執筆者
薬剤師 / 公認スポーツファーマシスト / 研修認定薬剤師 / 健康サポート薬剤師 / アロマテラピー検定1級
大西 剛気
薬剤師免許を取得後、メディカルモール併設の調剤薬局で勤務。複数の店舗で1日400枚越えの処方せんに対応しながら様々な診療科を学ぶ。その後、全国展開の大手調剤薬局にて4店舗の管理薬剤師 、2地区のエリアマネージャーを歴任。新店舗開発にも携わる 。現在は 、新しく調剤事業を立ち上げた企業に仲間入りし 『医療と福祉の融合 』『新時代の薬局 』を目指し日々奮闘中。趣味はキャンプ、サウナ、食べ歩き。2児のパパでもある。
S-アリルシステインとは
近年、ニンニクに含まれる成分として耳にすることが多くなった「S-アリルシステイン」。疲労回復効果のほか、様々な健康効果を有しています。この記事ではS-アリルシステインの特徴や役割、摂取の目安について紹介します。
1.にんにくに豊富な有用成分
S-アリルシステインは、にんにくに含まれる有用成分のアミノ酸の一種です。抗酸化作用があり、最近では、機能性食品素材としても様々な分野で注目されています。生のにんにくにはほとんど含まれませんが、長期熟成や発酵によって産出されます。
S-アリルシステインは、複雑な経路を通って生成されます。ニンニクの細胞が損傷を受けるとニンニク臭の元となるACSOは変化し、アリシンと呼ばれる強力な抗菌作用を持つ物質になります。アリシンはさらにジアリルジスルフィド (DADS) やジアリルトリスルフィド (DATS) に変化します。
ニンニクの抗酸化作用、抗癌作用、抗糖尿病作用、抗菌作用、抗解毒作用は、ジアリルジスルフィド (DADS) やジアリルトリスルフィド (DATS) の効果とされていますが、これらはニンニク臭が強いのがデメリットとされています。
しかし、同様の効果を持つS-アリルシステインは水に溶けやすく(親水性)、無臭なため食品に添加しやすいという特徴があります。また、ニンニク特有の甘味や塩味、うま味を増強する効果を持っています出典[1]。
次に、このS-アリルシステインはどのような働きをするのかを解説します。
2.体の中でどんな働きをする?
ニンニクは長い歴史を持つ植物で、料理や薬として使われてきました。ニンニクには健康に良い成分が含まれており、最近の研究でもその効果が証明されています。ニンニクのサプリメントも人気で、さまざまな種類が販売されています。
特に、ニンニクの熟成過程で生成される熟成ニンニク抽出物(AGE)には、S-アリルシステインが豊富に含まれています。これまでの研究では、S-アリルシステインが強力な抗酸化作用を持っていることが示されています。
具体的には、S-アリルシステインは体内や試験管内で反応性酸素種(ROS)や窒素種(RNS)を抑制する能力や、酵素や非酵素の抗酸化物質を増やす働きが報告されています。
また、S-アリルシステインはNrf2という細胞を保護してくれる因子を活性化し、酸化酵素の働きを阻害することもあります出典[2]。
3.どんな食材に含まれている?
S-アリルシステインはニンニクに多く含まれていますが、生のニンニクには0.01mg/g未満しか含まれていません。しかし、いわゆる黒ニンニクと呼ばれる熟成したニンニクには1mg/gものS-アリルシステインが含まれています。しかし、黒にんにくは熟成させるために1〜2ヶ月以上もの時間を費やすため、生にんにくよりも高価になってしまうことが挙げられます。そのため、S-アリルシステインを効率的に摂取したい場合は、既に抽出されているサプリメント等を利用するのが良いでしょう出典[3]。
4.S-アリルシステインとアリシンの違いは?
S-アリルシステインとアリシンは、両方ともニンニクに存在する硫黄化合物ですが、いくつかの重要な違いがあります。
1.化学構造
S-アリルシステインは、システインと呼ばれるアミノ酸とアリル基(C3H5)が結合した化合物です。アリル基は、にんにくの特徴的な香りと味の要素であり、生物活性を持つことが知られています。
アリシンは、アリルシステインの前駆体として存在します。にんにくを切ったり、砕いたりする際に、酵素アリナーゼによってS-アリルシステインがアリシンに変換されます。アリシンは不安定な化合物であり、空気と接触することで容易に分解します。また、アリシンはニンニク臭が強いのに対し、S-アリルシステインは臭いが少ない点も特徴になります。
2.安定性
S-アリルシステインは、比較的安定な化合物です。にんにくを加熱調理したり、保存したりしても、S-アリルシステインは比較的安定な状態で残ります。
アリシンは非常に不安定な化合物であり、空気中の酸素や水分と反応して容易に分解します。加熱や保存によっても速やかに分解し、安定性が低いため、アリシン自体は食材として利用されることはほとんどありません。
3.生物活性
S-アリルシステインは、にんにくの主要な生物活性成分とされています。健康効果や薬理作用が報告されており、抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗ガン作用などが知られています。また、S-アリルシステインはアリシンよりも生体利用率が高いとされています。
アリシンは、その不安定性から短時間しか存在せず、S-アリルシステインへと変換されます。そのため、アリシン自体が持つ生物活性は一時的なものであり、S-アリルシステインがより持続的な効果をもたらすと考えられています。
以上のように、S-アリルシステインとアリシンはにんにくに含まれる硫黄化合物であり、S-アリルシステインがより安定で持続的な生物活性を持つとされています。
S-アリルシステインに確認されている作用や効果
疲れた日々の中で、私たちはより良いエネルギー回復方法を求めています。その一つがS-アリルシステインです。S-アリルシステインは、私たちの健康にさまざまな効果をもたらし、元気を取り戻すのに役立ちます。ここでは調査・研究の結果を踏まえ、S-アリルシステインに期待される具体的な効果について見ていきましょう。
1.脳疲労の回復
仕事で集中できないことや簡単なミスを繰り返してしまったり等で悩んだ経験は誰しもあるのではないでしょうか?
それは脳が疲れているからかもしれません。S-アリルシステインは脳疲労を回復する効果が確認されており生産性の向上が期待できます。
その効果を確認できる臨床試験があります。22名の被験者をプラセボ群とS-アリルシステインの抽出物1日2mgを朝食30分以内に摂取する群に分け、4週間のパソコン作業における脳疲労のアンケート評価を行いました。4週間の継続調査の結果、S-アリルシステイン摂取群においては精神的負荷における疲労感や集中力の悪化が軽減されたと報告しています。更に摂取2週間後ではストレス感や頭の明晰さ、やる気の低下などが有意に改善されたことも確認されています出典[3]。またS-アリルシステインはこの脳疲労を回復する効果で機能性表示食品を取得済みです出典[4]。
仕事で集中力が続かない方やより生産性を向上させたいと思っている方にはS-アリルシステインは有効な成分と言えそうですね。しかも臨床試験ではパソコン作業における脳疲労の改善が確認されているため、特にデスクワークの多いビジネスマンに効果的かもしれません。
2.睡眠の質向上
良質な睡眠は私たちの健康に欠かせませんが、S-アリルシステインは睡眠の質を向上させより深い眠りに導く効果があります。
実際に臨床試験でS-アリルシステインを含む熟成にんにくエキスを12週間摂取したところ、OSA睡眠調査票のスコアが上昇し、主観的な睡眠の質が向上したと確認されています。客観的な評価では、中途覚醒の回数や時間の減少も報告されています出典[3]。
S-アリルシステインは脳疲労改善の効果が確認されていますが、肉体面・精神面の両方の観点で重要な睡眠の質も向上させます。多忙で十分な睡眠時間を確保することができず日中のパフォーマンスの低下で悩んでいる方は、睡眠の”質”の観点からアプローチしましょう。S-アリルシステインは寝不足な方や浅い睡眠でお悩みの方には適した成分と言えそうです。
3.気分の改善
私たちはストレスや不安によって気分が落ち込んでしまうことがあります。そんな時はS-アリルシステインの摂取を検討してみるのも良いかもしれません。
マウスに対して水泳運動のストレスを与えた実験では、S-アリルシステインを17日間摂取した群では水泳運動後の気分の落ち込みが有意に改善しました。しかもこの効果は、抗うつ薬のイミプラミンよりも効果が高かったというデータが確認されています出典[5]。
S-アリルシステインを摂取することで、ストレスフルな日常生活においても前向きな気持ちを保つことができます。
4.テストステロンの上昇のサポート
男性にとって重要なホルモンであるテストステロンは、エネルギー、筋力、性欲などに関与しています。S-アリルシステインは、テストステロンの上昇をサポートし、男性の筋力の向上に寄与します。
7週齢のマウスにS-アリルシステインを腹腔内投与した実験では、血液中と精巣内のテストステロンのレベルを有意に上昇させました出典[6]。
トレーニングや運動後にS-アリルシステインを摂取することで、リカバリーの促進や筋肉の成長をサポートすることができるでしょう。
5.血流の向上
良好な血流は健康にとって不可欠です。S-アリルシステインは血液循環を改善し、体全体への酸素や栄養素の供給を助けます。
ラットにS-アリルシステインを与えると、尻尾の血流量が最大10%増えることがわかりました。さらに、S-アリルシステインを食事に混ぜると、2ヵ月後にも血流が増加しました。血流増加と一酸化窒素(NO)の関係を調べるため、NO合成酵素阻害剤を使うと、S-アリルシステインによる血流増加はなくなりました。しかし、L-アルギニンと一緒に摂取すると、S-アリルシステインによる血流増加が回復しました。以上の結果から、S-アリルシステインは一酸化窒素(NO)を上昇させることで血流が向上することが示されています出典[7]。
ニンニクを食べると体がポカポカするとよく言われていますが、その正体はS-アリルシステインの血流向上効果が関係していると言えそうです。なので、S-アリルシステインを摂取することで血行不良を改善し、それによって起こる冷え性も緩和することができます。冷え性でお悩みの方はS-アリルシステインが含まれたサプリメント等を利用してみるのが良いでしょう。
6.勃起不全(ED)を改善する可能性
S-アリルシステインには勃起不全(ED)を改善する可能性があります。そもそも勃起するには男性ホルモンのテストステロンと血流が良い状態に保つ必要があります。テストステロンは性的刺激を感じた際にドーパミンの分泌を促し下半身に血液を送る際に重要なホルモンです。血流については勃起時の硬直化状態を維持する際に関わります。
この2つの要素は加齢や健康的でない生活習慣によって増加する酸化ストレスの影響で十分な状態を維持できなくなるという特徴があります。
S-アリルシステインの抗酸化作用によりこの酸化ストレスの産生を抑制し、テストステロンと血流を向上できるためED改善の可能性があるのです。実際にED改善の可能性があると期待できるデータがあります。酸化ストレスの上昇を誘発する糖尿病かつED状態のラットにS-アリルシステインを摂取させたところ、酸化ストレスの産生が抑制されEDが改善されたと報告されています出典[8]。
にんにくを食べると精力的になるとよく言われていますが、それはにんにく由来の成分「S-アリルシステイン」の恩恵かもしれません。男性機能の衰えに悩む方はS-アリルシステインの摂取が効果的と言えそうです。
7.コレステロールの低下
高コレステロールは心血管疾患のリスクを高める要因となります。S-アリルシステインはコレステロールの低下をサポートし、血管の健康を保ちます。
最近の研究では、高コレステロールの男性に熟成ニンニクエキスを摂取させた実験を行いました。その結果、総コレステロールとLDLコレステロールがそれぞれ7%と10%減少しました。また、動物実験でも、ニンニクエキスを添加した飼料を与えると、総コレステロールとトリアシルグリセロール(食品から摂取される脂質)がそれぞれ15%と30%減少しました出典[9]。
S-アリルシステインを摂取することで、食事や生活習慣の改善と相まって、コレステロール値の改善を促すことができます。
8.がん細胞の成長を抑制
日本人の最も多い死因と言われている癌。S-アリルシステインにはそんながん細胞の成長を抑制する効果があります。S-アリルシステインには抗酸化作用があり、がん細胞の成長を誘発する酸化ストレスを軽減することができるのです。
S-アリルシステインが転移性肝細胞がん細胞に対してどのような効果があるかを調べた実験では、がん細胞の増殖を抑制し、増殖マーカーの発現も減少させることが分かりました。
さらに、S-アリルシステインは細胞のS期(DNA複製)を停止させる働きもあります。この結果、転移性肝細胞がん細胞の進行と転移を抑制することが示されました。
これらの結果はラットを対象とした実験においても確認され、、S-アリルシステインが単独で使用される場合や抗がん剤のシスプラチンと併用される場合に、肝細胞がんの進行と転移を抑えることができることがわかりました出典[10]。
意識してS-アリルシステインを摂取することで、がんの予防や治療の手助けとなるでしょう。
9.糖尿病の改善をサポート
糖尿病は現代社会の健康問題の一つですが、S-アリルシステインは糖尿病の改善をサポートします。S-アリルシステインは血糖値の調整を助け、インスリンの感受性を向上させます。
糖尿病をもつラットにS-アリルシステインを45日間経口投与した試験では、血糖値やHbA1C(過去1~2ヶ月前の血糖値を反映する指標)が有意に減少しました。また、血漿中のインスリンや抗酸化物質のレベルが増加しました。これらの結果から、インスリンの合成を刺激する可能性が示唆されています出典[11]。
S-アリルシステインを摂取することで、糖尿病管理に役立ち、血糖値の安定化を図ることができます。
10.肝機能障害の改善をサポート
肝臓は体内の解毒や代謝に重要な役割を果たしていますが、肝機能障害は健康に悪影響を及ぼします。S-アリルシステインは肝機能の改善をサポートし、肝臓の健康を保ちます。
急性肝障害(ALI)を人工的に再現した動物へS-アリルシステインを投与した実験では、肝臓の酵素活性が改善し、肝臓の活性酸素種や炎症に関連するバイオマーカーの異常が一部回復しました。また、肝臓の活性酸素種や防御酵素の活性、抗酸化力、免疫関連のタンパク質の活性なども改善されました。さらに、S-アリルシステインはアポトーシス(細胞の自然な死滅)に関連するバイオマーカーも改善することができました出典[12]。
この結果から、S-アリルシステインを摂取することでアルコール摂取や薬物の使用などによる肝機能障害のリスクを軽減することができることが期待できます。
11.喫煙者の酸化ストレスを軽減
喫煙は私たちの健康に大きな悪影響を及ぼしますが、S-アリルシステインは喫煙者の酸化ストレスを軽減する効果があります。S-アリルシステインは抗酸化作用によって、喫煙による細胞ダメージを軽減します。
喫煙での酸化ストレスの目安となるF(2)-イソプロスタンの量を血液や尿の中で測定した研究では、S-アリルシステインを14日間摂取した群では血液中のF(2)-イソプロスタン濃度は35%減少し、尿中のF(2)-イソプロスタン濃度は48%減少することが示されました出典[13]。
S-アリルシステインを摂取することで、喫煙による健康リスクを軽減し、体内の酸化ストレスを抑えることができると言えるでしょう。
S-アリルシステインの摂取方法や注意点
疲労回復効果のみならず、様々な健康効果を持つS-アリルシステインですが、どのように摂取すればその効果をより得ることができるのでしょうか。以下ではS-アリルシステインの摂取の目安や効果的な摂取方法について説明します。
1.どのくらい摂取すればいい?
S-アリルシステインは試験条件下で安定した特性を示し、その急性/亜急性毒性はマウスおよびラットにおいて非常に軽微であったとのデータが出ています。(LD50値 >54.7 mM/kg po; >20 mM/kg ip)また、S-アリルシステインを含むニンニクサプリメントをヒトボランティアに経口投与した実験では、半減期は10時間以上、排泄時間は30時間以上であったとの報告があるので、安全性が高く体内濃度の持続時間は長いと言えるでしょう出典[14]。
また脳疲労の回復においては1日2mgを4週間、睡眠の質向上においては1日1.4mgを12週間毎日摂取したことで効果が認められています。そのため、サプリメント等で摂取する際は1日に2mgのS-アリルシステインを継続的に摂取することが最適と言えそうです。
2.効果的な摂取方法
S-アリルシステインは主ににんにくに含まれる成分ではありますがその含有量はわずかです。食品から十分な量を摂取することは中々難しいと考えられます。
そのため、効率的な摂取方法が必要ですがサプリメント等で経口摂取することが有効と言えそうです。実際にラットを対象とした研究では静脈注射よりも経口摂取した方が吸収効率が高いことが報告されています。吸収効率を比較すると静脈投与は95%なのに対し経口投与では98%と確認されています。また15分後に血中濃度が最大となり、その後は高い状態を維持しつつ徐々に低下することも報告されています。
以上のことからS-アリルシステインはサプリメント等のように抽出された製品を経口摂取することが有効と考えられます。
まとめ:にんにくの力で脳疲労を回復
にんにくに含まれる有用成分「S-アリルシステイン」は脳疲労の回復や睡眠の質向上など様々な効果が期待できます。日々の仕事で疲れが溜まっていると感じている方は毎日継続的に摂取してみると良いでしょう。
出典
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