執筆者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識できるよう日々邁進中。
ED改善に筋トレが有効な理由
男性において最も深刻な悩みの1つである勃起不全。全世界における勃起不全の有病率は、2025年までに3億2200万件に達するともいわれており、世界中の医者や研究者が勃起不全の有効な治療方法を探すことに躍起になっています。
そこでED改善の有効手段の1つとして筋トレが提案されています。実際、2018年に韓国で行われた研究では、総合的な筋力の指標である握力の強さは高齢男性におけるEDの低リスクと関係していることが報告されました出典[1]。
ではどうして筋トレがED改善に有効なのでしょうか?本記事では筋トレがED改善に有効な理由を説明した上で、ED改善に有効な筋トレ方法をご紹介させていただきます。
骨盤底筋強化による血液充満
みなさんは骨盤底筋をご存知でしょうか?PC筋と言えば耳にしたことがある人もいらっしゃるかもしれません。骨盤の底に位置するインナーマッスルの総称を骨盤底筋と言います出典[2]。
尿を我慢する時や肛門を閉める時に収縮する筋肉であり、骨盤底筋の強化は失禁の改善策として焦点が当てられてきました。しかし、骨盤底筋は勃起時や射精時にも重要な役割を担うことがわかっています。
試しに1度、肛門を閉めるように力を入れてみてください。次に陰茎を上下に動かすように力を入れてみてください。いかがでしょうか?同じ筋肉が収縮するのを感じたはずです。
勃起は陰茎に血液を送り込み、血液で満たし続けることによって、陰茎が増大・硬化する現象です。そのため送り込む血液量が減少したり、送り込まれた血液の流出が増加したりすると、うまく勃起ができず、勃起不全につながります。
そこで骨盤底筋はリズミカルに収縮することで陰茎に血液を送り、持続的に収縮することで陰茎からの血液の流出を防ぎます。つまり骨盤底筋は勃起現象においてポンプとしての機能とバルブとしての機能を持ちます。
実際、2021年に270名の男性を対象に行われた研究では、勃起不全の患者は骨盤底筋の最大筋力が低いことが示されています出典[3]。
現在までに骨盤底筋を強化するトレーニングは数多く開発されており、骨盤底筋を筋トレで強化することで勃起力が改善することができます。
テストステロンレベル向上による血管拡張
勃起力の衰え以外に性欲の減少や不安感の増加、体力の低下を感じている方はいますでしょうか?心当たりのある方は、もしかしたらテストステロンが減少している可能性があります。
テストステロンとは男性ホルモンの一種であり、性欲ややる気、筋力向上、そして勃起に関与しています。実際に2007年に行われた研究では、国際勃起機能指数(IIEF)スコアによって評価される勃起不全の重症度は、テストステロンの生物学的利用能及び遊離割合と同様に、総テストステロンと相関していることが報告されています出典[4]。
また、最近のメタ分析では、勃起不全の男性の約3分の1が男性ホルモン不足であることを示すデータが得られています出典[5]。
その他中高年を対象にした研究ではテストステロンの血清レベルと夜間陰茎勃起現象(朝勃ち)の持続時間との間に相関関係が確認されています出典[6]。
動物実験およびヒトでの予備的研究から、テストステロンは陰茎において血管拡張剤として作用することにより、勃起を促進する可能性があることが示唆されています出典[7]。
ちなみに欧州泌尿器科学会の最新のガイドラインでは、PDE-5阻害剤による治療を開始する前に、テストステロン不足を治療することが推奨されています出典[8]。
以上のような勃起とテストステロンの密接な関係から、近年、ED男性の間ではテストステロン補充治療の人気が高まっております。しかしテストステロン補充療法は、肝機能異常や前立腺肥大、女性化乳房などの副作用のリスクが大きいのも事実。
そこで筋力トレーニングはテストステロン補充療法に代わるED改善の自然なアプローチであると言えます。筋トレは急性的・慢性的にテストステロンレベルを向上させることがこれまでの研究でわかっています出典[9]出典[10]。
テストステロン補充療法のような急激な効果はありませんが、継続的に筋トレはED改善と併せて持続可能な健康につながることでしょう。
血管機能に悪影響を及ぼす生活習慣病の改善
またED改善を目指す上で知っておきたいのが、生活習慣病との関係です。生活習慣病とは食事や運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣が原因となって引き起こされる病の総称であり、身近なところでは動脈硬化症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などが挙げられます。
勃起に血管機能が重要であることはこれまで述べてきた通りですが、生活習慣病は血管機能に悪影響を及ぼすと言われております。例えば、糖尿病で高血糖の状態が慢性的に続くと、血管の壁が傷つきコレステロールが蓄積します。この蓄積したコレステロールは血管内にプラークという塊を形成し、血流を悪化させます出典[11]。よって、生活習慣病により陰茎に血液を促すことができなくなり、勃起に悪影響を及ぼします。
実際、糖尿病出典[12]やメタボリックシンドローム出典[13]の有病率と勃起不全の発病率には強い関連があるとされています。
そこで筋トレは血流を改善し、基礎代謝量を高めることで体組成を改善し、生活習慣病を改善する可能性があります。適度な身体運動は性機能と心血管系の健康を改善すると言われているため、筋トレはED改善に有効であると思われます出典[14]。
ED改善に有効な筋トレ7選
以上、ED改善に筋トレが有効である理由についてご紹介しました。
ここからは実際にED改善に有効だと考えられる筋トレ方法をご紹介します。
ケーゲル体操
ケーゲル体操とは1948年にアーノルド・ケーゲル博士によって、失禁改善のために開発された体操出典[15]出典[16]。近年ではED改善にも有効であると考えられており、どこでも簡単に実施できることから人気を博しているエクササイズです。
現在、ケーゲル体操には特定のプロトコルはなく、基本的には排尿を止めたり遅らせたりする適切な筋肉を正しく収縮させる運動全般を指します。
高齢の方では筋力が衰えているため、骨盤底筋の正確な位置を認識することが難しいと言われております。尿・便を我慢するように力を入れる、もしくは陰茎を上下に動かすように力を入れるようにすると骨盤底筋を意識しやすいと言われています。
■方法
- 仰向けに寝転び、膝を軽く曲げる
- お尻をゆっくり上に突き上げる
- 元の姿勢に戻る
- 8~12回を3セット行う
プランク
ダイエッターからアスリートにまで人気の体幹トレーニング「プランク」。一度は見たことややったことがある人が多いのではないでしょうか。
大きな動きもなく、決まったポーズをキープするだけで体幹を鍛えることができるエクササイズ種目です。またケーゲル体操の代替運動になり得ることが研究で報告されています出典[17]。
■方法
- 床にうつ伏せに寝る。
- 下半身をつま先でバランスを取りながら、前腕で体を起こす
- 腹部周辺がたるまないように。なるべく体を硬くする
- 難易度が高い場合は、前腕ではなく手(腕を伸ばした状態)を使って起こす
- 30〜60秒キープを計3セット行う。
バードドッグ
プランクよりも動きがあり、安定性が求められる体幹トレーニング。プランクに物足りなさを感じた人は取り入れるのがおすすめです。
バードドッグの正確な名前の由来は不明ですが、犬のような四つん這いの姿勢から鳥のようにはばたく姿勢をとるエクササイズです。プランク同様、ケーゲル体操と同様の骨盤底筋力が認められた運動になります出典[17]。
■方法
- 床にひざまづき(四つん這い)、両手は肩幅程度にしっかり開く
- 腹筋に力を入れ、最初は片方の手と反対側の膝でバランスを取りながら、床からぎりぎり浮くように練習する
- 腕をまっすぐ前に出し、反対側の脚を後ろに伸ばす
- 左右各10回を3セット行う
レッグリフト
レッグリフトは骨盤を動かすことで腹直筋を鍛えるトレーニングです。腹直筋の中でも下部を鍛える運動になりますので、下っ腹が気になる人におすすめのエクササイズです。
またレッグリフトはケーゲルよりも骨盤底筋の強い収縮を生み出すというデータもあります出典[17]。
■方法
- 仰向けに寝る。
- 両手の手のひらを下にして、床に置く
- 息を吐きながら、両足を地面から1.5メートル程度離す。このとき、膝を固定し、両足を伸ばした状態を保つ。難しい場合は、片足ずつ上げる
- ゆっくりと両足を地面に戻す
- 10回を3セット行う
アブダクション
ジムで脚をパカパカと開くマシーンを見たことはありませんか?そのトレーニングはアブダクションと言い、男女問わず人気のエクササイズです。
脚を開くとき大きく関与する股関節の外転筋は骨盤底筋の収縮を誘発するため、ED改善にも有益である可能性があります。
またジムのマシーンを使用しなくても、ある程度の太さのゴムがあれば自宅で実施することも可能です。バンドアシストアブダクションの尿漏れに対する効果はケーゲル体操以上とも言われています出典[18]。
■方法
- 抵抗バンドの両端を揃え、結び目を作ってループを作る
- 横になって膝を曲げて、膝の下に抵抗バンドを付けて、両方の脚をループの内側に配置する
- 力を加えて膝を離し、臀部を上げ、その位置を保持して1から10まで数え、次に臀部をゆっくりと下げる
- 毎回20回、1日3回、合計60回繰り返す
うんこ座り
AV男優、経験人数1万人のしみけん氏が推奨する勃起力向上エクササイズ。
しみけん氏は42歳(2022年時点)という中高年でありながら、第一線で活躍しているAV男優であり、彼の取り組みを試してみる価値は大いにあるでしょう。
近年では自信のyoutubeチャンネルにおいて、男性機能改善に有益な知識を発信しています。
うんこ座りはその名前の通り、和式便所で排泄する時の姿勢を保持する筋トレで、最も深いスクワットといえるでしょう。科学的根拠は乏しいが、深くしゃがむことで下半身の筋肉を多く動員するため、テストステロンの分泌に有益である可能性はあります。
■方法
- 足を肩幅程度に開いて立ち、カカトを接地させたまましゃがみ込む。つま先とヒザは外側に向けて開く
- カカトを接地させたまま、カカトに重心をかけてお尻を沈め、60秒間その姿勢を保持する
- 60秒後、手を使わずに立ち上がる
- 1日1回実施する
バーベルスクワット
バーベルを担いで実施するスクワット。これまで紹介してきた筋トレだけでは物足りなくなってきた方はジムに入会してみるのもよいでしょう。
バーベルを担ぐことの一番のメリットは自重では実現できない重量でスクワットができることです。高重量トレーニングはテストステロン分泌を促進すると言われています。
バーベルスクワットはテストステロン分泌を促進して、勃起力改善につながる可能性があります出典[19]。
自分はマッチョじゃないからバーベルなんて担げないとお考えの方もご安心を。一般的なバーベルは20kgですので、小学生一人分を担ぐくらいの重量から始めることができます。筋トレへの興味が大きくなってきた人は是非。
■方法
- 肩にバーベルを担ぎ、肩幅と同じくらいに足を開く
- 腰をゆっくり下ろしていく
- 太ももが床と平行になったところで止める
- かかとに体重をかけて腰を前に突き出すイメージで立ち上がる
- 1セット(10回)繰り返す
- 3分間のインターバルをとり、3セット行う
まとめ
以上、ED改善に有効な筋トレ方法でした。勃起力向上に筋トレが重要であることをご理解いただけたでしょうか?
筋トレは血流を改善して、勃起不全の改善に役立つようですね。ケーゲル体操やプランク、うんこ座りはすぐにでも始めることができるので一度試してみてはいかがでしょうか。
出典
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