監修者
睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級
室井優作
心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。
執筆者
管理栄養士/分子栄養学カウンセラー
岡かな
大阪市立大学食品栄養科、大学院修士課程修了。医療機関に勤務し、糖尿病や高血圧など生活習慣病の栄養管理に取り組む。その後はヘルスケア事業に移り、年間500人以上のダイエットをサポートする。現在はダイエットサポートの他、特定保健指導や健康に関わる分野の執筆も行っている。誤った情報で10キロ以上リバウンドした自分自身の経験から、科学的根拠に基づく正しい情報の発信を心掛けている。
米軍式睡眠法とは
コロナ禍で外出機会が減り睡眠の問題を抱える人が増えたなか、TikTokで大流行した米軍式睡眠法。
そもそも、なぜ軍隊の睡眠法が注目されるのでしょうか?
じつは答えは単純。
軍人は過酷な環境でも眠って体を回復させる必要があるため、大きなストレス下でも短時間で質の良い睡眠をとり、パフォーマンスを向上させる技術を作り上げてきました。
我々も、米軍式睡眠法を習得すればどんなときもすぐに眠ることができる、と昨今注目を浴びているのです。
とはいえ、実際は米軍式睡眠法だけでなく、軍隊に取り入れられている方法は様々。
まずは代表的な3つの睡眠法について紹介しましょう。
1.米軍式睡眠法
昨今注目を集めている米軍式睡眠法ですが、もとは1981年に出版された『Relax and Win: Championship Performance』というアメリカ雑誌に掲載されたことで有名になったもの。
著書であるロイド・バド・ウィンターは、米国海軍飛行学校の航空兵が短時間で寝つけるよう開発したのが米軍式睡眠法です。
6週間の訓練で96%の軍人が睡眠法を習得し、驚くことにコーヒーを飲みながら周りで銃を発砲した後であっても、2分以内に寝付くことができると言われているんです。
ちなみに、米軍が採用している睡眠法は他にも存在します。
2.パワーナップ
パワーナップとは10〜30分程度の短時間の睡眠のこと。
パワーナップにより、疲労の軽減や注意力の向上が期待されています。
また、一般的に昼寝が長いと、目覚めたときに頭がぼーっとしたり意識がもうろうとする睡眠慣性が起こりますが、10〜30分程度であれば起こりません。
パワーナップは短時間でリフレッシュ効果が得られることと、起床後のだるさがないというメリットで米国海軍特殊部隊でも取り入れていると言われています。
3.ネイビーシールズパワーナップ(Navy SEAL power nap)
通常10〜30分の睡眠であるパワーナップの”8分間バージョン”とも言えるのが、ネイビーシールズパワーナップ。
米国海軍特殊部隊の中でも、特に名の通った隊であるネイビーシールズで取り入れられているとされています。
ネイビーシールズパワーナップの利点は、超短時間の昼寝であるため夜の睡眠サイクルに悪影響を与えないにも関わらず、十分な休息が得られること。
「仮眠してパフォーマンスを上げたいけど、あまり時間がない…」という軍隊にはぴったりの方法かもしれません。
【お悩み別】世界中から集めた睡眠方法をご紹介
米軍で活用されている睡眠法を紹介しましたが、訓練していない素人が取り入れるには、なかなか難易度が高いのも事実。そのため失敗する人も多いんです…。
しかし、諦めないでください。世の中には睡眠にまつわる技術が他にもたくさん存在します。
今回は、世界中から情報をかき集めて、お悩み別に睡眠方法を紹介しましょう。
◆ とにかく寝付きに困っている
1.漸進的筋弛緩法(Progressive Muscle Relaxation)
なかなか寝つけないときは緊張が高まっていたり、ストレス状態にある場合が多いでしょう。そんなときに有効なのが漸進的筋弛緩法です。
漸進的筋弛緩法は、緊張状態になっている筋肉に意識的に力を入れ、その後ゆるめることを繰り返すことで力を抜いていくリラクゼーション技術。
ストレス軽減や不安の解消に効果があることが証明されています。
実際に、不安障害をもつ50人を対象とした研究によると、何も実施しなかったグループに比べて2ヶ月間漸進的筋弛緩法を行ったグループは、うつ、不安、ストレスの3つの症状が減少したことがわかりました出典[1]。
また別の研究では、熱傷病棟の患者80人に対して連続3日間、毎日20〜30分間の漸進的筋弛緩法を行うと、不安レベルが下がったこともわかっています出典[2]。
3日間という短い期間であっても効果があるのは嬉しいですね。
不安やストレスで寝付けない状況を変えたい人は、ぜひ試してみてください。
【漸進的筋弛緩法の手順】
体の各部分に60~70%くらいの力を入れて緊張させます。
約5~10秒間キープしたあと、ストンと力を抜きます。
まずは、手(両手をぎゅっと握る)からはじめ、腕(力こぶを作る)、肩(肩をぐっと上げて耳に近づける)、首(頭を下げて首の後ろに力を入れる)、顔(目と口をぎゅっと閉じる)、背中(肩甲骨をよせる)、お腹(お腹に力を入れる)、お尻(お尻の穴を引き締める)、足(ぐっと力を入れる)と進めていきます。
手順は、必ずしもこれでなくても大丈夫。自分自身がリラックスできる方法で行いましょう。
2.4-7-8呼吸法(4-7-8 Breathing Technique)
4-7-8呼吸法は、統合医療の世界的第一人者であるアンドリュー・ワイル博士によって開発されたもの。
4秒間息を吸い、7秒間息を止め、8秒間吐き出すことを繰り返す方法です。
4-7-8呼吸法は、呼吸を整えることに集中することで心配事や興奮を抑えることができ、より短時間で入眠できるようになると言われています。
そもそもスムーズに入眠するためには、寝るときに副交感神経が優位なリラックス状態になっていることが大切。
4-7-8呼吸法を行うと、交感神経活動が低下し副交感神経が優位になることがわかっているんです出典[3]。
寝る時間なのにギラギラして寝れない方、寝る前にリラックス状態にならない方は試してみましょう。
3.アリス式睡眠法(The Alice Method for Sleep)
SNSで「10分以内に寝落ちする裏ワザ」として話題になったのが、アリス式睡眠法。
日本の漫画家である”おのでらさん”が提案した方法で、手順を正しく実行すれば10分以内に眠りにつくことができると言われています。
【アリス式睡眠法の手順】
1.布団の上であぐらをかき、体を動かさないようにする
2.目を閉じ、呼吸を眠っている時くらいゆっくりにする
3.何も考えない
4.無意識に現れた映像をただ見続ける
5.フッと意識が戻り「今半分寝てた?」の様な状態が起きたらゆっくり布団に入る
6.横になって1~5をもう一度行う
実際に、おのでらさんはアリス式睡眠法を取り入れてから10年以上寝付けない夜がなくなったのだそう。
難しい呼吸法などの技術がいらず、誰でも実践しやすいため、手軽に睡眠法を試したい方におすすめです。
4.米軍式睡眠法
第二次世界大戦中、パイロットの睡眠不足による操縦ミスを減らすために考案されたのが米軍式睡眠法です。
米軍式睡眠法は過酷な状況であっても2分以内に寝付くことができるようになると言われているのですが、それ故に難易度が高く挫折する人も多いんです。
というのも米軍式睡眠法は、漸進的筋弛緩法、呼吸法、思考法を組み合わせたものであり、訓練された航空兵でさえも習得に6週間を必要としました。
主な焦点は、顔からつま先まで体の各部分を漸進的筋弛緩法によって順番にリラックスさせながら呼吸をすること、リラックスしたシーンを思い浮かべて頭をクリアにすることです。
【米軍式睡眠法の手順】
1.仰向けになり、ゆっくりと深呼吸する
2.深呼吸しながら、漸進的筋弛緩法を用いて体の各部位をリラックスさせていく
3.全身をリラックスさせたら、何も考えずに心をクリアにするために、次のうちのひとつを行う
4.上空に青空が広がり、静かな湖に浮かんだカヌーに寝そべる自分をイメージする
5.真っ暗な部屋に吊った黒いベルベットのハンモックに乗っている、心地よく温かな自分をイメージする
6.「考えるな、考えるな、考えるな」と、10秒間何度も繰り返して言う
2分以内に眠れるようになるには時間がかかるため、挫折しないためには漸進的筋弛緩法や思考法から練習してみるのも良いかもしれませんね。
5.音楽療法(Music Therapy)
「寝る前にネガティブなことを考えてしまう…」そんなときは音楽を聞くと幸福感が高まり、寝つきやすくなるかもしれません。
じつは音楽は、道楽としてだけでなく”セラピー”として医療現場で活用されています。
もちろん、音楽を聞くだけで病気が治るわけではありませんが、患者の不安やストレスを軽減し、幸福感を増加させることで治療効果を高めるんです出典[4]。
実際に、60歳以上の高齢者に対して行われた研究によると、4週間の音楽療法を受けた高齢者は受けていない高齢者に比べて、睡眠の質が向上したことがわかりました出典[5]。
音楽は難しい技法が必要ないため、すぐに取り入れやすく続けやすいのがメリットですね。
ただし、あまりに激しい音楽や耳に残ってしまうようなテンポの曲は、逆に寝つきを悪くしてしまいます出典[6]。リラックスできる静かな曲を選びましょう。
6.アロマセラピー(Aromatherapy)
音楽療法と並んで簡単に取り入れやすいのがアロマセラピー。
アロマセラピーは、鼻から吸収されたアロマの芳香成分が脳へ直接働きかけることで、自律神経を整えたりリラックス効果が得られます。
そして、結果的に寝つきが良くなることが示されているんです出典[7]。
実際に、20代の女性9人に対して、1週間アロマセラピーをするグループとしないグループに分け、睡眠の質を調査した研究があります。その結果、何もしないグループに比べてアロマグループは「寝つきが良くなった」という主観的評価が向上しました出典[8]。
またアロマセラピーは、4週間未満の実施であっても睡眠の改善効果が高いことが示されているため出典[9]、短期間で効果を得たい人におすすめです。
とは言え、これから始めたいと思っている人はアロマの香りに迷いませんか?
迷ったときはラベンダーを選ぶと良いでしょう。
アロマセラピーと睡眠について調べた34件の研究をまとめた報告では、ブレンドよりも単一のオイルのほうが睡眠の改善に効果があり、さらに単一オイルの中ではラベンダーの効果が最も大きかったことが示されました出典[10]。
ラベンダーには、副交感神経活動を高め体と心をリラックスさせる効果があるため、アロマテラピーで最もよく使用されているんです。
もちろん、アロマセラピー自体に睡眠改善効果があるため、必ずしもラベンダーでなくてもOK。リラックスできる香りを試してみてください。
◆ 睡眠の質が低い・・
7.ライトセラピー(Light Therapy)
「交代勤務でうまく睡眠をとれない…」「寝る時間がまちまちになる…」といった方では、もしかすると概日リズムが乱れている可能性があります。
概日リズムとは、いわゆる”体内時計”とも呼ばれる働き。ホルモンの分泌、体温、睡眠/覚醒サイクル、内臓の働きなどが周期リズムで動いています出典[11]。
じつは、人間の体内時計の周期は約25時間であり、地球の周期とは約1時間のずれがあるんです。そして、ずれを修正するもっとも強力な方法が”光を浴びること”。
光を見ると眠気を誘うホルモンであるメラトニンが減少し、覚醒レベルが高まることで、睡眠サイクルを整えることができるんですね。
実際に、太陽光に似た光を目に当てるライトセラピーは、概日リズムを太陽のパターンに再調整するのに役立つことが示されています出典[12]。
一般的に、ライトセラピーは医療機関で行われており、特別なライトボックスの前に40~60cm離れて座ります。
明るさにもよりますが、セッションは20分〜2時間程度。じっと座っている必要はないため読書などを自由に行うことができます。
自宅でライトセラピーを行うには、専用の光療法ボックスが必要になるためコストがかかることに注意。
また、光療法ボックスは睡眠障害専用のものと皮膚疾患を治療するものが存在するため、「睡眠改善」「時差ぼけ」などに適応しているものを選びましょう。
さらに、光療法ボックスの照度も注目ポイント。光が明るいほどライトセラピーが短時間になります。
例えば10,000ルクスであれば約20分程度で終えることができます。時短でライトセラピーを行いたい場合は10,000ルクス以上の光が出るものを選ぶと良いですよ。
8.サイクル調整療法(Chronotherapy)
ライトセラピーに比べて、より確実に概日リズムを調整できる方法がサイクル調整療法です。
サイクル調整療法とは、光療法やメラトニンなどの薬剤を使用しながら、睡眠と覚醒の時間を2日ごとに約3時間ずつ徐々に遅らせることによって体内時計をリセットする方法です出典[13]。
体内時計をリセットする手段として非常に効果的である一方、睡眠サイクルを厳密に遵守せねばならず、さらに薬剤なども必要なため、自宅で行うことは難しいでしょう。
体内時計のずれが長期的に治らない人は、医療機関でサイクル調整療法について相談してみてください。
9.アップリフティングアラーム(Wake-Up Lights)
「スッキリ起きられない…」「起きたときに眠気やだるさが残っている…」そんな人におすすめなのは、アップリフティングアラーム。
アップリフティングアラームとは、ウェイクアップライトと呼ばれる日光を模倣する目覚まし時計やランプを使用して、自然な光のサイクルに合わせて目覚めることをサポートする方法です。
自然の日の出を模倣し徐々に明るくなることで、目覚めた後に眠気やだるさを感じる睡眠慣性を少なくすることができるんです。
また、ウェイクアップライトを使用することで、眠気を誘うメラトニンが減少し覚醒レベルが上昇。結果、概日リズムを整えることができます出典[14]。
ライトセラピーに似ていますが、アップリフティングアラームは”目覚まし”として起きるときだけ活用するため、より手軽に概日リズムを整えたい人に良いでしょう。
◆ 限られた時間でパフォーマンスを高めたい
10.パワーナップ(power nap)
どうしても夜にまとまった睡眠が取れない場合は、短い睡眠であるパワーナップがおすすめです。
というのも5〜15分程度の仮眠だけでも、眠気を軽減し認知能力を向上させる効果が示されているんです出典[15]。さらに昼寝の効果は、昼寝の直後から1~3時間持続することもわかりました出典[15]。
昼寝後1~3時間もパフォーマンスがアップすれば、仕事や学業も、大変はかどりそうですね。
11.ネイビーシールズパワーナップ(Navy SEAL power nap)
様々な睡眠法を試しているTikTokerが紹介したことでバズったのが、ネイビーシールズパワーナップ。
地面に横になり足を心臓より高く上げ、約8分間という短時間だけ昼寝をするのが特徴。
夜の睡眠サイクルに悪影響を与えないにも関わらず、十分な休息が得られるとされています。
足を高くすることで乳酸などの代謝物を筋肉から排出するのに役立つと主張する専門家もいますが、睡眠の質が向上するという科学的根拠はないため、快適な方法で寝ると良いでしょう。
12.アンカースリープ (Anchor Sleep)
「シフト勤務で同じ時間に睡眠がとれない…」という人におすすめなのが、アンカースリープ。
アンカースリープとは、必要な睡眠時間の半分を決まった時間に設定し、毎日決まった時間は必ず寝ることで一定の睡眠リズムを整える方法です。
例えば、深夜12時~早朝4時を決まった睡眠時間として必ず眠り、残りの睡眠はお昼や夕方など、空いている時間に確保するようにしましょう。
アンカースリープを行うと、どれだけ不規則な生活であっても一定の睡眠リズムは確保されるため、概日リズムが乱れにくいんです。
実際に、アンカースリープで毎日4時間の睡眠を規則的にとり、残り4時間が不規則な睡眠であっても、概日リズムが安定し24時間の周期になることがわかりました出典[16]。
シフト勤務や不規則なスケジュールで働く人は、試してみる価値があるでしょう。
13.キャッチアップスリープ (Catch-up Sleep)
「週末は、ついつい長く寝てしまう…」じつはそれ、キャッチアップスリープと呼ばれる睡眠法なんです。
「睡眠不足は取り戻せない」と言われていますが、じつは一部の精神的パフォーマンスや認知機能は改善されることがわかっています。
実際に、16人の被験者に1週間連続で睡眠を約5時間に制限し、精神的パフォーマンスや認知機能を調査した研究があります。
その結果、5時間の睡眠が続いたときに、毎日の気分、眠気、認知パフォーマンスの低下が見られましたが、その後2晩たっぷり睡眠をとることで、すべてのスコアが元に戻りました出典[17]。
もちろん、長期的な睡眠不足によるすべての影響がなくなるわけではありませんが、「寝だめは悪」というわけではなさそうですね。
14.ポリファシックスリープ (Polyphasic Sleep)
2~3時間おきに起きる赤ちゃん。育児中の人も赤ちゃんのリズムに合わせているのではないでしょうか?
実はこれは1日に複数の短い睡眠をとるポリファシックスリープと呼ばれる方法を自然と実践している可能性があるんです。
確かに、短い睡眠をとることで生産性や注意力が高まる可能性が示唆されていますが、科学的根拠に乏しいのも事実。
また、ポリファシックスリープを続けていると疲労がたまり、睡眠障害が生じる可能性もあるため、長期的に続けるのはおすすめしません。
どうしても細切れ睡眠にならざるを得ない場合の短期間だけにしましょう。
適切な習慣と合わせて眠りを高めよう
ここまで様々な睡眠にまつわる技法を紹介してきました。
もちろん、身につけば寝つきが良くなったり、睡眠の質が上がったり、とても有効的でしょう。
ただ、大切なのはテクニックだけでなく、睡眠の質を意識した毎日の習慣です。
本メディアでは睡眠の質を高める方法を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
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