリフェノールを摂取することにより、筋肉へのダメージを軽減し、筋肉痛や炎症を予防する効果が期待できます。
また、カカオポリフェノールの抗酸化作用は、血行促進にも役立ちます。血管を拡張させるために必要な成分である一酸化窒素(NO)は活性酸素に非常に弱く、容易に分解されてしまうという性質があります。そのためカカオポリフェノールによりNOを保護することで、血管が拡張しやすくなり、良好な血流を確保することができます。
血行促進による疲労感の軽減効果は広く知られていますが、運動時の筋疲労においても軽減効果を発揮します。持久力を要するスポーツのパフォーマンスを向上させる効果が期待できますね。
運動の2時間前に100g のダークチョコレートを摂取した際の、体内の抗酸化能力がどのように変化するか調べるため、ランダム化比較試験が行われました。これによると、運動前にダークチョコレートを摂取したグループでは、同じ栄養素でカカオポリフェノールを含まない食品を摂取したグループと比較して、2.5時間のサイクリング後、酸化ストレス蓄積の指標となる、血中のF2-イソプロスタンの濃度が有意に低下していました出典[6]。
運動前の抗酸化能力の高まりと、運動後の酸化ストレスの軽減が確認されており、長時間の運動における筋肉の消耗やダメージを防ぐ効果が期待できます。
活性酸素の蓄積は、筋細胞にダメージを与えたり血流を阻害したりして、筋力トレーニングの効率を大きく下げてしまいます。カカオポリフェノールを適度に摂取することにより、活性酸素の蓄積を抑えて筋肉を保護しましょう。
エピカテキンが他にはないアプローチで筋肥大を加速させる
チョコレートの中には「エピカテキン」と呼ばれる物質が含まれています。このエピカテキンは、筋肉の成長を抑制する物質である「ミオスタチン」を阻害する効果があり、筋肉の成長を促進する効果が期待できると考えられています。
ヒトおよびマウスの骨格筋を対象に、エピカテキンを投与することによる筋肉への影響が調べられました。これによると、エピカテキンは筋肉の成長を阻害するミオスタチンや、老化のマーカーとして知られるβ-ガラクトシダーゼの量を減少させ、またそれに伴い筋肉成長のマーカーのレベルを上昇させたことが明らかになっています出典[7]。
ミオスタチンはβ-ガラクトシダーゼと同様に、加齢によっても増加することが知られています。高齢になればなるほど筋肉が鍛えづらくなるのは、このミオスタチンなどが増加するためであるとも考えられています。エピカテキンを摂取することで、これらの物質を増やしにくくする効果が期待できます。筋肉の合成効率を若い時の状態に保つため、チョコレートは役立ちそうですね。
また、エピカテキンには一酸化窒素(NO)の合成を促進する効果があることも分かっています。エピカテキンの摂取と血管内皮の柔軟性との関連について調べた研究によると、水にエピカテキンを溶解したものを経口摂取したグループでは、水のみを飲んだグループと比較して、2時間後に血管の拡張具合が増加し、血管の柔軟性が増したことが確認できています出典[8]。
血管の拡張作用により血流が改善し、筋疲労が軽減されます。運動パフォーマンスを向上させ、持久力を高める効果が期待できますね。
フラボノイドがテストステロンを増やし、筋肉量の増大をサポート
カカオの抽出物であるカカオフラボノイドには、アロマターゼ阻害効果があることが確認されています。
筋力トレーニングにおいて、体内のテストステロン量を高めたいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。男性ホルモンであるテストステロンは、筋肉の合成を促進する役割を持つため、筋力トレーニングの合成効率を高めるために役立ちます。
しかしこのテストステロンは加齢とともに減少することが分かっているため、テストステロンの量をいかに増やし、維持するかが筋力トレーニングにおける課題にもなっています。
体内のテストステロンの一部は、アロマターゼという酵素によってエストラジオールに変換されてしまいます。男性ホルモンが女性ホルモンへ変換されるというこの酵素、特に筋力トレーニングをしている男性にとっては厄介に感じてしまいますよね。
このアロマターゼの活性を阻害する効果が、カカオフラボノイドにあることが確認されています。その活性は、乳がんの治療薬として使用されることもある、アロマターゼ阻害剤と同等か、より優れているとも報告されています出典[9]。
テストステロンからエストラジオールへの変換を防ぐことにより、体内のテストステロン量を維持する効果が期待できます。筋肉の合成がより促進される可能性がありますね。
筋トレ効率を高めるチョコレートの食べるタイミングとは?
このように、様々な効果が確認されているチョコレートですが、筋力トレーニングの効率を高めたい場合、どのように摂取するのがよいのでしょうか。以下ではチョコレートを食べるオススメのタイミングなどについて紹介します。
筋トレの1時間前の摂取で集中力UP
チョコレートの摂取タイミング、第一候補はやはり運動前です。糖質補給も筋力トレーニングの1時間から30分前に行うことが多いため、合わせて少量のチョコレートを摂取すると効果的です。
運動における集中力を高める作用のあるカフェインやテオブロミンの恩恵を得るためにも、運動1時間前のタイミングは重要です。特にカフェインは摂取後30~120分で血中濃度が最大になり、効果が数時間持続することが分かっています%%%出典出典3%%%。
また、抗酸化作用を持つカカオポリフェノールを運動前に摂取することで、運動時の筋疲労を軽減したり、筋肉へのダメージを軽減したりする効果も期待できます。長時間の運動の前に摂取することで、運動時の疲労感が軽減され、持久力が高まる効果が期待できそうですね。
運動のパフォーマンスを高めたい場合には、運動前の食事にチョコレートを取り入れることをオススメします。
リカバリー目的で筋トレ後に摂るのもアリ
運動後の摂取でも、チョコレートは効果を発揮することが分かっています。
運動後にチョコレートを食べる時のポイントは、ミルクチョコレートを選ぶか、もしくは他の糖質食品と組み合わせて食べることです。糖質食品や糖質量の多いチョコレートを食べることで、エネルギーを失った筋肉へ速やかにグリコーゲンを貯蔵させることができます。速やかな糖質補給により疲労感の軽減にも繋がると考えられますね。
ミルクチョコレートを運動後に摂取することによる、血中の遊離テストステロン濃度や疲労感の変化を調べるランダム化比較試験が行われました。これによると、ミルクチョコレートを摂取したグループは、スポーツドリンクや他の飲料を飲んだグループと比較して、テストステロン量の増加と、疲労の指標となる血清乳酸、および筋肉の損傷の指標となるクレアチニンキナーゼの減少が確認されました出典[10]。
ミルクチョコレートを運動後に食べることで、疲労感を軽減する効果、および筋肉の合成効率を高める効果が期待できるでしょう。
また、ホワイトチョコレートの摂取においても、エネルギー補給を効率的に行え、持久力が回復するという効果が、マウスを用いた動物実験において確認されています。これはチョコレートにより効率的に糖質を摂取できることと、牛乳に含まれる豊富なたんぱく質と脂質がインスリンの分泌を促すことで、筋肉へのグリコーゲン貯蔵速度が上がることが原因であると考えられています出典[11]。
運動後のリカバリーには、ミルクチョコレートやホワイトチョコレートなど、糖質を多めに含むものを選んでみましょう。なお、これらには脂質も豊富に含まれているため、カロリーの過剰摂取に気を付けつつ、適量の補給を心がけることが重要ですね。
就寝前の多量摂取は睡眠不足を招く危険も
就寝前にチョコレートを食べたいときには、その量に注意する必要があります。
チョコレートは睡眠の質を向上させる、という話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。確かにチョコレートにはGABAなど、リラックス効果をもたらす成分が含まれているため、入眠をスムーズにして睡眠の質を高める可能性があります。
しかし、チョコレートには同時にカフェインも含まれています。カフェイン含有量の多いハイカカオチョコレートを食べたり、就寝前に食べすぎたりすると、カフェインの効果により十分な睡眠が取れなくなる可能性があるのです。
カフェインの摂取と若者の睡眠時間との関係を調査した横断研究によると、アイスティーやコーラなどの飲料に加え、チョコレートバーやチョコレートを含むスナックといったカカオ製品の摂取量が多い人ほど、睡眠時間が短い傾向にあることが分かっています出典[12]。
様々な健康効果が確認されているチョコレートですが、就寝前のハイカカオチョコレートや、ミルクチョコレートの多量摂取は避けた方がいいでしょう。睡眠不足は筋肉の合成効率を大きく下げてしまうため、日々良質な睡眠を摂れるよう、カフェインの摂取量にも気を配りたいものですね。
チョコレートを食べる上での注意すべきこと
筋力トレーニングの効率を上げるための、チョコレートの食べ方について紹介しました。これだけの健康効果があるなら、早速日々のトレーニングにチョコレートを取り入れていきたい、と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかしチョコレートは、食べ方によっては期待した効果を得られなかったり、逆に筋力トレーニングの効率を落としたりしてしまいます。以下ではチョコレートを食べる際の注意点について説明します。
カカオ含有率が70%以上であること
運動後のリカバリーには、ミルクチョコレートやホワイトチョコレートが効果を発揮しますが、それ以外のタイミングで摂取する場合には、カカオの含有率が70%以上のハイカカオチョコレートを選ぶようにしましょう。
ミルクチョコレートはカカオの含有量が少ないため、エピカテキンやテオブロミンといった有効成分を摂取するには非効率です。疫学研究や臨床研究において示されている健康効果のほとんどは、ダークチョコレートによって示されています出典[13]。
カカオポリフェノールやカフェインを効率よく摂取するため、特に運動前の摂取にはハイカカオチョコレートを選ぶようにしましょう。
1日30gを目安に、摂りすぎはNG!
チョコレートは筋力トレーニングの効率を高める食べ物ではありますが、適量を守って食べるようにしましょう。
多量に食べてしまうと、チョコレートに含まれる糖質や脂質が血管にダメージを与え、血流を阻害する可能性があります。また、カロリーの過剰摂取により肥満の原因になることも考えられます。
カカオポリフェノールやカフェインを適切に摂取するための量として、1日30g程度を目安としましょう。
市販のハイカカオチョコレートは、大きな一枚の板チョコではなく、小さく袋分けされていることが多いようです。一袋あたりの何グラムか、何袋まで食べられそうかを、購入時に確認する癖をつけて、食べ過ぎを起こさないよう気を付けましょう。
まとめ
チョコレートは食べるタイミングと量を工夫することで、筋力トレーニングと高相性な食品として活躍してくれます。疲労を軽減して運動のパフォーマンスを向上させたり、筋肉の合成効率を高めたりと、様々な効果が得られます。
夜間の摂取や食べすぎに注意しつつ、効果的にチョコレートを筋トレ生活へ取り入れてみましょう。
出典
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