執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
勃起にはテストステロンと血流が重要
勃起力を高めるためのアプローチには主に「テストステロンを増やす」方法と「血流を改善する」方法の2つがあります。
テストステロンはやる気や活力、性欲や性機能などを高めるように機能する男性ホルモン。いわゆる男らしさやたくましさを作るホルモンとも言い換えられるでしょう。
テストステロンの体内量は20代をピークに減少しはじめ、40歳以降にはより急激に減少します。加齢にともなう勃起力の低下は、テストステロンの減少が原因のひとつと考えられています。
そのためテストステロンの減少を抑えることで、勃起力を高い状態で保つ効果が期待できるでしょう。
また勃起は興奮により、血液が陰茎に集まり硬くなることで起こります。血流が滞った状態では十分に勃起することもできません。
血流は血液や血管の状態に影響を受けます。サラサラの血液としなやかな血管を保つことで血流が改善され、勃起力も高まりやすくなります。
十分なテストステロンと良好な血流が、スムーズな勃起のカギとなるのです。
ナイアシンが勃起力を高める理由3選
ナイアシンはビタミンB群の一種であり、主にエネルギー代謝に関わる栄養素です。ではナイアシンはどのようにして勃起力を高めるのでしょう。
ここからはナイアシンと勃起力との関係について、先程のテストステロンや血流に関連する効果に注目して解説します。
血中脂質のバランス改善で血液をサラサラに
勃起力を高めるためのカギ、良好な血流には、血液をサラサラに保つことが重要。
ナイアシンにはLDLコレステロールの前段階である超低密度リポタンパク質(VLDL)の合成を減らす働きがあります。血中の中性脂肪やLDLコレステロールを減らしやすくなるため、血液をサラサラにする効果が期待できるのです出典[1]。
実際に脂質異常症患者が徐放性ナイアシン「ニアスパン」(体内で徐々にナイアシンを放出する薬剤)の摂取を4週間続けた臨床試験では、2000mg/日の用量において、総コレステロールが12.1%、LDLコレステロールが16.7%、中性脂肪が34.5%減少し、善玉のHDLコレステロールは25.8%増加したとの結果が得られています出典[2]。
また、勃起不全(ED)と脂質異常症を併発する患者が、ナイアシンを1500mg/日の用量で12週間摂取したところ、中等度から重度のED患者では、国際勃起機能指数(IIEF)のスコアに次のような変化が見られています。
【ナイアシン摂取によるIIEFスコアの改善幅出典[3]】
| 中等度ED | 重度ED |
IIEF-Q3 | 0.56 ± 0.96 | 1.03 ± 1.20 |
IIEF-Q4 | 0.56 ± 1.03 | 0.84 ± 1.05 |
IIEF-EFドメイン | 5.28 ± 5.94 | 3.31 ± 4.54 |
※Q3:性交時、挿入後の勃起維持能力を評価
Q4:性交終了までの勃起維持能力を評価
IIEF-EFドメイン:勃起の頻度、硬さ、挿入と維持の難易度、維持能力、自信を評価
ナイアシンの摂取による血流の改善が、このように勃起力を向上させる場合があるようです。脂質異常症の診断が下りている方はもちろん、メタボリックシンドロームの疑いがある方やEDが重度におよぶ方には、ナイアシンの摂取が効果を発揮するかもしれません。
脂質異常症の改善はもちろん、血液をサラサラにする効果により勃起をサポートする効果が得られるかもしれません。
血管拡張をサポートして血流を改善
血流の改善には血液の状態に加えて、血管の状態を良好に保つことも重要。血中で増えすぎたLDLコレステロールが酸化すると、血管壁にダメージを与えて動脈硬化の原因になることもあります。
多すぎる中性脂肪やLDLコレステロールを減らすナイアシンの効果は、血管を守るためにも有効と言えるでしょう。
また、ナイアシンには血管拡張機能があることも確認されています。血管内皮機能不全のⅡ型糖尿病患者で、かつLDLコレステロールを減少させる薬剤であるスタチンでの治療を受けている方が徐放性ナイアシンを摂取したところ、血管の弾力性を示す末梢血管コンプライアンスや前腕の最大血流量に次のような改善が見られました。
【徐放性ナイアシン投与による血管内皮機能の変化出典[4]】
| 徐放性ナイアシン投与 | 投与なし |
前腕の最大血流量 | 6.4±2.4ml/100 ml/分増加 | 2.3±1.2 ml/100 ml/分減少 |
末梢血管コンプライアンス | 1.3±0.8ml/mmHg増加 | 2.3±1.1 ml/mmHg減少 |
ナイアシンには血液をサラサラにする効果と、血管の弾力性を高める効果の両方が期待できるようです。血中脂質に不安がある方、糖尿病や高血圧などで血管の弾力性が低下している方には、ナイアシンが有効かもしれません。
酸化ストレスによるテストステロンの低下を防ぐ
勃起力を高めるホルモン、テストステロンを合成する組織である精巣は、酸化ストレスに非常に弱い組織。精巣では酸素の消費が非常に早いため活性酸素を生じやすく、さらに不飽和脂肪酸の濃度がほかの組織よりも高いため、酸化ストレスのダメージを受けやすいのです出典[5]。
精巣がダメージを受けるとテストステロンの合成効率も下がってしまいます。体内の抗酸化能力を高めて精巣を保護することで、勃起力の低下を防ぎやすくなるでしょう。
ナイアシンには抗酸化作用があり、体内で過剰に発生した活性酸素の働きを抑える効果が認められています。
たとえばラットにナイアシン800mg/kg/日を50日間投与した動物実験では、精巣組織の抗酸化状態の改善に加え、血清テストステロン値の増加や、酸化ストレスのマーカーとなるマロンジアルデヒド(MDA)の精巣含有量の減少も確認されています出典[6]。
また別の動物実験では、薬剤デキサメタゾンを投与したラットのテストステロンが通常ラットの半分以下にまで減少するところ、ナイアシン50mg/kg/日の投与により2割未満の減少に抑えられたとの結果も得られています出典[7]。
ナイアシンの摂取により、酸化ストレスによるテストステロンの減少を抑える効果が期待できるでしょう。
アルコールの分解を助けて害を軽減
過度な飲酒はEDのリスクを高める危険因子。テストステロンの低下リスクを抑えるためには、お酒は1日に純アルコール換算で20gまでにすることが望ましいとされています出典[8]。
アルコールは肝臓でアセトアルデヒドに変換され、さらに分解を受けて無害化されます。ナイアシンはアセトアルデヒドを分解する酵素をサポートするように働くため、アセトアルデヒドによる害を軽減し、飲酒による悪影響を弱める効果が期待できるでしょう。
ナイアシンにはアルコール性脂肪肝を軽減する効果が確認されていることや出典[9]、アルコール依存症の方にナイアシンの不足が見られやすいことなどからも出典[10]、ナイアシンがアルコール代謝に関係していることがわかるでしょう。
テストステロンの減少を抑えるためには節酒が一番。一方で楽しみや人付き合いとの兼ね合いから、完全にお酒を断つことは難しいものです。お酒を飲む際には意識してナイアシンを取り入れると、テストステロンへの影響をより抑えやすくなるかもしれません。
ナイアシンの摂り方のポイント
ナイアシンには血流を改善する効果とテストステロンの減少を抑える効果の両方を得られる可能性があることがわかりました。では勃起力を高めるためにナイアシンを積極的に摂りたい場合、どのような点に気を付ければよいのでしょう。
ここからはナイアシンを効果的かつ安全に摂る方法について解説します。
ナイアシンが豊富な食品を活用
ナイアシンは食事から摂取できるビタミンであるため、ナイアシン含有量の多い食品を積極的に取り入れることをおすすめします。
ナイアシンは主に魚や肉、きのこ、ナッツなどに多く含まれています。また穀類は1日の摂取量が多いため、ナイアシンの摂取源としても活用できるでしょう。
【動物性食品100g中のナイアシン当量(日本食品標準成分表(八訂)2023年増補より)出典[11]】
食品 | ナイアシン当量(mgNE/100g) |
たらこ(すけとうだら) | 54.0 |
びんなが | 26.0 |
かつお(春獲り) | 24.0 |
かつお(秋獲り) | 23.0 |
きはだまぐろ | 22.0 |
くろまぐろ(赤身) | 19.0 |
牛レバー | 19.0 |
豚レバー | 18.0 |
鶏むね | 17.0 |
鶏ささみ | 17.0 |
【植物性食品100g中のナイアシン含有量(日本食品標準成分表(八訂)2023年増補より)出典[11]】
食品 | ナイアシン当量(mgNE/100g) |
ひらたけ | 11.0 |
えのきたけ | 7.4 |
カシューナッツ | 7.0 |
エリンギ | 6.8 |
ぶなしめじ | 6.4 |
くるみ(いり) | 4.4 |
玄米(炊飯後) | 3.6 |
全粒粉パン | 3.7 |
ライ麦パン | 2.7 |
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18~49歳男性のナイアシン推奨量は15NEmg/日、50~74歳男性では14NEmg/日と示されています出典[12]。令和元年度の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の男性の平均摂取量がナイアシン当量換算で34.5mgNEであり出典[13]、ナイアシンの不足は日本の食生活では生じにくいことがわかるでしょう。
不足を補うというよりは、ナイアシンの強化によるプラスアルファの効果を狙うイメージで摂るとよいかもしれません。
トリプトファンからもナイアシンを合成可能
ナイアシン当量はナイアシンと、必須アミノ酸であるトリプトファンの量をもとに計算されています。60mgのトリプトファンから1mgのナイアシンが合成されるため出典[14]、トリプトファンとナイアシンは同時に摂取できる栄養素と考えてよいでしょう。
トリプトファンは幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの合成材料として機能するほか、睡眠ホルモンであるメラトニンを増やすためにも役立ちます。睡眠不足はテストステロンを低下させる原因になるため、トリプトファンの摂取は、ナイアシンの合成のためにも、テストステロンの低下を防ぐためにも役立つと考えられそうですね。
トリプトファンもナイアシンと同様に、肉や魚、乳製品、穀類やナッツなどから摂取できます。これらの食品を意識して取り入れ、勃起力の向上をねらいましょう。
サプリメントからの摂りすぎに注意
ナイアシンは日本においてまず不足しない栄養素。そのためナイアシンのサプリメントを飲む際には、ナイアシンの過剰摂取に注意する必要があります。
ナイアシンには過剰摂取による健康への悪影響が確認されており、食事摂取基準では18~29歳の男性で300mg/日、30~64歳の男性で350mg/日の耐容上限量が設定されています出典[12]。
ナイアシンの摂りすぎは血清尿酸値を上昇させて痛風を生じたり、インスリン抵抗性により糖尿病や肥満のリスクを高めたりする可能性があります。また過度の血管拡張作用により顔面紅潮や痒みが見られたり、血圧が下がりすぎたりするケースも確認されています出典[15]。
とくに肥満や糖尿病はEDのリスクを大きく高めます。勃起力を高めるために飲んだサプリメントが、勃起力を落ち込ませてしまう可能性もあるのです。
サプリメントは必要以上の摂取でより大きな効果を得られるものではありません。摂りすぎによる健康への悪影響を避けるため、商品に指定された目安量を必ず守り使用しましょう。
まとめ
勃起力を高めるためには、テストステロンを増やすことと血流を良好に保つことが非常に重要。とくに加齢にともないテストステロンは減少するため、テストステロンの減少を抑えることで勃起力の落ち込みも防ぎやすくなるでしょう。
ナイアシンには血液をサラサラにする効果や血管の弾力性を保つ効果が確認されており、血流の改善に役立ちます。さらに抗酸化物質として精巣を守るようにも機能するため、テストステロンの合成能力を高いレベルで維持する効果も期待できるでしょう。
ナイアシンの不足は日本ではまず起こりませんが、食事やサプリメントから多めに摂ることでこれらの効果を得られる場合があります。しかしナイアシンの摂りすぎによる悪影響も複数確認されているため、サプリメントからの摂りすぎは厳禁です。
適切な量を継続摂取し、勃起力の改善に役立てましょう。
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