マグネシウムとは?働きや7つの効果と理想の摂取方法
2023年3月5日更新

執筆者

管理栄養士

鈴木 亜子

大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。

マグネシウムとは

マグネシウムとはいったいどのような成分なのでしょうか。ここでは、マグネシウムの働きや不足した場合の健康への影響、含まれる食べ物などについてご紹介します。

 

1.マグネシウムの正体

マグネシウムは金属の一種で、人間を含む地球上の動植物や鉱石、海水、鉱泉など、自然界に多量に存在しています出典[1]出典[2]

栄養素としてのマグネシウムは、鉄やカルシウム同様人体の機能維持に欠かせない「ミネラル」の一つ。しかし、マグネシウムの研究が進み栄養素としての重要性が明らかになったのは比較的最近です。厚生労働省「日本人の食事摂取基準」に、マグネシウムの摂取推奨量が示されるようになったのも1989年のことでした。

近年、さまざまな病気の発症リスクとの関連性も明らかにされるようになったマグネシウム。その重要性に注目が集まっています。

 

2.重要な理由と働き

人体に不可欠であることが明らかにされている「必須ミネラル」の一種がマグネシウムです。マグネシウムは、食べ物から摂取した栄養素からエネルギーをつくり出したり、体内で効率よく使えるようにしたりするための「酵素」を活性化する働きを担っています。マグネシウムが活性化する体内の酵素の数は、なんと300種類以上出典[3]。私たちの健康に必要な栄養素が体内で有効に使われるためには、マグネシウムが必要であるということになります。

その他、マグネシウムは骨や歯の形成に関わったり筋肉収縮や神経伝達、体温や血圧を調整したりする働きがあります。

 

3.欠乏した場合のリスク

マグネシウムの欠乏は摂取不足の他、腸から十分に吸収できなかったり腎臓から過剰に排泄されてしまったりすることで起こります。通常の食事が摂れていればマグネシウムが欠乏することはあまりありませんが、下痢が続いたり大量に飲酒したりする方はマグネシウムが欠乏する可能性も考えられるでしょう。

マグネシウムが欠乏すると、筋肉のけいれんや骨粗しょう症、神経・精神疾患などを引き起こすことが知られています。また、高血圧や糖尿病、心疾患、脳卒中などの病気と関連があるともいわれています。

 

4.マグネシウムを豊富に含む食材

マグネシウムは穀類、野菜類、海藻類、豆類、種実類(ナッツ)、魚介類に多く含まれています。


【マグネシウムを豊富に含む食品(穀類)とその含有量(100gあたり)】出典[4]

食品名

状態など

含有量

玄米

水稲穀粒

110mg

あわ 

精白粒

110mg

きび

精白粒

84mg

そば 

65mg

 

【マグネシウムを豊富に含む食品(野菜類・海藻類)とその含有量(100gあたり)】出典[4]

食品名

状態など

含有量

カットわかめ

460mg

焼きのり

300mg

切り干しだいこん

160mg

しそ

葉・生

70mg

ほうれんそう

69mg

枝豆

62mg

ごぼう

54mg

おくら

51mg

 

【マグネシウムを豊富に含む食品(種実類)とその含有量(100gあたり)】出典[4]

食品名

状態など

含有量

ごま

いり

360mg

アーモンド

フライ・味付け

270mg

カシューナッツ

フライ・味付け

240mg

くるみ

いり

150mg

 

【マグネシウムを豊富に含む食品(豆類・魚介類)とその含有量(100gあたり)】出典[4]

食品名

状態など

含有量

油揚げ

150mg

糸引き納豆

100mg

あさり

100mg

がんもどき

98mg

きんめだい

73mg

くろまぐろ

赤身・生

45mg

かつお

42mg

効率よくマグネシウムを摂取できる食べ物としては、ナッツ類が挙げられるでしょう。また「あわ」や「きび」は雑穀米として摂取できます。普段から玄米や雑穀米を食べているという方も、マグネシウムを摂取できているといってもよいかもしれませんね。

 

マグネシウムの効果や利用目的

それではマグネシウムに期待できる主な効果をご紹介します。

 

1.エクササイズや運動能力向上

マグネシウムは筋肉の収縮に関与する他、エネルギー産生にも関わるなど運動と深い関係のある成分です。

筋肉を動かすエネルギー源として、瞬発力が必要な競技では体内の糖質が、長時間にわたる持久力の必要な競技では脂質が使われます。マグネシウムは糖質や脂質の代謝にも関わるため、運動時のエネルギーをスムーズにつくり出すことで運動パフォーマンスを向上させる効果が期待できるでしょう。

またマグネシウムの補給は、加齢による運動能力の低下にも効果を示すことが報告されています。

18〜79歳の2,570名の女性を対象とした研究によると、マグネシウムを十分に摂取することは加齢に伴う筋肉量や筋力の低下を抑制することが示唆されました。特に筋肉量および筋力低下の危険因子と考えられている「慢性炎症」との関連は、マグネシウムの摂取が多ければ多いほど薄くなることが分かりました出典[5]

また、25名のプロバレーボール選手を対象とした研究では、1日あたり350 mgのマグネシウムを摂取した群で、乳酸レベルの減少や垂直跳びおよび腕振りを伴う垂直跳びの有意な増加(最大3 cm)が見られました出典[6]

日頃からスポーツをする方や、加齢による運動能力の低下を防ぎたいという方は意識してマグネシウムを摂取してみましょう。

 

2.骨を健康的な状態に維持する

体内のマグネシウム約6割は骨や歯に含まれています出典[3]。骨の健康に関わる栄養素といえば、カルシウムが思い浮かぶでしょう。また、カルシウムの吸収を促進する作用を持つのがビタミンDです。マグネシウムは、これら二つの成分と密接に関与し、骨の健康を維持しているのです。

一般的に高齢の女性に多いとされる「骨粗しょう症」の予防には、カルシウムやビタミンDをバランスよく摂取することが必要であるとされています。それに加え、マグネシウムを補給することも効果的であるといった報告が挙げられています。

骨粗しょう症、骨減少症、正常骨密度の閉経後の女性それぞれ40名において、血清マグネシウム濃度を測定したところ、骨粗しょう症女性の血清マグネシウム値は、骨減少症または骨粗しょう症や骨減少症のない女性よりも低いことが明らかになりました出典[7]

また、短期の研究によってもマグネシウムの骨に与える影響が報告されています。閉経後の骨粗しょう症女性20名に1日あたり290 mgのマグネシウムを30日間摂取させたところ、マグネシウムを摂取しない群と比較して骨代謝の改善および骨量減少が低下しました出典[8]

現在骨密度が低めだといわれている方、将来骨粗しょう症が心配だという方は、カルシウムやビタミンDと一緒にマグネシウムの摂取も忘れてはいけません。

 

3.頭痛の予防や緩和

マグネシウムには片頭痛の予防や症状緩和に役立つ可能性があります。

片頭痛の発生に関与しているといわれているのが、血管収縮作用のある「セロトニン」です。脳内でセロトニンが分泌されると血管が収縮し、その収縮した血管が拡張することで片頭痛が起こります。なお、セロトニンはストレスなどにより過剰に分泌されることが知られています。

マグネシウムは、片頭痛の原因となる脳血管の緊張を緩和したり炎症性物質の産生を防いだりすることで、痛みを予防したり緩和すると考えられているのです。

月に3回以上の片頭痛発作を起こした130名の成人片頭痛患者(18〜65歳)にマグネシウムを含むサプリメントを投与したところ、片頭痛の頻度を有意に減少させました出典[9]

また、前兆のない片頭痛のある30人の患者(月に2~5回の片頭痛発作のある20~55歳)に600 mg /日のクエン酸マグネシウムを投与した結果、発作の頻度や重症度などが、マグネシウムを摂取しない群よりも有意に低いことがわかりました出典[10]

定期的な片頭痛に悩まされているという方には、マグネシウムはおすすめの成分であるといえます。
 

4.不安やうつ症状の緩和や改善

マグネシウムは神経・精神機能に重要な役割を果たしています。さまざまな研究においても、マグネシウムの不足がうつや不安症状などの精神障害に関わっている可能性や、マグネシウムの補給によりこれらの症状が改善したことが報告されています。

うつ病のスクリーニングに用いられるPHQ-9 スコアが5~19(軽度~中等度)で、現在症状がある成人126名(平均年齢52歳、男性38%)を対象とした研究が行われています(分析可能なデータを提出できたものは126名中112名)。この研究では、対象者に塩化マグネシウムを6週間摂取させたところ、PHQ-9スコアの改善が2週間以内に観察されました出典[11]

また、2型糖尿病と低マグネシウム血症の23名の高齢患者に、マグネシウム450mgに相当する塩化マグネシウム25%溶液50mLまたはイミプラミン(抗うつ薬)50mgを12週間毎日投与する研究では、塩化マグネシウム25%溶液50mL/日はイミプラミン50mg/日と同様の効果があることが示されました出典[12]

仕事などで精神的なストレスを抱えやすいという方は、マグネシウムの補給が役立ちそうですね。
 

5.睡眠の質の改善

マグネシウムを摂取することで寝付きや目覚めの良さなどのほか、睡眠に関わるホルモンの分泌をコントロールし、睡眠の質を高める効果が期待されています。

46名の高齢者に8週間にわたりマグ​​ネシウム500mgを毎日投与したところ、ISIスコア(不眠重症度指数)、睡眠効率、睡眠時間と入眠潜時(起きている状態から入眠までにかかる時間)、早朝の目覚めなどの不眠症の症状および睡眠に関与するホルモン(レニン、メラトニン、コルチゾール)濃度を改善させることが示唆されました出典[13]

また、3か国の151名の高齢者を対象とした3件の試験結果から、マグネシウムを摂取した場合、摂取しない場合よりも入眠潜時が17.36分短いことが示されました出典[14]

寝付きが悪い、すっきり起きられないなどの悩みがある方は、マグネシウムを意識して摂取してみましょう
 

6.血糖値の改善

マグネシウムは、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効きをよくすることで血糖値を改善する可能性が示唆されています。

1966年から2007年2月までに行われた、マグネシウム摂取量と2型糖尿病の発生率との関連について報告している前向きコホート研究を調査したところ、マグネシウム摂取量が多いほど2型糖尿病の発生率が低いことが分かりました出典[15]

また、2型糖尿病の患者54名に3ヶ月間毎日300mgのマグネシウム(硫酸マグネシウムとして)を投与したところ、空腹時血糖が大幅に改善されたと同時に血中脂質のデータおよび血圧も改善しました出典[16]

血糖値が気になるという方は、マグネシウムが不足しないよう積極的に摂取することが望ましいといえそうですね。

 

7.PMS(月経前症候群)の緩和

月経前の精神的症状(イライラ、気分の落ち込み、不安感など)や身体的症状(腹痛、頭痛、むくみなど)の緩和に、マグネシウムが効果を示すとされています。

PMSの症状がある18〜45歳の女性(月経周期25〜35日:PMS質問票で25ポイント以上のスコア)41名に、最終月経開始20日後から次の月経開始までの3月経周期にわたりマグネシウム250mgを投与しました。その結果、3ヶ月の平均PMSスコアは、治療前よりも有意に低下しました出典[17]

月経前はイライラしてしまう方や、体の不快な症状を和らげたいと考えている方にはぴったりの成分であるといえますね。

 

マグネシウムの飲み方や注意点

マグネシウムが不足すると筋肉のけいれんや骨粗しょう症、神経・精神疾患の他、生活習慣病のリスクがあります。しかし、過剰摂取による健康被害は現時点で報告されていません。

通常、一般的な食生活を送る健康な方ではマグネシウムの過剰摂取は心配ないとされています。万が一摂り過ぎてしまった場合でも、尿中に排泄されます。ただし、サプリメントや薬剤などの利用による過剰摂取があった場合は、軟便や下痢を起こす可能性があるため注意しましょう。

1日あたりのマグネシウムの摂取推奨量は以下の通りです。


【マグネシウムの1日あたりの食事摂取基準(推奨量)】出典[2]

性別/年齢

男性

女性

18~29歳

340mg

270mg

30~49歳

370mg

290mg

50~64歳

370mg

290mg

65~74歳

350mg

280mg

75歳以上

320mg

260mg

妊娠中の方は各年代に+40mgが推奨量として設定されています。

また平均摂取量は成人男性で270mg、成人女性で242mg出典[18]となっており、摂取推奨量を満たしていないのが現状のようです。

マグネシウムは、体内の多くの代謝に関わったり骨の健康や生活習慣病対策などへの効果が期待されていたりする成分です。そのため、マグネシウムを多く含む食べ物を積極的に取り入れたり、必要に応じてサプリメントなどを取り入れたりするなどして必要量を満たすよう工夫するのがよいといえるでしょう。

なおマグネシウムはアルカリ性であることから、摂取することで胃酸が中和され消化が悪くなることがあります。そのため、サプリメントなどを摂取する場合は食間(空腹時)の摂取がおすすめです。

 

まとめ

マグネシウムは金属の一種ですが、人体に必要なことが明らかとなっている「必須ミネラル」でもあります。

体内で行われる多くの代謝に関与し、骨の形成に関わるなど重要な働きを持つマグネシウムは、最近では生活習慣病と深い関わりがあることが分かってきました。さらに疲労回復や運動能力の向上、PMSの症状軽減や睡眠の質を高める効果などへの期待も高まっています。

マグネシウムの推奨摂取量には基準があるものの、実際の摂取量は不足傾向にあるようです。私たちの体に不可欠なミネラル「マグネシウム」を積極的に摂取する意識を持つことが大切であるといえるでしょう。

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