執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
レバーと精力の関係とは?
スタミナを付けるための食品として、レバーを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。一般的な印象のとおり、レバーは疲労回復に加え、性欲や性機能といった面にも効果的な食品です。
まずはレバーを食べることで期待できる精力向上効果について、具体的に解説しましょう。
亜鉛不足を解消して性機能低下を防ぐ
レバーは亜鉛を高濃度で含む肉類のため、亜鉛不足の防止に効果的です。
亜鉛にはテストステロンの分泌を調節する役割が確認されています。テストステロンはやる気や活力、性機能や性欲を高めるように働く男性ホルモン。精力を高めるためにも、テストステロンが非常に重要であることがわかるでしょう。
テストステロンの分泌を促す指示は脳の視床下部から下垂体へ、そして下垂体から精巣へと伝わります。亜鉛には下垂体から分泌される黄体形成ホルモンの合成をサポートする働きがあるため出典[1]、亜鉛が不足するとテストステロンの分泌能力も落ちてしまうのです。
1996年にアメリカのウェイン州立大学から発表された論文では、亜鉛制限食を20週間続けた20代男性のテストステロン値が、39.9±7.1nmol/Lから10.6±3.6nmol/Lと、約73%も低下したと報告されています出典[2]。亜鉛不足によりこれだけ多くの減少が起こることを踏まえると、亜鉛の重要性も際立ちますよね。
もちろん、亜鉛不足によるテストステロンの減少は、亜鉛補給により改善できます。同じ論文では亜鉛不足の高齢男性に6か月間の亜鉛補給をおこなったところ、テストステロン値が8.3±6.3nmol/Lから16.0±4.4nmol/Lまで回復したとの結果が得られているのです出典[2]。
レバーから効率よく亜鉛を摂取し、亜鉛不足によるテストステロンの低下を防ぎましょう。
ビタミンAが精子形成をサポートする
妊活のために精力増強を考える男性もいるのではないでしょうか。妊活には性欲や性機能に加え、精子の量や質も重要。レバーには精子形成をサポートする働きも期待できるのです。
精子形成には亜鉛やビタミンKなどさまざまな栄養素が関与していますが、とくにレバーにおいてはビタミンAの効果に注目すべきでしょう。
レバーはビタミンAの「レチノール」を豊富に含む食品です。ビタミンAはβカロテンやβクリプトキサンチンなどからも生成されますが、レチノールが最もビタミンAとしての活性が高いため、効率よくビタミンAを摂りたい場合にはレバーが最適といえるでしょう。
ビタミンAには強力な抗酸化能力があり、酸化ストレスから体を守るように働きます。とくに精巣は酸化ストレスの影響を非常に受けやすい組織出典[3]。精巣がダメージを受ければ、テストステロンや精子にも悪影響が生じます。
ビタミンAのような抗酸化ビタミンの摂取により精巣を保護できれば、精子の量や質を良好に保ちやすくなるでしょう。
また、ビタミンAは精子形成のはじめの段階である、精原細胞の分化や分裂において重要な役割を果たすことも判明しています出典[4]。ビタミンA欠乏ラットでは生殖細胞が発達せず、精原細胞の段階で止まっていることが確認されており出典[5]、正常な精子の形成にビタミンAが欠かせないことがわかるでしょう。
レバーでビタミンA不足を解消できれば、妊活のサポートにも役立ちそうですね。
鉄補給による貧血対策で精力増強
レバーからは鉄も効率よく摂取できます。
鉄は貧血予防に欠かせないミネラル。慢性的な貧血は筋力の低下や疲労感にもつながるほか、テストステロンの低下にも関係があることが明らかになっています出典[6]。疲労の軽減に加え、性欲や性機能を維持するためにも、鉄補給による貧血予防が役立ちそうですね。
食品由来の鉄は、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、主に植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」とで吸収率が大きく異なります。ヘム鉄はたんぱく質と結合しているため、小腸での吸収率が高く、貧血予防により効果的と考えられているのです。
2022年にトルコのイスタンブール・サバハッティン・ザイム大学から発表された論文では、各食品における鉄の吸収率が次のように報告されています出典[7]。
食品群 | 吸収率 |
内臓肉(レバーなど) | 25~30% |
緑葉野菜 | 7~9% |
穀物 | 4% |
マメ科植物 | 2% |
このように、吸収率の高いヘム鉄を豊富に含むレバーは、貧血予防の手段として最適であることがわかるでしょう。疲労やテストステロン減少のリスクを防ぐため、レバーのような食品を活用した意識的な鉄補給をおすすめします。
ビタミンB1が疲労や性機能の低下を防ぐ
疲労を回復するための栄養素として、レバーに豊富なビタミンB1にも注目したいところ。
ビタミンB1は主に糖質のエネルギー代謝に関わるミネラルです。白米やパンなどから摂取した糖質は、ビタミンB1の働きによりはじめてエネルギーへと変換できるのです。
ビタミンB1が不足すると、糖質があってもエネルギー変換が十分におこなわれません。エネルギー不足により倦怠感や疲労感、集中力の低下などが生じるため、豚レバーのような食品からビタミンB1を十分に摂る必要があるでしょう。
また、ビタミンB1には抗酸化能力があり、脂質の過酸化やミトコンドリアの損傷、DNAの酸化などを軽減する働きが確認されています出典[8]。抗酸化ビタミンといえばビタミンA、C、Eが有名ですが、ビタミンB1にも同様の効果が期待できる可能性があるようですね。
実際に老齢ラットを対象とした動物実験では、ビタミンB1の投与により抗酸化酵素が増えたことに加え、性活動や血清テストステロン値にも改善が見られたことが確認されています出典[9]。
疲労の改善や性機能の保護を期待したい場合には、ぜひレバーからビタミンB1を補給しましょう。
レバーの効果的な食べ方について
このように、レバーには精力増強に役立つさまざまな栄養素が含まれていることがわかりました。日々の食事にレバーを取り入れたいと考える方もいるかもしれませんね。
しかしレバーを食べる際にはいくつか抑えておきたいポイントがあります。ここからは、レバーを効果的かつ安全に食べるための方法について解説します。
亜鉛の効率摂取には豚レバーがおすすめ
テストステロンを増やすためには亜鉛不足の解消が重要。レバーは亜鉛が多い食品とされていますが、種類により含有量に大きな差があることを覚えておきましょう。
【レバー100gあたりの成分含有量(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より】出典[10]
エネルギー(kcal) | 亜鉛(mg) | |
豚レバー | 114 | 6.9 |
牛レバー | 119 | 3.8 |
鶏レバー | 100 | 3.3 |
一般的に食べられるレバーのうち、最も亜鉛が多いものは豚レバーです。鶏レバーと比較すると亜鉛量は倍以上。精力増強のためにレバーを食べる場合は、亜鉛が豊富な豚レバーを意識して選ぶとよさそうですね。
外食で広く提供されているレバニラ炒めやレバーの甘辛煮には、主に豚肉が使用されています。テストステロンを高めるための外食メニューとして、ぜひレバーを用いた料理を取り入れてみましょう。
豚レバーはスーパーでも購入可能ですが、下処理が不十分なまま調理すると臭みが強く食べづらい場合があります。流水での血抜きをおこなうとともに、牛乳に20分ほど漬ける方法も試してみましょう。牛乳由来のカゼインにはレバーの臭み成分を吸着する作用があるため、レバーの風味をよくするために役立ちますよ。
亜鉛や鉄の吸収効率を高める食べ合わせで
亜鉛や鉄は体内への吸収率がやや低めです。栄養素を有効活用するためにも、ほかの栄養素との組み合わせを工夫したいものですね。
亜鉛や鉄の吸収率を高める要素と、吸収率を抑える要素には主に次のようなものがあります。
【亜鉛と鉄の吸収率を左右する要素出典[11]出典[12]出典[13]】
亜鉛 | 鉄 | |
吸収率UP | 動物性たんぱく質 クエン酸 | ビタミンC 酸味のある食品 よく噛んで食べる |
吸収率DOWN | タンニン フィチン酸 多すぎるカルシウム 多すぎる食物繊維 | タンニン リン酸 多すぎる食物繊維 |
動物性たんぱく質を豊富に含み、かつヘム鉄を含有しているレバーは、亜鉛や鉄の吸収率が元々高いことがわかるでしょう。
さらに吸収率を高めるためには、レモンのようなビタミンCとクエン酸の両方を含む食品と組み合わせるとよさそうです。レバーを焼肉として食べる場合には、味の引き締めとしてタレに混ぜるとよさそうですね。
一方、タンニンや多すぎる食物繊維は亜鉛や鉄の吸収率を下げるため注意が必要です。タンニンは緑茶やコーヒーに含まれる渋み成分。レバーを食べる際のドリンクとしては避けた方がよいでしょう。
フィチン酸はナッツをはじめ、玄米のような全粒穀類や大豆のような豆類にも豊富です。リン酸においてはインスタント食品や加工肉の摂取に注意すべきでしょう。
また健康意識の高い方にはナッツや玄米が人気ですが、レバーとは相性の悪い食品。レバーの効果を高めるため、食べるタイミングをズラすことを心掛けましょう。
週1~2回の摂取を目安に
レバーはビタミンAやビタミンB1、亜鉛、鉄などの補給手段として非常に優秀ですが、食べすぎには注意が必要です。
とくに警戒すべきはビタミンAの過剰症。レバーに含まれるビタミンAの「レチノール」は摂りすぎると体内への蓄積を起こし、肝臓や骨、皮膚、中枢神経系へ悪影響を及ぼす可能性があるのです。
各種レバーのレチノール当量は次のとおりです。厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」におけるビタミンAの耐容上限量が、18歳以上の男性で2,700μgRE/日であることを踏まえると出典[14]、レバーのビタミンAの多さも際立つでしょう。
【レバー100gあたりの成分含有量(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より】出典[10]
レチノール当量(μgRE) | |
鶏レバー | 14,000 |
豚レバー | 13,000 |
牛レバー | 1,100 |
耐容上限量とは健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限量であり、1日に2,700μgRE以上を摂取すると即座に有害であるというわけではありません。しかしレバニラ炒めを毎日食べるような方法が危険であることは、容易に想像できるのではないでしょうか。
豚レバーを毎日食べたい場合には、1日あたり20g程度に量を抑える必要があります。しかし1日に一切れまたは二切れのレバーを食べる方法はあまり現実的ではありません。そのためレバニラ炒めのようなレバー料理を、週1~2回までに抑える方法がおすすめです。
どのような食品も摂りすぎは禁物ですが、レバーにはとくに注意が必要。適切な頻度での摂取を心掛けましょう。
まとめ
スタミナをつけるための食品として有名なレバーは、疲労回復や性機能の向上に役立つ成分を多数含んでいます。
亜鉛不足の解消はとくに、性欲や性機能を高める効果が期待できるでしょう。鉄やビタミンB1の補給は倦怠感を解消する効果があり、疲労の軽減や活力の増大に役立ちます。ビタミンAにも精子形成をサポートする働きが期待されており、妊活のサポート効果も得られる可能性がありますね。
このようにさまざまな効果が得られるレバーですが、ビタミンAが非常に高濃度で含まれているため食べ過ぎは禁物。ビタミンAの過剰症を防ぐため、週1~2回までの頻度を心掛けましょう。
出典
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