フェニルアラニンとは?4つの効果と適切な摂取方法
2022年11月25日更新

執筆者

NSCA-CPT/調理師

舟橋位於

東京大学理学部卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。大学入学後に筋肉に興味を持ち、自分の体で学んだ理論を体現してきた。日本の筋肉研究で有名な石井直方教授のもとで学び、ティーチングアシスタントとして、学生へのトレーニング指導を行った経験も。自分が学んだ知識を伝えることで、一人でも多くの方の健康をサポートしたいと考えている。

フェニルアラニンとは

まずはフェニルアラニンの基本情報についてご紹介します。

1.どんな栄養素?

フェニルアラニンは、人体を構成する20種類のアミノ酸のうちのひとつです。ヒトは体内でフェニルアラニンを合成することができないため、食べ物からの摂取が不可欠となります。このようなアミノ酸のことを必須アミノ酸と言います。

グリシンを除くアミノ酸は、その構造の違いからL体とD体に分類することができ、フェニルアラニンにも、LフェニルアラニンとDフェニルアラニンの2種類が存在します。地球上の生物は、基本的にはL体のアミノ酸を利用していますが、フェニルアラニンに関しては、人工的に合成したDフェニルアラニンも特有の機能があることが知られています。

 

2.体の中でどんな働きをする?

食べ物から摂取されたLフェニルアラニンは、生体内で、Lチロシンと呼ばれる別のアミノ酸へと変換されます。

Lチロシンは、脱水素酵素の働きにより、DOPA(デヒドロキシフェニルアラニン)となり、その後、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質に作り替えられます出典[1]

つまりフェニルアラニンは正常な神経伝達に重要なアミノ酸であると言えます。

 

3.不足するとどんなリスクがある?

フェニルアラニンは、たんぱく質を含む肉類、魚類、豆類等に豊富に含まれる栄養成分であるため、これらを取り除くような食生活をしていない限りは不足することはありません。逆に言うと、たんぱく質を制限するような食事をしている場合は注意が必要です。

それでは、フェニルアラニンが不足すると体にはどのような影響が出るのでしょうか。山口大学は、血中の分岐鎖アミノ酸(BCAA)量及び芳香族アミノ酸(AAA)量と、腎臓の機能低下の関連性について調べました。その結果、BCAAのうちの2種類であるイソロイシン、ロイシン、そして、芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン量の低下と、腎機能の低下に有意な相関関係があることが分かりました出典[3]

繰り返しになりますが、ダイエット等で食事制限を行う場合は、たんぱく質の摂取量に気を配る必要があると言えるでしょう。

 

4.どんな食材に含まれている?

フェニルアラニンは、高たんぱくな食材に多く含まれます。一般的な食材でフェニルアラニンの含有量が高いものとしては、以下のようなものが一例として挙げられます出典[4]

食材名フェニルアラニン(100gあたり)
豚ヒレ肉1600mg
鶏胸肉(皮なし)1600mg
牛もも肉1300mg
まいわし1300mg
大豆(きな粉)2100mg
落花生1500mg
小豆(乾燥)1200mg

 

 

フェニルアラニンに確認されている作用や効果

続いて、フェニルアラニンに確認されている作用や効果について解説します。

冒頭で紹介したように、フェニルアラニンには、天然に多く存在するLフェニルアラニンと、人工的に合成されるDフェニルアラニンの2種類が存在します。それぞれが異なる働きを持つ点に注意しながら、5つの作用や効果について見ていきましょう。

1.鎮痛効果

人工的に作られるDフェニルアラニンには、鎮痛効果があることが知られています。

モルヒネなどのオピオイドと呼ばれる化合物は鎮痛効果をもち、医療現場では手術時やがんによる痛みの管理のために薬剤として利用されています。

そして生体内にも、エンドルフィンやエンケファリンと呼ばれる天然のオピオイドが存在します。Dフェニルアラニンは、エンケファリンの分解を抑えることで、鎮痛効果を引き出すとされます。

昭和大学が1979年に行った実験では、Dフェニルアラニンを投与することで、ラットの脳内に存在するエンケファリン分解酵素の働きが阻害されることが分かりました。また、Dフェニルアラニンを摂取させたラットは、尾に対する熱刺激を痛みと感じにくくなることも明らかになりました出典[5]

生体にはほとんど存在しないDフェニルアラニンにも、重要な働きがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

2.うつ症状の改善

Lフェニルアラニンが、うつ症状を改善する可能性も示唆されています。

Lフェニルアラニンは生体内で、Lチロシンを経て、さまざまな神経伝達物質へと作り替えられます。Lフェニルアラニンから作られるノルアドレナリンやドーパミンといった神経伝達物質は、意欲・関心・楽しみ・喜びといった情動に作用します。そのため、Lフェニルアラニンが体内に十分にある状態を作ることが、うつ症状の改善につながると考えられます。

ドイツの研究者たちは、LフェニルアラニンとDフェニルアラニンを等量含むDLフェニルアラニンを用いて、フェニルアラニンの摂取がうつ状態の回復に効果があるかを調べる実験を行いました。20日の摂取を終えた被験者20名のうち、12名は抑うつの症状がなくなった一方で、4名は効果を感じず、残りの4名は中程度の改善効果を示すという結果となりました。この実験により、フェニルアラニンには、一定のうつ状態改善効果があると結論づけられました出典[6]

また別の実験では、フェニルアラニンを含む複数のアミノ酸の血中レベルの低下と、うつ状態が関連することが示されています出典[7]

以上より、うつ状態の改善のためには、フェニルアラニンが不足していないかも考慮することが重要だと言えるでしょう。

 

3.食欲の調整

Lフェニルアラニンには、食欲を調整する効果があるとも考えられています。

たんぱく質を多く含む食事は、そうでない食事と比べて、満足感が高いために食べ過ぎの防止につながり、体重減少の手助けとなると言われています。出典[8]。そして、食欲の調整効果は、たんぱく質を構成するアミノ酸のうちのLフェニルアラニンに由来すると報告する研究が2017年に発表されました出典[9]

研究では、Lフェニルアラニンの摂取量を多くしたラットとマウスにおいて、満腹感を高めるホルモンの増加と空腹感を招くホルモンの低下が観察され、餌を食べる量が低下したことが確認されています。

ついつい食べ過ぎてしまいがちな人は、食事の中でたんぱく質を摂取することを意識し直してみると、Lフェニルアラニンの効果を得られるかもしれないですね。

 

4.皮膚疾患の改善のサポート

Lフェニルアラニンの摂取が、白斑と呼ばれる皮膚疾患の治療をサポートする可能性についても報告があります。

白斑は、皮膚の色素であるメラニンを作るメラノサイト細胞の不全により、肌の色が部分的に白くなってしまう病気です。Lフェニルアラニンは、メラニンを生成する際に元となる化学物質であるため、紫外線による治療に経口摂取を加えると、効果が増すとされています出典[10]

1989年に行われた研究では、Lフェニルアラニンの経口摂取だけでなく、Lフェニルアラニンを含むクリームの患部への塗布の効果が調べられました。体重1kgあたり100mgのLフェニルアラニンを摂取した上で紫外線治療を受けたグループと、この治療に、患部へクリーム塗布を追加したグループの治療効果を比較したところ、2番目のグループの方が効果が高いことが示されました。出典[11]

フェニルアラニンは、単なる栄養素としての機能だけでなく、医療でも活躍するアミノ酸であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

 

フェニルアラニンの摂取方法や注意点

ここまでに、フェニルアラニンがもたらすさまざまな効果について説明してきました。

最後の章では、フェニルアラニンの必要摂取量や、摂取の上限値について解説します。

1.どのくらい摂取すればいい?

冒頭のフェニルアラニンの導入の部分でも簡単に触れましたが、フェニルアラニンの1日の推奨最低摂取量は、体重1kgあたり9.1mgとする報告があります。出典[2]

体重60kgならば、1日のフェニルアラニンの必要摂取量は546mgとなります。「どんな食材に含まれている?」でも紹介したように、たんぱく質を多く含む食品は、基本的にはフェニルアラニンも多く含んでいます。そのため、バランスの良い一般的な食事をしている方であれば、フェニルアラニンをあえて摂取することを意識しなくとも、十分必要量が摂取できると言えます。

 

2.健康上限摂取量は?

それでは、フェニルアラニンの摂取上限はあるのでしょうか。

日本の研究者らによって2021年に発表された論文は、フェニルアラニンとセリンの2種類のアミノ酸の上限摂取量について報告しています。この研究では、被験者は、3g、6g、9gまたは12gのフェニルアラニンのサプリメントを4週間にわたって毎日摂取し、その際の血中成分の変化が観察されました。その結果、12gの摂取でも重篤な副作用が生じることがなかったため、筆者らは、1日あたり12gの摂取をひとつの最大摂取量の目安と決定しました出典[11]

フェニルアラニン12gは、豚ヒレ肉750g、鶏胸肉(皮なし)750gに相当します。一般の食生活をしている限りはなかなか達しない量ですが、ボディメイク等でたんぱく質の摂取量を増やしている場合は、注意する必要があると言えるでしょう。
 

 

まとめ

今回は、フェニルアラニンについて解説しました。

生体内に多く存在するLフェニルアラニンと、人工的に作られるDフェニルアラニンのそれぞれに異なる効能がある点が、フェニルアラニンの特徴でした。鎮痛作用やうつ状態の改善などの医療に関連する効果だけでなく、食欲の調整などの身近に感じられる働きもあることがお分かりいただけたかと思います。

また、フェニルアラニンは、高たんぱくな食品に多く含まれていることを紹介しました。普段からバランスの良い食事を心がけて、不足することのないように意識できると良いですね。

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