しあわせホルモン「セロトニン」を増やす?トリプトファンの利用目的や効果4つと飲み方
2022年11月1日更新

監修者

博士 (環境学)

松川隼也

筑波大学大学院で栄養学について学び、博士号を取得。学位取得後は国立の研究機関に研究員として勤務。栄養学、生理学、生化学を専門とし、糖尿病の病態機構を解明する研究を行っている。市民ランナーでもあり、ハーフマラソン1時間8分、マラソン2時間44分の記録を持つ。運動、栄養、科学の3点から健康に関する知識を発信することを目指す。

執筆者

株式会社アルファメイル

NP+編集部

「オトコを科学する」をキーワードに男性の悩みや課題の解決を科学的根拠をもってサポート。運動や睡眠、栄養など、健康に関する正しい知識を提供するためにコンテンツを製作中。

トリプトファンとは

トリプトファンとはいったいどのような成分なのでしょうか。まずは、トリプトファンの働きや、豊富に含まれる食材についてチェックしていきましょう。

1.どんな栄養素?

トリプトファンはアミノ酸の一種であり、人体にとっての「必須アミノ酸」の一つとして挙げられています。必須アミノ酸とは、体内で合成できないため、食事やサプリメントで摂取する必要があるアミノ酸のことを指しています出典[3]出典[13]

 

2.どんな働きをするアミノ酸?

人体におけるトリプトファンの主な働きは、たんぱく質の合成をサポートすることです。特に、トリプトファンは神経伝達物質であるセロトニンメラトニン、ナイアシン(ビタミンB3)の生成に大きく関わっています。

トリプトファンを摂取すると、日中は脳内でセロトニンに変化し、夜間は睡眠に関わるメラトニンに変化します。また、水溶性ビタミンであるナイアシンは糖質やたんぱく質、脂質の代謝や分解のために必要な成分です出典[12]

ちなみに、セロトニンは気分や感情を安定させる働きがあるため「幸せホルモン」とも呼ばれており、私たちの生活に欠かせないホルモンであることが分かります出典[12]

 

3.トリプトファンを豊富に含む食材とは

トリプトファンは肉類、魚介類、乳製品、卵、大豆製品、種実類(ナッツ)に多く含まれています。

【トリプトファンを豊富に含む食品(肉類)とその含有量(100gあたり)】出典[1]

食品名状態など含有量
牛レバー290㎎
豚ロース肉230㎎
鶏もも肉220㎎
豚ばら肉160㎎


【トリプトファンを豊富に含む食品(乳製品、卵)とその含有量(100gあたり)】出典[1]

食品名状態など含有量
牛乳普通牛乳46㎎
パルメザンチーズ-590㎎
エダムチーズ-410㎎
ゴーダチーズ-360㎎
鶏卵700㎎


【トリプトファンを豊富に含む食品(大豆製品)とその含有量(100gあたり)】出典[1]

食品名状態など含有量
大豆1200㎎
凍り豆腐750㎎
湯葉720㎎
きな粉520mg
油揚げ360mg


【トリプトファンを豊富に含む食品(種実類)とその含有量(100gあたり)】出典[1]

食品名状態など含有量
カシューナッツフライ370㎎
ピスタチオ炒り270㎎
アーモンド210㎎
クルミ210㎎


また、トリプトファンがセロトニンやナイアシンに変化するときには、ビタミンB6が使われます。そのため、トリプトファンを摂るときにビタミンB6が多く含まれる食材と組み合わせると効率が良くなります

ビタミンB6が多い食材としては、赤身の刺身やサケなどの魚介類が代表的です。トリプトファン不足を補いたいときのメニューに、ぜひ取り入れてみましょう。

さらに、トリプトファンを補うためのおすすめ食材にはバナナも挙げられます。バナナに含まれるトリプトファンは100g辺り15㎎とそれ程多くありませんが、ビタミンB6や糖質といったトリプトファンを効率よく利用し、セロトニンを合成させるための栄養素が揃っているのです出典[12]
 

トリプトファンに確認されている作用や効果

ここからはトリプトファンに期待できる作用や効果についてご紹介します。

1.メンタル面のコンディショニング

トリプトファンは、不安や緊張を和らげてメンタル面を安定させる効果があるとされています。

メンタル面を安定させるために必要なホルモンである「セロトニン」の合成には、トリプトファンが大きく関わっています。そのため、トリプトファンを補給することで、不安や緊張の緩和社交性の向上がみられたというデータが複数報告されています出典[2] 出典[3] 出典[4]

15名の健康な男性を体内のトリプトファンレベルが高い時と低い時にストレスがかかる環境下に配置した結果、トリプトファンレベルが低い時の方が不安感が有意に増加し、緊張などのネガティブな感情が高まることが判明しました出典[2]

また、25名の若い被験者にトリプトファンが豊富な食事とトリプトファンが少ない食事をそれぞれ4日間摂らせた結果、トリプトファンが豊富な食事を摂った被験者の抑うつ症状の緩和がみられることが分かりました出典[3]

日常生活で不安を感じることが多い方は、トリプトファンが豊富に含まれる食材を取り入れてみることをおすすめします。

 

2.睡眠の質のサポート

トリプトファンには、寝つきを良くするなど睡眠の質を向上させる効果が期待されています。睡眠の質にはメラトニンと呼ばれるホルモンが大きく関わっています。体内のメラトニンレベルが上昇することで、眠気が生じます。トリプトファンはメラトニンの材料となるセロトニンというホルモンの材料となることで眠りを改善します出典[7]

日中と夜間にそれぞれ 9 名および 5 名の健康な被験者に 0、1、3、および 5 g の トリプトファン を投与したところ、血液中のメラトニン量が上昇し、有意な睡眠誘発効果がみられました出典[5]

また、33名の男子大学生に対し、トリプトファンが豊富な食事・トリプトファンが不足している食事を摂取するグループに分け、さらに日中にしっかりと太陽光を浴びる・日中に太陽光を浴びないといった条件を加えた4グループに分けて4泊5日の実験を行いました。太陽光にはセロトニン神経を刺激し、セロトニンの合成を促進する役割があります。

その結果、トリプトファンが豊富な食事を取り、かつ日中しっかりと太陽光を浴びたグループは、他のグループよりも夜間のメラトニン分泌量が高いことが分かりました出典[6]。朝にセロトニンの材料となるトリプトファンを十分に摂取し、日中に十分な光を浴びてセロトニンの分泌が促進されたことで、夜間のメラトニンの増加につながったと考えられます。

さらに、トリプトファンが豊富に含まれるシリアルを35名の被験者に3週間摂取させた結果、睡眠効率が上昇し、睡眠時間は長くなったことが判明しています出典[7]

メラトニンの合成には「日光を浴びること」「食事からのトリプトファンの摂取」の2点が重要です。寝つきが悪い・眠りが浅いという方はトリプトファンの摂取と合わせて、日光浴に取り組むとよいでしょう。

 

3.認知力や記憶力のケア

トリプトファンには、認知力や記憶力、学習力などの脳機能と大きな関わりがあるとされています。トリプトファンから合成されるセロトニンは、記憶力や学習力をサポートする働きがあります。そのため、トリプトファンの摂取が不足するとこれらの脳機能が低下すると考えられています出典[8] 出典[9]。また、トリプトファンを摂取すると長期記憶が有意に向上することが報告されています出典[8]

認知力や記憶力の低下を予防したい方は、食事やサプリメントでトリプトファンを積極的に摂取しましょう。

 

4.頭痛や片頭痛の緩和

トリプトファンを摂取することで、頭痛、特に片頭痛の症状が緩和するとされています。

片頭痛患者はトリプトファンから合成されるセロトニン分泌量が慢性的に低下しており、片頭痛の発作時にセロトニン分泌量が急激に上昇することが分かっています。トリプトファンを安定して摂取することで、セロトニン分泌量の一定に保つことが重要なのです出典[10]

1096名を対象に、トリプトファン摂取量と片頭痛の発生率について調査したところ、トリプトファンを1日に約1g摂取している人は、一日に0.5gしか摂取しない人に比べて、片頭痛の発生率が54~60%低下することが報告されています出典[10]

片頭痛に悩まされている方は、普段の食事でトリプトファン摂取量が不足している可能性があるのです。
 

トリプトファンの飲み方や注意点

トリプトファンを摂取してから不安や緊張が軽減するまでは時間がかかるため、すぐに効果が実感できる訳ではないので知っておきましょう。

また、トリプトファンを過剰に摂取すると、めまいや眠気などの副作用が発生することがあるため摂取量には注意が必要です。

1.推奨摂取量

日本では、トリプトファン単独での食事摂取基準は定められていませんが、トリプトファンを過剰に摂取したことによる健康被害も報告されているため注意が必要です。

内閣府の食品安全委員会はフランス食品衛生安全庁(AFSSA)の情報を公開しており、AFSSAはサプリメントのトリプトファンの限度量は220mg/日としています出典[14]

これはトリプトファンは食品中に多く含まれるためです。サプリメントでトリプトファンを摂取する場合は1日の摂取量を超えないようにしておきましょう。
 

2.利用するタイミング

睡眠に関わる成分と言われると就寝前に摂るイメージが強いかもしれません。しかしトリプトファンの多い食事やサプリメントを摂取するタイミングは、朝食が良いとされています。

これにはトリプトファンが睡眠の質をサポートするメカニズムに関係します。食事から摂取したトリプトファンはセロトニンの合成に使われ、そのセロトニンが睡眠ホルモンのメラトニンに変換されることで、眠りの質をサポートします。

そしてセロトニンは日中に光を十分に浴びることで合成されます。そのため朝にトリプトファンをしっかりと補給することで、日中のセロトニンの分泌をサポートできます。

朝食に牛乳や卵、大豆、バナナなどを取り入れてトリプトファンを十分に補充しましょう。

 

3.過剰に摂取した場合のリスクや副作用

トリプトファンを過剰摂取した際の副作用としては、めまいやふらつき、疲労感、眠気、吐き気などが発生するといわれています出典[11]

トリプトファンの場合、体重1㎏辺り70〜200mgの摂取が高用量とされて副作用が発生する恐れがあるようです。

 

まとめ

トリプトファンは体内で合成されないため、食事から摂取する必要がある「必須アミノ酸」の一つです。

トリプトファンから合成されるセロトニンやメラトニンは、不安や緊張などを軽減してメンタル面を調節する働きや、睡眠の質を向上させる働きがあります。また、トリプトファンの摂取量が不足していると記憶力の低下や抑うつ気分が増加する可能性があるのです。

脳内ホルモン「セロトニン」は、気分や感情をコントロールするため「幸せホルモン」とも呼ばれています。トリプトファンを食事やサプリメントで摂取し、セロトニンやメラトニン不足を予防しましょう。

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