執筆者
管理栄養士
西村 俊司
給食施設や食品メーカーなどを経て、現在は老人福祉施設で栄養士として勤務。専門学校卒業後18年のブランクを経て、管理栄養士国家試験に初挑戦し、一発合格。食のプロフェッショナルとしての知識と経験を生かしながら、心も体も喜ぶ「食の提案」を多くの人に届けたいと思っている。家では妻と2人の子供との4人暮らし。食べることや料理を作ることが大好き。趣味は自転車とキャンプとDIYなオジサン。
カリウムとは
まずはカリウムの基本情報についてみていきましょう。
1.どんな栄養素?
カリウムはヒトにとって必要なミネラルの一つです。元素記号は「K」、元素番号は19です。高校の化学で習う20までの元素記号に入っているので、語呂合わせで覚えた方も多いのではないでしょうか。
カリウムという名称は、ドイツ語に由来しています。英語圏では「ポタシウム」と呼ばれていますが、どちらも「植物の灰」を由来とした呼び名がついています。これは、カリウムを植物の灰から取り出したことに由来しています。
2.体の中でどんな働きをする?
そんなカリウムですが、ヒトの体内での主な働きの一つが「浸透圧の調整」です。
ヒトの体は体重の6割が水分と言われていますが、この水分は「細胞内液」と「細胞外液」に分類されています。細胞内液は全水分量の65%、細胞外液は全水分量の35%程度とされており、このバランスをとっているのが浸透圧です。
カリウムはカリウムイオンの形で、主に細胞内液に存在しています。逆に、細胞外液に多く含まれるのが同じミネラルである「ナトリウム」。体内はナトリウムとカリウムのバランスによって体水分のバランスが保たれているのです。
もう一つ、大きな働きが、体内のPH調整です。PHというのは”power of hydrogen”の略称で水素イオンの濃度を表しています。水素イオン濃度が高くなるほど酸性となり、PHは小さくなります。逆に、水素イオン濃度が低くなるほどアルカリ性となり、pHは大きくなります。一般的にphは「0〜14」で表されていて、基準となるのが中性とされるPH7です。
なお、ヒトの体のPHは7.35〜7.45というごく狭い範囲で保たれています。ここから酸性に傾くとアシドーシス、アルカリ性に傾くとアルカローシスと呼ばれ、いずれも体に不調をきたします。カリウムは血液中ではカリウムイオン(K+)として存在しており、酸性方向に働きます。このカリウムイオンは一部が腎臓で尿として排泄されることで、体内のpHが一定に保たれているのです。
さらに、カリウムは体内のナトリウムとのバランスによって存在しますが、摂取したカリウムはナトリウムを体外に排泄しやすくする効果も確認されています。ヒトの体は尿として排出される栄養素やミネラルを再吸収する仕組みがあり、ナトリウムも再吸収されていますが、カリウムはナトリウムの再吸収を阻害する働きがあるため、結果的にナトリウムの体外排泄を助けているとされています。
日本人は諸外国と比べてナトリウムの摂取量が多い国とされています。厚生労働省は1日の食塩摂取量を成人男性で7.5g/日未満、成人女性で6.5g/日としていますが、世界保健機構(WHO)では、日本よりも少ない5.0g未満/日を推奨しています。ナトリウムの過剰摂取は高血圧や胃がんなどのリスク因子であり、いずれは動脈硬化などによる心疾患につながるとされています。日本の高血圧患者は、総人口の1割近い1,000万人近いとされていて、日本高血圧学会では、食塩摂取量を減らす「減塩」と共に、カリウム摂取量の増加を促す「増カリウム」を勧めています。
3.不足するとどんなリスクがある?
カリウムはミネラルで、体内では合成できないため、食事から摂取する必要があります。厚生労働省の発表している「日本人の食事摂取基準2020」では、生活習慣病を発症予防するための目標量として男性で3000mg/日以上、女性で2600mg/日以上が推奨されています。一方で、令和元年の国民健康・栄養調査の報告書によると、成人男性の平均値が2,439mg/日、成人女性の平均値が2,273mg/日と報告されていて、男女とも目標量に達していません。
カリウムは血清中のカリウム量で評価しますが、正常なカリウム量は3.5〜5.0mEq/Lとされています。「mEq」はミリ・エクイバレント・メックの略称で、体内のミネラルを測定する単位として用いられています。
長期間に渡りカリウムが3.5mEq/Lを下回ると、低カリウム血症となります。低カリウム血症では、筋肉の痙攣や吐き気、不整脈を引き起こし、慢性的に続くと筋力低下や腸閉塞などの重篤な症状が発生します。カリウムの摂取不足による低カリウム血症はあまり症例がありませんが、アルドステロンというホルモンの異常分泌によるカリウムの大量排泄や、糖尿病治療のためのインシュリンの投与、高血圧の治療薬として使われる利尿薬の作用によるものなど、疾病により引き起こされることが多いとされていますが、日頃からカリウムの摂取量が足りていない日本人の多くは、低カリウム血症になりやすいリスクを抱えているとも言えます。
4.どんな食材に含まれている?
では、どのような食べ物にカリウムが多く含まれているのでしょうか。カリウムを豊富に含む食材は、アボカドやほうれん草、ブロッコリーやバナナなど一般的に食べることの多い野菜や果物。つまり、野菜や果物をしっかりと摂取することがカリウム補給につながることになります。日本高血圧学会でも、増カリウムとして野菜や果物の摂取量を増やすことを推奨しています。厚生労働省や農林水産省が推奨する「野菜350g/日」と「果物200g/日」を目安に摂取することで、十分なカリウムを摂取できると考えられています。
ただし、野菜や果物のカリウムは水に溶けやすいため、切ったあと長時間水に晒したり、茹でこぼしたりすると、せっかくのカリウムが流れ出してしまいます。水晒しを短時間にしたり、蒸し調理・レンジ調理を使って、上手にカリウムを摂取しましょう。
カリウムに確認されている作用や効果
ここからはカリウムの具体的な作用や効果についてご紹介します。
1.塩分とカルシウムの排出を調節
日本食は健康食と言われていますが、一方で塩分の過剰摂取にもつながりやすい食事でもあります。炊き立てのご飯は塩辛いおかずと相性が良く、塩を使って保存性を高めた食品である漬物や塩辛なども伝統的な日本のおかずとして多くの地域で食べられています。
近年は食生活の欧米化や減塩志向により、食塩の摂取量は減少していますが、それでも厚生労働省の日本人の食事摂取基準を大幅に上回っているのが現状です。食塩の過剰摂取は、高血圧や胃がんなどのリスクに繋がるため、WHO(世界保健機構)では、1日5g以下とするのが望ましいとしています。
カリウムの摂取不足はナトリウムの排泄を抑制し、体内にナトリウムを蓄積してしまいます。ヒトの腎臓では、血液を濾過して尿を作りますが、膀胱までの間に必要な栄養素や水分などを再吸収しています。血液中のナトリウムは摂取量が多い場合は尿として排泄されますが、カリウムが不足している場合、ナトリウムの吸収が亢進してしまうと考えられています。出典[1]
普段の食生活で、塩分が気になっている方は、積極的にカリウムを摂取することをお勧めします。
2.脳血管疾患のリスク軽減
脳血管疾患は、脳を流れている血管にトラブルが起こる病気です。脳の血管が破れて出血する「出血性」と、脳の血液が詰まることで、血液の流れが滞って脳細胞が壊死してしまう「虚血性」に分けられます。長年にわたって日本人の死因1位の疾病でした。現在は悪性新生物や心疾患について3番目に多いとされています。
脳血管疾患は突然死の可能性が高い上に、命を取り留めた後も、麻痺や言語障害などの後遺症が残りやすいとされ、発症後の社会復帰が難しい病でもあります。高齢者に多いイメージがありますが、厚生労働省のデータによると、脳血管疾患の患者数のうち16%は20〜64歳であるとされ、若くてもリスクのある疾病であることがわかります。
海外の研究をまとめた論文によると、食事からのカリウム摂取が多いグループほど、脳血管疾患の発症リスクが低くなるという発表がなされています。出典[2]
働き盛りのビジネスパーソンにとっても他人事ではない脳血管疾患のリスク。カリウムをしっかり摂取して予防に努めたいですね。
3.高齢者の筋肉量維持
ヒトは加齢と共の筋肉量が減少していくことはよく知られています。一般的に人間の筋肉量は25歳ごろにピークを迎え、その後は加齢と共の徐々に減少していくとされています。
特に60代以降に急激に筋力は衰え始めるため、活動することが億劫になってしまい、さらに筋力が低下するという負のスパイラルに入ってしまいます。また、高齢になると、木積とどの低下から骨折のリスクも高まります。骨折すると、活動が極端に少なくなることから、さらなる筋力の低下を招いてしまいます。
このような「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」をロコモティブシンドロームと呼びます。ロコモティブシンドロームは介護が必要となる原因の一つであり、元気な老後を送るためには、筋肉量を維持することが重要です。
海外で65歳以上の男女384人を対象とした研究では、食事によるカリウムの摂取が多いほど、除脂肪体重量の減少が少なかったと報告されています。出典[3]
元気で健康な老後を過ごすためにも、カリウムを意識的に摂取したいですね。
カリウムの摂取方法や注意点
厚生労働省の発表している「日本人の食事摂取基準2020」では、目標量として、男性で3000mg/日以上、女性で2600mg/日以上と設定されています。また、WHO(世界保健機構)のガイドラインでは、男女とも3510mg/日以上の摂取が推奨されています。
カリウムは多くの野菜や果物に含まれていて、厚生労働省や農林水産省は野菜として1日350g、果物として1日200gの摂取を推奨されています。また、納豆や赤身肉にも多く含まれますので、主菜と副菜のバランスのよい食事が大切です。
厚生労働省の日本人の食事摂取基準2020では、食事由来のカリウムによる過剰接種のリスクは少ないとして、耐容上限量は設定されていません。ただし、サプリメントなどで摂取する場合、カリウムの過剰摂取による高カリウム血症を発症することがあるので、サプリメントに含まれるカリウムの量を確認した上で、適切な量を摂取するようにしましょう。
なお、腎臓に疾患がある方は、カリウムがうまく排泄されないために高カリウム血症を発症しやすくなります。腎臓の疾患の程度によっては、カリウムの制限が必要となることがあります。また、飲んでいる薬剤等により、カリウムが吸収されやすい場合や、反対に吸収されにくくなることもあります。病気治療中の方は、まずは主治医に相談することをお勧めします。
まとめ
人間にとって非常に大切なミネラルであるカリウム。不足しやすいミネラルなだけに、意識して取ることが生活習慣病の予防につながります。毎日の食生活を見直して、一度地震のカリウム摂取量を確認してみてはいかがでしょうか?
出典
- 1.
野村 尚弘 カリウムによる尿中塩分排泄機構の制御 食塩感受性高血圧UPDATE261巻8号 2017年5月20日 p.792-796
https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=926108&AC=17454
- 2.
D'Elia L, Barba G, Cappuccio FP, Strazzullo P. Potassium intake, stroke, and cardiovascular disease a meta-analysis of prospective studies. J Am Coll Cardiol. 2011 Mar 8;57(10):1210-9.
- 3.
Dawson-Hughes B, Harris SS, Ceglia L. Alkaline diets favor lean tissue mass in older adults. Am J Clin Nutr. 2008 Mar;87(3):662-5.
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