執筆者
管理栄養士
鈴木 亜子
大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。
イチョウ葉とは
イチョウ葉が健康に良い影響を与える成分であることをご存じなかったという方も多いでしょう。
ここではイチョウ葉がどのような成分なのか、その働きなどについて見ていきましょう。
1.どんな栄養素?
およそ2億年前から存在し「生きた化石」とも呼ばれるイチョウ。イチョウの起源は中国にあるとされ、葉や果実は古くから薬用としても利用されてきたと言われています。
イチョウ葉、厳密にはイチョウの緑葉から抽出されたエキスには「フラボノイド配糖体」「テルペンラクトン(ギンコライド・ビロバライド)」と呼ばれる有効成分が含まれています。
これらの成分には抗酸化作用や血流促進作用、認知機能の改善、記憶力の向上効果などが期待されています。
なおイチョウ葉には有効成分の他「ギンコール酸」と呼ばれる有害物質が含まれています。そのためイチョウ葉をサプリメントなどとして利用する際には、このギンコール酸を取り除かなければいけません。
公益財団法人日本健康・栄養食品協会の基準ではギンコール酸の濃度を5ppm以下としています出典[1]。
2.体の中でどんな働きをする?
イチョウ葉に含まれるフラボノイドには、老化を引き起こす活性酸素を取り除く抗酸化作用や血流促進作用、テルペンラクトンには血栓防止や抗炎症・抗アレルギー作用があります。
フラボノイドとテルペンラクトンの相乗効果により、細胞の酸化(老化)を防いだり脳をはじめ体内の血流を促進したりすることで、効果を発揮すると考えられています。
ただしそのメカニズムははっきりと明らかにされておらず、研究段階にあると言えます。
イチョウ葉に確認されている作用や効果
健康への効果が報告されているイチョウ葉ですが、大規模および長期的な研究では否定的な結果も出されるなど、今後のさらなる研究に期待が寄せられています。
ここでは現時点でイチョウ葉に確認されている作用を、研究論文をもとに見ていきましょう。
1.記憶力を含む認知機能の向上
イチョウ葉には記憶力を向上させる効果が期待されています。
記憶障害の症状を有する平均年齢57.3±5.8歳の男性14名、女性17名の31名の成人被験者を対象にα-リポ酸、イチョウ葉抽出物、および L-カルニチンを含むサプリメント12週間摂取させ、補給前後の認知機能を調査しました。その結果、即時記憶および短期記憶、言語、注意力が大幅に改善されました出典[2]。
また別の研究では健康な若年層への効果および即効性に関する検討も行われています。20名の被験者に120mg、240mg、360mgのイチョウ葉抽出物を投与し認知能力について調査しました。その結果、最も顕著だったのが240mg、360mgの群の「注意力」に対する効果。その効果は2.5時間後に現れ6時間後も持続していました。記憶力など他の要因についても、時間や用量に応じた変化が多くみられました出典[3]。
これらの研究から、イチョウ葉は年齢問わず認知機能の向上に役立つ成分であると言えますね。
2.不安感の緩和
イチョウ葉には高齢者の認知機能を向上させる他、気分の安定に寄与すると言われています。また精神機能の低下した方の不安感を軽減させることも分かっています。
18〜70歳の全般性不安障害または不安感の強い適応障害の患者107名に、イチョウ葉抽出物(Gb761)を480mgおよび240mgを毎日4週間摂取させ、その効果をハミルトン不安評価尺度によって評価しました。その結果、イチョウ葉抽出物(Gb761)には用量依存性の抗不安効果があることが示唆された他、抗不安薬(ベンゾジアゼピン)を用いた試験で観察された効果と同様であることが分かりました。
イチョウ葉が不安感を緩和させるメカニズムは明らかではありませんが、深刻な副作用がなかったことや依存性の低さなどから、若い世代から高齢者までの治療に適している可能性があります出典[4] 出典[5]。
3.血流の改善
イチョウ葉には血管内皮機能を改善させ、血流を促す作用が報告されています。
80名のCAD(冠動脈疾患)患者にイチョウ葉エキスを投与したところ、プラセボ群と比較して一酸化窒素(NO)の産生が増加し、血流を改善させる可能性が示唆されました出典[6]。
冠動脈疾患とは、心臓への血液供給が減少したり途絶えたりすることによって心筋が酸素不足となって起こる病気です。
この研究結果は、イチョウ葉を投与することで血管内皮細胞から放出され血流を促進する物質NOを増加させ、同じく血管内で産生され血管を収縮させる物質エンドセリン1との比率の回復に関係している可能性を示唆しています。
4.総コレステロール値と中性脂肪値の改善
イラク共和国モスル市で行われた研究では、50名の内服治療中(バルサルタン投与)の高血圧患者に対しイチョウ葉80mgを1日2回2ヶ月間投与したところ、総コレステロール値と中性脂肪値が有意に低下したことが報告されています。
なおLDL、HDL、VLDL、AI(動脈硬化指数)には、明らかな変化は見られませんでした出典[7]。
5.男性機能の改善
イチョウ葉は男性機能の改善に効果的であるという研究結果が報告されています。
動脈性勃起不全患者50名に、イチョウ葉エキス240mgを9ヶ月間経口投与したところ、治療前に陰茎海綿体注射で十分な勃起が得られた患者全員が、投与開始6ヶ月後に自然な勃起を取り戻し陰茎流速と硬直の改善を認めました。さらに陰茎注射で十分な勃起が得られなかった30名のうち11名には効果が表れなかったものの、19名がイチョウ葉エキス投与により改善を示しました出典[8]。
またSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のパロキセチンやジェイゾロフトなどの抗うつ薬投与中は、性欲低下や性機能障害の副作用が多くみられます。これは、抗うつ薬が精神安定に働く神経伝達物質「セロトニン」の作用を高めるためです。
本来勃起は興奮作用のある、同じく神経伝達物質「ドーパミン」の働きによって陰茎への血流が促されることで起こりますが、セロトニンはドーパミンの働きを抑制してしまう作用があるのです。
このような症例に対してもイチョウ葉は効果が期待できると報告されています。
63名を対象に行った試験では、SSRIによる性機能障害に対して84%の方に効果があったことが明らかになりました出典[9]。
頭痛や胃腸の不調などの副作用はあったものの、抗うつ薬などによる性機能の低下に悩む方には期待できる成分であるといえるでしょう。
6.アルツハイマー病の認知機能の改善
今後の研究の余地はあるものの、イチョウ葉はアルツハイマー病の症状の一つである認知機能の低下に効果を示す可能性があることが報告されています。
多くの研究結果を包括するとイチョウ葉エキスを長期にわたり(24週間以上)、適切な用量 (1日当たり240mg)投与することで、軽度のアルツハイマー病患者の認知機能を改善する可能性があるようです。ただし長期的な経過をたどるアルツハイマー病においては、イチョウ葉エキスの効果は時間経過とともに変化する可能性があると考えられました出典[10]。
イチョウ葉の摂取方法や注意点
イチョウ葉には健康に良い影響を与えるという報告が多く挙げられているとは言え、その効果については研究段階の成分でもあります。そこで気になるのが実際に摂取する場合の目安量や安全性ではないでしょうか。ここではイチョウ葉を摂取する際の推奨量や安全性、注意点などを見ていきましょう。
1.どのくらい摂取すればいい?
多くの研究で用いられているイチョウ葉エキスは、主にEGb761と呼ばれる規格標準品です。このイチョウ葉エキスはドイツで医薬品として取り扱われているもので、6%のテルペノイドおよび24%のフラボノイド配糖体を含むように標準化されています。
メーカーが推奨する標準用量は40mgを1日3回、もしくは80mgを1日2回ですが、主な研究結果によると200mg以上で効果が現れる可能性があるようです出典[11]。
2.健康に摂取できる量は?
EGb761のような標準化されたイチョウ葉エキスを用いた場合の摂取量の最大は、1日当たり240mgであると考えられています出典[12]。
ただし、この用量が欧州薬局方に則って調製されたすべてのイチョウ葉エキスに適応されるかについては定かではありません。またサプリメントなどとして利用されているイチョウ葉についても、同様であるとしています出典[12]。
3.相性の悪い薬は?
イチョウ葉には血流促進・血液凝固抑制作用があるため、アスピリンなどの抗血小板薬やワルファリンなどの抗凝固薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)内服中の方は注意が必要です出典[11]。
まとめ
イチョウ葉から抽出されるエキスは、有効成分であるテルペノイドやフラボノイドの効果により、認知機能の改善や血流促進、男性機能の向上などへの効果が期待されている成分です。現在も統合失調症や月経前症候群(PMS)、めまい、目に対する効果などへの評価が行われており、今後のさらなる研究に期待が寄せられています。
出典
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