

執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
男性の性欲減退はテストステロンが原因!
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「最近ムラムラしなくなった」「性欲が若いころより減った」と悩んでいませんか?
一般に性欲は加齢とともに落ちるものとされています。ではなぜ年齢を重ねるとムラムラしなくなるのでしょう。
主な原因として挙げられるのが、テストステロンの減少です。
テストステロンは男性ホルモンの一種で、主に精巣から分泌されています。アメリカでおこなわれた40~70歳の男性1632人を対象とする追跡調査では、性欲が強い男性ほどテストステロン濃度も高くなるといったデータが得られています出典[1]。テストステロンの多さと性欲の強さは、大いに関係があると言えるでしょう。
そんなテストステロンの体内量のピークは20歳。その後は徐々に減少し、40歳を過ぎると減り幅がより大きくなります。とくに性機能面、心理面、身体面などの働きを持つ活性型の「遊離テストステロン」は、35~40歳を超えると1年につき1~3%減るとも言われているほど、加齢による影響は深刻です出典[2]。
テストステロンの低下による男性の更年期症状では、性欲や性機能の低下をはじめとするさまざまな不調が現れます出典[3]。性欲減退を抑えるためには、生活習慣の改善やサプリメントの活用などで、テストステロンの減少を防ぐ必要があるでしょう。
ムラムラしなくなった7つの理由
若いころのようにムラムラしなくなった理由には、テストステロンの減少が関係している可能性が高いと言えるでしょう。
ここからはテストステロンが減少しやすい生活習慣に注目し、性欲減退が見られる理由としてよくあるものを7つ紹介します。思い当たるものがあれば、ぜひ改善できるよう、毎日の過ごし方を工夫してみましょう。
体重の増えすぎまたは減りすぎ

ここ数年で体重が急に増えたり、あるいは過激なダイエットやストレスで体重が急激に落ちたりしていませんか?
実は肥満も痩せすぎもテストステロンには悪影響。適切な体型を維持して体脂肪の量をコントロールすることで、テストステロンの量を維持しやすくなるのです。
まず肥満のリスクは、増えすぎた脂肪組織が炎症を起こすことにあります。炎症を起こした脂肪組織は炎症性サイトカインを放出。酸化ストレスに弱い精巣へダメージを与えて、テストステロンの合成量を落とす可能性があるのです出典[4]。
さらに炎症状態にある脂肪組織からはアロマターゼの分泌量も増えてしまいます。アロマターゼはテストステロンを、女性ホルモンのエストラジオールに変換する酵素。肥満によりアロマターゼの分泌量が増えれば、より多くのテストステロンがエストラジオールへ変換されてしまうでしょう。
中国の男性448人を対象にBMIとテストステロン濃度を調べた研究では、BMIが上がるほど血清テストステロンが低下したという逆相関の関係が報告されています出典[5]。
BMIが25を超えるような肥満体型の方は、一度食生活や活動量を見直す必要があるでしょう。
一方で、急激な体重減少もテストステロンを減らすリスクとなります。
たとえば18人の一流レスラーを対象に減量期をモニタリングしたところ、2~3週間で体重を8.2 +/- 2.3 %、体脂肪を16 +/- 6.9 %減少できたことが確認できています。しかし同時にテストステロンが63 +/- 33 %も減少しており、除脂肪体重にも7.9 +/- 2.5 %の減少が見られていました出典[6]。
このように、短期間での過激なダイエットで体脂肪のみを落とすことは難しく、テストステロンの減少は避けられないものと考えるべきです。
体脂肪を落としながらテストステロンを保つためには、やはりローペースでの減量が肝心。体重を落とす必要がある場合には、1か月に1~2kgを目安に、無理のないペースでのダイエットを心掛けましょう。
お菓子やジャンクフードを摂る量が増えた
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ドーナツや菓子パンのような甘いお菓子や、ピザやカップ麺のようなジャンクフード、サイダーやエナジードリンクのような清涼飲料水などを口にする機会が増えていませんか?
これらは高カロリーであることに加えて糖質量が非常に多く、肥満のリスクを高めるため要注意。
糖質量の多い食品は血糖値を急激に上げ、血糖値を下げるためのホルモン、インスリンを大量に分泌させます。インスリンは血中の余った糖を脂肪として蓄えるように働きかけるため、ますます体に脂肪が付きやすくなるのです。
また、血糖値が急激に上がる状態も問題です。高血糖状態では活性酸素が発生しやすく、精巣がダメージを受けてテストステロンの合成能力を落とす可能性も。精巣は活性酸素の働きを受けやすい組織のため出典[7]、高血糖状態にはとくに注意すべきでしょう。
74名の男性を対象に、75g経口ブドウ糖負荷試験による人為的な高血糖状態を起こした実験では、テストステロンが平均24.7%低下したとの報告が寄せられています出典[8]。高血糖状態による影響が非常に大きいことがわかりますね。
甘いものやジャンクフードを控えることは、太るリスクを下げるためにも、食後高血糖を防ぐためにも重要です。とくに次のような食品の摂取に注意するとよいでしょう。
摂取を避けたいもの | ・ジャンクフード(カップ麺、スナック菓子) ・ファーストフード(ハンバーガー、ピザ) ・清涼飲料水(炭酸ジュース、エナジードリンク) ・洋菓子(ケーキ、クッキー、ドーナツ) ・菓子パン(チョコクロワッサン、メロンパン) |
量を減らしたいもの | ・ラーメン、うどん、チャーハン(大盛やセット注文を避ける) ・ライスやパン(無料のおかわりを利用しない) |
これらの食品や飲料を好んで食べている方は、まず食べる量や機会を減らすところからはじめましょう。
野菜や果物、魚などを食べなくなった

野菜や果物、魚などを食べる機会が少なすぎる場合にも、テストステロンの分泌能力が落ちている可能性があります。
自炊をしない方では、朝はコンビニでおにぎり2個とお茶、昼は外食で天ぷらうどん、夜は持ち帰りの牛丼やファーストフード、のような生活になってしまい、生鮮食品の入る余地がないケースも珍しくないでしょう。
野菜や果物、魚を摂らないことで起きる問題として、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールなどの不足が挙げられます。
ビタミンD、亜鉛、マグネシウムなど、ビタミンやミネラルのなかにはテストステロンの分泌に関わるものがあります。これらの栄養素が不足すれば、テストステロンを増やす力も落ちてしまうでしょう。
また、体内で発生した活性酸素を除去するために役立つ、ビタミンやポリフェノール、カロテノイドなどの抗酸化物質も重要です。抗酸化物質には過剰に発生した活性酸素の働きを抑え、体へのダメージを減らす効果が期待できるのです。
ビタミンやミネラルが不足すると、精巣組織の酸化ストレスと炎症が悪化して、精巣の発育不全やテストステロンの減少につながることや出典[9]、ミネラルやポリフェノールの不足により、テストステロンの分泌を促す脳からの指令効率が落ちて、テストステロンを増やしづらくなることがわかっています出典[10]。
テストステロンの合成効率を落とさないためには、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなどの摂取が重要と言えそうですね。
野菜や果物などの食品からは、主に次のような成分を摂取できます。
食品 | 主な抗酸化物質 |
緑黄色野菜 | βカロテン、ビタミンC、ポリフェノール |
果物 | ビタミンC、ポリフェノール |
ナッツ | ビタミンE、亜鉛、マグネシウム、ω‐3系脂肪酸(リノレン酸) |
魚 | ビタミンD、ω‐3系脂肪酸(EPA、DHA) |
コンビニでサラダや野菜の煮物を買う、外食では丼もののような単品注文ではなく汁物や野菜の小鉢を同時に食べられる定食注文にする、などの工夫で、抗酸化物質を摂る機会を増やしてみましょう。
睡眠時間が1日5時間未満に減った
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短時間睡眠もテストステロンの大敵です。理由は明確で、睡眠中はテストステロンが最も多く分泌される、いわば性ホルモンのゴールデンタイムだから出典[11]。テストステロンの分泌量を増やせる時間帯を削る生活を続けていては、ムラムラしやすい体になることは難しいでしょう。
テストステロンの分泌能力が十分にあるはずの若い男性でも、5時間睡眠を1週間続けただけで、血中テストステロンが10~15%減少したというデータも存在します出典[12]。短時間睡眠による影響がいかに大きいかがわかりますね。
また、1日に7時間未満の睡眠を長期間続けると、肥満や糖尿病、高血圧などのメタボに関わるリスクが上がることもわかっています出典[13]。
たとえば健康な若い男性が4時間睡眠を2日続けただけで、1日10時間眠った場合よりも、食欲を抑えるホルモンのレプチンの分泌量が減少し、食欲を高めるホルモンのグレリンの分泌量が増加したとの報告があります出典[14]。
短時間睡眠を続ける生活ではつい食べ過ぎてしまいがち。余分な間食や夜食などで体脂肪が増えればさらにテストステロンが減り、性欲も落ちてしまうでしょう。
食欲を適切にコントロールして体脂肪の増加を防ぐためにも、1日7時間は眠れるようスケジュールを調整したいものですね。
睡眠時間を十分に取っているにもかかわらずぐっすり眠れない場合には、寝付きをよくするため、夜の過ごし方にひと手間加えてみましょう。
たとえばコーヒーやエナジードリンクのようなカフェイン飲料を夕方以降飲まないようにすれば、眠気覚ましの影響を避けやすくなります。またお風呂はシャワーのみで済ませず、寝る90分~2時間前に温かいお風呂へ15分浸かってじっくり体を温めると、より寝付きがよくなるでしょう出典[15]。
飲酒量がビールロング缶1本以上に増えた
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お酒好きの方は要注意。少量であればストレス解消や血行促進に役立つともされていますが、アルコールと性機能の相性は決してよいものではありません。
お酒の飲みすぎは、次のような理由でテストステロンを減らし、性欲を落とす可能性があります。
- 体内の抗酸化活性を下げて精巣へのダメージを増やす出典[16]
- テストステロンを減らす物質「アロマターゼ」の分泌量が増える出典[17]
- テストステロンを分泌する指示を出すホルモンの生成をアルコールが阻害する出典[18]
- 糖質の多いビールや日本酒がインスリンの分泌量を増やして肥満のリスクを高める出典[19]
- 睡眠の質を下げてテストステロンの分泌量が増えるゴールデンタイムを逃す出典[11]
抗酸化活性の低下、アロマターゼの増加、肥満や不眠のリスクの増加など、テストステロンを減らすさまざまな要因を重ねてしまうことがわかるでしょう。お酒の飲みすぎにはよいことが何一つありません。
ムラムラしやすい体づくりのためには、お酒を飲む量や頻度をなるべく減らした方がよいでしょう。
とはいえ、お酒好きの方が完全に断酒するのは難しいものです。お酒の場での交流を持つ必要がある方では、とくに難易度が上がるでしょう。
お酒とムラムラを両立させたい場合には、量の調整が重要。1週間に7単位、1日1単位未満(純アルコール換算で1日20g未満)の摂取であれば、性ホルモンへの影響が出にくいと言われています出典[11]。
純アルコール量は、お酒の容量とアルコール度数、さらにアルコールの比重「0.8」を掛け合わせ、次のように算出できます。
【一般的な酒類のアルコール度数と適正量の目安】
アルコール度数 | 純アルコール20g相当量 | |
ビール | 約5% | 500mL(ロング缶1本) |
日本酒 | 約15% | 約165mL(1合弱) |
ワイン | 約12% | 約208mL(グラス1杯半) |
ウイスキー | 約40% | 約63mL |
焼酎20度 | 20% | 125mL |
焼酎25度 | 25% | 100mL |
アルコール度数5%のビールであればロング缶1本が上限です。少なすぎると感じた方は日頃から飲みすぎている可能性も。ぜひこの機会に飲酒量を調節して、テストステロンを増やしやすい体を目指してみましょう。
デスクワーク中心の生活で運動不足
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デスクワーク中心のお仕事に取り組んでいる場合、外で歩く習慣をほとんど作れない方もいるでしょう。しかし1日の歩数が減れば減るほど、テストステロンを増やしづらくなる可能性があるため注意が必要です。
たとえば2021年に発表された論文では、アメリカの男性279名を対象にした調査で、歩数とテストステロンに関する次のようなデータが得られています出典[20]。
総テストステロン 低値の人の割合 (250ng/dL未満) | 遊離テストステロン 低値の人の割合 (6.5ng/dL未満) | |
~4000歩 | 23.1% | 37.1% |
4000~8000歩 | 10.8% | 17.3% |
8000~12000歩 | 4.82% | 9.8% |
12000歩~ | 6.52% | 2.2% |
歩数の量による多寡はありますが、1日の歩数が多いほど低テストステロンの方が少なく、1日4000歩未満の方では低テストステロンのリスクがとくに大きいことがわかるでしょう。
さらに、1日の歩数が1000歩増えると総テストステロンが7ng/dL増える、歩数が増えるほど性腺機能低下症のリスクも減少する、といった関係があることも確認できています出典[20]。ムラムラしやすい体を作るためには、歩く時間をたっぷり取る必要がありそうですね。
歩かない生活にはもうひとつ問題があります。長時間座った状態でいると、精巣が圧迫され血流が滞り、活性酸素の発生量が増えて精巣を傷付けやすくなるのです。
デンマークの若い男性1210名を対象に、座りがちな生活習慣と性機能との関連を調べた研究では、テレビを座って1日5時間以上視聴する男性は、長時間視聴をしない男性よりもテストステロンが低いとの結果が得られています出典[21]。
ムラムラしやすい体を作るためには、長時間座ったままの状態を避け、こまめに歩くことが肝心と言えそうですね。
なお、もし歩数を増やすためにウォーキングやスロージョギングを取り入れたい場合には、日中、屋外でおこなうことをおすすめします。日光浴により合成されるビタミンDは、テストステロンを増やすためにも重要です出典[22]。日光浴ができる時間帯に外で体を動かせば、よりテストステロンを増やしやすくなりそうですね。
ストレスを溜め込むようになった

ストレスもムラムラの大敵です。強いストレスを長期間受け続けることで、テストステロンが大きく減少することが確認されています。
まず1992年にニューヨークの病院により発表された論文を見てみましょう。ストレスを受けやすい立場にある病院の研修医のテストステロンを調べたところ、同じ病院のほかの職種の方の平均より約42.7%も低いとのデータが得られました出典[23]。
次に2023年にスイスから発表された論文を確認すると、士官学校の生徒が長期かつ重度のストレスを受け続けた場合、12週間で朝の唾液テストステロン濃度が平均約4.5pg/mLから約3.0pg/mLまで減少したと報告されています出典[24]。
強いストレスを長期に受け続けることが、いかにテストステロンに悪い影響をもたらすかがわかるでしょう。
しかしストレスを減らすことができれば、減ったテストステロンも回復します。先ほどの士官学校の生徒を調査した論文でも、強いストレスを受けていた期間を終えると、テストステロンがストレスを受ける前の値まで回復していました出典[24]。
ストレス管理のためには、ストレスを受けやすい状況、場所、相手などを避けるとともに、食事や睡眠を整えることも重要です。
たとえば睡眠に関わる65件の研究を分析した論文では、睡眠の質を改善すると精神的健康が向上し、ストレスも軽減しやすくなると示されています出典[25]。
また、野菜、果物、ナッツ、魚、オリーブオイルなどを中心とした、抗酸化物質を多く含む食事は、ストレスにより引き起こされるうつ病や不安などの予防に効果があることも分かっています出典[26]。
さらに、コーヒーやお茶などからの抗酸化物質の補給により、うつ症状や不安の改善が見られるとの報告も出典[27]。
ストレスフルな環境を避けるとともに、心と体の両方を労わる習慣を取り入れて、ムラムラしやすい体を取り戻しましょう。
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性欲減退の主な原因はテストステロンの減少にあると考えられます。何もしなくても加齢によりどんどん減少するテストステロンですが、生活習慣の改善より減少を抑えることができます。
食事や運動、睡眠などを見直して、ムラムラしやすい体を取り戻しましょう。
とはいえ、忙しい方では歩く習慣が作りづらく、自炊の経験がない方では魚や野菜を習慣的に摂ることも難しいでしょう。また、自身の課題が複数ある場合、どれから取り組めばよいかと迷ってしまうかもしれません。
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