執筆者
管理栄養士
鈴木 亜子
大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。
セントジョーンズワートとは
「セントジョーンズワート」について、名前を聞いたこともないという方もいらっしゃるかもしれませんね。ヨーロッパでは医薬品としても用いられているセントジョーンズワートとは、いったいどんな成分なのでしょうか。
セントジョーンズワートの特徴や歴史
セントジョンズワートは、オトギリソウ科オトギリソウ属に分類される植物。レモンのような香りのする黄色い花をつけるセントジョーンズワートは、和名を「セイヨウオトギリソウ」といいます。
セントジョーンズワートの歴史は古く、古代ギリシアの時代から民間薬として、利尿や月経困難症の改善、傷薬などとして用いられていました。現在ではうつ症状の改善効果等が期待できる成分として知られていますが、有効成分ヒペリシンによるこの効果が確認されたのは20世紀半ばのこと。以来セントジョーンズワートは、国によっては抗うつ薬として利用されるようになりました。
セントジョーンズワートは日本と海外では扱いが違う?
セントジョーンズワートに含まれる有効成分ヒペリシンには、うつ症状を改善する作用があるとされているため、ドイツなど一部のヨーロッパの国々では医薬品扱いとなってます。
一方、アメリカや日本では医薬品としての使用が認められていません。そのため、サプリメントやいわゆる健康食品などとしての使用に限られています。つまり、セントジョーンズワートの日本での扱いは「食品」ということになります。
セントジョーンズワートに確認されている機能や効果
それではセントジョーンズワートに期待できる主な効果をご紹介します。
1.不安や落ち込みの緩和効果
セントジョーンズワートに含まれる有効成分であるヒペリシンおよびヒペルフォリンは、脳内の神経伝達物質で精神の安定に関わる「セロトニン」を増加させる可能性があるといわれています。この成分の作用により、気分の落ち込みや不安感の緩和効果が期待されています。
セントジョーンズワートの効果について、うつ病患者3,808名を対象として行われた27件の臨床試験結果を分析したところ、軽度~中等度のうつ病ではHAM-Dスコア(ハミルトンうつ病評価尺度)において、SSRI(抗うつ薬)と同程度の有効性があることが分かりました。
また、4週間以上継続してセントジョーンズワートを摂取させた研究結果を分析したところ(計6,993名を対象とした35件の研究)、抗うつ薬と比較して有害事象が起きにくく、軽度~中等度のうつ病では有効性にも差がありませんでした出典[1]。
セントジョーンズワートは日本ではサプリメントやハーブティーで取り入れることができます。日々のストレスからくるイライラや不安感を解消したいと考えている方にはおすすめの成分であるといえますね出典[2]。
2.PMS(月経前症候群)の症状緩和
月経前に出現し数日間継続する、精神的あるいは身体的な不快な症状がPMS(月経前症候群)です。PMSは、月経の開始に伴い症状が軽減、もしくは消失するという特徴があります。
PMSの症状は頭痛やむくみ、下腹部痛などの身体的症状の他、イライラや情緒不安定などの精神的症状、食欲の増加や衝動買いなどの行動的症状などさまざまです。
セントジョーンズワートには、これらのPMSの症状を緩和させる効果が期待されています。
安定した月経周期(25〜35日)で、軽度の月経前症候群(PMS)と診断された18〜45歳の36名の女性においてセントジョーンズワートの効果を調査しました。2回の月経周期で900mg /日のセントジョーンズワートを摂取したところ、気分や痛みの改善は対照群と差がありませんでしたが、腹痛や頭痛、むくみ、腹部や胸の張りなどの身体的症状や、食行動の変化(食欲が増す、甘いものが食べたくなるなど)が有意に改善されました出典[3]。
ご紹介した上記研究調査では、PMSの気分の不調に対する効果は示されていないものの、セントジョーンズワートにはうつ症状を改善する効果が期待されています。そのため、PMSによる気分の落ち込みにも効果が期待できると考えられるでしょう。
気分の不調以外にも、頭痛や腹痛、むくみなどPMSの身体的な症状の改善が期待できるため、少しでも症状を改善したいという方は取り入れてみる価値はありそうですね。
3.更年期の症状緩和
加齢とともに卵巣の機能が徐々に低下し、月経が完全に停止した状態が「閉経」です。この閉経前後の期間を「更年期」といいますが、更年期には女性ホルモンの低下によりさまざまな症状が出現します。中でも症状が重く、日常生活に支障を来すほどのものが「更年期障害」です。
代表的な症状には「ほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)」「発汗」などがありますが、更年期の症状は多岐にわたります。セントジョーンズワートにはこの更年期に起こる症状の緩和が期待されています。
更年期の代表的な症状の一つ「ほてり」のある40〜65歳の閉経期の女性47名に、12週間セントジョーンズワート(エタノール性セントジョーンズワート抽出物:300mg×3/日)を投与したところ、対照群と比較してほてりが有意に改善するとともに、睡眠障害の減少などQOLが有意に向上したことが報告されました出典[4]。
加齢に伴う更年期は誰にでも訪れるものですが、更年期の症状に悩まされずに健やかに過ごしたいと考えている方は、意識して摂取してみるのもよさそうですね。
4.褥瘡の改善
セントジョーンズワートは、古くから民間薬として皮膚にできた傷や火傷、打撲傷などの治療に用いられており、褥瘡の治癒にも有効であるとされています。
褥瘡(じょくそう)とは、いわゆる「床ずれ」のことです。体の一部が長時間圧迫されることで血流が途絶えた結果、その部分の組織が損傷し褥瘡が生じます。
集中治療室(ICU)入室中の患者に40日間連続して褥瘡の治療のためにセントジョーンズワートの油性抽出物を塗布したところ、肉眼的にも組織病理学的評価からも、褥瘡の改善がみられました。このことから、セントジョーンズワートは褥瘡の治療に有効であることが示唆されました出典[5]。
褥瘡の治療には栄養管理やスキンケア、体圧分散なども重要ですが、セントジョーンズワートは傷そのものの治癒に有効であると考えられますね。
セントジョーンズワートの推奨量と副作用
さまざまな効果が期待されるセントジョーンズワートですが、摂取量の目安などはあるのでしょうか。ここでは、セントジョーンズワートの副作用のリスクや、摂取するにあたっての注意点などについて解説します。
セントジョーンズワートの副作用リスク
経口摂取の場合、短期間であればほとんどの方が安全に摂取できるといわれています。しかし場合によっては睡眠障害、不安感、頭痛、めまい、胃の不快感や下痢、神経過敏などの症状が現れたり、肌が日光に過敏に反応してしまったりする可能性もあるようです。
また、データは不十分ですが、妊娠中および授乳中の方は摂取してはいけません。
セントジョーンズワートの使用量の目安
軽度~中等度の気分の落ち込みがある、もしくはうつ病の場合、セントジョーンズワートは以下のいずれかの摂取方法が目安となります出典[6]。
- ヒペリシン0.3%に規格化されたセントジョーンズワートエキス300mgを1日3回
- ヒペリシン0.2%に規格化されたセントジョーンズワートエキス250mgを1日2回
- ヒペリシン5%に規格化されたセントジョーンズワートエキス300mgを1日3回
また更年期症状に対しての摂取の目安は、以下のいずれかの摂取方法です出典[6]。
- ヒペリシン0.2mg/mLを含むセントジョーンズワートエキス20滴を1日3回、2カ月間
- セントジョーンズワート30mgを1日3回、3~4カ月間
セントジョーンズワートとの飲み合わせに注意が必要な医薬品
セントジョーンズワートとの併用に注意を要する医薬品が多くあります。このような医薬品とセントジョーンズワートを含むサプリメントを同時に摂取すると、医薬品の効果を弱めたり、増強させてしまったりすることで体に悪影響を及ぼします。
何かしらの医薬品を内服している場合には、セントジョーンズワートのサプリメント摂取について医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
セントジョーンズワートと併用が禁忌、もしくはリスクのある医薬品の一例は以下のとおりです。
- インジナビルなど(抗HIV薬)
- ジゴキシンなど(強心薬)
- シクロスポリンなど(免疫抑制薬)
- ワルファリンカリウムなど(抗凝固薬)
- テオフィリンなど(気管支拡張剤 )
- フェニトインなど(抗てんかん薬)
- ジソピラミドなど(抗不整脈薬)
- トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)
- 抗うつ薬
- 経口避妊薬
- 一部の抗がん剤
まとめ
セントジョーンズワートは、オトギリソウ科オトギリソウ属に分類される黄色い花をつける植物。ヨーロッパでは古くから民間薬として用いられており、現在もドイツなど一部のヨーロッパでは医薬品として認められています。一方、アメリカや日本では医薬品の成分としては認められておらず、あくまでも食品として扱われています。
セントジョーンズワートにはうつ症状の改善をはじめ、PMSや更年期症状の改善などさまざまな効果が期待されていますが、医薬品との併用には注意が必要な成分です。サプリメントから手軽に摂取できる成分であるとはいえ、現在くすりを内服しているという方は医師や薬剤師に相談してから利用するようにしましょう。
出典
- 1.
Ng QX, Venkatanarayanan N, Ho CY. Clinical use of Hypericum perforatum (St John's wort) in depression: A meta-analysis. J Affect Disord. 2017 Mar 1;210:211-221.
- 2.
Apaydin EA, Maher AR, Shanman R, Booth MS, Miles JN, Sorbero ME, Hempel S. A systematic review of St. John's wort for major depressive disorder. Syst Rev. 2016 Sep 2;5(1):148. doi: 10.1186/s13643-016-0325-2.
- 3.
Canning S, Waterman M, Orsi N, Ayres J, Simpson N, Dye L. The efficacy of Hypericum perforatum (St John's wort) for the treatment of premenstrual syndrome: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. CNS Drugs. 2010 Mar;24(3):207-25.
- 4.
Al-Akoum M, Maunsell E, Verreault R, Provencher L, Otis H, Dodin S. Effects of Hypericum perforatum (St. John's wort) on hot flashes and quality of life in perimenopausal women: a randomized pilot trial. Menopause. 2009 Mar-Apr;16(2):307-14.
- 5.
Yücel A, Kan Y, Yesilada E, Akın O. Effect of St.John's wort (Hypericum perforatum) oily extract for the care and treatment of pressure sores; a case report. J Ethnopharmacol. 2017 Jan 20;196:236-241.
- 6.
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