執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
コーヒーは妊活に悪影響?研究からわかる4つの関係性
集中力の向上効果や脂肪燃焼効果など、コーヒーに含まれるカフェインにはさまざまな作用が確認されています。一方で、カフェインが豊富なコーヒーは妊活に悪影響を及ぼす可能性が指摘されているようです。
妊活を左右する男性側の要素として、精子や精液の質、そして男性自身の活力などが挙げられます。コーヒーと妊娠の要素について調べた研究により、明らかになった関係性について4つ解説しましょう。
基本的にカフェインの摂取は精液パラメータに悪影響を与えない?
妊娠の成功には受精が不可欠であり、そのためには精子量が十分でなければいけません。
1984年にフランスから発表された論文においては、乏精子症や無精子症といった、精子の数に問題がある男性と正常な男性を比較したところ、コーヒーの摂取と精子数に関連は見られなかったと報告されています出典[1]。
よって、コーヒーを飲んでいる人に乏精子症や無精子症のケースが多いとは言えず、カフェインに精子の量を減少させる作用は基本的にないと考えられます。妊活中であるからといって、完全なコーヒー断ちが要求されるわけではないようです。
飲み過ぎすると精液の質が低下する可能性も
一方で、コーヒーの飲みすぎによる精子や精液の質が低下する可能性が、1993年にイタリアから発表された論文において示されています。
先ほどのフランスの研究では、コーヒーを摂取の有無で比較したのみで摂取量による違いは調査されていませんでした。
そこでイタリア・マリオネグリ薬理学研究所が精液の異常や精子の形態、運動性などに異常が確認される男性と、問題のない男性とのコーヒー摂取量を調べたところ、1日あたりのコーヒーの杯数が増えると、精子や精液に異常をきたすリスクが増加することが分かりました出典[2]。
カナダ保健省では、健康な成人でカフェインを1日400mgまでに抑えるよう推奨しています出典[3]。
400mg以上のカフェイン摂取は健康な男性においても「飲みすぎ」であり、不妊を含めたさまざまな健康への影響が懸念されます。コーヒーの過剰摂取には十分注意しましょう。
睡眠の質が悪化して間接的に精子の質が悪くなる?
コーヒーを飲むと目が覚めて頭がスッキリする、という経験はほとんどの人にあることでしょう。カフェインには覚醒作用があり、作業の効率を上げるために役立ちます。しかし夕方以降の摂取は寝つきを悪くするため、睡眠不足に陥るというリスクもあります。
睡眠時間と、精液中に含まれる精子の働きを妨げる「抗精子抗体(ASA)」の量との関係について調べた論文が、2017年に中国から発表されました。睡眠時間が6時間未満のグループは、睡眠時間が6時間以上のグループと比較して、約2倍のASAが確認されたのです。
さらに、睡眠時間が遅くなることも精子に影響する可能性があります。同じ研究において、深夜0時以降に6時間未満の睡眠を摂ったグループの方が、夜8~10時から同じだけの睡眠を取ったグループと比較して、精子数が半分以下に減少していました出典[4]。
このように、睡眠不足は精子の質を下げる要因となります。睡眠の妨げにならないよう、カフェインを摂取する際にはタイミングに注意する必要があるでしょう。
適度なカフェインは男性機能の維持に貢献する
コーヒーの飲みすぎが危険である一方、適量のカフェインが男性機能の維持に役立つという研究結果も確認されています。
2015年にテキサス大学から発表された論文において、3,700人の男性を対象にカフェインの摂取量とEDの関係が調べられています。この研究では、1日に170~375mg程度のカフェインを摂取している男性において、勃起不全(ED)のリスクが最も低下していたと示されています出典[5]。
適量の範囲であれば、カフェイン摂取量とEDとの間には逆相関があるようです。カフェインによる血流促進効果が、正常な勃起をサポートしていると考えられています。
カフェイン量170~375mgは、マグカップ入りのコーヒー2~3杯に相当します。男性機能を維持したいと考える方は、この範囲で毎日の摂取を意識するとよいでしょう。
妊活中はカフェインをどう摂るべき?
コーヒーを含むカフェイン飲料は、過剰摂取により精子や精液の質を低下させる可能性があります。一方で、適量のコーヒーであれば精子数に影響を及ぼさず、男性機能の向上によりEDのリスクを低下させることも分かっています。
妊活中には、コーヒーを含むカフェイン食品の摂取について、量やタイミングに注意を払う必要がありそうです。コーヒーを妊活に役立てる際に、意識したいポイントについて解説しましょう。
1日300mgまでに留める
カフェインと男性機能や精子との関連を調べた研究によると、1日に400mg以上の摂取が妊活へ悪影響を及ぼす可能性があります。一方で1日に170~375mg程度の摂取であればEDのリスクが低下しやすいことから、400mgを超えない範囲での継続摂取が有効であると言えそうです。
カフェインはコーヒーや緑茶のほか、エナジードリンクなどの清涼飲料水に含まれています。また、チョコレートなどのお菓子もカフェインの摂取源となります。
【カフェイン飲料100mLに含まれるカフェイン量】出典[3]
食品 | カフェイン量(100mLあたり) |
コーヒー | 60mg |
紅茶 | 30mg |
煎茶 | 20mg |
ほうじ茶 | 20mg |
ウーロン茶 | 20mg |
玄米茶 | 10mg |
カフェイン入りの清涼飲料水 | 32~300mg |
チョコレートなどからのカフェイン量が増えると、摂取が400mgを超える可能性があります。そのためコーヒーやお茶類からのカフェイン摂取は、1日300mg程度に留めておくとよいでしょう。
マグカップ1杯を200mLとした場合、コーヒー1杯でのカフェイン量は120mgです。そのため1日の目安は2杯(240mg)、多い日でも3杯(360mg)を上限としておきましょう。
水分補給として緑茶やウーロン茶を飲む習慣がある方は、カフェインの入っていないお茶に切り替えるのもよい方法です。麦茶や蕎麦茶、ルイボスティーはカフェインゼロであるため、カフェインの過剰摂取を避けるための方法として有効です。
夕方以降のカフェイン飲料は控える
寝る前のカフェイン飲料の摂取により、寝つきが悪くなり睡眠時間が減少しやすくなることはよく知られています。ではカフェイン飲料は、就寝何時間前の摂取まで影響を及ぼすのでしょうか。
2013年にアメリカから発表された論文において、就寝0、3、または6時間前に摂取したカフェインが睡眠に及ぼす影響が研究されていました。
合計睡眠時間の減少量を比較したところ、就寝直前の摂取で40.6分の減少、6時間前の摂取で44.1分の減少となっており、大きな差が見られませんでした。また深い睡眠を示すノンレム睡眠の減少も、3つの条件全てで同じように観察されていました出典[6]。
睡眠への影響には個人差があり、夜間の摂取においても睡眠時間が減少しない方や、昼3時頃の摂取でも寝付きが悪くなる方もいます。しかし一般的な目安として「6時間ではカフェインの覚醒作用は失われない」ことを念頭に置き、カフェイン摂取のタイミングを調整する必要がありそうです。
就寝時刻が遅くなることでも精子の質が低下する可能性があるため出典[4]、日付が変わる前の就寝を心掛けましょう。23時頃に就寝する場合、17時までにコーヒーなどのカフェイン飲料を飲み終えておきたいところです。
砂糖入りのカフェイン飲料には要注意
コーヒーを飲む際、砂糖やシロップを加えていませんか? あるいは仕事中のコーヒーブレイクとして、加糖の缶コーヒーを飲む習慣がある方も多いかもしれませんね。
糖類の摂取は疲労回復に効果的ではありますが、習慣化するとカロリーの過剰摂取を招きやすくなります。
また、糖類を液体として摂取すると血糖値が急激に上昇し、体脂肪合成を促進するホルモン、インスリンの分泌が増大します。カロリー以上の肥満リスクを生じるため、肥満からの精子・精液への異常につながるおそれもあります。
血糖値の急上昇により酸化ストレスが増大します。精子は酸化ストレスに非常に弱いため、総精子数や正常な形態の精子数の減少を引き起こしやすいと考えられています。
デンマークにおいて2010年に発表された論文では、カフェインを含む高糖質飲料であるコーラの摂取と、精液の質との関連が研究されました。
デンマークの若者男性2,554人を調査したところ、毎週のコーラ摂取量が14本以上の男性は、コーラを飲まない男性と比較して、総精子数が約34%も少なく、精子濃度や精液量、正常な形態の精子数も大幅に減少していたことが確認されました出典[7]。
カフェインと砂糖の組み合わせは、妊活中はとくに避けるべきです。加糖のカフェイン飲料が習慣化している方は、ブラックコーヒーの摂取に切り替えましょう。
コーヒー牛乳は避けよう
朝一番にコーヒーを飲む場合、ブラックでは胃に負担がかかるからと、牛乳を混ぜて飲んでいる方もいるかもしれません。胃を保護するには有効な方法ですが、コーヒー牛乳の摂取が習慣化している場合は、頻度を控えるべきでしょう。
2013年にハーバード大学から発表された論文においては、牛乳およびチーズの摂取量が多いほど、総精子数が少なく、精子濃度や運動性、正常な形態の割合が低いと報告されています。
牛乳やチーズの摂取量が2.6倍以上になると、総精子数が34%、精子濃度が31.6%、精子の運動性が6.2%、正常な精子の割合が27.9%低下していました出典[8]。
牛の生乳を原材料とする全脂肪の牛乳や乳製品に含まれる女性ホルモンのエストロゲンが、精液や精子の質の低下に関係している可能性があると同研究では考察されています。
精液の質の低下は脂肪分の多いチーズでより顕著に確認されていますが、牛乳の過剰摂取にも注意を払うことで、精液の質の保護につながるでしょう。
まとめ:妊活男性はカフェイン飲料はほどほどに!
コーヒーの過剰摂取は、精液や精子の質の低下、睡眠不足などを招くおそれがあるため、妊活中は量やタイミングに注意が必要です。
カフェインの悪影響を防ぎつつ、EDのリスクを低下させるよい効果を得るため、コーヒーを含むカフェイン飲料の摂取は1日300mg程度までに留めておきましょう。睡眠への影響を防ぐため、夕方以降のコーヒーの摂取を控えることも重要です。
精子の質を維持するためには無糖・無脂肪のブラックコーヒーがおすすめです。適量の摂取でコーヒーを味方につけ、妊活に役立てましょう。
出典
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