執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
男性更年期とは?
40~60歳の年代は更年期と呼ばれ、男女ともに性ホルモンの変化にともなう不調が起きやすい時期です。45~55歳の女性によく見られる「更年期障害」はよく知られていますが、男性の更年期障害については、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
女性では閉経にともないエストロゲンが大きく減少しますが、男性では40歳を過ぎるとテストステロンが急激に減少します。
テストステロンはやる気や活力を高めたり、筋肉の合成効率を高めたり、性機能や性欲を維持したりといった、多様な役割を持つホルモン。そのためテストステロンが減少すると、身体、精神、性機能にさまざまな不調が見られるのです。
一般的な男性の更年期障害において、生じやすい不調を確認しましょう出典[1]。
身体の変化 | 筋肉量と筋力の低下、体脂肪の増加、骨量の減少 |
精神状態の変化 | 落ち込み、不安感、怒り、神経過敏、抑うつ状態 |
性機能の変化 | 性欲の低下、勃起能力の低下 |
このように更年期におけるテストステロンの急激な減少は、たくましさや活力、男らしさを損なうように働くことがわかります。さらに肥満や骨粗鬆症、うつ病など、健康上のリスクも高まるため、更年期障害への対処や予防は非常に重要です。
更年期障害を防いだり、辛い症状や不調を改善したりするためには、原因となるテストステロンの減少を食い止める必要があるでしょう。
テストステロンは食事、運動、睡眠、ストレスなど、生活上のさまざまな要素の影響を受けます。テストステロンの低下が気になる方は、一度生活習慣を見直してみましょう。
男性更年期とお茶の関係とは?
男性の更年期におけるテストステロンの低下を防ぐため、ナッツや牡蠣、肉類など、さまざまな食品の有効性が調べられています。
今回は安価かつ手軽に摂取できる飲料として、日本人にも馴染みがあるお茶に注目しましょう。お茶とテストステロンの関係について、現在判明していることを解説します。
ポリフェノールとカフェインが肥満を改善
お茶のうち、茶葉を使用した緑茶や紅茶、ウーロン茶などからはカフェインを摂取できます。カフェインは交感神経を刺激し、熱産生を増やしたり脂肪を分解したりしてエネルギー消費を増やすように働くため、肥満の改善に役立つとも言われていますね。
実はカフェインによる脂肪分解効果やエネルギー消費の増大効果は、お茶、とくに緑茶に豊富なカテキンとの同時摂取により、カフェインを単体で摂取したとき以上に高まることが判明しています出典[2]。
2007年にスイスのローザンヌ大学から発表された論文では、緑茶カテキン、カフェイン、カルシウムを含む飲料を3日間、1日あたり250mLずつ3回に分けて摂取したところ、24時間のエネルギー消費量が4.6%増加したとの結果が得られました出典[3]。
肥満はテストステロンを低下させる危険因子であり、減量によるテストステロン増大効果も確認されています出典[4]。緑茶によるダイエット効果は、テストステロンを増やすために役立つでしょう。
茶カテキンが食後高血糖を改善
食事による血糖値の急上昇、いわゆる「血糖値スパイク」は活性酸素を大量に発生させ、酸化ストレスを増やすように働きます。
テストステロンの合成場所である精巣は酸化ストレスに非常に弱い組織。血糖値スパイクによるテストステロンの濃度低下は約25%に及ぶとのデータもあります出典[5]。
テストステロンの合成能力を守るため、食後の血糖値の上昇をなるべく抑える必要があるでしょう。
そこで活躍するのが、緑茶にとくに豊富なカテキンの一種、エピガロカテキンガレート。食事からの糖の吸収スピードを抑える働きが確認されており、血糖値スパイクの防止に役立つと考えられているのです。
エピガロカテキンガレートはα-グルコシダーゼの働きを抑えるように作用します出典[6]。α-グルコシダーゼは食事中の糖類からグルコースを切り離し、吸収しやすい形にするための酵素です。
エピガロカテキンガレートによりグルコースの切り離しが阻害されることで、グルコースの吸収速度が遅くなる、という仕組みのようですね。
糖尿病の方の血糖管理の手段として「α-グルコシダーゼ阻害薬」は広く用いられています。エピガロカテキンガレートは天然のα-グルコシダーゼ阻害剤として機能する可能性があり、血糖コントロールに役立つとして注目が集まっています。
牛丼やうどんなど、糖質が豊富な食事を摂る際には緑茶をあわせることで、血糖値スパイクを防ぎやすくする効果が期待できるでしょう。
血中脂質のバランスを整えて血流改善
精巣で合成されたテストステロンは、血液により全身へと運ばれます。テストステロンの作用を高めるためには、血流の維持も重要であると考えられるでしょう。
また性機能のひとつ、勃起にも血流は大きく関係しています。更年期における勃起力の低下が気になる場合には、血流を改善できるような食習慣を心掛けるべきでしょう。
緑茶の摂取と血中脂質や血流との関係を調べた研究においては、次のようなことが述べられています。
- 緑茶の摂取がLDLコレステロールや総コレステロールを低下させる出典[7]
- 茶カテキン全般には脂質を吸収するための「ミセル形成」を阻害する働きがある出典[8]
- 茶カテキン全般には抗酸化作用があり、LDLコレステロールの酸化を防ぐ出典[9]
- エピガロカテキンガレートが血管内皮細胞に作用して、酸化LDLによる血管内皮へのダメージを減らし、動脈硬化を防止する出典[10]
このように、茶カテキンには脂質の吸収を抑え、血中脂質を減らすように働くため、血液をサラサラにするために役立ちます。また酸化LDLの発生や血管へのダメージを防ぐことで血管の柔軟性が保たれ、動脈硬化による血流低下も防ぎやすくなるでしょう。
実際に31件の試験、合計3,321人の被験者を分析した論文では、緑茶サプリメントの摂取により総コレステロールが平均4.66mg/dL、LDLコレステロールが平均4.55mg/dL減少したと報告されています出典[7]。
茶カテキンを習慣的に摂取すれば、テストステロンの運搬能力を高めるために役立つかもしれません。
ポリフェノールがテストステロンや性機能を高める可能性
緑茶はカテキンの摂取源として非常に優秀ですが、紅茶やウーロン茶にも特徴的な成分があります。
茶葉から紅茶やウーロン茶を製造する過程で、カテキンの多くはテアフラビンやテアルビジンに変換されます。とくに紅茶に豊富なテアフラビンは強力な抗酸化物質として機能し、精巣保護効果も確認されています。テストステロンを増やしたり性機能を高めたりするために役立つかもしれません。
紅茶やテアフラビンの摂取による精巣への効果は、複数の動物実験により確認されています。
たとえば2020年に南アフリカ共和国のリンポポ大学から発表された論文では、ラットへ52日間紅茶を与えたことにより、精子の生命力が44%~49%、精子の運動性が10%~12%、先体反応が2%~9%高まり、精子の質が全体的に向上したとの結果が得られました出典[11]。
また2012年に中国の福建医科大学から発表された論文では、カドミウム毒性により生じたラットへの精巣損傷が、5週間にわたるテアフラビンの投与により軽減されたと報告されています。
テアフラビンを投与したラットでは、血清テストステロン濃度の上昇、精子の質やDNA損傷の改善、マロンジアルデヒド(MDA)の生成抑制などの効果が見られました出典[12]。
このように、カテキン以外の茶ポリフェノールにも、テストステロンや精子を保護する働きが期待できます。緑茶の強い渋みが苦手な方は、紅茶の摂取を試してみてもよいかもしれません。
エピカテキンやエピガロカテキンもテストステロンを増やす可能性
緑茶のカテキンにはエピガロカテキンガレートのほか、エピカテキンやエピガロカテキンと呼ばれるものもあります。これらのカテキンにもテストステロンの増加に関わる作用が期待できる可能性があります。
まずはエピガロカテキンについて確認しましょう。エピガロカテキンは5α-リダクターゼという酵素を阻害するように働きます出典[13]。
5α-リダクターゼは、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換に必要となる酵素。DHTもテストステロンの一種ではありますが、過剰なDHTはニキビや脱毛の原因となるほか、前立腺がんや前立腺肥大のリスクを高めてしまいます。
遊離テストステロンが持つ本来の効果が薄まるため、好ましい変化とは言えないでしょう。
残念ながら、実際にヒトを対象とした、緑茶の摂取によるDHTの変換阻害効果はまだ確認されていません。しかし5α-リダクターゼ阻害剤自体は実際に前立腺肥大のような疾患に用いられているため、同様の効果を持つエピガロカテキンにも似た効果が期待できるかもしれません。
またエピカテキンは、ステロイドホルモンの合成に関わる「ヒドロキシステロイド脱水素酵素」の酵素活性を高め、ラットの精巣におけるテストステロン合成を高めるように働くことが確認されています出典[14]。
さらに、いずれのカテキンも抗酸化作用を持つため、酸化ストレスを減らして精巣を保護する効果が期待できます。茶カテキンの持つさまざまな生理作用は、テストステロンの保護や増大に役立つことがわかるでしょう。
ハーブティーのなかにはテストステロンを増やすものも
リラックス効果や快眠効果のため、ハーブティーを好んで飲む方もいるのではないでしょうか。長期かつ重度のストレスはテストステロンを下げるように働くため、ハーブティーによりストレスを軽減できれば、テストステロンの維持に役立つでしょう。
さらに、ハーブティーの成分自体にテストステロンを増やす働きが確認されているものもあります。有名なものが、スパイスとして主に活用される「フェヌグリーク」です。
フェヌグリークに豊富なサポニンの化合物「プロトディオシン」は、強力な抗酸化物質として機能します。精巣や血液、血管の状態を良好に保つことで、テストステロンを高める効果が期待できるでしょう。
2017年にインドから発表された論文では、50名の35~65歳の男性が1日500mgのフェヌグリーク抽出物を12週間摂取したところ、総テストステロンが7.6%、遊離テストステロン濃度が46.5%増加したとの結果が得られています出典[15]。
このように、テストステロン増大効果があるハーブティーを活用することで、更年期障害の症状緩和や予防効果が得られるかもしれません。
一方で、テストステロンを低下させる可能性があるハーブティーも存在します。たとえばラットを用いた動物実験ではペパーミントティーの摂取による総テストステロンの減少が出典[16]、女性を対象とした試験ではスペアミントティーの摂取による遊離テストステロンの減少と女性ホルモンであるエストラジオールの増加が出典[17]、それぞれ確認されています。
更年期の男性においては、これらのハーブティーの活用は避けた方がよいでしょう。
男性更年期の改善に役立つお茶の飲み方
このように、緑茶をはじめとするお茶の成分には、男性の更年期障害やテストステロンの低下を防ぐ効果が期待できることがわかります。
ここからは、男性の更年期における対策としてお茶を飲む場合の、おすすめの飲み方について解説しましょう。
カフェインとカテキンを含む緑茶や紅茶がおすすめ
テストステロンを増やしたり、テストステロンを減らす要因である血糖値スパイクや肥満を防止したりする効果は、カフェインとカテキンを同時に摂取できる緑茶に多く認められています。
また、テストステロンの減少とDHTの増加による薄毛は、更年期の男性に多く見られる症状でもあります。
DHTへの変換を防ぐエピガロカテキンガレートも、緑茶からの摂取が最も効率的。高温のお湯で淹れたお茶ではエピガロカテキンガレートやカフェインの量が増すため、沸騰させた直後のお湯を注いで濃い緑茶を味わいましょう。
ウーロン茶や紅茶のカテキン量は緑茶には及ばないものの、同様にカフェインを摂取できることに加え、テアフラビンのような独自の抗酸化物質も豊富です。酸化ストレスによる精巣へのダメージを防ぐ効果を期待したい場合には、これらのお茶の活用もおすすめです。
空腹時や食前などのタイミングで1日2杯を目安に
基本的にお茶はいつ飲んでもよいものです。しかし血糖値スパイクを防止する目的で飲む場合には、食事前のタイミングを心掛けるべきでしょう。
2011年にドイツのハイデンベルク大学から発表された論文では、エピガロカテキンガレートの体内利用率は、空腹時の摂取でより高まると述べられています。
そのためエピガロカテキンガレートの血中濃度を高く保つための摂取法として、朝食の30分前と、昼食後4時間後かつ夕食の30分前、少なくとも2回飲むことが推奨されています出典[18]。
緑茶を飲む際には、朝食前と夕食前に1杯ずつ飲むことを心掛けるとよいでしょう。
なお、一般的なお茶の飲み過ぎによる大きな害は存在しませんが、カフェインの利尿作用によりトイレが近くなります。すべての水分補給を緑茶や紅茶でまかなうことは避けた方がよいでしょう。
魚料理や柑橘系の果物と好相性
エピガロカテキンガレートの体内の利用効率は、同時に摂取する栄養素の影響を受けることがわかっています。
エピガロカテキンガレートの利用効率を高める効果のある栄養素として、ビタミンC、魚油、黒コショウ(ピペリン)が挙げられます。
エピガロカテキンガレートの体内利用効率を調査した研究では、エピガロカテキンガレート単体を一晩絶食後の朝に摂り、ビタミンC200mgとサーモン由来のω‐3系脂肪酸1gをあわせることで、血中のエピガロカテキンガレート濃度を最も高めることに成功しています出典[18]。
緑茶を飲む際には、焼き魚やムニエルのような魚料理や、みかんやイチゴのような柑橘類をあわせて取ると、よりエピガロカテキンガレートの効果を発揮しやすくなるでしょう。
夜の緑茶は「水出し」で
緑茶や紅茶、ウーロン茶など、茶葉から作られたお茶にはカフェインが含まれます。利尿作用によりトイレが近くなりやすいため、寝る前の摂取には適していないかもしれません。
寝る前に緑茶を飲みたい場合には「水出し」をおすすめします。カフェインは水に溶出しづらいため、水出しで時間をかけて抽出することで利尿作用の少ない緑茶を作れます出典[19]。
うま味成分のテアニンや渋みの弱いエピガロカテキンは水出しでも同様に抽出されるため、うま味を感じやすいお茶を楽しめるでしょう。
ただしエピガロカテキンガレートも水出しの場合、溶出量が低下します。水出しではエピガロカテキンガレートによる効果が薄まるため、夜間以外のタイミングでは熱湯で淹れたお茶を飲むようにしましょう。
まとめ
男性の更年期ではテストステロンの減少にともない、身体的・精神的・性的な不調が生じる場合があります。
テストステロンの減少を防ぐための飲料として、ゼロカロリーのお茶を活用してみましょう。
茶カテキンをはじめとする茶ポリフェノールには、酸化ストレスを軽減する効果やエネルギー消費を増大する効果、血流を改善する効果など、テストステロンの増大や保護に役立つさまざまな作用が確認されています。
カフェインとカテキンを効率よく摂取できる緑茶がとくにおすすめですが、紅茶やハーブティーの活用も更年期の体調管理に役立つ可能性があります。
お茶を飲むタイミングや食事の内容にも気を付けて、テストステロンを増やす効果より高めましょう。
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