執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
はじめに
食事により得られる美味しいという気持ちや、誰かと食べることにより得られる楽しいといった感情は、気持ちの安定と充足感に関わります。コンビニやファーストフード店を利用すれば、食べたいと思った時にすぐ美味しいものを食べることができるため、食事は手っ取り早く気持ちを満たすための手段として選ばれがちです。しかしストレス解消のために美味しいものを食べる生活を続けていると、体型や体調、精神などによくない影響が出てきます。この記事では日々のストレスを低減するために有効な食品と、その食べ方について紹介します。
ストレスとコルチゾール
ストレスとはそもそも、身体が危険な状態にあることを知らせる役割を持っています。身体が受けたストレスに反応して脳は様々な指令を出しますが、そのうちの一つに「コルチゾールの分泌を増加させる」というものがあります。
コルチゾールはストレスホルモンと呼ばれています。その名の通り、身体的・精神的ストレスを受けて分泌量が増加しますが、普段から一定量分泌されており、主に以下のように働きます。
- エネルギーの生成:肝臓の糖新生や、筋肉などの体たんぱく質の分解、脂肪組織の分解などにより、食事以外からのエネルギー供給を促します。
- 血圧を調節する:コルチゾールには血管を緊張させる働きがあります。分泌の増加により血圧が上昇し、効率よくエネルギーや酸素を全身に行き渡らせることができます。
- 炎症を抑制する:過剰な炎症を抑制することで、体へのダメージを防ぎます。
このように、コルチゾールは身体全体のバランスを整えるために常に活躍しています。身体がストレスを受けた状態では分泌が増え、エネルギーを普段より多く作ったり、供給ルートを確保したり、体の防御態勢を整えたりして、ストレスという「危機」に対応しようとするのです。
コルチゾールレベルが上がると身体に起きる症状
このように、コルチゾールはストレスから身体を守るために機能しており、ストレス時には分泌量を増やして、エネルギー供給や身体防御のために活躍します。しかし日頃からストレス過多の状態が続き、分泌量が増えたままになってしまうと、以下のような別の問題が生じてきます。
- 血糖値の急上昇:糖新生などでグルコースが血液内に増えた状態が続くことで、高血糖状態になってしまいます。
- 筋肉量の減少:筋肉のたんぱく質が分解されてしまうため、筋力の低下に繋がります。
- 高血圧:血圧を上昇させる神経伝達物質などの感受性を必要以上に高めるため、血管や心臓が敏感に反応し、血圧が上がりすぎてしまいます。
- 免疫力の低下:免疫系の情報を伝達するたんぱく質が産生されにくくなるため、免疫機能が十分に働かなくなります。
- 食欲の増加:満腹を知らせるホルモンであるレプチンの分泌が減少するため、食欲が抑制されず食べ過ぎてしまいがちになります。
- 脳萎縮による記憶力や思考力の低下:学習や記憶を司る海馬という部分の神経細胞が、高濃度のコルチゾールによりダメージを受けてしまいます。
体内のコルチゾール濃度が上がりすぎてしまうと、このような身体への弊害が生じます。コルチゾールの必要以上の分泌を抑えるため、ストレスを貯め込み過ぎず、疲労や身体的・精神的ダメージから速やかに回復することが重要です。
ストレス時にやってはいけない食事
ストレス解消の手段として、手っ取り早く気持ちを満たせる食事は選ばれがちですが、食べるものや食べ方によっては逆に身体へのダメージを与えることにもなりかねません。この章ではストレス時の食事として適切でないものについて、その理由と共に解説します。
ドカ食いする
ストレスを受けてコルチゾールの分泌が増えると、満腹感を調節するホルモンのバランスが崩れ、いつもより食欲が増してしまいます。食欲が増している状態のときに食事を適量で終わらせるのは難しいことですが、この食欲のままに食べ過ぎてしまうというのは当然ですがオススメできません。
ドカ食いの際に摂取する食品は大抵の場合、調理が不要なファーストフードやスナック菓子などであることが多く、炭水化物・脂質・食塩の摂りすぎに繋がります。エネルギー過多からくる肥満はもちろんのこと、高血圧や脂質異常症など、様々な疾病のリスクを挙げてしまいます。
ファーストフードやスナック菓子は砂糖や食塩による味付けに工夫がされており、適量で止めることが難しくつい食べ過ぎてしまいます。満腹になることは高い満足感を得られる手っ取り早い手段ではありますが、長期的な身体への影響を考えた場合、避けるべきでしょう。
甘いお菓子や飲み物に手を出す
口当たりのよい食品のうち、砂糖を多めに使った甘いお菓子や飲み物に関しては、血糖値や依存性などの観点から特に注意が必要です。
砂糖の摂取により、エンドルフィンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌量が増えることが明らかになっています。これらの神経伝達物質は満足感や快楽に関わっているため、甘い食品を食べることはストレス解消に有効であると感じるかもしれません。しかし甘い食品でのストレス解消が習慣化すると、脳が砂糖と快楽とを結び付けてしまい、満足感や快楽を得るために砂糖を食べずにはいられない「砂糖依存」と呼ぶべき状態に陥ってしまいます。
砂糖依存により甘い食品の食べ過ぎが習慣化すると、エネルギー過多の状態になり、肥満や糖尿病など様々な疾病リスクの上昇に繋がります。特に不安や苛立ちなど感情面への影響が大きく、砂糖の消費量とうつ病の有病率とを調べた横断研究においては、砂糖や清涼飲料水などの消費量が増加するとうつ病のリスクが高まること、また逆に砂糖の摂取量が少ないほど心理的健康が改善される可能性があることが判明しています出典[1]。
ストレス解消のために摂取した砂糖により、逆にストレスを招いたり気分や体調を損なったりすることにもなりかねません。そのため、ストレス時に砂糖を使った甘いものを食べることは控えるべきでしょう。
過度な飲酒
ストレス解消のため、お酒を飲む方も多いのではないでしょうか。飲酒によって気持ちが晴れやかになると感じる理由は、アルコールが神経伝達物質であるGABAを活性化するためです。GABAには不安を和らげ気持ちを穏やかにする作用があるため、活性化によりストレスが低減されます。
このように精神によい効果をもたらすアルコールですが、ストレス解消の手段として大量に飲むことはオススメできません。というのも、アルコールの摂取により、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌はむしろ増加してしまうためです。
飲酒によりストレスが一度減少したように感じても、コルチゾール濃度の高い状態は続いています。ストレス解消のための手段がストレスを生む、という悪循環が発生してしまっており、ストレス解消の根本的な解決になりません。また、より強まったストレスを解消するために飲酒量が増えてしまうという問題もあります。適量の飲酒に留めるためにも、ストレス解消の手段にすることは避けましょう。
ストレス解消に適切な食べ物・飲み物20選
これまで解説してきた、ストレス解消のために避けるべき食習慣は、一見するとストレス解消の手段として適しており、満足感や快楽を得られるものばかりでした。しかしストレスによる身体への悪影響を防ぐためには、コルチゾール濃度を適切に下げたり、依存性のない成分を活用したりして気持ちを落ち着かせる必要があります。この章ではそうした根本的なストレス解消に役立つ食品について紹介します。
ダークチョコレート
チョコレートに含まれるカカオポリフェノールには、抗酸化作用や血圧の低下など様々な効果があることが明らかになっていますが、ストレスを低減し気分を安定させる効果についても注目が集まっています。
ダークチョコレートの摂取と成人の唾液コルチゾール濃度との関連を調べた研究において、カカオポリフェノール500mgに相当するダークチョコレート25gを4週間毎日摂取した群において、コルチゾール濃度が大幅に低かったことが明らかになっています出典[2]。
ストレス低減の効果を期待してチョコレートを摂取する場合には、チョコレートのカカオ含有量に注意する必要があります。ミルクチョコレートではカカオポリフェノールを十分に得られず、また砂糖や脂質を多めに摂ることになってしまいます。カロリー過多や砂糖依存の状況を避けてカカオポリフェノールの恩恵を効率よく受けるため、カカオ70%以上の表示があるものを選びましょう。
さつまいも
さつまいもにはカリウムが豊富であり、ストレス時のミネラルバランスを整えるために役立ちます。体内のコルチゾール濃度が高い状態が続くと、カリウムの排泄が促進されてしまい、低カリウム血症が生じやすくなります。カリウムを多く含む食品を摂取することで、高濃度のコルチゾールによる体調の崩れを防ぎましょう。
また、さつまいもなどのイモ類は糖質の供給源としても優秀です。一般に砂糖などの糖質は体内で速やかに吸収され、グルコースとして血糖値を急激に上げます。この血糖値の急上昇を受け、インスリンという血糖値を下げるホルモンが大量に分泌され、その結果グルコースが血液内から一気に失われます。コルチゾールはこの血糖値の急降下にも反応して分泌されるため、コルチゾール濃度を低く保つためには血糖値の乱高下を防ぐ必要があります。
食品における血糖値の上がりやすさを示す値を「グリセミック指数(GI値)」と呼びます。一般に、精製された穀類を使ったパンやうどん、白米などの白い食品よりも、未精製の穀類を使ったパンや蕎麦、玄米などの茶色い食品の方がGI値が低くなっています。さつまいもなどのイモ類もGI値が低めであるため、コルチゾール分泌を抑える炭水化物として役立つでしょう。
お茶
お茶とストレスとの関係においてまず注目したいのは「テアニン」という成分です。テアニンには脳の過度な興奮を抑えて気持ちを落ち着かせる効果があります。お茶にはカフェインが含まれていますが、コーヒーを飲んだときのような強い覚醒や興奮は起こりません。これはお茶に含まれるテアニンがカフェインのこうした作用を抑えてくれるためです。
テアニンはうま味と甘味を示すアミノ酸であり、日光に当たることで渋み成分の「カテキン」に変化します。リラックス効果をより得られるのはテアニンを多く含む抹茶などですが、カテキンにも大きなメリットがあります。
健康な男性における紅茶の摂取とコルチゾール濃度との関係を調べたランダム化二重盲検試験では、紅茶を6週間に渡り摂取した群のコルチゾール濃度は、プラセボ群に比べて低下していました出典[3]。このコルチゾール濃度の低下がカテキンの作用によるものであることが明らかになっており、ストレス解消の効果が期待できます。
よりリラックスしたい場合にはテアニンを多く含む抹茶を、コルチゾール濃度の低下によりストレス管理を行いたい場合にはカテキンを多く含む緑茶を、それぞれ選んで飲んでみましょう。
ほうれん草
ほうれん草にはマグネシウムが豊富です。マグネシウムは神経伝達物質のバランスを保つ働きがある重要な栄養素であり、精神的なストレスにより不足しがちです。
体内のマグネシウム濃度が低下すると、体はこれをストレスと判断し、コルチゾールを初めとした神経伝達物質の分泌を増加させます。この神経伝達物質のバランスを取るためにマグネシウムの要求量が増すため、マグネシウム濃度は更に下がってしまうという悪循環を生んでしまいます。
このように、マグネシウムとコルチゾールは相互に影響し合っています。1か月間のマグネシウム補給を行った学生において、ストレスマーカーとなる血清コルチゾール濃度が有意に低下したという結果も出ており出典[4]、マグネシウムの不足を防ぐことでコルチゾール濃度を低下させられると期待できます。
マグネシウムは加熱で失われる栄養素ではありませんが、水に溶出しやすいため、味噌汁など、溶け出した分も含めて食べられる料理に使うと損失を少なくできます。
アボカド
アボカドにもマグネシウムが豊富であるため、コルチゾール濃度を上昇させないように摂取するための食品の候補としてオススメできます。
またアボカドにはビタミンEも豊富です。ビタミンEは抗酸化物質として有名であり、疲労やストレスによって蓄積された酸化ストレスを低減させる効果を持ちます。この酸化ストレスは血管などに大きなダメージを与えますが、脳にも作用し、認知症やうつ病などの原因となることも分かってきました。酸化ストレスを溜め込まないようにするため、優秀な抗酸化物質であるビタミンEを摂取することには意義があると言えるでしょう。
ビタミンEは脂溶性ビタミンであり、油分と一緒に摂取することで吸収効率が上がります。アボカドには良質な脂質が多く含まれているため、未調理のまま単体で摂取しても効率よくビタミンEを得られます。1日に1/2個程度を目安として食べてみましょう。
バナナ
バナナは果物の中では比較的高エネルギーであり、高い満足感を得やすい食品ですが、食物繊維も多く含んでいるためGI値が低めです。血糖値の乱高下を防ぐことができるため、体へのストレスを軽減しつつエネルギー補給を行うことができます。
また、バナナには気持ちを穏やかにするGABAという神経伝達物質や、コルチゾール濃度の上昇を予防するために役立つマグネシウムも豊富に含まれています。デザートや間食に摂取する果物として、バナナを候補に入れてみるとよいでしょう。
ブロッコリー
ブロッコリーは高い栄養価を誇る野菜として有名ですが、ストレス軽減の観点から見ても優秀な食材です。
栄養素とうつ病性傷害との関連について調べた文献レビューによると、うつ病性障害の予防や治療に効果をもたらすとされる栄養素として、ビタミン類やミネラル類、ω-3系脂肪酸など12種類がまとめられています。これらを多く含む植物性食品として、アブラナ科の野菜や葉物野菜が挙げられています出典[5]。アブラナ科であるブロッコリーにも「抗うつ食品」としての注目が集まっており、ストレス低減に有効であると言えるでしょう。
ブロッコリーに含まれるストレス軽減効果のある栄養素のうち、ビタミンCや葉酸などは水溶性ビタミンであり、茹でることで失われてしまいます。そのため溶出した栄養素を丸ごと摂れるスープ料理や、水を通さない電子レンジで加熱した状態での摂取をオススメします。
キムチ
キムチや漬物などの発酵食品は、腸内環境を整えるだけでなく、気持ちを安定させる効果があることが明らかになっています。
精神の安定に関わる神経伝達物質として、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが挙げられます。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸を材料として、ビタミンB6やナイアシン、鉄などの助けを借りて作られます。セロトニンの合成の9割は腸で行われるため、腸内環境を整えることでセロトニンを効率よく合成することができ、精神を安定させる効果も十分に得られます。
発酵食品に含まれる有益な菌は、継続的に摂取しないと、腸内環境を構成する菌として定着してくれません。大量に摂取する必要はないため、1食分を毎日摂取することで腸内環境を整えていきましょう。
もつ肉
動物の内臓からなるもつ肉は、もも肉やバラ肉などと比較してビタミンB群が豊富です。ビタミンB群は神経伝達物質の合成に使われる栄養素で、特にB6、B12、葉酸は、GABAやセロトニンの合成を促し、気持ちの落ち込みや過度の興奮を防いでくれます。
また、もつ肉には鉄や亜鉛などのミネラルも豊富です。ドーパミンやセロトニンの合成をサポートする鉄も、精神の安定に関わる亜鉛も、不足すると精神の不調を引き起こしやすくなるため、十分に摂取することが望ましいでしょう。
もつ肉はホルモン焼きなど、焼肉として食べるのが一般的でしょう。しかし焼肉のたれは食欲を増進する濃い味付けになっていることが多く、食べ過ぎを引き起こしやすくなっています。そのため焼肉の場では塩や薄味のたれでさっぱりと食べるようにすると同時に、野菜も十分に摂取することで食べ過ぎやカロリーオーバーを防ぐことができます。
卵
卵はビタミンC以外の全ての必須栄養素を含み、「完全栄養食」と呼ばれるほどに優秀な食品ですが、ストレス軽減においては「セリン」という栄養素に注目したいところです。
コルチゾール濃度に影響を与えるものとして、ホスファチジルセリンやホスファチジン酸と呼ばれるリン脂質が注目されています。これらのリン脂質複合体を6週間補給することにより、過活動時におけるコルチゾール濃度が減少したことが分かっています出典[6]。
リン脂質であるホスファチジルセリンは卵黄に含まれており、コルチゾール濃度の低下に有用である可能性があります。1日1~2個を目安に、食事へと取り入れてみましょう。
玄米
白米と比較したときの玄米の利点として、糖質以外の栄養素を豊富に摂取できること、GI値の低い食品であること、が挙げられるでしょう。
精米の際に取り除かれる胚芽部分には、ビタミンやミネラル、食物繊維などが含まれています。ビタミンではビタミンB群、C、Eなどが、ミネラルではマグネシウムやカリウムなどが豊富です。エネルギーの代謝を助けたり、抗酸化物質として機能したり、セロトニンやGABAなど神経伝達物質の合成に使われたりと、様々なよい効果をもたらします。常食する穀類を白米から玄米へと置き換えることで、効率よくこれらのビタミン・ミネラル類を摂取することができます。
GI値が低い食品であることは、コルチゾール濃度の管理にも役立ちます。炭水化物の質を調節した食事を8週間続けた場合のコルチゾール濃度を調べた研究において、精製された炭水化物での食事をしている人に比べ、未精製あるいは丸ごとの炭水化物での食事をした人の方が、唾液中のコルチゾール濃度が低く計測されたことが分かっています出典[7]。血糖値の乱高下を防ぐことでコルチゾール濃度を安定化させることができるため、玄米の日常的な摂取によりストレス低減の効果も期待できるでしょう。
トマト
トマトにはビタミン類のほか、リコピンが豊富に含まれています。リコピンは赤色を示す色素成分であるカロテノイドの一種で、非常に強い抗酸化作用を持ちます。
疲労やストレス、暴飲暴食などにより体内で発生してしまう活性酸素は酸化ストレスと呼ばれ、血管へのダメージを与えたり、脳機能を低下させたりします。この活性酸素を無害化し、酸化ストレスを低減させる働きを抗酸化作用と呼ばれ、生活習慣病予防のみならず、認知症やうつ病など脳に関わる疾病の予防や改善のための成分として注目されています。抗酸化物質を効率的に摂取する手段として、トマトを選択肢の一つに入れてみるとよいでしょう。
そのままでも食べられるトマトですが、リコピンは油に溶けやすく、また加熱により吸収率が高まる性質を持ちます。オリーブオイルを使うカプレーゼや、加熱調理をするシチューやスープなどで食べると抗酸化物質の恩恵をより多く受けられるでしょう。
ヨーグルト
ヨーグルトはキムチと同じく発酵食品であり、腸内環境の改善に役立ちます。また、牛乳自体に含まれるトリプトファンというアミノ酸を豊富に含むという点でも優秀です。
気分の安定に関わるホルモンであるセロトニンの主な材料はトリプトファンです。合成をサポートする栄養素であるビタミンB6や鉄も重要ですが、材料なくしてセロトニンの合成はできません。トリプトファンの供給源のひとつとして、また腸内環境を整える手段として是非活用してみてください。
また、ヨーグルトに含まれる乳酸菌は、神経伝達物質であるGABAを生産する性質を持つことも明らかになっています。GABAには不安を和らげ気持ちを穏やかにする作用があり、このGABAを強化したヨーグルトも販売されています。ストレス低減の効果をより期待する場合にはこちらを選んでみるとよいでしょう。
貝類
貝類には亜鉛やマンガンなど、不足することで抑うつ状態のリスクが上がるような栄養素が豊富に含まれており、これらの栄養素の供給源として摂取することも有効でしょう。
また、貝類における大きな特徴として、タウリンという成分を多く含むことが挙げられます。タウリンはアミノ酸の一種であり、貝類やイカ、タコなどに豊富に含まれます。このタウリンがGABA受容体を刺激することで、不安を和らげ気持ちを穏やかにする作用を発揮している可能性が、ラットでの研究により示されています出典[8]。人においてもタウリンは肉体疲労だけでなく、不安や抑うつ状態にも作用することが認められつつあり、ストレスを低減するにおいて注目すべき成分であると言えるでしょう。
亜鉛やタウリンは水溶性のため、茹で調理では茹で汁に溶出し失われてしまいます。そのため味噌汁など、溶出した分ごと摂れる料理で食べるようにするとよいでしょう。
アセロラ
アセロラの特徴は、ビタミンCとポリフェノールの豊富さにあります。中でもビタミンCの豊富さは果物の中でのトップクラスであり、「果物の王様」と呼ばれるほどです。
ビタミンCは優秀な抗酸化物質であることはもちろんですが、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の合成をサポートする役割も担っています。不足することで不安や抑うつ状態を引き起こす原因になりかねないため、不足なく摂取する必要があるでしょう。
アセロラの果実を手に入れることはやや困難であるため、アセロラジュースの形で摂取するのが現実的です。砂糖が添加されたものは避け、果汁100%のジュースを毎日継続して飲むようにするとよいでしょう。
キウイフルーツ
キウイにはビタミンCが多く含まれており、抗酸化物質の供給源として優秀です。また幸せホルモンであるセロトニンも多く含まれており、気分の落ち込みを防ぎ精神を安定させる効果が期待できます。
キウイを摂取することによる気分の変動を調べた介入試験において、6週間にわたり毎日2個のキウイの摂取を続けた若年の成人男性において、うつ病などの気分障害や倦怠感の改善、活力の増加が見られています出典[9]。ビタミンC自体の抗酸化作用に加え、精神を安定させるセロトニンの効果が気分障害によい影響を与えた可能性があり、ストレス低減の手段として有用であると言えるでしょう。
キウイには実が緑色のグリーンキウイと黄色のサンゴールドキウイがありますが、ビタミンCに注目した場合、サンゴールドキウイはグリーンキウイの2倍の含有量を誇ります。ストレス低減の効果をより期待する場合には黄色いキウイを選ぶようにするとよいでしょう。
魚
魚の油にはω-3系脂肪酸であるDHAやEPAが豊富です。これらω-3系脂肪酸がうつ病の改善に役立つ可能性については以前から指摘されていましたが、その理由として、コルチゾール濃度を減少させる効果が関係していることが分かってきました。
魚油の補給とコルチゾール濃度の関連について調べたランダム化プラセボ対象試験によると、ω-3系脂肪酸を投与した群において、ストレス症状およびコルチゾール濃度が低下しています出典[10]。ω-3系脂肪酸を十分に補給することでコルチゾール濃度が低下し、うつ病やアルコール依存症などにおけるストレス症状が低減できる可能性が示されており、これらの疾病の治療における補助手段として検討が進んでいます。
また、魚にはビタミンDも豊富です。ビタミンDにはセロトニンの合成を調節する作用があり、不足すると合成が不十分になってしまいます。セロトニンによる気分の安定の効果を十分に得るためにも、不足なく摂取したい栄養素です。
ω-3系脂肪酸はサバやイワシ、ブリなど、脂肪分を多く含む魚から効率的に摂取できるため、これらの魚を日々の食事へ取り入れる習慣を付けるとよいでしょう。
ニンニク
滋養強壮のための食品として有名なニンニクには、ビタミンB6が豊富です。セロトニンを合成する際のサポートとして機能する栄養素であるため、不足なく摂取することでストレスの低減に役立つでしょう。
また、ニンニク自体のストレス低減効果を調べた動物実験において、ニンニク抽出物を投与したラットにおいて抗うつ薬に匹敵する活性が確認できています出典[11]。気分の改善や意欲の増加に影響を与えた成分についてはまだ研究が進んでいる途中ではありますが、ストレス低減のために摂取することは有用であると言えるでしょう。
カモミールティー
ハーブティーの気持ちを落ち着かせる効果については有名ですが、カモミールティーには特に優れた効果があることが明らかになっています。
カモミールは、神経伝達物質であるセロトニンやGABAの調節に役立つと考えられており、気分を安定させる効果があります。また抗酸化物質も豊富に含まれているため、体内の活性酸素を無害化し酸化ストレスを低減する効果も持ち合わせています。
更に、カモミールにはコルチゾール濃度を低下させる可能性があります。不安障害を抱える45人を対象としたランダム化プラセボ対照試験においては、カモミールエキスを8週間摂取した群において、プラセボ群と比較して唾液中のコルチゾール濃度が有意に低下し、更に不安症状が改善されることが実証されました出典[12]。
カモミールティーにはカフェインが含まれていないため、覚醒や興奮の作用を気にせず飲むことができます。就寝前に飲むことで、リラックス効果やストレス低減効果を得られるでしょう。
ブルーベリー
ブルーベリーには抗酸化物質であるフラボノイドが豊富に含まれており、このフラボノイドが抑うつ状態を改善する可能性があるとして注目が集まっています。
ブルーベリー飲料の摂取と気分の変動との関係を調べた研究においては、ブルーベリー飲料を摂取した群で、プラセボ群よりも気分の改善が大きく見られました。フラボノイドと気分とを結び付けるメカニズムはまだ解明されていませんが、脳の血流が増加する、神経伝達物質の調節をサポートする、GABA受容体を活性化する、などのフラボノイドの役割が、気分の改善に役立っている可能性があるとして、研究が進められています出典[13]。
生のまま食べられるブルーベリーですが、毎日の摂取を想定する場合には、冷凍されたものを購入して冷凍庫にストックしておくとよいでしょう。ブルーベリーは冷凍することで細胞が壊れるため、フラボノイドをより吸収しやすい状態で食べることができ、メリットの多い食べ方です。
まとめ
ストレスの低減、気分の安定、不安の解消などに役立つ食品について紹介してきました。いずれの食品も、ストレスを感じたときにだけ摂取するという食べ方ではなく、日頃から継続的に摂取して、有効成分や栄養素に不足がない状態を作ることが重要です。ストレスへの耐性が高い体を作るため、これらの食品を日々効果的に取り入れていきましょう。
出典
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参考文献
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- 加藤保子, 中山勉 | 食品学Ⅱ 食品の分類と利用法 改訂第2版 | 南江堂 | 2013年
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