鉄分は勃起に重要?性機能との関係と正しい摂り方について
2024年9月1日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

鉄分と男性の性機能との関係とは?

勃起力を高めるためのミネラルといえば、まず亜鉛を連想する方が多いでしょう。勃起をはじめとした性機能を高めるミネラルにおいて、鉄はあまり重要視されない傾向にあるようです。

しかし鉄不足の解消や適切な量の鉄分補給は、勃起力を維持するためにも非常に重要です。まずは鉄と男性の性機能の関係について解説します。

貧血予防がEDのリスク軽減に役立つ

鉄の役割といえば、やはり貧血を防ぐ効果が有名ですよね。鉄は貧血のなかでも、鉄欠乏性貧血と呼ばれる症状の改善に有効です

実は貧血は、勃起不全(ED)に関係する疾患であることが判明しているのです

貧血では、疲労や倦怠感、筋力の低下などが主な症状となります。強い疲労があったり筋力が落ちたりした状態では、性交渉時の体力を維持できず、スムーズに勃起できなくなる可能性もあるでしょう。

貧血のなかでも鎌状赤血球症と呼ばれるタイプでも、疲労や筋力の低下が主な症状として見られます。この鎌状赤血球症の男性におけるEDの割合は、鎌状赤血球症でない男性の2倍以上に及ぶとのデータがあります出典[1]。貧血の症状により勃起のリスクが倍近く高まるというのは、なかなかに衝撃的なデータですよね。

EDにおいては男性ホルモンのテストステロンの低下もよく見られます。活力や性欲、性機能を高める役割を持つテストステロンが減少すると、ますます勃起力も落ちてしまうでしょう。

2008年にアメリカのミネソタ大学から発表された論文では、EDにおけるテストステロンの減少因子に、加齢や糖尿病、高コレステロール血症に加えて貧血も挙げられており、EDにおけるテストステロンの減少と貧血に相関関係があることが指摘されています出典[2]

食事からの鉄分補給で貧血を防ぐことで、EDのリスクを減らし、性行為をスムーズにおこなう効果が期待できるかもしれません。

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必要以上の鉄分摂取には効果がない

貧血予防はEDのリスクを下げるために有効です。しかし必要以上の鉄分補給には意味がないことも覚えておくべきでしょう。

残念ながら、鉄には血流を改善したり、テストステロンを増やしたりといった効果は確認されていません。勃起力をブーストする栄養素としては機能しないため、過剰な期待は禁物です。

そもそも男性においては鉄の不足があまり起こらないのも事実

厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において、18歳以上の男性における鉄の目安量は1日あたり7.5mgと記載されています出典[3]

一方で、令和元年度におこなわれた「国民健康・栄養調査」では、20歳以上の鉄の平均摂取量は1日あたり8.3mg出典[4]最も摂取量が少ない30代でも1日7.2mgの鉄を平均で摂取できており、男性においては鉄欠乏性貧血のリスクが比較的低いと言えるでしょう

欠食が多い方やインスタント食品中心の食生活である方などは注意が必要ですが、日本の一般的な食事においては、男性の鉄不足は起こりにくいと考えられます。自身の食生活を踏まえて、サプリメントを使用するべきかどうか考えましょう。

 

鉄分の摂りすぎによりテストステロンが減少する

男性の鉄サプリメントの使用は慎重になるべきです。理由は大きく2つあり、ひとつは一般的な食生活で鉄の不足が起こりづらいこと。もうひとつは、鉄の摂りすぎによる性機能への悪影響が考えられることです。

2019年にアメリカのベイラー医科大学から発表された論文では、過剰な鉄の摂取によりEDを生じる可能性について述べられています。

たとえばMRI検査では、体内の鉄貯蔵量が増加するにつれて脳下垂体へ鉄が沈着し、下垂体の容積が減少することが示されています。

脳下垂体は、テストステロンの分泌を促す指示を出す「黄体形成ホルモン」を分泌する場所。下垂体への鉄の沈着が増えるほど、テストステロン濃度は低下するとのデータがあることから出典[5]、鉄の過剰摂取により下垂体の働きが衰えたことが、テストステロンの減少を招いている可能性がありそうです。

なお、一般的には40代を過ぎると下垂体の線維化が始まるといわれています出典[6]。加齢にともなう性機能の低下は、下垂体の線維化を原因のひとつとしているのかもしれません。鉄の過剰摂取による下垂体の繊維化は、加齢にともなう性機能の低下に似た状況を引き起こしているとも考えられるでしょう。

勃起力やテストステロンを落とさないようにするため、鉄の摂りすぎには十分な注意が必要です。

 

過剰な鉄分は血流阻害や精子の質の低下を招く可能性も

鉄の摂りすぎは脳下垂体の機能を落とすことに加え、血流を阻害したり精子の質を低下させたりする可能性もあるようです。血流阻害はEDのリスクを高めるほか、精子の質の低下は妊活にも悪影響を及ぼすでしょう。

脳下垂体からは、テストステロンの分泌を促す黄体形成ホルモンに加え、精子の形成を促す卵胞刺激ホルモンも分泌されます。過剰な鉄により卵胞刺激ホルモンの分泌が落ちれば、精子が十分に形成されなくなるでしょう出典[5]

また、過剰な鉄は酸化ストレスを強めるように働くこともわかっています出典[7]。精巣は活性酸素の発生量や不飽和脂肪酸の濃度が多く、ほかの組織よりも酸化ストレスの影響を非常に受けやすい組織出典[8]。精巣へのダメージにより、ますます精子の合成効率が落ちる可能性も考えられます。

鉄過剰症は静脈瘤を生じやすいことでも知られています。静脈瘤により血流が低下すると精巣へ鉄が沈着しやすくなり、精子の数や運動性、DNAにさらなる悪影響をもたらすでしょう出典[8]

適量の鉄は精子の運動性やDNAの調整のために必要ですが出典[5]、過剰な鉄は血流阻害や酸化ストレスの増大により、勃起や妊活の妨げとなります。勃起力を維持したい場合、鉄の摂りすぎは逆効果と覚えておきましょう。

 

勃起力を高めるための鉄分の摂り方とは?

勃起をはじめとする性機能の低下を防ぐためには、鉄不足の解消が重要です。現代の食生活において鉄の不足は起こりにくいものの、欠食や偏食の傾向がある場合には食事からの鉄が足りない可能性もあるでしょう。

ここからは勃起力を高めるために意識したい鉄の摂り方について解説します。

ヘム鉄の摂取が効率的

鉄不足の解消のためには、食品による吸収率の違いを把握しておくとより効率的です。

食品由来の鉄には吸収されやすい「ヘム鉄」と、単体では吸収されにくい「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄は肉や魚介類などの動物性食品に、非ヘム鉄は主に植物性食品に、それぞれ含まれています。

2022年にトルコのイスタンブール・サバハッティン・ザイム大学から発表された論文では、各食品における鉄の吸収率が次のようにまとめられています出典[9]

食品群吸収率
内臓肉(レバーなど)25~30%
緑葉野菜7~9%
穀物4%
マメ科植物2%

ヘム鉄を含む内臓肉と、非ヘム鉄を含む野菜や穀類とでは平均して吸収率に3倍以上の差があります

また、鉄の含有量自体にもレバーとほかの植物性食品では次のように大きな差があります。

【食品100g中の鉄含有量(日本食品標準成分表(八訂)2023年増補より)出典[10]出典[11]

食品鉄分含有量(mg/100g)
豚レバー13.0
鶏レバー9.0
牛レバー4.0
納豆3.3
小松菜2.8
ほうれん草2.0

効率を求める場合、内臓肉であるレバーの活用が最も適していると言えるでしょう。

ただしレバーはビタミンAを過剰に含むため、週1~2回までの摂取に留めるべきです。ほかのヘム鉄を含む食品として、牛ヒレ肉のような赤身肉、マグロやカツオなどの赤身魚、アサリのような貝類なども活用してみましょう。

 

食べ方の工夫で鉄分の吸収率UP

体内への吸収効率が低いとされる非ヘム鉄ですが、食べ方により吸収率を高めることができます。一方で、鉄の吸収を阻害する栄養素もいくつかあるため、鉄不足を解消したい場合にはほかの食品との食べ合わせに注意する必要があるでしょう。

非ヘム鉄の吸収率を変化させる要素として判明しているものを確認しましょう。

【非ヘム鉄の吸収に影響を与える要素出典[12]

吸収を促す吸収を阻害する
ビタミンC
酸味のある食品
よく噛んで食べる
タンニン
リン酸
多すぎる食物繊維

ビタミンCは非ヘム鉄の吸収率を高めることに加え、タンニンやリン酸による悪影響を軽減するようにも働きます。ブロッコリーやパプリカ、オレンジやレモンなど、ビタミンCが多い野菜や果物との組み合わせがおすすめです。

また胃酸も鉄分の吸収率を高めるために役立ちます。柑橘系やお酢のような酸味の強いものを取り入れる、時間をかけてよく噛んで食べる、などの工夫で胃酸の分泌量を増やしましょう。

また吸収を阻害する成分として、お茶に多いタンニン、インスタント食品や加工肉に豊富なリン酸に注意すべきです。また食物繊維の摂りすぎもミネラルの吸収を抑えてしまいます。加工食品を控えるとともに、濃い緑茶や食物繊維のサプリメントは、鉄が豊富な食品を食べるタイミングとずらすことを心掛けましょう。

 

午前中かつ運動後の摂取が効果的

鉄の吸収率をより高めたい場合には、鉄が豊富な食品を食べる時間帯にも意識を向けるとよいかもしれません。

2019年に西オーストラリア大学から発表された論文において、鉄の吸収率について次のことが述べられています出典[13]

  • 午後よりも午前の摂取の方が、安静時の鉄吸収率が約15.8%増加する
  • 運動後ではより鉄の吸収率がさらに高まる

このことから、鉄が豊富な食品を摂る絶好のタイミングは「朝に体を動かした後」と考えられるでしょう

ただ、朝からレバニラ炒めや鶏レバーの缶詰などを食べる方法にはやや無理があるかもしれません。鉄不足の解消を考えている方は、朝に体を動かした後の鉄分補給として、サプリメントの活用を視野に入れてもよいかもしれませんね。

 

サプリメントは量と飲み方に注意

レバーや葉物野菜のような食品が苦手な方や自炊の習慣がない方など、通常の食事からの鉄分補給が難しいケースではサプリメントの活用もおすすめです。運動後に手早く鉄を補給したい場合にも、すぐに摂取できるサプリメントは役立つでしょう。

効率的な鉄吸収を意識する場合には、午前中、かつ水での摂取がおすすめです。お茶は鉄の吸収を阻害するタンニンが含まれているため、鉄のサプリメントを飲む手段としては適していないでしょう。

そしてサプリメントはあくまでも、鉄不足を解消するための手段です。必要以上の摂取は鉄過剰症を招き、勃起力の低下をはじめ、不妊や性欲減退、疲労や脱毛の原因にもなる可能性があります出典[14]

ビタミンCをはじめとする水溶性ビタミンであれば、過剰に摂取しても尿として体外に出ていきますが、鉄はこのような体外排出がほとんどおこなわれません。サプリメントの多用ではとくに鉄が蓄積しやすいため出典[14]、摂りすぎには十分注意しましょう。

ちなみに成人男性における1日の鉄の耐容上限量(継続摂取しても健康に悪影響を及ぼさないとされる最大量)は50mgと示されています出典[3]。サプリメントを使用する際には、鉄を摂りすぎていないか、成分量を事前に確認することをおすすめします。

 

まとめ

鉄は鉄欠乏性貧血の解消に欠かせない栄養素です。貧血は疲労や倦怠感、筋力の低下をまねき、EDの症状とも関連があることがわかっています。鉄不足を解消して貧血を予防できれば、EDのリスクを抑えやすくなるでしょう。

ただし日本の食生活においては、男性の鉄不足は起こりづらく、鉄分補給が有効に働くとは必ずしも言えない点に注意が必要です。そして鉄の過剰摂取は勃起力の低下や精子の質の低下につながるため、サプリメントでの必要以上の摂取は厳禁。1日の目安量を守り使用しましょう。

食事からの鉄分補給にはレバーや赤身の肉・魚の摂取が効果的です。野菜や豆類などから鉄を摂る場合には、酸味の強い食品やビタミンCの力を借りたり、よく噛んで食べたりといった方法がおすすめです。

適切な鉄分補給で鉄不足を解消し、勃起力の低下を防ぎましょう。

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