執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
銅とは
あらゆる食品には僅かずつですが銅が含まれており、私達は日々このミネラルを摂取して過ごしています。この記事では栄養素としての銅の役割や作用、食事において注意すべき点などについて説明します。
1.どんな栄養素?
銅は生体に欠かせない必須ミネラルの一つです。カルシウムやカリウムほど多くはありませんが、ヒトの体内には約80mg存在すると言われています。
鉄やアルミなどと同様に、銅は身近であり有名な金属として知られています。銅は頑丈であるため10円玉などの硬貨に使用されるほか、熱伝導率にも優れるためフライパンなどの調理器具にも使用されます。また銀の次に電気抵抗が低い金属であるため、電線やケーブルなどの材料としても活躍します。
2.体の中でどんな働きをする?
このように優秀な金属である銅ですが、ヒトの体内においても様々な役割を持っています。
ヒトの体内において、吸収された銅はたんぱく質と結合してセルロプラスミンに変化します。セルロプラスミンは銅の輸送たんぱく質として機能しており、銅はこの複合たんぱく質によって必要な組織へと行き渡ります。
セルロプラスミンの形で全身へと運ばれた銅は、以下のように様々な酵素の材料として使われたり、別の酵素に結合してその活性を高める「補酵素」として機能したりします
- 貧血を防止する働き: 赤血球に含まれる赤い色素であるヘモグロビン合成の手助けをします。
- 免疫力を高める働き:免疫細胞のエネルギー代謝に関わる酵素である、シトクロムCオキシダーゼの材料として使 われます。
- 骨や弾性組織の形成や維持を助ける働き: 骨や肌、血管壁などに含まれるコラーゲンや、コラーゲン同士を結び付けるエラスチンな どの生成を手助けする酵素、リシルオキシダーゼの材料として使われます。
- 動脈硬化を防止する働き: 活性酸素を無害化する酵素であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)の材料として使 われます
- 髪や肌の健康を維持する働き: 毛髪や皮膚に含まれるメラニン色素を合成するために必要な酵素、チロシナーゼの材料と して使われ、紫外線から肌や髪を保護します。
銅が不足すると身体に生じる5つのこと
この章では、銅が不足することでどのような影響があるのかについて、銅が体の中で果たす具体的な役目とともに解説します。
1.貧血や息切れ
銅を含むセルロプラスミンの一部は、赤血球中の色素であるヘモグロビンの合成に使われます。セルロプラスミンには鉄を酸化する性質があり、鉄の酸化還元反応を調節することができます。この働きによって、鉄がヘモグロビン合成に使える状態へと変化し、ヘモグロビン合成の場へと運ばれるのです。
アメリカにおける国民健康・栄養調査において、調査対象者における貧血と血液中の銅濃度との関連が調べられています。これによると、明らかな鉄欠乏や葉酸欠乏、慢性疾患などが生じていない原因不明の貧血においては銅の不足や過剰が認められており、特に軽度の一般的な貧血においては銅不足を原因とする場合があると指摘されています出典[1]。
ヘモグロビン合成に必要な鉄を供給するためには、鉄だけでなく銅の存在も不可欠であるため、銅の不足は貧血の原因の一つとして考えられるでしょう。貧血やそれに伴う倦怠感、息切れなどを防ぐため、鉄と銅の両方の摂取に気を配る必要がありそうです。
2.免疫の低下
免疫には、皮膚や粘膜などのように病原体の侵入を物理的に防ぐものと、免疫細胞のように体内に侵入した病原体を異物と認識して攻撃するものとに分かれます。銅がサポートする免疫は後者の方で、免疫細胞の中でもT細胞やマクロファージといった細胞の活動をサポートしていると考えられています。
体内の銅は免疫細胞のエネルギー代謝に関わる酵素、シトクロムCオキシダーゼの材料として使われます。シトクロムCオキシダーゼが不足すると免疫細胞の活動が鈍り、病原体に対する抵抗力が損なわれるおそれがあります。
細胞や動物を使用した研究においては、銅の欠乏した状態において、インターロイキン2やT細胞の増殖が減少することが判明しています出典[2]。またヒトにおける重度の銅欠乏症においては好中球に異常が生じます。好中球の数自体が減少するほか、貪食作用という病原体を無害化するための力も弱まると言われており、欠乏を起こす可能性のある重度の栄養失調や長期の経管栄養管理などのケースにおいては特に注意が必要です。
3.骨密度の低下
骨の形成に銅を始めとした微量栄養素が必要である、という事実はあまり知られていないのではないでしょうか。骨の元となるカルシウムやマグネシウム、そのカルシウムの吸収を促進することで骨形成をサポートするビタミンD、骨代謝をコントロールするビタミンK、この四種類が最重要の栄養素ですが、骨の維持にはその他にも複数のビタミンやミネラルの働きを必要としています。
銅は骨に含まれるコラーゲンや、そのコラーゲン同士を結び付けるエラスチンなどの形成を手助けしています。コラーゲンとエラスチンの結合組織は、いずれもリシルオキシダーゼという酵素によって合成されており、このリシルオキシダーゼの材料として銅が使われることが分かっています。不足することでコラーゲンやエラスチンの生成が滞り、骨密度の低下を招いてしまうのです。
骨粗鬆症患者の血清に含まれる微量栄養素について調べたメタ分析においては、健常対象者と比較して、鉄、銅、亜鉛の血清レベルが全て低下していたことが判明しています出典[3]。コラーゲンの材料となる鉄、コラーゲンの形成を手助けする銅、正常な骨代謝を整える亜鉛、これらの不足と骨粗鬆症との間には関連があることが推測されます。これら微量元素を十分に摂取することで骨密度の維持が期待できるでしょう。
4.脳機能の低下
酵素としての銅は、中枢神経系の経路においても重要な役割を持つことが分かっています。銅の欠乏により脳の異常や発達障害のリスクが上昇するため、脳機能にとって不可欠であるとされています。
銅と脳機能の関係は、メンケス病という遺伝性疾患の症状において示されます。メンケス病とは生まれつき銅を体内へ吸収することができない状態にある疾病です。中枢神経系における銅欠乏と、酵素における銅欠乏とにより様々な症状が引き起こされます。骨粗鬆症による骨折、髪の色素が薄れるなどの頭髪異常、易感染性状態、などが見られますが、特にけいれんや頭蓋内出血などの脳障害が重篤であり、強いけいれんは寝たきりの原因となります。
このように、中枢神経系を主としたあらゆる症状をもたらす「生まれつきの銅欠乏」ですが、後天的に銅が欠乏した状態も脳機能に影響を及ぼすことが判明しつつあります。アルツハイマー型認知症の患者を対象に脳領域の調査を行ったところ、銅濃度が大きく低下していることが確認されました出典[4]。病原性アルツハイマー型認知症の原因のひとつとして銅欠乏症が考えられ、脳の銅濃度を回復させることがアルツハイマー型認知症の新しい治療方法になるのではと期待されています。
5.歩行困難
小麦などに含まれるグルテンというたんぱく質に耐性を持つ「グルテン不耐症」を特徴とする、セリアック病と呼ばれる遺伝性疾患があります。グルテンが栄養素の吸収場所である小腸にダメージを与えてしまい、銅を始めとしたあらゆる栄養素の吸収阻害を引き起こします。
このセリアック病においては脊髄神経障害が生じることがあります。手足のしびれや痛み、歩行障害を始めとした運動失調が引き起こされますが、このセリアック病における脊髄神経障害が、グルテンを含まない食事と銅の補給を組み合わせることで改善されたと報告されています出典[5]。
このセリアック病に代表されるような銅欠乏性の歩行障害が近年認識されつつあり、銅欠乏を引き起こすリスクのある重度の栄養失調状態においては特に注意すべきであるとされています。
銅の摂取方法や注意点
このように、体内で様々な役割を果たし、生命活動に欠かせないミネラルである銅ですが、不足を防ぐために注意すべきことはあるのでしょうか。この章では銅の不足や過剰を防ぐためにできる、食生活の工夫について説明します。
1.何から摂取できる?
銅は微量元素として、あらゆる食品に少量ずつ含まれています。そのため極端な欠食や偏食などがなく、通常の食事が摂取できている場合には不足の心配はないとされています。
銅を多く含む食品、として意識せずとも、通常の食事で必要量を満たすことはできますが、特に多く含まれる食品として以下のようなものが挙げられます。主に魚介類や種実類に豊富で、手軽な摂取源としては大豆やくるみ、アーモンドが挙げられるでしょう。
食品名 | 成分表(mg/100g) |
ほたるいか(ゆで) | 2.97 |
いか(塩辛) | 1.91 |
ごま(いり) | 1.68 |
かき(水煮) | 1.44 |
黄大豆(いり) | 1.31 |
くるみ(いり) | 1.21 |
アーモンド(いり) | 1.19 |
(「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のデータより引用)
また、嗜好飲料として飲まれるココアにも銅は豊富に含まれます。茶葉にも豊富に含まれるため、茶葉をそのまま食べられる抹茶も効率的な摂取源となるでしょう。
食品名 | 成分表(mg/100g) |
ココア(ミルクココア) | 0.60 |
抹茶 | 0.60 |
(「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のデータより引用)
2.どのくらい摂取すればいい?
2020年度版の「日本人の食事摂取基準」においては、成人以上の男女における推奨量が以下のように設定されています。
男性(mg/日) | 女性(mg/日) | |
18~74歳 | 0.9 | 0.7 |
75歳~ | 0.8 | |
妊婦 | +0.1 | |
授乳婦 | +0.6 |
(「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」のデータより引用)
銅はそもそもの必要量がそこまで多くなく、またあらゆる食品に含まれているため、極端な欠食や偏食を起こしていない限り、銅が不足することはありません。
実際に、令和元年に行われた国民健康・栄養調査においては、日本人における銅の摂取量の平均値が1.12mg、中央値が1.06mgとなっており、成人男女の必要量を概ね満たしていることが分かっています。
また、銅は摂取量が少ない時には吸収率が高くなり、摂取量が多い時には吸収率は低くなるといった特徴を持つため、食事からの摂取量に多少の過剰や不足があったとしても、体の吸収調節機構によって体内の銅濃度はほぼ正常範囲に保たれているのです。
銅不足が問題となるのは、経口摂取ができず長期に渡り経管栄養での栄養管理が行われていたり、低出生体重児で人工ミルクのみで栄養管理をしていたりするような場合です。通常の食事が摂取できている場合には深刻な銅不足をきたすことはまずない、と考えてよいでしょう。
3.健康上限摂取量は?
同じく「日本人の食事摂取基準」にて、銅の耐用上限量は成人男女共に7mgと設定されています。銅の過剰症では吐き気、嘔吐、下痢を引き起こし、重篤な例では腎臓や赤血球の破裂による溶結性貧血を生じることもあります。これらは銅の持つ、たんぱく質や脂質を酸化させたり、活性酸素の生成を促進させて酸化ストレスを高めたりする働きによるものであると考えられています。
このような銅の過剰症を起こすケースに、銅が肝臓に蓄積するウィルソン病という遺伝性疾患があります。後天的な過剰症では、手入れを怠り腐食した銅製の調理器具や食器から摂取して中毒を起こす可能性が指摘されています。
しかし通常であれば、銅や亜鉛といった一部の微量元素の量は、メタロチオネインというたんぱく質によって増えすぎないよう制御されています。銅が必要以上に体内へと取り込まれた場合、このメタロチオネインが銅を取り込み、無害な形で貯蔵します。これにより、銅の量と過剰な銅がもたらす活性酸素の発生とが調節され、銅の過剰症を防ぐことができているため、通常の食事を行える分には銅の過剰症について気を配る必要はないと考えられています。
4.摂取する上で気を付けるべきことは?
体に受けるストレスが多い場合、銅の体外排出量が多くなることが分かっています。また銅はあらゆる食品に含まれますが、超加工食品と呼ばれるインスタント食品やファーストフードなどにはほとんど存在していません。そのためストレスが多い生活や偏った食生活を続けている場合には、銅を豊富に含む抹茶やココアなどの習慣的な摂取を検討してみてもよいかもしれません。
また、亜鉛の過剰摂取により銅の吸収や貯蔵が一部妨げられることが分かっています。これは亜鉛と銅とを貯蔵するたんぱく質がメタロチオネインで共通していることを理由にしていると考えられています。亜鉛の貯蔵にメタロチオネインが使われてしまい、銅の貯蔵ができなくなってしまうのです。
しかし食事から摂取できる量の亜鉛では、銅が欠乏症を起こすほどの吸収阻害には至らず、逆に銅の多量摂取においても亜鉛の欠乏症には繋がらないため、注射や服薬などで亜鉛を過剰に摂取するような状況を覗き、亜鉛による吸収阻害を考える必要はないでしょう。
まとめ
体の中で重要な酵素となり、あらゆる代謝活動をサポートしている銅は、生体にとって重要なミネラルです。通常の食事で大きく不足することはないミネラルであり、食事による過剰症にも警戒の必要はありませんが、銅の摂取が少ないかもしれない、あるいは排出量が増えているかもしれないと感じた場合には、ナッツ類やココア、抹茶などを食事に取り入れ、健康管理のサポートとして役立ててみましょう。
出典
- 1.
Mary Ann Knovich, Dora Il'yasova, Anastasia Ivanova, István Molnár. The association between serum copper and anaemia in the adult Second National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES II) population. Br J Nutr. 2008 Jun;99(6):1226-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18533287/ - 2.
S S Percival. Copper and immunity.Am J Clin Nutr. 1998 May;67(5 Suppl):1064S-1068S.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9587153/ - 3.
Jianmao Zheng , Xueli Mao, Junqi Ling, Qun He, Jingjing Quan. Low serum levels of zinc, copper, and iron as risk factors for osteoporosis: a meta-analysis. Biol Trace Elem Res. 2014 Jul;160(1):15-23.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24908111/ - 4.
Jingshu Xu , Stephanie J Church, Stefano Patassini , Paul Begley , Henry J Waldvogel , Maurice A Curtis , Richard L M Faull , Richard D Unwin , Garth J S Cooper. Evidence for widespread, severe brain copper deficiency in Alzheimer's dementia. Metallomics. 2017 Aug 16;9(8):1106-1119.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28654115/ - 5.
Brent P Goodman, Deven H Mistry, Shabana F Pasha, Peter E Bosch. Copper deficiency myeloneuropathy due to occult celiac disease. Neurologist. 2009 Nov;15(6):355-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19901719/
参考文献
- 上代淑人, 清水孝雄 / イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 / 丸善出版 / 2011
LINEで専門家に無料相談
365日専門家が男性の気になる疑問解決します