執筆者
管理栄養士
鈴木 亜子
大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。
ノコギリヤシとは
ノコギリヤシはアメリカ原産のヤシ科の植物です。この植物の果実から抽出したエキスはヨーロッパでは前立腺肥大の治療薬として、日本では健康食品やサプリメントに利用されています。ここではノコギリヤシの特徴などについてご紹介します。
1.どんな栄養素?
欧米では古くから医療ハーブとして用いられているノコギリヤシ。このヤシ科の植物の果実に含まれる有効成分は「脂肪酸」や「植物ステロール(植物の細胞を構成する成分)」などの脂溶性成分です。
なかでも不飽和脂肪酸「オレイン酸」は血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げる効果、植物ステロールは腸管でのコレステロールの吸収を抑える効果があるなど健康に良い影響をもたらす成分として知られています。
またノコギリヤシに含まれる特有の有効成分が「βシステロール」。ノコギリヤシが注目されている理由は、このβシトステロールの男性の悩みに関する作用にあります。βシトステロールの作用については、次の章で詳しく解説しましょう。
2.体の中でどんな働きをする?
ノコギリヤシ特有の成分であるβシトステロールは、体内に存在する酵素の一種である「5αリダクターゼ」を阻害する働きがあります。
5αリダクターゼは、男性ホルモンの一種で男らしいがっしりとした体型などに欠かせないホルモン「テストステロン」と結びつき「ジヒドロテストステロン」を生成します。そしてこのジヒドロテストステロンが、前立腺肥大症やAGAの原因となるのです。
つまりノコギリヤシは、5αリダクターゼの働きを抑えることでジヒドロテストステロンの生成を妨げ、前立腺肥大やAGAの予防・改善に役立つということになります。
3.ノコギリヤシの歴史
ノコギリヤシはアメリカ、特にフロリダ地方のインディアン文化において古くから利尿や鎮静、去痰、強壮剤などの目的で用いられていました。この民間療法がアメリカやヨーロッパで研究されるようになり、性的活力の向上や精子数の増加、利尿効果が期待できることが次々と報告されるようになりました。現在ドイツやイタリア、フランスなどでは医薬品としてノコギリヤシエキスが利用されています。
男性のアンチエイジングに直撃!?ノコギリヤシの5つの効果
男性によい影響をもたらす注目の成分ノコギリヤシ。ここではノコギリヤシに期待される効果をご紹介します。
1.テストステロンの増加
ノコギリヤシにはテストステロンを増加させる効果があるといわれています。テストステロンは加齢とともに減少し、それに伴いさまざまな不調が現れます。これが「男性更年期障害」です。つまりノコギリヤシには、男性更年期障害の出現を抑える効果が期待できるといえるでしょう。
老齢ラット(24週齢)のオスのラットに、体重1kg当たり40、80、160mgのノコギリヤシエキスを4週間経口補給させ、メタボリックシンドロームを含む男性更年期の症状、筋持久力および精子形成の低下を緩和できるかどうかを調査しました。
その結果、ノコギリヤシエキスの補給は加齢により低下したテストステロンを増加させ、筋持久力の低下、精子形成、メタボリックシンドロームなどの症状を緩和することが確認されています出典[1]。
また、ノコギリヤシ特有の有効成分であるβシトステロールの効果に注目した研究でも、テストステロンの増加が報告されています。症候性前立腺肥大症を有する40〜65歳の被験者99名を、500mgのβ-シトステロールを強化したノコギリヤシ油、従来のノコギリヤシ油、およびプラセボの3群に分け、カプセルの形で経口投与する12週間の無作為二重盲検治療を行いました。
βシトステロールが強化されたものを投与した群は、プラセボと比較して12週間の治療終了時まで排尿後残量、PSA(前立腺がんの腫瘍マーカー)および5α-リダクターゼの減少とともに、国際前立腺症状スコア(IPSS)、男性更年期障害に関するスコアなどが著しく改善しました。また最大および平均尿流量や加齢とともに低下しやすい遊離テストステロンレベルにも有意な増加が見られました出典[2]。
この研究ではβシトステロールを強化したもののほうが、通常のノコギリヤシエキスより効果が高い可能性が示唆されています。しかし、どちらにせよノコギリヤシは遊離テストステロンの増加に効果が期待できる成分であるといえますね。
体に生じる不調が加齢に伴うものであると感じている方は、ノコギリヤシが効果を示す可能性があるかもしれません。
2.勃起不全(ED)の改善の可能性
ノコギリヤシには、以下のようなメカニズムによりEDを改善させる可能性が期待されています。
- 勃起が治まるときに放出される酵素「PDE5」の働きを抑える
- 血流促進に関わる「一酸化窒素」の産生に関わる酵素の合成を促し、陰茎の血流をアップさせ勃起を誘発する
ラット40匹およびウサギ30匹を低用量、中用量、高用量の3群およびプラセボ群に分け、ノコギリヤシエキスを7日間胃内投与し海綿体の電気的活動の記録、PDE5活性、PDE5およびiNOS(誘導性一酸化窒素合成酵素)のmRNA発現レベルを測定しました。
同時にシルデナフィル(ED治療薬)を投与した23匹のラットを用いて、海綿体の神経を電気刺激したときの勃起反応をも評価しています。
この研究の結果によると、ノコギリヤシエキス投与ラットでは海綿体の電気刺激に対する反応はシルデナフィル投与ラットと同様の反応を示し、投与量が多ければ多いほど作用は増強しました。また、海綿体組織におけるPDE5活性においてもノコギリヤシエキス投与群で有意かつ用量依存的に抑制されました。
しかしiNOSmRNAレベルはプラセボ群に比べて上昇したものの、PDE5mRNAレベルはノコギリヤシエキスの中間用量投与群でのみ有意な増強が確認されたことから、ノコギリヤシは海綿体でのiNOSmRNA発現量の増加およびPDE5活性の抑制を通じて、勃起不全の予防・治療に寄与する可能性が示唆されました出典[3]。
動物実験の段階ではありますが、ED治療薬と同様の作用を示すことも確認されています。デリケートな悩みだけに、受診しづらさを感じている方はサプリメントなどを取り入れてみてもよいかもしれませんね。
3.性欲の上昇
ノコギリヤシエキスにはED改善の可能性の他、性欲の上昇にも効果が期待できるという報告があります。
スロベニアで行われた研究では、前立腺肥大治療中の84名に対しノコギリヤシエキスを投与したところ、6か月の治療でEDの改善に加え、性欲が不十分だと感じる方の割合が26.5%から13.2%に減少しました出典[4]。
前立腺肥大による排尿障害の症状は、EDなどの性機能の障害や性欲の低下を来します。このような症状に悩む方にとって、ノコギリヤシエキスの摂取はQOL向上に役立つと考えられるでしょう。
4.前立腺の健康をサポート
ノコギリヤシには前立腺肥大の症状(尿の流量低下)や前立腺炎の症状を緩和させる効果が期待できるという研究報告があります。
生後6か月の前立腺炎症誘発性モデルのマウスに、1日当たり体重1kg当たり100mgのノコギリヤシエキスを28日間経口投与した研究によると、ある種の炎症性サイトカインの出現を減少させることで前立腺全体の抗炎症作用が確認されました出典[5]。
また、先にご紹介した症候性前立腺肥大症を有する40〜65歳の被験者99名にノコギリヤシ油を12週間投与する研究でも、最大および平均尿流量の改善がみられたとの報告が挙げられています出典[2]。
加齢による前立腺の不調を予防したい方や、症状を改善させたいという方にとっては期待できる効果が得られる可能性もありそうですね。
5.AGAの改善の可能性
ノコギリヤシにはAGA(Androgenetic Alopecia:男性型脱毛)を抑制する効果が期待されています。AGAに関与しているのが、前立腺肥大症にも関与している5αリダクターゼとテストステロンから生成される「ジヒドロテストステロン」です。
ノコギリヤシには5αリダクターゼを減少させる効果が期待されていることから、AGAにも効果を示すとされているのです。
23~64歳までの軽度から中等度のAGAを有する健康な男性にノコギリヤシエキスを経口的に投与させたところ、10名中6名が改善したと評価されました出典[6]。
年齢を重ねることで薄毛になりやすいイメージですが、実はAGAと年齢にはそこまで深い関連性はないといわれています。AGAに対するノコギリヤシの効果で、年齢問わず薄毛の悩みを解決できるかもしれませんね。
ノコギリヤシの摂取方法や注意点
ノコギリヤシには魅力的な効果がいくつか報告されていますが、摂取するに当たっての注意点などはあるのでしょうか。
ここではノコギリヤシの摂取方法や副作用などについて解説します。
1.どのくらい摂取すればいい?
ノコギリヤシを摂取するに当たり具体的な数値は定められていませんが、1日に摂取する量として320mgが目安となっているようです。
前立腺肥大症の排尿障害の症状に対して、1日当たり320mgのノコギリヤシエキスを1年以上投与し治療した症例では、副作用(胃腸障害)は確認されたものの発生率は平均3.8%と低かったという報告があります出典[7]。
また同様の症状に対する別の研究では320mg、640mg、960mgのノコギリヤシエキスおよびプラセボを無作為に割り付け、6か月間隔で段階的に増加し18ヶ月間調査を行いましたが、有害事象は確認されませんでした出典[8]。
日本で販売されているサプリメントも、1日当たりのノコギリヤシエキスの摂取目安量を320mg前後としているものが多いようです。摂取しようとするサプリメントの目安量を守って摂取しておくと安心ですね、
2.副作用について
通常量(320mg)の3倍量のノコギリヤシエキスを摂取しても健康被害が確認されなかったという報告もあることから、基本的には安全な成分であるといえます。
重篤な副作用の報告もほとんどありませんが、まれに腹痛や下痢、吐き気などの胃腸症状や、疲労、頭痛、鼻炎、性欲減退などの症状が起こる可能性があります。
そうはいってもサプリメントを摂取していて気になる症状が現れた場合には、すぐに使用を中断し受診するようにしましょう。
まとめ
アメリカ原産のヤシ科の植物「ノコギリヤシ」の果実から抽出したエキスには、有効成分「βシトステロール」が含まれています。βシトステロールは、前立腺肥大やAGAなど男性を悩ませる症状の緩和が期待されている成分です。
ノコギリヤシエキスの効果を十分に得たいとお考えの方は、サプリメントで摂取することになります。基本的には安全性の高い成分とはいえ、1日当たりの摂取目安量を守って健康に役立てましょう。
出典
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