執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
炭水化物とは
糖質と食物繊維からなる炭水化物は穀物を始めとしたあらゆる食品に含まれています。糖質制限ダイエットなどで目の敵にされがちな糖質ですが、制限しすぎると深刻なエネルギー不足を招いてしまいます。この記事では炭水化物、糖質と食物繊維の役割や性質、摂取上の注意点について解説します。
1.どんな栄養素?
炭水化物はグルコースやフルクトースなどの「単糖」から構成される栄養素です。糖質も食物繊維も単糖が複数結合したものです。
お米に含まれるでんぷんや、菓子類に使われる砂糖は「糖質」と呼ばれ、私たちが生命活動を行う際のエネルギーのもとになります。グルコースが「アルファ結合」によって多数繋がっているものであり、体内でアミラーゼなどの消化酵素がこれを小さく分解し、単糖であるグルコースの形へと変えてエネルギーとします。
一方、野菜や未精製の穀類に含まれる「食物繊維」は、グルコースが「ベータ結合」によって多数繋がっています。このベータ結合はアミラーゼなど、ヒトの持つ消化酵素では分解されず、単糖になることができません。一部、腸内細菌による分解を受けて少量のエネルギーを生成することがありますが、基本的には食物繊維はエネルギーとして使えないものであり、ほとんどがそのまま便として体外に排出されます。
単糖に分解されたグルコースは血液に乗って全身を巡ります。体中の組織でエネルギーとして用いられ、使われなかった分は肝臓や筋肉、脂肪組織に貯蔵されます。
血中のグルコース量が低下すると体はエネルギー不足であると判断し、肝臓や筋肉、脂肪組織からグルコースを呼び出します。逆に血中にグルコースが満ちていると体はエネルギーの充足を認識し、余った分を肝臓などへ溜め込みます。このようにグルコースの血中濃度によって、体はエネルギーの過不足を判断しているのです。
2.糖質の種類
糖質は糖の結合数によって、単糖類、二糖類、多糖類に分類されます。これ以上分解できない糖の最小単位を単糖類、分解することで単糖類が2分子できる糖類を二糖類、分解することで単糖類を多数生じる糖を多糖類と呼びます。糖の種類にはそれぞれ以下のようなものがあります。
- 単糖類
○グルコース(ブドウ糖)
○フルクトース(果糖)
○ガラクトース - 二糖類
○スクロース(グルコース+フルクトース)
ショ糖とも呼ばれる、甘味料として使用される
○マルトース(グルコース+グルコース)
麦芽糖とも呼ばれる
○ラクトース(ガラクトース+グルコース)
乳糖とも呼ばれる、母乳や牛乳に含まれる - 多糖類
○消化性多糖類(デンプンやグリコーゲンなど)
○難消化性多糖類(セルロースなど)
多糖類や二糖類はそのままで甘味があり、水によく溶けることを特徴としています。一方、多糖類は水に溶けにくくそのままではほとんど甘味を感じません。
多糖類や二糖類を分解し、エネルギーとして利用できる単糖類の形にするには消化酵素が必要です。たとえば多糖類のデンプンはアミラーゼという消化酵素により、二糖類のマルトースに分解され、更にマルターゼによりグルコースまで分解されます。母乳や牛乳に含まれるラクトースを分解するにはラクターゼという消化酵素が必要です。
このように、糖類によって必要な消化酵素がそれぞれ決まっています。ヒトが食物繊維であるセルロースをエネルギーにできないのは、セルロースを分解するための消化酵素、セルラーゼを持っていないためです。
3.食物繊維の種類
炭水化物の一種である食物繊維は、エネルギーとしてほとんど利用できませんが、消化・分解されないが故の働きを幾つも持っています。その働きについて深く理解するため、食物繊維の種類について知っておくとよいでしょう。
食物繊維は大きく分けて、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類が存在します。文字通り水に溶けやすい性質を持つものを水溶性食物繊維、溶けにくい性質を持つものを不溶性食物繊維と呼びます。これらにはそれぞれ以下のような特徴があり、体の中で異なる作用を発揮します。
- 水溶性食物繊維
水に溶けることでネバネバとした吸着性のある物質に変化します。粘性が強いため、腸管内をゆっくりと移動することが特徴です。同時に摂取した食物にも絡み付き、食物全体の腸管内移動を緩やかにするため、糖質の吸収スピードを穏やかにしてくれます。血糖値の急上昇を抑えることで、酸化ストレスの低減、食欲の抑制など、様々な健康効果をもたらします。また、吸着性がある水溶性食物繊維は、小腸でコレステロールや、コレステロールを材料とする胆汁酸に吸着します。これによりコレステロールが体外に排出されやすくなり、コレステロール値の調整に役立ちます。 - 不溶性食物繊維
水に溶けず、水を吸って大きく膨らむという性質を持ちます。不溶性食物繊維の膨張により便の量が増えるため、大腸が刺激されて排便をスムーズに行えるようになります。老廃物や有害物質も共に排出する作用があるため、大腸がんのリスク低減にも役立ちます。また、どちらの食物繊維にも共通する役割として、腸内細菌のエサになるという点があります。善玉菌を増やすための環境づくりに役立つため、腸内環境の改善効果が期待できます。
4.よく耳にするGI値って?
GI値とは「グリセミック・インデックス」「グリセミック指数」と呼ばれるものです。エネルギーのもとになる炭水化物は、体内で分解されることによりグルコースなどの単糖類へと変化して血中に満ち、血糖値を上昇させます。この「食べ物を食べたときの血糖値の上がりやすさ」を示す数字がGI値と呼ばれます。
グルコース100%のブドウ糖を摂取した際のGI値が100であり、血糖値が最も急激に上昇します。逆にサツマイモや玄米など、デンプンや食物繊維で構成された食品についてはGI値が低く、血糖値は緩やかに上昇します。
血糖値の急上昇が問題視されるようになった背景には、インスリンの分泌メカニズムがあります。炭水化物の摂取によりグルコースが血中に満ちて血糖値が上がると、インスリンという血糖を下げるホルモンが分泌され、グルコースを各組織に分配します。
血糖値の急上昇が起こればそれだけ多くのインスリンが分泌されることになります。インスリンがあれば血糖値はコントロールされますが、血糖値の急上昇を繰り返すことにより、このインスリンの分泌が追い付かなくなる、あるいはインスリンの分泌が弱まる、ということが起きやすくなります。これにより高血糖が続いてしまう状態が糖尿病であり、過剰な血中グルコースにより、血管を始めとした体のあらゆる組織がダメージを受けてしまうのです。
また、インスリンの分泌により、余ったグルコースは肝臓や筋肉のほか、中性脂肪として脂肪組織にも蓄えられます。そのため血糖値を急激に上げて大量にインスリンを分泌させることで、体内に脂肪が蓄積しやすくなり、肥満のリスクも増大してしまいます。
主食である炭水化物の選び方、その指標の一つとしてGI値を活用することで、肥満や糖尿病のリスクを下げる効果が期待できます。
5.どんな食材に含まれている?
炭水化物のうち、糖質を豊富に含む食材は、私達が普段主食として食べている穀類や、甘味料として使われる砂糖などです。サツマイモやジャガイモなどの野菜や、バナナなどの果物にも豊富に含まれます。肉や魚、卵などの動物性食品にはほとんど含まれておらず、乳製品の含有量も少なめです。
【利用可能炭水化物(でん粉、単糖類、二糖類)を豊富に含む食品とその含有量(100gあたり)出典[1]】
※利用可能炭水化物は、炭水化物から食物繊維総量を除いた数値として計算されている
食品 | 100gあたりの成分量(g) |
グラニュー糖 | 100 |
ラムネ | 92.2 |
米・うるち米 | 75.6 |
はちみつ | 75.2 |
玄米 | 71.3 |
オートミール | 57.4 |
さつまいも(皮なし) | 28.3 |
バナナ | 18.5 |
西洋かぼちゃ | 15.9 |
じゃがいも(皮なし) | 15.5 |
りんご(皮なし) | 12.2 |
食物繊維は葉物野菜や根菜、海藻類、きのこ類などに豊富に含まれます。食物繊維総量のうち、不溶性食物繊維の方が水溶性食物繊維よりも多い傾向にあります。
たとえばアボカドの食物繊維5.6gのうち、水溶性食物繊維は1.7g、不溶性食物繊維は3.9gとなっています。アーモンドの食物繊維11.0gでは、水溶性食物繊維が1.1g、不溶性食物繊維は10.0gです。
このように、種実類やきのこ類は不溶性食物繊維が多いことで知られています。一方、海藻や果物には水溶性食物繊維の含有量が比較的多い傾向にあるようです。
【食物繊維を豊富に含む食品とその含有量(100gあたり)出典[1]】
食品 | 100gあたりの成分量(g) |
粉寒天 | 79.0 |
味付け海苔 | 25.2 |
いり大豆(黄大豆) | 19.4 |
アーモンド(いり無塩) | 11.0 |
オートミール | 9.4 |
くるみ(いり) | 7.5 |
ごぼう | 5.7 |
アボカド | 5.6 |
しいたけ | 5.5 |
ブロッコリー | 5.1 |
オクラ | 5.0 |
ブロッコリー | 4.3 |
炭水化物に確認されている作用や効果
炭水化物は生命活動になくてはならない栄養素ですが、具体的にどのような形で私達の健康を支えているのでしょうか。以下では炭水化物が体においてどのような役割を持つのか、また不足するとどのような問題が生じるのかについて説明します。
1.身体を動かすエネルギーとなる
炭水化物のうち、糖質はグルコースに分解されたのちに血液を介して全身の細胞に行きわたります。細胞はグルコースからATPというエネルギーを生成するために「解糖系」という回路を用います。フルクトースやガラクトースといった他の単糖類も、グルコースに変換された後にこの解糖系に集まります。
糖質の摂取が不足するとこのATPが生成されず、脳や筋肉などが十分に活動できなくなります。集中力や運動パフォーマンスの低下、倦怠感などを生じ生活の質を大きく損ねるため、エネルギーのもととなる糖質は十分量摂取する必要があります。
また、十分なエネルギー供給のためには、材料となる糖質だけでなくビタミンやミネラルも必要です。特にビタミンB1は解糖系に関わる様々な酵素の働きをサポートする「補酵素」として重要な役割を持っており、不足すると解糖系を回せなくなります。糖質が十分量あるにもかかわらずエネルギーを生成できない、といった状態を防ぐため、ビタミンやミネラルも不足なく摂取する必要があるでしょう。
2.エネルギーを貯蓄する
、糖質から分解されてできたグルコースは血中を満たします。グルコースの血中濃度が高くなると体はエネルギーの充足を認識し、余ったグルコースをグリコーゲンの形に変えて、筋肉や肝臓に貯蔵しようとします。
肝臓におけるグリコーゲンは空腹時に分解されて血中に放出されるため、エネルギーの供給源として役立ちます。筋肉におけるグリコーゲンは運動時にエネルギーとして使われるため、運動のパフォーマンスや持久力を高める効果を持ちます。
運動前に高炭水化物食を摂取するグリコーゲンローディングという方法が運動に与える影響を調べた研究によると、たんぱく質や脂質との混合食を摂取した場合と比較して、高炭水化物食を摂取した場合により多くの筋グリコーゲン貯蔵が確認されています。更に運動のパフォーマンス測定のために自転車エルゴメーターを使用した試験においても、高炭水化物食の摂取により、脂質食、たんぱく質食よりも長い運動可能時間を記録しました出典[2]。
この試験により、筋グリコーゲンの貯蔵量が多いほど運動可能時間、すなわち持久力が増すこと、また筋グリコーゲンの貯蔵量を増やすには高炭水化物食が有効であることが明らかになりました。
このように、炭水化物の摂取によるグリコーゲンの貯蔵は、持久力を向上させ運動パフォーマンスを高めるために役立つほか、長期間の空腹による体力の消耗も防いでくれるのです。
3.筋肉の分解を防ぐ
激しい運動や飢餓状態により体がエネルギーを必要としているとき、筋肉や肝臓に貯蔵されたグリコーゲンがグルコースへと変換され、供給されます。しかしこの貯蔵が不十分でありグリコーゲンも枯渇してしまった場合、体は筋肉のたんぱく質を分解してエネルギーを作ろうとします。
この筋たんぱく質の分解は、飢餓時の体力消耗を防ぐために欠かせない生命維持機構のひとつですが、筋力トレーニングやダイエットに励んでいる人にとっては筋肉を失う恐ろしい現象に思えるかもしれません。この筋肉の分解を防ぐには日頃から十分量の炭水化物を摂取し、血中のグルコース、および筋肉や肝臓のグリコーゲンが枯渇しないようにしておく必要があります。
また、運動により消耗した筋肉を補強するためのたんぱく質合成においては、運動直後の摂取が効果的であると考えられています。運動後に炭水化物を摂取することによる体の変化を調べた研究において、運動直後の補給により運動部位、特に脚部分へのたんぱく質の蓄積が促進されました出典[3]。
運動直後の炭水化物補給により血糖値が上がるとインスリンが分泌されます。インスリンはグルコースを各組織に分配するだけでなく、たんぱく質や脂質の合成を促進する役割も持つため、たんぱく質を蓄積させる効果を発揮すると考えられています。
4.消化器の健康をサポートする
食物繊維の摂取により腸内環境が改善に向かうことはよく知られている通りです。水溶性食物繊維も不溶性食物繊維も、腸内細菌のエサとして機能するため、善玉菌の数を増やして腸内環境を整える効果があることが判明しています。
また個別の働きとして、水溶性食物繊維は腸内の胆汁酸を絡め取るため、余分なコレステロールを排出する効果があります。一方、不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らみ便のかさを増やすため、排便を促す効果があるとされています。
便秘の改善については、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維、どちらも効果的であるとされていますが、水溶性食物繊維を意識して摂取することでより排便の負担が軽減したというデータが得られています。
慢性的な便秘に苦しむ成人を対象に食物繊維の摂取の影響を調べたランダム化比較試験において、水溶性食物繊維を多く摂取した群の方がより多い排便回数を記録し、いきみや排便時の痛み、便の硬さが軽減していました。不溶性食物繊維は大腸を刺激し排便を促しますが、この摂取だけではスムーズな排泄が難しく、水溶性食物繊維の摂取も必要である、という結果となりました出典[4]。
便秘の改善を目的に食物繊維を摂取する場合は、水溶性食物繊維を多めに含む食品を意識して選ぶことで、自然な排便をサポートする効果をより強く得られるでしょう。
5.心血管系の疾病リスク低下
食物繊維が疾病予防にもたらす効果としては、コレステロール量と血糖値の二つに大別されます。
オオバコ由来の食物繊維「サイリウム」を摂取することによるコレステロール値の変化を調べた研究では、サイリウムを10.2g/日を8週間継続摂取した群において、コレステロールの低下が認められています。善玉、HDLコレステロールの量はそのままに、悪玉、LDLコレステロールの量が7%低下していたことから、高コレステロール血症の食事療法の補助として使用できるのではと、その有益性が注目されています出典[5]。
また、食物繊維と血糖値の関係について多数の試験のレビュー分析を行ったところ、Ⅱ型糖尿病の患者がオオバコ由来の食物繊維を1日2回3.5gずつ、8週間摂取することで、空腹時血糖が大幅に改善しました。またメタボリックシンドロームの被験者は食物繊維の摂取を続けることで、空腹時血糖だけでなく、空腹時のインスリン分泌量や、過去3か月間の平均血糖値を示す分子であるHbA1cの値も改善されています出典[6]。
これらコレステロールや血糖値の調整作用により血液の状態が整うことで、心血管疾患のリスクを低下させることができます。多数のコホート研究を用いたメタ分析においては、食物繊維の摂取量が多いほど、心血管疾患や冠状動脈性心疾患のリスクが低くなるという結果が得られました。また、食物繊維の1日摂取量が7g増えるごとに、心臓病のリスクが9%減少することも判明しています出典[7]。
このように、食物繊維には脂質異常症や糖尿病のみならず、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞などのリスクを下げる効果が期待できます。特に水溶性食物繊維がこれら疾病リスクの低減に役立つことが分かっているため、毎日の摂取を心掛けるとよいでしょう。
炭水化物の摂取方法や注意点
炭水化物は穀類や野菜、果物などあらゆる食品に含まれます。糖質においては摂りすぎないように量をコントロールしつつ、過度な制限を避ける必要があるでしょう。一方、食物繊維は現代の日本人においてやや不足しがちな成分であるため、意識的な摂取が推奨されます。以下ではこれら炭水化物の摂取量の目安や不足・過剰のリスクについて説明します。
1.どのくらい摂取すればいい?
「日本人の食事摂取基準」において、炭水化物および脂質は、1日何g摂取すればよい、という考えではなく、1日の総エネルギー摂取量に占める割合で個々人の目安量を計算する形を取っています出典[8]。
たとえば30~49歳の身体活動レベルⅡ(ふつう)の男性の場合、1日の推定エネルギー必要量は2700kcalです。炭水化物のエネルギー目標量は50~65%となっているため、1350~1750kcal程度、グラム換算では330~430g程度の炭水化物を摂ればよいということになります。
一方、食物繊維については男女別の目標量が一律に設定されており、18~64歳の男性は21g以上、女性は18g以上となっています。令和元年度の「国民健康・栄養調査」における食物繊維摂取量によると、多くの年齢層において目標量にやや届いていないという現状があり、特に20代は男女共に不足傾向にあるようです。
【食物繊維の1日摂取量(【国民健康・栄養調査】令和元年度のデータより引用出典[9]】
男性(g/日) | 女性(g/日) | |
15-19歳 | 20.0 | 17.0 |
20-29歳 | 17.5 | 14.6 |
30-39歳 | 18.3 | 15.9 |
40-49歳 | 18.3 | 16.0 |
50-59歳 | 19.4 | 16.8 |
60-69歳 | 20.6 | 19.8 |
目標量(18~64歳) | 21 | 18 |
2.健康に摂取できる量は?
「日本人の食事摂取基準」では目標量の上限として、エネルギー比率の65%と設定されているのみであり、推定平均必要量や耐容上限量は設定されていません。
この理由について、「炭水化物が直接に特定の健康障害となる報告は、Ⅱ型糖尿病を除けば、理論的にも疫学的にも乏しい」ためであるとしています出典[8]。
ただし、炭水化物の多い食事を続ける場合、ファーストフードなどに使用される精製度の高い穀類や甘い飲料、酒類などの摂取量が増えすぎてしまうおそれがあります。これらの食事にはビタミンやミネラルがほとんど含まれていないため、食事全体のバランスを崩し体調不良をきたすことにもなりかねません。エネルギーの供給源として最重要と言える炭水化物ですが、量や質を大きく崩してしまわないよう気を付けましょう。
また、目標量の下限は50%になっています。これは三大栄養素の残り2つ、たんぱく質と脂質のエネルギー比率を考慮した残りの分量として計算されています。ただし下限ギリギリの摂取量となる場合には穀類やイモ類などの摂取が減るため、食物繊維の不足が起こりやすくなる点に注意が必要です。
3.炭水化物ダイエットは効果があるのか?
炭水化物ダイエットのやり方や効果がメディアで取り上げられるようになって久しい昨今ですが、炭水化物の摂取量を制限することによる長期の減量効果、および心血管疾患のリスク低減効果については未だ不明瞭な部分が多いのが現状です。
肥満の成人を対象としたランダム化比較試験において、低炭水化物食とエネルギーバランスの取れた減量食との効果が比較されました。その結果、どちらの食事においても同じように短期間での減量効果が確認されました。最大2年間の追跡調査においても、減量効果、および心血管疾患のリスク低減効果に差が生じていませんでした出典[10]。
低炭水化物ダイエットを行うことで体重が減少した、という経験がある方もおそらくいらっしゃるでしょう。しかしこの減量効果は「炭水化物を制限したこと」によるものではなく「炭水化物の制限により総摂取エネルギーが減少した」ことによるものである、ということが研究によって示唆されています。
炭水化物を過度に制限することで、食物繊維の不足による腸管の不調や、エネルギー不足による体力の消耗、グリコーゲンの枯渇による筋たんぱく質の分解など、体へのデメリットも懸念されます。三大栄養素の摂取バランスを大きく崩すことなく、総摂取エネルギーでのコントロールを目指すようにしましょう。
4.効果的な摂取方法
私達が毎日食べている炭水化物ですが、摂取のタイミングや栄養素の組み合わせを意識することで、よりよい健康効果が得られる場合があります。以下ではその効果的な摂取方法について解説します。
1.糖質の場合
運動後の消耗した筋肉を回復させるためにはインスリンの作用が不可欠です。インスリンは体内において筋肉へのグリコーゲン貯蔵や筋たんぱく質の合成を促進するため、運動後の栄養補給においては、いかにインスリン分泌を高めるかが重要となります。
インスリンの感受性が高まるのは運動直後です。そのため運動直後の糖質補給により効率的にインスリン分泌を促進でき、筋肉へのグリコーゲン貯蔵や筋たんぱく質の合成に役立つでしょう。
また、運動後の食事による筋グリコーゲンの貯蔵量を調べた試験においては、糖質のみの摂取よりも、糖質とたんぱく質、あるいは糖質と脂質の組み合わせで摂取した方が、筋グリコーゲンの貯蔵が促進されたという結果が得られています出典[11]。牛乳など、良質な脂質やたんぱく質をバランスよく含んだ食品を組み合わせることで、より素早い筋肉の回復が見込めるでしょう。
また、日々の食事においては、GI値が高い食品を単体で摂取しないよう気を付けるべきでしょう。白米のおにぎりや菓子パンなどを食べる際には、野菜やたんぱく質、脂質も献立に入れることで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。
2.食物繊維の場合
便秘の改善や血糖値のコントロールのために、サプリメントとして食物繊維を摂取することもあるかと思います。血糖値の上昇を緩やかにする効果を期待する場合には、食事の前後での摂取が効果的でしょう。食前に水と一緒に摂取することで胃がある程度満たされ、食べ過ぎの防止にも役立ちます。
オオバコ(サイリウム)など、水を吸って膨張するタイプの食物繊維を摂取する場合には、コップ1杯程度の水を飲むことを心掛けましょう。食物繊維に体内の水分を大量に取られてしまうことで、便秘を悪化させてしまうこともあるためです。
また他のサプリメントと同様に、食物繊維も多量に摂取することでより大きな健康効果をもたらすものではありません。1日分、1回分の目安量を守って焦らず継続しましょう。
まとめ
糖質も食物繊維も、私達の健康に欠かせない栄養素です。過剰な摂取によるメタボリックシンドロームや糖尿病の問題が日本では深刻ですが、制限しすぎることもまた健康への害を及ぼします。炭水化物を含めた三大栄養素を偏りなく食べつつ、様々な食品からビタミンやミネラルを摂取することが元気な体づくりへの近道となるでしょう。サプリメントとして食物繊維を摂取する場合には、量やタイミングにも気を付けてみてください。
出典
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参考文献
- 上代淑人, 清水孝雄 / イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 / 丸善出版 / 2011
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