執筆者
薬剤師
塩見 友香
大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。
目次
なぜタバコは男性妊活に悪影響を与えるのか?
男性のなかにはストレス解消や気分転換を目的にタバコ嗜む人は少なくないでしょう。
国内の喫煙率は2001年から年々減少しているものの、全体の割合で25.4%の男性が現在喫煙をしていると回答しています。出典[1]
ただし、子どもを望む夫婦またはカップルにとって、喫煙は悪影響をもたらすことをご存じですか?この記事では、妊活にまつわるタバコのデメリットについて科学的なデータをもとに解説します。
タバコの煙は7,000種類以上の化学物質を含み、ヒ素やニコチン、一酸化炭素、重金属、発ガン性物質などの有害物質を含有しています。
タバコが有害であることは良く知られていますが、実際に男性の身体にどう影響するのでしょうか?
まず一つが、タバコによる「酸化ストレス」です。出典[2]酸化ストレスの元凶である活性酸素は、タバコの煙にも含まれています。
タバコの煙から活性酸素を摂取することで、精子にダメージを与え、精子の運動能の低下やDNAの損傷を引き起こすのです。出典[3]
二つ目に、タバコの煙に含まれるその他の有害物質も男性の生殖機能に影響を与えます。
例えば、煙に含まれるカドミウムという有害な重金属が体内に吸収されることで、精子中のカドミウム濃度が高くなり、精子密度や運動性、生存率を低下させることがわかっています。出典[4]
では、喫煙は男性妊活にどんな悪影響が出てしまうのかをさらに見ていきましょう。
男性妊活を進めるなら絶対に禁煙すべき4つの理由
不妊症は国内外全体で約9%と推定されており、喫煙はその原因の一つとして考えられています。
また副流煙による受動喫煙は不妊の原因だけでなく、妊娠や出産のリスクです。
ここでは、タバコが男性妊活や妊娠後の母体・赤ちゃんにどのような影響があるのか解説します。
タバコを吸う方には耳の痛い話にはなりますが、自身や家族が辛い思いをしないためにも禁煙を考えてみませんか?
1.喫煙はEDのリスクを増加させるから
喫煙は勃起不全(以下、ED)の原因となる可能性があります。
なぜなら、タバコに含まれるニコチンは、血管の収縮性を低下させたり、血栓をできやすくしたり、動脈硬化を促したりすることで陰茎の血流を悪化させてしまうからです。出典[5]
2000年ハーバード大学は大規模なアンケート調査で、喫煙とEDの関連性を示しています。
40〜75歳の米国男性22,086人に対して、アンケート調査で男性機能を評価しました。
その結果、喫煙者のEDリスクは非喫煙者と比較して1.5倍でした。出典[6]
もちろんEDの原因はストレスなどの別の要因も考えられます。ただし、タバコもその一つと認識し、喫煙を見直してみてはいかがでしょうか?
2.精子の状態を悪化させるから
先ほども述べましたが、タバコを吸うことは過剰に活性酸素を体内に取り込み、結果的に精子にダメージを与えることがわかっています。
2016年アメリカのセント・ジョセフ大学は、喫煙と精子の質に関する20件の論文をメタ解析し、その深い関わりを明らかにしました。*メタ解析とは、条件が似ているいくつかの論文の結果を統合し、より信頼性の高い結果を求める統計的手法のこと。
結果、喫煙は精子数の減少や運動性の低下、形態異常と関連していることがわかりました。
またヘビースモーカーの方がより影響が大きいことがわかっています。出典[7]
以上のことから、妊娠の確率を上げるには禁煙は重要な一歩と考えられます。
3.受動喫煙によってパートナーの妊娠率を下げてしまうから
タバコの悪影響は、吸う本人だけではありません。
カナダのマクマスター大学によると、副流煙によるパートナーの受動喫煙は実際の喫煙と同様の悪影響があることを2005年の論文で示しています。
対象は不妊治療を受けている225 人の女性患者。受動喫煙と妊娠のしやすさについて、後ろ向き研究を行っています。
非喫煙者の着床率が25.0%のところ、副流煙を日常的に浴びていた女性は12.6%と低い結果でした。 妊娠率も同様に非喫煙者が48.3%のところ、副流煙を日常的に浴びていた女性は12.6%でした。出典[8]
上記のような研究が多く報告されたことをうけ、アメリカ生殖医学会は喫煙および受動喫煙は妊娠のしづらさと関連していることを発表しました。ちなみに日本の産婦人科学会も同様の見解です。出典[9]
4.妊娠後も胎児に悪影響を与えてしまうから
タバコの煙がおなかの赤ちゃんにも有害と知ったら、禁煙せずにはいられないでしょう。さまざまな研究で、胎児に対する喫煙の有害性は証明されています。
そのひとつが、受動喫煙と低体重出産の関連性。タバコの煙に含まれる一酸化炭素は、胎児に酸素を届けるのを邪魔し、胎児の成長を妨げてしまうのです。
また子どもがタバコの煙を吸うことで、病気のリスクが上がる可能性があります。
メカニズムは十分に解明されていませんが、肥満や喘息になりやすいことが明らかになっています。出典[10]
よく子どもがいる同じ部屋では喫煙せずに、別の部屋やベランダで吸う人も多いでしょう。ただし、タバコに含まれる有害物質は煙とともに衣服や寝具、カーテンに付着するため、別の場所で吸ったとしても子どもがその有害物質を摂取してしまう可能性は高いと考えられています。
パートナーや生まれてくる子どもの健康のために禁煙を始めましょう。
番外編:紙タバコではなくアイコスや電子タバコではどう影響する?
近年紙タバコに代わり、加熱式タバコや電子タバコが普及しています。
紙タバコよりもなんとなく安全そうで切り替えている人もいるのではないでしょうか。
男性機能に関してはいまだ研究が続けられている段階ですが、実は紙タバコと同様に健康被害があるとの報告があります。
2020年デンマークのコペンハーゲン大学の論文を紹介します。
2012〜2018年に登録された1,221人の男性のうち、電子タバコを使用している13%に対して精巣機能を調査しました。
非使用者と比較すると、電子タバコを毎日使用する人の総精子数は約40%低下する結果でした。出典[11]
現在の研究では、紙タバコも加熱式タバコも妊活リスクは変わりないという結論となっています。
男性妊活を機にタバコ卒業はいかがでしょうか……
タバコには多くの有害物質が含まれています。喫煙は、男女ともに妊娠の確率を下げ、不妊の原因の一つと考えられています。それだけでなく、妊娠後に母体や胎児にも悪影響を与えることになるのです。
では、仮に今から禁煙を行うことで、男性の生殖能は回復するのでしょうか。
2022年トルコ保健科学大学の研究をご紹介します。
1年以上かつ1日当たり20本以上喫煙歴のある90人の参加者を2つのグループに分け、片方に禁煙をしてもらいました。3か月後、禁煙したグループは対照群と比較して、精液量は16%、精子濃度は6%、総精子数は44%の増加が観察されました。出典[12]
つまり、禁煙をすることで妊娠の確率が上がるかもしれないのです。
また興味深いことに、ビタミンCやお茶のポリフェノールなどの抗酸化物質を取り入れることによって、喫煙の酸化ストレスを緩和させる可能性があります。出典[13]出典[14]
現在基礎研究の段階で、人体への効果は確認されていませんので、今後の研究が待たれます。
これまでを踏まえると、夫婦またはカップルで子どもを望んだタイミングが禁煙のきっかけと考えましょう。なかなか自身の力で禁煙ができない人は、市販のニコチンパッチや病院の禁煙外来を上手に活用してみてもいいかもしれませんね。
出典
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