監修者
修士(薬科学)/建築物環境衛生管理技術者/睡眠健康指導士
佐々木 崇志
東北大学大学院薬学研究科修了。専門は時間生物学で体内時計・時計遺伝子などの睡眠に関する研究を経験。学位取得後は臨床研修指定病院にて医局秘書として勤務。1つの病院だけでなく、全国の医療従事者や医療を志す学生と携わる。医療従事者をサポートする仕事を通じて、自分も何か人の健康に貢献できないかと感じるように。現在は睡眠健康指導士として薬学の知識や睡眠研究の経験・環境衛生の国家資格を活かし、睡眠啓蒙活動を行なっている。
執筆者
株式会社アルファメイル
NP+編集部
「オトコを科学する」をキーワードに男性の悩みや課題の解決を科学的根拠をもってサポート。運動や睡眠、栄養など、健康に関する正しい知識を提供するためにコンテンツを製作中。
快眠環境における重要な要素
寝具との上手な付き合い方を知るためには、睡眠の質に影響を与える環境要素について知っておく必要があります。ここでは睡眠の質を高める上で、大切な環境要素についてご紹介します。
温度
毎日眠りにつく寝室、よい睡眠のために気を配っていることはありますか?まず睡眠の質を上げるカギとなるのは、温度です。
人は身体の中心の温度である深部体温が低下する時に眠気が生じ、スムーズに入眠できると言われております。逆に深部体温が上昇するとうまく寝付けないため、眠る環境の温度の調節は大変重要です。
厚生労働省によると睡眠に最適な寝床内環境は33℃(±1℃以内)、湿度50%(±5℃以内)とされています。寝床内環境とは布団の中の温度や湿度のことです出典[1]。寝室の気温は13~29℃の範囲に収まるように調整することを推奨しています。
日本には四季があり、室温は外気温の影響を受けます。季節によって空調などで寝室の温度コントロールをすることと同時に、寝具などを工夫することで熱がこもりすぎないようにすることが大切です。
光
夜、暗くなって眠るのは自然の摂理にかなっています。体内時計による睡眠と覚醒のリズムは光によって調整されているからです。日が昇る朝は光によって目が覚め、日が落ちる夜には眠気が強くなります。
しかし、夜に強い光を浴びると睡眠ホルモンのメラトニンの分泌が抑制され目が覚めてしまいます。現代では照明やデジタル機器のブルーライトなど、夜間に光を浴びる機会が多いですよね。その結果、体内時計が乱れがちになり睡眠の質が低下してしまいます。
寝室の照明を暗くするよう工夫したり、就寝時はデジタル機器のスイッチをオフにして快眠のための環境を整えましょう。
音
睡眠環境には言うまでもなく静かなほうが適しています。騒音が大きくなると睡眠障害を引き起こす可能性があり、心身の健康に悪影響を及ぼします。低レベルのノイズでも睡眠の質が悪くなる場合があるため注意が必要です。
音はできる限り遮断して、できるだけ静かな寝室を保ちましょう。
ただし音の感じ方には人によって違いがあります。爆音の中で眠るのは難しいですが静かすぎる環境が気になる人もいれば、わずかな生活音だけでも気になる人もいます。
音を遮断するための快眠グッズなども販売されていますので、騒音に悩んでいる場合は利用してみてはいかがでしょうか。
身体的不快感
汗や寝具の肌触りなどの身体的不快感も睡眠の質を下げてしまいます。
寝具や寝間着は直接肌に触れるものであり個人差が大きいので、身体に合うもの選ぶことが大切です。特に寝具が合わない場合は、身体に負担がかかることになります。季節に合った素材選びも快適さにつながります。また寝具は常に清潔に保ち、ハウスダストなどのアレルギーの原因があれば取り除いてください。
質の高い睡眠のために不快感の原因を取り除き、心地よい睡眠環境を目指しましょう。
上手な寝具との付き合い方
睡眠の質に関わっている環境要素についてはご理解いただけましたでしょうか。ここからは寝具との上手な付き合い方についてご紹介します。
マットレス
ベッド文化が根付いた現代の日本ではマットレス選びは非常に重要です。高額な買い物となりますので、選定基準を知って上手に選びましょう。
硬すぎても柔らかすぎてもダメ
マットレスは硬すぎても柔らかすぎてもダメだといわれています。硬すぎると身体が触れている部分が体重で圧迫されるため血行が悪くなってしまいます。逆に軟らかすぎると腰が沈んでしまいスムーズに寝返りがうてません。
異なるマットレスの固さと睡眠の質および腰痛との関連性を調査したレビュー論文では、中程度の固さのマットレスが睡眠の質の向上と、背骨を整えるのに最適であったと報告されています。
また腰痛を訴えている人の痛みを軽減する可能性があることも確認されています出典[2]。その他マットレスは固すぎても柔らかすぎても筋肉を固くするといわれています出典[3]。
マットレス選びは寝姿勢、体型、悩みなどにより変わります。チェックのポイントは身体が隙間なく密着しているか、腰が沈みすぎないか、寝返りしやすいか、横向き時に肩の圧迫がないかなど。何年も使うことを考えて慎重に選びましょう。
通気性は十分か
季節によって温度と湿度が変化する日本。特に夏は高温多湿で寝苦しいことも多いですよね。マットレスが蒸れて寝床内の温度が上昇してしまうのを防ぐためにも通気性のあるマットレスがおすすめです。
ある研究では、マットレスの通気性が寝心地に与える影響はまだはっきりしていないものの通気性のあるマットレスのほうが寝床内気候を快適に保っていたことが報告されています出典[4]。
マットレスの通気性は素材や構造によって異なります。例えば柔らかすぎるマットレスは身体との密着度が上がり通気性が悪くなりがちです。快適な睡眠環境のために、マットレスの十分な通気性も考慮するのがよいでしょう。
寝返りができる広さで
人は一晩に数十回寝返りを打つといわれています。寝返りは身体の同じ部分が圧迫されて血流が滞るのを防いだり、温度調整をするために行われます。
そのためマットレスは寝返りのできる広さが必要になります。寝返りしやすいマットレスは睡眠の質がよいことがわかっています。
78㎝と100㎝のマットレスが睡眠に及ぼす影響について調査した研究では、100㎝の方が寝返りがしやすく睡眠の途中で起きてしまう回数も少ないことが報告されています出典[5]。
何cm幅があれば満足できるかについてはまだまだ研究が必要ですが、部屋の広さと相談してできる限り大きなマットレスを選ぶとよいでしょう。
7年に1度買いかえよう
マットレスには寿命があり、寿命を超えたマットレスを使い続けると身体の不調を招く可能性があります。正しい睡眠姿勢が保てなくなり、睡眠の質が悪くなり疲れがとれない原因になります。
マットレスの交換の目安はいつも寝ている場所が凹んでいたり、きしむ音がする、起きた時に身体が痛い、カビが発生しているなど。思い当たることはありませんか?
マットレスは品質や使用方法によって寿命が異なります。多くのマットレスは5年から8年の寿命といわれていますが、マットレスの品質によっては2、3年のことも。
寿命を超えて劣化したマットレスを気付かずに使うことがないように、定期的に買い替えることをおすすめします。一日の3分の1を過ごすわけですから、早めの対処で安眠を手に入れましょう。
枕
枕は睡眠の質を高める上でマットレスと同じくらい重要な寝具です。まだ使えるからと我慢している人は、枕を変えるだけで劇的に睡眠が変わるかもしれません。
素材はラテックスやそば殻
枕の役割の一つは頭と首を支えることです。適切な枕を使用すると背骨の位置が整い、睡眠の質が向上することがわかっています。
枕の素材としてラテックスはおすすめの1つです。ラテックスは通常ゴムの木からつくられ、高反発でしっかりと頭と首をささえてくれます。またメモリーフォームと呼ばれる低反発ウレタン枕は体圧が分散され、首のカーブに沿って心地よいフィット感を感じることができるといわれています出典[6]。
さらに枕には脳の温度を下げる役割があります。就寝前は深部体温と同様に脳温も低下していることが理想的です。
昔からあるそば殻枕は通気性と放湿性に優れているので日本の気候に合っています。特に夏は高温多湿のため蒸れが気になりますよね。
体型や寝心地などは個人差がありますので、上記は参考までに好みのものを探してみましょう。
高さは7~11cm
起床時に首や肩が凝っていたり、睡眠中にいびきをかいていることはありませんか。
もしかすると枕の高さが合っていないのかもしれません。枕の高さは7~11㎝が適切といわれています出典[7]。
首の痛みに関して、枕の高さは重要な要素です。特に横向き寝の人は低すぎる枕を使うと首が反ってしまい、頸椎の骨が歪んでしまいます。その結果、首の痛みが原因で目覚めることも。逆に高すぎる枕は頭や首にかかる圧力が大きくなり、やはり痛みが生じることに。
寝姿勢によって適正な高さの枕を選びましょう。仰向けで寝ることが多い場合は立っている姿勢に近いものを、横向きの場合は頭、首、背中が布団やマットレスと平行になる高さが理想です。
輪郭に合った形
体格や体型は人それぞれ。そのため適切な枕の形状も人によって異なります。睡眠中、首と頭をしっかりサポートできなければ頭痛や首、肩の痛みから睡眠の質が下がってしまいます。
整形外科枕、形状記憶枕、羽毛枕が睡眠の質に及ぼす影響を比較した研究があります。整形外科枕は特別な機能を持つ複数のパーツで構成されています。頸椎のカーブをしっかりと安定させ、他の枕よりもカーブを維持するためのサポートを得られることが確認されました出典[8]。
自然な寝姿勢がとれるように頭部、首とマットレスの隙間のS字カーブを埋められる形状の枕を選びましょう。寝返りのしやすさも重要なポイント。
最近では多くの形状の枕が販売されていてオーダー枕もありますので、できれば色々試してみるといいでしょう。
2年で買い換えよう
お気に入りで身体に合っている枕でも、2年で買い替えることをおすすめします。マットレスと同じように枕にも寿命があります。
枕の取替え時はわかりづらいかもしれませんが寝心地が悪くなったり、形が崩れてきたら替え時のサインです。そば殻の場合は粉が出てきたり、低くなったと感じたら取替えましょう。
耐用年数は素材や使い方によって違ってきますし、手入れの仕方によっては通常よりも長く使えることもあります。お使いの枕の取扱い説明を確認してください。耐用年数を超えた枕を使い続けることは、睡眠の質が悪くなることはもちろん、衛生的にもおすすめできません。
パジャマ
学生時代のジャージやライブTなどを着がちなパジャマ。寝心地の悪さを感じている人はパジャマとして作られた服を着ることをおすすめします。
夏は綿!冬はウール!
四季があり年間の気候が大きく変わる日本。気温によって睡眠に適したパジャマの素材は異なります。
2016年にシドニー大学で行われた研究では、17℃の環境ではウールのパジャマのほうが、22℃の環境では綿のほうが睡眠の質に有益であることが報告されています出典[9]。寒い時期は身体を冷やしすぎないように、暑い時期は汗を良く吸って体温を下げる素材が適しています。
面倒くさがらずに季節によってパジャマの素材を変えてみてください。睡眠の質を上げ、ぐっすり眠りましょう。
ゆったりとした大きさ
ぴったりしすぎているとリンパ系の流れを妨げ、老廃物を排出できなくなります。特に男性の場合はタイトな下着は避けましょう。
寝返りの打ちやすさも重要な要素です。ゆったりとしたパジャマに、男性であればトランクスがおすすめ。
肌触りのよい素材
一日中忙しく疲れた夜は気持ちよく眠りにつきたいものです。直接肌に触れるパジャマは快適な睡眠の質を左右します。
例えば肌触りが柔らかい素材のパジャマのほうが固い素材よりも副交感神経の活動が増加し、一方ちくちくした素材では副交感神経の活動が低下する傾向があります。副交感神経神経の活動が増加すればリラックスでき、快眠につながります。
また季節や気温によって心地よい風合いが変わります。冬は暖かく、夏はさわやかで蒸れないことが重要視されます。夏場では冷感が持続するように開発されたパジャマが寝床内の温度を下げ、寝ている時の温冷感(暑い寒いの 感じ方)を改善したことが報告されています出典[10]。
人生の3分の1はパジャマで過ごすことを考えれば、心地よいと思える肌触りの素材を選ぶことは無駄ではありませんよね。
アイマスク/耳栓
最初に触れたように光と音は快眠環境における重要な要素です。アイマスクと耳栓は睡眠時間や睡眠効率などの睡眠の質を上げるのに有益で、深い睡眠の持続時間を増やすことがわかっています。
アイマスクと耳栓は比較的安価で試しやすいアイテムです。眠りが浅いと感じることがあれば、使用してみてはいかがですか。様々な事情で快適な睡眠環境を得ることがむずかしい場合にも便利です。
まとめ
快適に眠るための環境や寝具の大切さをご紹介してきました。起床時に昨日の疲れが残っている、首や肩のこり、頭痛など、思い当たることはありませんか? そういう悩みが解消できるかもしれません。せっかくであれば質のよい睡眠をとって、日々のパフォーマンスの向上に役立てましょう。
出典
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