クロムはどんな栄養素?4つの役割と摂取量について
2022年9月1日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

クロムとは

まずはクロムの基本情報についてご紹介します。 

1.どんな栄養素?

クロムは3価クロムの形であらゆる食品に少量ずつ含まれており、必須ミネラルとして補給する必要があるのはこの3価クロムの方です。一方、工業製品を製造する際などに発生する副産物にもクロムが含まれ、こちらは6価クロムと呼ばれます。6価クロムは有害であり発がん性のリスクがありますが、通常であればヒトの口に入ることはありません。

食品から摂取したクロムは小腸から体内へ吸収されますが、その吸収率は2~3%と低めです。体内にクロムが十分にある場合には吸収率は更に下がり、0.4%ほどにもなると言われています。また吸収されたクロムの大半は尿中に溶けて体外に出ていくため、体内のクロムの量は2mgほどと一定量に保たれており、長期にわたり蓄積し続けることもありません。

 

2.体の中でどんな働きをする?

体内に吸収されたクロムは、主にトランスフェリンという糖たんぱく質と結合し、血液を通じて全身に行き渡ります。血液を介して運ばれたクロムは必要に応じて各組織で使われ、糖やたんぱく質、脂質の代謝をサポートすることが分かっています。

糖やたんぱく質、脂質の代謝にはインスリンというホルモンが関係しています。インスリン作用を増強する物質として、クロモデュリンと呼ばれるオリゴペプチドが判明しており、これに結合しているのが4つの3価クロムイオンです。

クロモデュリンはインスリン受容体において、チロシンキナーゼとホスホチロシンホスファターゼという酵素を活性化させ、インスリンの反応を高める効果を発揮します。クロモデュリンには3価クロムイオンが結合しているものと結合していないものがあり、結合していないアポ型クロモデュリンと呼ばれるものにはこれらの酵素を活性化する能力がありません。そのためインスリンの反応を高めるにはクロムを十分量摂取し、体内で3価クロムイオンが結合したクロモデュリンを生成できる状態にしておくことが重要になります。

 

3.どんな食材に含まれている?

クロムを含む食品の例をまとめると以下のようになります。

  • 穀類:米、小麦、蕎麦
  • 肉類・乳製品:豚肉、鶏肉、牛肉、プロセスチーズ
  • 魚介類:さんま、あさり、さば、サザエ
  • 野菜類:ほうれん草、かぼちゃ、大豆、小豆、じゃがいも
  • 海藻・キノコ類:あおさ、あおのり、寒天、ひじき、昆布、わかめ、しいたけ
  • 飲料:紅茶、せん茶、青汁
  • 調味料・菓子類:ミルクチョコレート、砂糖、顆粒だし、ソース

また、特に含有量の多い食品について以下にまとめました。100gあたりの含有量を()内に示してあります。

【クロムを含む食品とその含有量(100gあたり)】出典[6]

食品

成分量(μg/100g)

あおさ(素干し)

160

アサイー(冷凍)

60

バジル(粉)

47

あおのり(素干し)

39

てんぐさ(粉寒天)

39

パセリ(乾燥)

38

梅干し(塩漬)

37

刻み昆布

33

パプリカ(粉)

33

こしょう(黒・粉)

30

このように、クロムは海藻類を中心に、あらゆる食品に少しずつ含まれているため、クロムの豊富な食品、というものを意識せずとも通常の食事で十分量を摂取することができます。しかしクロムの吸収率が低いことに加え、その吸収率は他の栄養素からの影響を受けやすいこと、などの事情があるため、意識して摂取したい場合には食べ合わせや調理に一工夫必要です。

クロムはビタミンCと一緒に摂取することで吸収率が高まります。ビタミンCは果物や野菜に多く含まれますが、熱に弱く水に溶けやすいため、ビタミンCが豊富な食品は生のまま摂取することをオススメします。

一方でシュウ酸やフィチン酸と一緒に摂取すると吸収率が低下してしまいます。シュウ酸はほうれん草などアクの強い野菜に、フィチン酸は玄米など精製していない穀類や豆類に多く含まれます。これらは水溶性のため、茹でこぼす、水に晒す、などの処理によって食品から大半を取り除くことができます。

献立に生の果物や野菜を盛り込む、葉物野菜をしっかり茹でる、などの工夫を取り入れることで、食品からのクロムをより効率よく取り入れることができるでしょう。

 

クロムに確認されている作用や効果

体内に約2mgほどしか存在しないクロムですが、体の中で糖やたんぱく質、脂質など、様々な栄養素の代謝などに関わっており、幾つかの健康管理において重要な役割を果たします。この章ではそうしたクロムの持つ効果について解説します。

 

1.糖尿病の予防

糖尿病は血糖コントロールの不良によって生じますが、その原因は高血糖状態が続くことでインスリン抵抗性が引き起こされることにあります。

インスリンは血液の高血糖状態を受けて分泌されるホルモンで、血液中のグルコースを筋肉や脂肪などあらゆる組織に取り込ませることによって血糖値を下げます。しかし高血糖状態が長く続くとインスリンの効きが悪くなるというインスリン抵抗性を引き起こしてしまいます。これにより血糖値が下がらず、血糖コントロールが不良となり血管やあらゆる組織にダメージを与えてしまいます。

糖尿病の初期症状とも呼べるインスリン抵抗性ですが、クロムの糖代謝をサポートする働きにより、インスリン抵抗性が改善される可能性があるとして研究が進められてきました。Ⅱ型糖尿病患者におけるインスリンの感受性の変化を調べたランダム化比較試験においては、クロムを補給した群においてインスリン感受性が増大し、血糖コントロールが改善されたという結果が得られています出典[1]。また、細胞実験や動物実験においても、クロムの投与によりインスリン受容体と、グルコースを組織へ取り込むためのグルコース輸送体がそれぞれ活性化されることが判明しています出典[2]

このように、クロムはインスリン感受性を高めるとともにインスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールをサポートする働きがあるとして注目されています。

 

2.空腹感と食欲の軽減

ヒトの食欲は血糖値によってもコントロールされており、血糖値が上がれば満腹中枢が刺激され、逆に下がれば摂食中枢が刺激されます。クロムのインスリン作用を高める働きにより血糖値が安定するため、血糖値の乱高下による食欲の増大を防ぐことができるのではないかと考えられています。

また、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質にもクロムが関わっているのではないか、という仮説のもと、幾つかの研究が行われています。過食の傾向があるうつ病患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において、クロム化合物のひとつであるピコリン酸クロムの形でクロムを補給したところ、過食の頻度の減少、血中グルコース濃度の安定化、うつ病の症状の改善、体重の減少などが確認されています出典[3]

このように、クロムは代謝だけでなく、食欲や気分の調節にも有効に働いている可能性があり、過剰な食欲を抑える効果が期待できるのでは、と考えられています。

 

3.体重減少のサポート

インスリンは血糖コントロールだけでなく、脂肪やたんぱく質の代謝にも関わっています。インスリンの働きにより血中のグルコースが筋肉や脂肪に蓄えられることにより、筋肉量や脂肪量が増大します。これにより体重は増加するように見えますが、筋肉量が増えることにより基礎代謝量も増大するため、健康的に痩せやすい体を作ることができると考えられます。

また、クロムのインスリン感受性を増大させる作用や、セロトニンやドーパミンの伝達を強化する作用により、食欲のコントロールがしやすくなる点も重要です。過剰なエネルギー摂取を防ぐことは体重管理において最も重要であり、食欲を抑える作用が体重減少に効果をもたらすことが期待できるでしょう。

過体重や肥満の人を対象にしたランダム化臨床試験のメタ分析では、クロムを補給した群において、プラセボ補給群と比較して有意な体重減少が確認できています出典[4]。しかしこの体重減少効果は劇的なものではなく、メカニズムや作用の裏付けにも不明な点が残っています。そのためクロム自体に減量効果があるというよりは、クロムの持つ代謝や神経伝達を強化する作用により減量が起こりやすくなる、といった考えで、サポートとして期待する程度に留めておくべきでしょう。

 

4.動脈硬化の予防

クロムの脂質代謝に関わる作用により、血中のコレステロールのバランスを整える効果が期待できるとして注目されています。

糖尿病ラットの血中脂質を調べた研究によると、クロムを4週間にわたり補給したラットにおいて、中性脂肪および総コレステロールの減少、更には悪玉と呼ばれるLDLコレステロールの減少と、善玉と呼ばれるHDLコレステロールの増加が確認されています出典[5]。クロムの十分な補給により、糖尿病に関連する脂質異常症が改善される可能性があり、ヒトにおいても脂質異常症やそれに伴う動脈硬化の予防・改善に役立つのではと考えられています。

また、クロムのインスリン作用を高める効果も、動脈硬化の予防に役立ちます。インスリン抵抗性が増大して高血糖状態が続き、血管がダメージを受けてしまうと、その傷口からコレステロールが血管内へ入り込み、動脈硬化を引き起こしてしまうのです。そのためクロムの補給によりインスリン抵抗性を改善することで、血管の保護、ひいては動脈硬化の予防効果が期待できるでしょう。

 

クロムの摂取量や注意点

栄養素の代謝において重要な働きをするクロムですが、通常の食事で不足や過剰を起こすことはまずありません。そこでこの章では、私達にとって日々どの程度のクロムが必要とされているのか、またサプリメントなどで意識的に摂りすぎるとどのようなことが起こるか、など、クロム摂取に関する注意事項について説明します。

1.どのくらい摂取すればいい?

厚生労働省が作成している「日本人の食事摂取基準」において、クロムは「目安量」が設定されています。成人であれば男性も女性も等しく10μg/日が目安量となるため、この量から大きく外れないような食事が健康管理には重要となります。

 

2.健康上限摂取量は?

 クロムの「耐用上限量」は2020年の食事摂取基準にて新設されました。その量は成人において男女共に500μg/日です。

通常の食事においてこれ程の量のクロムを摂取することはまずありません。クロムは元々の吸収率が低いほか、体内にクロムが充足していると吸収率が更に下がるため、必要量以上にクロムが体内に蓄積されるリスクも低くなっています。しかしサプリメントなどで過剰に摂取した場合には、吐き気や下痢などの消化管障害を起こすことがあるほか、肝機能障害や腎機能障害、睡眠障害の例も報告されています。

クロムを目安量以上に摂取することによる健康上の利益は今のところないとされています。サプリメントの過剰な服用は避けて、欠食や偏食を起こさないような通常の食事を心掛けるとよいでしょう。

 

3.不足するとどんなリスクがある?

欠乏症には糖・脂質・たんぱく質の代謝異常、動脈硬化、成長障害などがあります。これらクロムの欠乏症は長期に渡り経管栄養での管理をしている患者で確認されることがあります。通常の栄養剤には微量元素が含まれていないものがあるため、長期の経管栄養を必要とする場合には、クロムやセレン、モリブデンといった微量元素を含む栄養剤を選ぶ必要があるとされています。

クロムは様々な食品に含まれているため、通常の食事で欠乏症を起こすことはまずありません。長期の欠食や極端な偏食、長期の経管栄養状態などがなければ、クロムは普段の食事で十分に足りていると考えてよいでしょう。

ただし高血糖状態を引き起こしやすい食生活をしている人においてはインスリンの要求量が増しており、通常よりも多くのクロムがインスリン作用の増大のために使われている可能性があります。甘いものの食べ過ぎや過食が起こりやすい食生活をしている場合には、クロムの不足が起こりやすい状況にあるかもしれません。そのため欠食を起こさないよう、五大栄養素のバランスが取れた食事をより意識する必要があるでしょう。
 

まとめ

クロムという栄養素は体内でも僅かな量しか存在しておらず、その機能や効果についても不明な部分が多く残っています。しかし通常の食生活において不足や過剰をきたすことはまずないため、摂取量について特に気を配る必要はないでしょう。

日常生活においてはサプリメントの利用に注意する必要がありそうです。クロムによる食欲減退効果や減量効果を期待しすぎて、サプリメントを過剰に摂取するようなことがないように気を付けましょう。

 

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