執筆者
NSCA-CPT/調理師
舟橋位於
東京大学理学部卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。大学入学後に筋肉に興味を持ち、自分の体で学んだ理論を体現してきた。日本の筋肉研究で有名な石井直方教授のもとで学び、ティーチングアシスタントとして、学生へのトレーニング指導を行った経験も。自分が学んだ知識を伝えることで、一人でも多くの方の健康をサポートしたいと考えている。
そもそも不安とは
「不安」と聞くとマイナスの印象を持つ方多いかもしれません。しかし私たちは不安を感じるから、未来に起こる脅威を避けることができます。つまり不安は、未来に対する「心構え」とも言い換えられるでしょう。
しかしながら、不安があまりにも強くなってしまう状態や、脅威がないのにもかかわらず常に不安を感じている状態は、異常であると言えます。
不安には、一時的な不安を表す「状態不安」と、個人が不安を感じる傾向を表す「特性不安」があります出典[1]。状態不安のひとつの例は、プレゼン前や面接前に感じる一時的な不安です。一方の特性不安は、状態不安の個人の感じやすさの程度の差のことを指します。つまり同じ問題に直面した場合でも、人によって感じる不安の大きさが異なることを意味します。特性不安が大きい傾向にある人は、一般的には不安と感じないような出来事でも、強い不安を感じてしまう可能性があります。
身体を動かすことで不安は解消できる
もしあなたが不安を解消したいと考えているのであれば、一時的な不安であれ日常的な不安であれ運動は良い薬になるかもしれません。実際に2021年に発表された最新の研究によると、定期的に運動をしている人は、不安を発症するリスクが60%近く小さいことが示唆されています出典[2]。これまでの研究から運動は身体的・心理的・社会的側面から不安を解消するのではないかと考えられています出典[3]。
▼運動が不安を解消するメカニズム
- 不安の原因になっているストレスを解消する
- 不安を一度、頭から切り離すことができる
- 不安によって強張った身体をほぐすことにつながる
- 心拍の増加や交感神経の活性が不安特有の事象でないことを理解できる
- セロトニンやドーパミンなどの気分に関わるホルモンを調節する
- 目標達成能力を持っていると認識することができる
- 社会的なつながりにより脅威を感じにくくなる
不安解消に有効なエクササイズ7つ
不安について理解したところで、早速、不安解消に有効なエクササイズに関する内容を見ていきましょう。
ここでは、エクササイズのヒントとなる情報を7種類紹介します。中には強度が非常に高いものもありますので、無理せず、体力や運動経験に合ったものを選んでみてくださいね。
とにかく21分身体を動かしてみる
みなさんは、いざ運動しようと考えた場合に、どのくらいの時間なら続けられそうですか。10分かからずに終わるヨガや筋トレもあれば、30分程度は継続できる有酸素運動などもあります。実は、不安を取り除くことを狙う場合は、運動はあまり短すぎない方が良いとの報告があります。
アリゾナ州立大学は、運動と不安に関する過去の研究を改めて分析し直し、その内容を1991年にまとめました。分析の結果、複数の研究の共通点として、最低21分の運動が、状態不安と特性不安の両方を減らす可能性があることが分かりました出典[4]。
不安の軽減を狙って運動する場合は、20分程度は続けてみることを一つの目安にすると良さそうですね。
息が上がるペースで30分間自転車を漕ぐ
サイクリングは、運動初心者でも気軽に取り組みやすく、不安を軽減する効果もある運動です。休日に計画を立てて自転車で少し遠出をすることは、身体的な健康増進という面だけでなく、精神面にも良い影響があります。また、通勤や通学の一部で自転車を使用することができれば、日常的に恩恵を受けられる可能性も高まると言えるでしょう。
アメリカの大学は、37名の成人男性を対象に、中強度の自転車運動と状態不安の関係を調べる研究を2013年に実施しました。その結果、運動を行わなかった場合と比べて、30分の強度の高い自転車運動を行った場合には状態不安が抑えられることが分かりました出典[5]。
川沿いに安全が確保できるサイクリングコース等がある場合は、利用してみてはどうでしょうか。その場合は、息が上がるペースで30分間続けることを意識してみてください。
自然の中をウォーキング
体力や持病等の問題で自転車に乗ることができない場合は、ウォーキングを行ってみるのはどうでしょうか。ウォーキングは関節への負担が少なく、強度もそれほど高くないため、幅広い人が取り組める運動です。ウォーキングで体力をつけることができれば、さらに強度の高い運動に挑戦できる可能性も増えるでしょう。
アメリカの大学の2015年の研究では、50分の自然散策に出かけた平均年齢24.1歳の被験者は、不安感が軽減されたことが分かりました出典[6]。
この研究の興味深い点は、同じ時間のウォーキングを街中で行った場合は、不安の低減が見られなかった点です。ただ単に街中を歩くよりも、緑が生い茂る公園をウォーキングした方が、不安解消に効果的かもしれませんね。
家トレ・短時間のHIITで不安撃退
近年、フィットネス雑誌やYouTubeなどでも紹介されることが増えてきた運動として、HIIT(高強度インターバルトレーニング)があります。HIITは、短時間で強度の高い運動を行う点が特徴で、有酸素運動と比べると、短い運動時間でもさまざまな効果が得られる点がメリットです。これまでに紹介した運動と同様に、HIITにも、不安を低減する効果があることが分かっています。
スペインの研究者は、筋力トレーニングを複数組み合わせた形式のHIITによって、不安の軽減と、不安状態から回復する力の向上が見られたことを、2021年に発表しています出典[7]。この際に実施されたトレーニングメニューの概要は以下のようなものです。
被験者は、自分の体重や水の入ったボトルを負荷にして、4種目の筋力トレーニングを行いました。1セットの継続時間は30秒から90秒で、セットの間に15秒から60秒の休憩時間を挟みながら、合計10セット程度を実施しました。トレーニングの強度は、ややきついと感じる範囲から、きついと感じる範囲までです。
HIITには、ここで紹介したもの以外にも多くの種類があります。強度が非常に高く、初心者には難しいものもありますが、興味がある方は、ぜひ挑戦してみてくださいね。
定期的な運動が慢性不安を解消する
ここまでは、単発の運動による不安軽減効果を紹介してきました。1回の運動だけでも不安を減らす効果はありますが、より多くの効果を得ようと考えるならば、習慣的に運動を行うことが勧められます。気が向いた時にだけなんとなく運動するのではなく、具体的な目標を立てて継続することを考えると良いでしょう。
スウェーデンの研究者らは、30キロメートルから90キロメートルの超長距離スキー競技者は、運動していない人と比べて、不安障害になるリスクが60%低いことを2021年に発表しています出典[8]。また、アリゾナ州立大学は、10週以上にわたって運動を行うことが、特性不安の減少には必要だと報告しています出典[4]。
運動を継続することで、長期的な視点での不安軽減効果も望めると言えそうですね。通勤や通学の際に一駅分歩いたり、夕食前に10分間の自重トレーニングを行ったりすることは、継続しやすい運動の一例です。何より習慣化することが大切なので、まずは簡単なものから始めてみてはいかがでしょうか。
20分×6回の運動プログラムで不安への免疫をつける
個人ごとの不安の感じやすさを表す言葉として、特性不安というものを冒頭で解説しました。この特性不安、すなわち不安の感受性を運動で低くすることができれば、困難に直面した場合でも、今までよりも落ち着いて行動できるかもしれないですね。
2004年にアメリカの研究者は、有酸素運動が不安の感受性を低下させることを報告しています出典[9]。
この研究では、被験者を、高強度運動を行うグループと低強度運動を行うグループに分けています。高強度グループはトレッドミルでのゆっくりとした走行、低強度グループはウォーキングが課題として与えられました。被験者たちは1回20分の運動を2週間の間に合計で6回行い、その後に、不安の感受性を調べるテストが実施されました。
実験の結果、双方の運動グループにおいて、不安を示す数値が低下する(不安を感じにくくなる)ことが分かりました。さらに、高強度運動を行ったグループは、低強度グループよりも、不安の感受性が低下したことも示されています。
大きなプロジェクトの前で、普段より不安が大きいと感じる場合は、その期間に集中的に体を動かしてみると良いかもしれませんね。また、より高い効果を望むのであれば、ある程度の強度の運動を実施してみることもおすすめです。
スポーツサークルに参加してみる
一人で過ごす時間が多いことで、不安が長期間続いていると感じる場合は、スポーツサークルに参加してみるのはどうでしょうか。人と接することによるプラスの影響を受けられる可能性があります。実際に、集団で行うエクササイズには、不安を軽減させる効果があることが報告されています。
2019年に、アメリカの研究者たちは、個人競技者と集団競技者を対象に、不安感や抑うつ状態の有無を調べました。その結果、個人競技者の13%が不安や抑うつ状態に悩まされているのに対し、集団競技者で同じ悩みがある割合は7%であることが分かりました出典[10]。
個人で行う運動にも不安軽減効果があることはこれまでに述べてきましたが、機会があるならば、スポーツサークルに参加してみてはどうでしょうか。所属する自治体のwebサイト等で、活動している団体を検索できることもありますので、興味のある方は調べてみてくださいね。
まとめ
今回は、不安と運動の関係について解説しました。
運動によって、一時的な不安状態を解消できるだけでなく、不安の感受性を低下させることができることは、普段から不安を感じやすい人には朗報だったのではないでしょうか。運動で不安にうまく対応することができれば、ビジネスにおいても良い結果を残すことにつながりそうですね。
また、高強度の運動だけでなく、低強度の運動にも不安を改善する効果があることも紹介しました。エクササイズの7つのヒントを参照しながら、自分の体力に合わせて、少しずつでも取り組んでみてくださいね。その際に、不安の改善を狙う場合は、20分程度は運動を継続する必要があることも覚えておくと良いでしょう。
出典
- 1.
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/23/3/23_269/_article/-char/ja/ - 2.
Svensson M, Brundin L, Erhardt S, Hållmarker U, James S, Deierborg T. Physical Activity Is Associated With Lower Long-Term Incidence of Anxiety in a Population-Based, Large-Scale Study. Front Psychiatry. 2021 Sep 10;12:714014.
- 3.
Anderson E, Shivakumar G. Effects of exercise and physical activity on anxiety. Front Psychiatry. 2013;4:27. Published 2013 Apr 23.
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