執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
精力を高めるラム肉の成分3選
疲労回復や活力アップなど、元気が出る効果を表す言葉として「精力」はよく用いられています。とくに男性においては、性欲や性機能の向上を期待する意味で、精力増強効果のある食品を探している方も多いのではないでしょうか。
肉類は精力増強において比較的メジャーな食品です。なかでも今回注目するのは羊のラム肉。ラム肉と精力増強との関係について、ラム肉に豊富な栄養素を軸に解説しましょう。
カルニチン
ラム肉に特徴的な栄養素として、アミノ酸のカルニチンがあります。
2019年にポーランドのポズナン生命科学大学から発表された論文のデータでは、肉類のカルニチン含有量が次のように示されています。
【食品100gあたりのL-カルニチン含有量】出典[1]
食品 | L-カルニチン(mg) |
カンガルー | 637 |
馬 | 423 |
子羊 | 190 |
牛 | 139~143 |
豚 | 25~60.8 |
牛レバー | 15.6 |
豚レバー | 10.7 |
日本で広く食べられている牛肉や豚肉よりも、ラム肉は多くのカルニチンを含むことがわかるでしょう。
ラム肉に豊富なカルニチンには次のような精力増強効果が期待できます。
疲労回復効率UP | 筋肉でのエネルギー生成効率を高める出典[2]出典[3] 疲労感や気分を改善させる出典[4] |
テストステロンUP | 酸化ストレスによるテストステロンの減少を抑える出典[5] 精巣を保護してテストステロンの合成効率を高める出典[6] |
勃起力の向上 | 勃起指数の向上においてテストステロンの投与よりも大きな効果がある出典[4] 勃起不全の治療薬シルデナフィルの効果を高めるように働く出典[7] |
精子の質・量の改善 | 精子の数、運動性、形態を改善する出典[8]出典[9] 精子の生産に関わる精原細胞の増殖をサポートする |
カルニチンのエネルギー生成をサポートする効果により、疲労感の軽減や勃起不全の改善に成功したケースが報告されています出典[4]。
テストステロンを高める効果や精子の状態を改善する効果により、妊活のサポートにも活用できるでしょう。
亜鉛
精力向上の肝であるテストステロンは、さまざまなミネラルの影響を受けます。なかでも重要とされているのが亜鉛です。
食事からの亜鉛摂取量がテストステロン濃度を大きく左右することがわかるデータがあります。
1996年にアメリカのウェイン州立大学から発表された論文では、亜鉛制限と亜鉛補給について次のように報告されています。
【亜鉛摂取量の介入における血清テストステロンの変化出典[10]】
介入前 | 介入後 | |
20代男性への亜鉛制限 (20週間) | 39.9±7.1nmol/L | 10.6±3.6nmol/L |
亜鉛不足の高齢男性への亜鉛補給 (6か月) | 8.3±6.3nmol/L | 16.0±4.4nmol/L |
若者でも長期にわたり亜鉛を制限すればテストステロンが大きく減少し、また高齢男性でも亜鉛不足を解消すればテストステロンが増加することがわかるでしょう。
亜鉛は抗酸化物質として機能するほか、テストステロンの分泌を強化する働きも確認されています。
体内でテストステロンが減少すると、脳の視床下部から下垂体へ、下垂体から精巣へとそれぞれテストステロン分泌を指示するようなホルモンが出されます。
このうち亜鉛が関わるのは、亜鉛には下垂体から精巣へ指示を出す黄体形成ホルモン。亜鉛不足により黄体形成ホルモンの合成能力が落ちると、テストステロンも減少すると考えられているのです出典[11]。
ラム肉のような赤身肉は、亜鉛不足の解消にも役立ちます。亜鉛でテストステロンの分泌を強化できれば、精力増強効果も期待できるでしょう。
良質な脂質
ラム肉は高脂質であるため、太るリスクが高いように感じるかもしれません。しかし適度な脂質の摂取は精力増強にも重要。肉類から摂取できる飽和脂肪酸やコレステロールはホルモンの材料になるため、テストステロンの合成にも欠かせません。
1984年にフィンランドの国立公衆衛生研究所から発表された論文では、脂質のエネルギー比率が40%の食事を習慣的に摂る男性30名を対象に、脂質のエネルギー比率を25%にまで下げたところ、6週間後の血中テストステロン濃度が約15%低下したと報告されています出典[12]。
太ることを恐れて、過度に脂質を制限するとかえって精力を落とすことになりかねないため、ラム肉のような脂のついた肉も適度に取り入れるとよいでしょう。
またラム肉の脂質の特徴として、飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸のほか、強力な抗酸化物質として機能するω‐3系脂肪酸や、脂質代謝を促す効果のある共役リノール酸を含むことがわかっています。
とくにω‐3系脂肪酸や共役リノール酸は牛肉の約2倍含まれており出典[13]、良質な脂質の摂取源としても活躍するでしょう。
テストステロンの材料になる飽和脂肪酸やコレステロールに加え、さまざまな生理作用が期待できる多価不飽和脂肪酸も多めに含むラム肉は、精力増強にうってつけの食材と言えそうですね。
精力を高めるラム肉の食べ方
このように、ラム肉にはカルニチンや亜鉛、良質な脂質など、精力を高めるために重要な栄養素が豊富に含まれていることがわかりました。疲労の軽減、性欲や勃起力の改善、などを目的に、ラム肉を食卓へ取り入れたいと考える方もいるのではないでしょうか。
そこでここからは、精力を高めるために意識したいラム肉の食べ方について解説します。ラム肉を食べる際のポイントについて詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
加熱で多すぎる脂をカット
脂質はテストステロンの合成材料に欠かせないとはいえ、やはり摂りすぎは禁物です。ジンギスカンで提供されるロースは脂質量がとくに多いため、食べ過ぎにより肥満のリスクが高まることは想像しやすいのではないでしょうか。
【肉類100gあたりの成分含有量(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より】出典[14]
エネルギー(kcal) | たんぱく質(g) | 脂質(g) | |
ロース(脂身つき) | 287 | 15.6 | 25.9 |
かた(脂身つき) | 214 | 17.1 | 17.1 |
もも(脂身つき) | 164 | 22.3 | 5.2 |
過剰な脂肪組織は炎症を起こしやすく、炎症性サイトカインやアロマターゼなど、テストステロンの低下につながるさまざまな物質を分泌することがわかっています出典[15]。精力増強のためにも、ラム肉を食べる際には調理法により摂取カロリーを調整したいところですね。
肉類の脂質を落とす場合には、次のような調理法がおすすめです。
焼肉・ステーキ | ・焼き網で時間をかけて焼く(火の引火に注意) ・表面がデコボコのホットプレートで溶け出た油を切る |
煮込み調理 | ・水から肉を入れて煮込む ・加熱した鍋ごと冷蔵庫に入れ、浮き出た白い脂を取り除く |
蒸し調理 | ・蒸気で長時間蒸す ・脂は蒸し器の下へ流れ落ちるため脂質カットに効率的 |
実はジンギスカンの鍋の独特な形は、ラム肉の脂を効率よく落とすためのもの。ラムではなく成長した羊の肉であるマトンを用いる場合、脂に独特の臭みが出るため、十分に焼くことで臭みを減らせるように作られているのです。
ジンギスカン鍋で脂を溶かし落とすことは、カロリーカットとおいしさの向上、二つの面で非常に効果的です。焼肉でラム肉を焼く際にも同様に、脂を溶かし落とせる網やデコボコのホットプレートなどを利用するとよいでしょう。
大量摂取を避けて継続的に
カルニチンや亜鉛の摂取源として優秀なラム肉ですが、やはり食べ過ぎは禁物。精力増強に役立つから、との考えで、昼食や夕食に毎回ラム肉を取り入れるような、極端なやり方は避けた方がよいでしょう。
脂質の摂りすぎによる肥満のリスクはもちろん、たんぱく質の摂りすぎもテストステロンを下げる可能性があるため注意すべきです。
2023年、イギリスのウースター大学からの論文では、3.4g/kg/日より多くたんぱく質を摂るとテストステロンが減少すること、2.5g/kg/日より多い摂取でもテストステロンが減少したデータが複数見られることが報告されています出典[16]。
2.5g/kg/日以下であれば、たんぱく質摂取とテストステロンの減少との相関は見られないため、肉類を積極的に食べる場合でも、2.5g/kg/日までの摂取に抑えた方がよいでしょう。
体重65kgの方であれば、たんぱく質の摂取上限は1日あたり162.5gと計算できます。筋トレや運動の習慣がある方は、日頃のプロテインの量などを考慮のうえ、1食あたりのラム肉の目安量をあらかじめ計算しておきましょう。
なお、カルニチンは水溶性の栄養素であり、過剰に摂取した分は体外へ出てしまいます。そのためラム肉を摂る場合には継続的な摂取がおすすめ。冷凍のラム肉などを活用し、毎日少量ずつラム肉を摂る習慣を付けると、カルニチンを無駄なく取り入れられそうですね。
亜鉛の吸収率を下げる成分に注意
亜鉛はほかの栄養素の影響を受けやすいミネラルです。食べ合わせが悪いと亜鉛の吸収率が落ちる可能性があるため、ラム肉とともに食べる食品をあらかじめチェックしておきましょう。
亜鉛の吸収率を高める成分と、吸収率を抑える成分には主に次のようなものがあります出典[17]。
【亜鉛の吸収率を変動させる可能性のある栄養素】
成分 | 主な食品 | |
吸収率UP | 動物性たんぱく質 | 肉、魚、貝類 |
クエン酸 | 柑橘類、梅干し、お酢 | |
吸収率DOWN | タンニン | コーヒー、緑茶 |
フィチン酸 | 玄米、豆類、ナッツ | |
多すぎるカルシウム | 乳製品 | |
多すぎる食物繊維 | オートミール、アーモンド、ゴボウ |
クエン酸はレモンやお酢のような酸味の強い食品に豊富です。レモン果汁を焼肉のタレに混ぜることで、ラム肉の味をさっぱりと引き締めつつ、亜鉛の吸収率を高める効果が期待できるでしょう。
一方、コーヒーや緑茶など、飲み物のなかには亜鉛の吸収率を落とす成分が含まれる場合があるため注意が必要です。これらを飲む際には、ラム肉を食べるタイミングをずらすとよいでしょう。
また、健康意識の高い方の場合、玄米やナッツ、オートミールのような食品を摂る習慣があるかもしれませんが、これらも亜鉛の吸収率の面では避けた方がよい食品。ラム肉と同時に食べる食品選びを工夫して、亜鉛不足を効率的に解消しましょう。
合わせて読みたい:ムラムラ大爆発!男性の性欲を高める方法15選
まとめ
ラム肉に含まれるカルニチンや亜鉛、良質な脂質には、精力増強に役立つ効果が確認されています。
とくにラム肉には牛肉や豚肉よりも多くのカルニチンが含まれており、疲労の軽減やテストステロンの増加、勃起力の向上や精子の量や質の改善など、精力に関わるさまざまな効果が期待できるでしょう。
このように優秀な食品であるラム肉ですが、もちろん摂りすぎは禁物。脂身の多いロース肉を食べる際には時間をかけて十分に加熱し、脂を落として摂取カロリーを減らせるよう心掛けましょう。
また水溶性のカルニチンは体内に長期間蓄えられないため、継続的な摂取が重要。摂りすぎを防ぎつつ、毎日少量ずつ食べるとより効果が期待できるかもしれませんね。
出典
LINEで専門家に無料相談
365日専門家が男性の気になる疑問解決します