睡眠の質を上げるクロセチンとは?8つの効果と適切な摂取方法
2024年2月26日更新

監修者

睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級

室井優作

心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

クロセチンとは

クロセチンという成分について、多くの方はあまり聞き馴染みがないのではないでしょうか。クロセチンはパエリアやたくあんに含まれる黄色い色素の正体であり、カロテノイドとして様々な健康効果を発揮しています。この記事ではクロセチンが持つ効能と、クロセチンの効果的な摂取方法について紹介します。

1.どんな栄養素?

クロセチンはクチナシの実やサフランから摂取できる黄色い色素であり、カロテノイドの一種です。カロテノイドとは自然界に存在する赤や黄色の色素を指し、水に溶けにくく油に溶けやすいことを特徴としています。カロテノイドにはアルコールに溶けるものと溶けないものがあり、溶けるものをカロテン類、溶けないものをキサントフィル類と呼びます。クロセチンはキサントフィル類に分類されます。

クロセチンはカロテノイドの中でも特に鮮やかな黄色を示すため、たくあん栗の甘露煮などの食品に用いられてきました。パエリアなどの料理や衣類の染料としても使用されており、歴史のある天然由来の着色料です。

近年、カロテノイドの持つ抗酸化作用により、ヒトへの健康効果をもたらすことが分かっており、クロセチンについてもいくつかの作用が明らかになっています。

 

2.体の中でどんな働きをする?

カロテノイドの特徴として、抗酸化作用を持つことが挙げられます。主に植物に確認されるカロテノイドですが、これは植物が紫外線を浴びることにより発生する活性酸素のダメージを軽減する目的で生成していると考えられています。

抗酸化物質であるカロテノイドは、細胞にダメージを与える活性酸素を無害化する働きを持ちます。このカロテノイドはヒトが摂取しても同様の効果を発揮し、「酸化ストレス」と呼ばれる体へのダメージを軽減することで知られています。

クロセチンの原料であるサフランクチナシには、漢方として使用されてきた歴史があります。クチナシには鎮静、消炎、止血、解熱の効果が、サフランには、鎮痛、鎮静の効果があるとされています。これらの作用が、クチナシとサフランに共通する成分であるクロセチンの、抗酸化作用による働きであると考えられています。

ヒトにおいて、クロセチンはその強力な抗酸化作用により、加齢黄斑変性や緑内障、糖尿病黄斑症などの眼疾患、アルツハイマー病などの神経疾患、虚血性心疾患などの循環器疾患、などの治療に役立つ可能性があるとして期待されています出典[1]

 

3.他の抗酸化物質との違いは?

人参に含まれるβカロテンなどの他のカロテノイドも抗酸化作用を持ちますが、クロセチン独自の特徴として以下のような点が挙げられます。

  • 分子量の小ささ
    カロテノイドは炭素数40の化合物を基本構造としていますが、クロセチンの炭素数は20です。人参に含まれるβカロテンは代表的なカロテノイドですが、このβカロテンと比較すると分子量はおよそ3分の2ほどとなります。
  • 水にも油にも溶ける
    クロセチンは炭素数が少ない代わりに、その炭素が欠けた部分にカルボキシル基という親水性の基質が結合しています。カロテノイドの特徴として水に溶けにくく油に溶けやすいということが挙げられますが、クロセチンはこのカルボキシル基によって、アルカリ下において水にも溶けることができるのです。

これらの性質はクロセチンの吸収速度や効果範囲に影響を及ぼしています。クロセチンは低分子のため網膜などの微細な毛細血管を通ることができ、活性酸素を無害化する効果を目などの器官にも及ぼしやすいと考えられています。

またマウスを用いた動物実験、およびヒト試験において、クロセチンが同じカロテノイドであるβカロテンやルテインと比較して短時間で吸収され、より高い血中濃度を示したという結果が得られています。クロセチンは水にも油にも溶ける性質を持つため、油に溶けて移行するリンパ管からの吸収だけでなく、門脈を通した血液経由での吸収も行うことができます。親水性であるが故に吸収ルートが多いため大量かつ短時間で体内に取り込むことができ、抗酸化作用を示しやすいと考えられているのです出典[1]

 

4.どんな食材に含まれている?

クロセチンはサフランクチナシの実に含まれており、着色料や香辛料として使用されるため、これらを用いた食品から摂取することになります。サフランライスを用いたパエリア黄色く着色されたたくあんや中華麺栗の甘露煮などが摂取源となるでしょう。

ただこのように、クロセチンを摂取できる食品は多くありません。健康効果を得られるほどの量を毎日食べ続けるのは困難であるため、クロセチンを摂取したい場合にはサプリメントを利用するとよいでしょう
 

抗酸化作用で健康をトータルケア!クロセチンの8つの効果

カロテノイドの中でも分子の小ささや親水性という特徴から、抗酸化物質としての機能をより強力に発揮するクロセチンですが、実際にどのような健康効果が期待できるのでしょうか。以下ではクロセチンの摂取により確認された作用や効果について説明します。

1.中途覚醒の改善

クロセチンの摂取により睡眠の質が向上し、夜間の中途覚醒の頻度が下がる可能性があるとして期待が高まっています。

軽度の睡眠障害を持つ男性にクロセチンを摂取したランダム化二重盲検試験において、クロセチンのカプセルを7.5mg/日、2週間摂取した群において、プラセボ群よりも夜間覚醒の頻度が下がったことが判明しました。またアンケートにより、睡眠の質が改善されたという傾向も、クロセチンを摂取した群において多く見られたことが分かっています出典[2]。この結果から、クロセチンの摂取によって明らかな副作用なしに睡眠の質を改善できる可能性が示されています。

この試験では夕方6時から8時までの間にクロセチンカプセルを摂取しています。クロセチンが睡眠の質を改善する効果を効率よく発揮するためには、睡眠の4時間ほど前、夕方の摂取が効率的であると言えそうです。

 

2.起床時の爽快感の向上

クロセチンは睡眠後の中途覚醒を減らすのみならず、起床後のスッキリとした目覚めをサポートする働きがある可能性があります。

軽度の睡眠障害を持つ成人参加者に、7.5mgのクロセチンを2つの期間に分けて2週間ずつ摂取したランダム化二重盲検試験において、シングルチャネル脳波計という機械を用いて睡眠パラメーターの観測が行われました。

その結果、クロセチン摂取群はプラセボ群と比較して、深い睡眠状態に入っていることを示すデルタの波長、デルタパワーがより多く観測されましたまた起床後の主観的な眠気や爽快感についても、クロセチン摂取群において大きな改善が見られています

デルタパワーが観測されている時間帯には、脳が休息状態に入っているノンレム睡眠であることが判明しており、より深い眠りに入ることでスッキリとした目覚めに役立っている可能性があります出典[3]。中途覚醒の減少と合わせて、クロセチンにはより良い睡眠をサポートする効果が期待できそうです。

 

3.眼精疲労の軽減

クロセチンは親水性でもあるため他のカロテノイドよりも素早く大量に吸収されるという性質を持ち、また低分子のため網膜などの微細な血管にも行きわたるため、眼においても抗酸化作用を発揮することができると考えられています、

また、目は紫外線や酸素を直接浴びる器官であるため、外的刺激により活性酸素が発生しやすくなっています。そのため抗酸化物質により活性酸素を無害化し酸化ストレスを低減することがより重要であると言えます。

効果的な抗酸化物質の摂取は眼精疲労などの目のトラブルの改善に役立つのみならず、緑内障など、目にダメージが蓄積することにより発症リスクのあがる疾病についても改善効果をもたらす場合があります。

日本人の緑内障患者を対象とした臨床試験において、クロセチンを含む抗酸化物質のサプリメントを8週間にわたり摂取し、フリーラジカル分析装置で生物学的抗酸化能を調べたところ、この栄養補給によって酸化ストレスが有意に低下したことが明らかになりました出典[4]

クロセチンはこのように、眼精疲労の改善や、緑内障などの酸化ストレス関連疾患の治療に有効である可能性があり、摂取を継続することで目の保護効果をもたらすことが期待されています。

 

4.近視の改善

クロセチンが目に及ぼすもう一つの作用として、近視抑制効果があります。近視の進行にも日光や酸素への目の露出が関係しているため、酸化ストレスを低減させる効果が近視抑制にも役立っていると考えられます。

またクロセチンは、血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)の産生を誘導することで血流を改善する効果があるとも考えられています。近視患者では目の脈絡膜と呼ばれる部分が薄くなることが報告されています。脈絡膜は血管密度の高い構造をしており血流の影響を受けやすくなっているため、クロセチンの影響で血流が改善することで、脈絡膜の厚さが増加する可能性があるとしています。

更に、食物由来のクロセチンには、近視を抑制する遺伝子として知られる「EGR1」を活性化する力があることが指摘されており、抗酸化作用以外の観点からも近視抑制に役立つことが期待されます。

クロセチンの近視抑制効果は幾つかの研究で確認されており、動物実験においてクロセチンの投与によりマウスの実験的近視が抑制されたほか、6~12歳の小児を対象としたランダム化比較試験においても、クロセチン摂取群はプラセボ摂取群と比較して近視の進行が抑制されていたという結果が出ています出典[5]

当試験では子供の摂取においても摂取期間における明らかな副作用は報告されていないため、クロセチンの摂取は子供の近視進行防止にも役立つ可能性がありそうです。

 

5.肉体疲労の軽減

運動により酸素や栄養を消費することにより発生する活性酸素は、筋疲労を引き起こす原因の一つとして考えられています。クロセチンの抗酸化作用により筋肉における活性酸素の無害化が行われ、疲労を軽減する効果がある可能性があるとして注目されています。

疲労を誘発する身体作業を行う健康な男女がクロセチンを摂取した際の効果を調べたランダム化比較試験において、運動前にクロセチンを15mg摂取した男性群は、アスコルビン酸やプラセボを摂取した群と比較して、自転車エルゴメーターによる240分の運動後に行われた運動テストにおいて有意に高い結果を示したことが明らかになっています出典[6]

このように、クロセチンは男性の肉体的疲労を軽減する可能性があります。運動前に摂取することで持久力を向上させたり疲労を軽減したりする働きが期待できるでしょう。

 

6.肌の炎症の軽減

クロセチンの抗酸化作用は肌にも健康効果をもたらします。紫外線の長期にわたる暴露は皮膚がんのリスクを高めますが、クロセチンを摂取することで腫瘍形成の抑制効果が期待できます

皮膚におけるクロセチンの腫瘍抑制効果を調べた試験において、皮膚がんを発症したマウスの皮膚をクロセチンで処理することで、過酸化水素、および炎症に関わる酵素であるミエロベルオキシダーゼの生成が抑制されおり、皮膚がんの腫瘍形成を抑制する効果が期待されています出典[7]。また炎症に関わる酵素の生成も抑制されていることから、過剰な炎症を防ぎ肌トラブルを改善する可能性を秘めているとも考えられます。

 

7.シミやくすみの改善

酸化ストレスの蓄積は老化の要因にもなり、皮膚においてはシミやくすみの形で現れます。シミやくすみのように皮膚に生じる黒い点はメラニン色素によるものですが、このメラニンを合成するための酵素はチロシナーゼと呼ばれます。

マウスの皮膚由来の細胞におけるチロシナーゼとクロセチンとの関係を調べた実験において、クロセチン処理を行った細胞ではチロシナーゼのたんぱく質活性が低下していたことが明らかになりました出典[8]

活性酸素は紫外線を浴びることでも生じるほか、呼吸や代謝など通常の生命活動によっても発生する避けられないものであり、老化はこの活性酸素の蓄積により体へのダメージが表層化することで生じる現象とも言えます。抗酸化作用を持つクロセチンを摂取してシミやくすみの改善を行うことで、アンチエイジング効果も期待できるでしょう。

 

8.高血圧の改善

クロセチンは血管内皮細胞にて一酸化窒素(NO)の産生をサポートし、血管を拡張させていると考えられています。これにより過剰な血圧上昇を防ぎ、血流を改善する効果が期待できます。実際にクロセチンの摂取により肺、脳、眼の血流が改善することが報告されており出典[5]、高血圧の改善にも役立つと考えられます。

この血管拡張作用に加えて、クロセチンがアテローム性動脈硬化の予防に役立つ可能性があります。細胞およびラットを用いた動物実験においては、クロセチンの投与でアテローム発生を遅らせることができると示されています。

またヒトにおける臨床研究も進んでおり、冠動脈疾患患者にクロセチンカプセルを2か月間投与して血液状態を調べたランダム化二重盲検臨床試験によると、クロセチン摂取群はプラセボ群と比較して、血圧や血管細胞接着分子量、血清ホモシステイン濃度などが有意に低下し、アテローム生成を抑制する効果が示されたという結果が得られています出典[9]

クロセチンの摂取は血圧の安定化のみならず、高血圧状態が招く動脈硬化などの状態を改善させる可能性があります。摂取により高血圧など生活習慣病の予防効果が期待できるでしょう。

 

クロセチンはいつ飲むべき?摂取方法や注意点

これらクロセチンの健康効果を期待する場合、どのように摂取するのがよいのでしょうか。以下ではクロセチンの摂取における目安や注意点などについて説明します。

1.どのくらい摂取すればいい?

クロセチンはクチナシの実やサフランを原料としていますが、これら着色料や香辛料は、オリーブオイルや味噌などのように調味料感覚で食品に添加しやすいものではありません。また、これらが着色料や香辛料として使われている食品についても、たくあんや栗の甘露煮、パエリアなど限定的であり、食品のみでクロセチンを摂取するのは困難です。そのためクロセチンの健康効果を期待する場合には、サプリメントを利用するのがよいでしょう。

睡眠の質の改善、近視抑制作用、血流改善など、クロセチンの効果を確認したヒト試験においては、7.5mg/日かそれ以上を摂取したものが多いことが分かります。市販のサプリメントにおいても1日7.5mgの摂取で機能性表示が取得されているため、1日の摂取量については7.5mgを目安とするとよいでしょう。

 

2.健康上限摂取量は?

これまで参照してきたヒト試験においては、クロセチンの投与による明らかな副作用は確認されていません。子供においては7.5mg/日、24週間にわたる投与においても悪影響が見られず、成人においては7.5~22.5mg/日の摂取によっても深刻な有害事象は確認されませんでした出典[5]

現在、クロセチンをどの程度摂取すると悪影響を及ぼすのかについては示されていません。しかしクロセチンに限らず、こうしたサプリメントは多量に摂取することでより多くの健康効果をもたらすというものではありません。他のサプリメントと同様に、摂取目安量を守り過剰摂取しないよう意識する必要があるでしょう。

 

3.理想の摂取方法やタイミングはある?

睡眠の質を高めるための摂取においては、夕方から夜、午後6時から8時にかけての摂取により効果が確認されています。そのため睡眠への効果を期待する場合はこのタイミングでの摂取をオススメします。

より詳しくクロセチンの代謝を追う場合、クロセチンは摂取後4時間ほどで血中濃度が最大になり、6~7時間後には血中濃度が最大時の半分になることが判明しています出典[10]。そのため就寝の4時間前を目安に摂取することで睡眠の質の向上効果がより多く見込めると考えられます。

また、その他血流改善や近視進行予防などの作用においては、試験によってバラつきがありますが、2週間以上の継続的な摂取によって健康効果が確認されています。そのため同じような効果を期待したい場合、サプリメントの利用も長期にわたり継続する必要があるでしょう。
 

まとめ

低分子かつ親水性という特徴的な抗酸化物質であるクロセチンは、眼や脳、筋肉や肌など、体のあらゆるところに作用して様々な健康効果をもたらします。食事での摂取が難しい成分であるため、サプリメントを有効に活用して健康増進の助けとしてみましょう。

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